2014年10月24日
インフレの強い味方! ブラジルで100円ショップに大行列
街の治安は悪く、従業員の士気は低く、家族も赴任に反対。「地球の裏側」でのビジネスは簡単ではない。次々と起きる想定外の事態にどう立ち向かうか。W杯に沸いたブラジルで奮闘する駐在員たちを追った−−。
■「カワイイ」商品が飛ぶように売れる
そもそもはちょっとした人助けのつもりだった−−。
大野恵介は大学卒業後、繊維関係の企業に就職した。30才のとき、人から誘われて、ブラジルの農場で働くことになった。その後、大野はサンパウロへ出て、食品関係の企業で働いていた。そこで付き合いのある会社から「ダイソー」のブラジル出店の手伝いを頼まれた。
ブラジルは複雑な税制を敷いており、輸入品はほぼ倍以上の値段となる。さらに100円ショップのダイソーが扱う品目は3000品目を越える。仲介に入る予定だった会社は、膨大な作業に音をあげ、大野が現地社長としてダイソーを引き継ぐことになった。
「最初はこっちの日系人の方に言われましたよ。“誰がこんな国に5000品目も持ってこられるんだ。大野君、ブラジルをなめんなよ”と」
この指摘は正しかった。1号店オープンに合わせて、3つのコンテナが届いた。その中の一つを開けた通関業者は唖然とした顔になり、すぐに扉を閉めた。雑多な小物が天井までぎっしり、倒れてきそうなほど詰まっていたのだ。
1品ずつ検品しなければならないため、莫大な金額が掛かるという。とても受け容れられない話だった。大野は辛抱強く交渉するしかなかった。結局、最初の荷物が港に届いてから、通関が終わるまでに約3カ月かかることになった。
2012年10月、谷口正紘はブラジルに着いて唖然とした。来月に1号店がオープンすると聞かされていたのだが、とてもそんな状況ではなかったのだ。
谷口は大学を卒業後、新卒でダイソーに入社した。動機は簡単だった。実家の幕張近くにダイソーの事業所があったからだ。原宿店の店長から始め、西東京エリアを任されるようになった。
ダイソーの勤務時間は長く、会社の要求は厳しい。このまま此処にいてもいいのだろうか、と不安になることもあった。そんなとき、メキシコ、そしてロサンゼルス店の開店を手伝うことになり、その経験を買われたのか、ブラジル勤務を命じられた。
谷口には気の遠くなりそうな多くの仕事が待っていた。店のオープンは12月21日と決められた。ブラジルでは万事が予定通りに進まない。店の看板がつけられたのは開店当日、朝4時だった。
開店当日、サンパウロは雨だった。数日間ほぼ徹夜状態が続いていた大野は外に出て、目を疑った。ほぼ告知していなかったにもかかわらず、店の前には300人ほどの長い行列が出来ていたのだ。
ブラジル人が物価の高さに辟易していることを大野は感じていた。富裕層はともかく、一般の人々は高い物価に喘いでいた。ダイソーに対する人々の期待を肌で感じた。
開店の特別価格は、5.9レアル−−約270円。それでもブラジルでは格安だった。開店と同時に商品が文字通り飛ぶように売れた。
特に売れたのが、包丁だった。皆がまとめ買いするため、1人5本という制限を設けなければならない程だった。
ブラジルでは売れる商品の傾向がはっきりしていると谷口は言う。
「ファンシーな絵柄のマグカップや弁当箱、ひと言でいえばカワイイ商品が売れます」
ダイソーが上手く滑り出すことが出来たのは日系人の存在があると谷口は考えている。
「オープンしてすぐの頃は、まともに時間通り来る従業員は半分ぐらいでした。そうしたら日本で働いたことのある日系人たちがこれでは駄目だと言い出した。ルールを自分たちで作ってくれて、結果としていい人間が残った。彼らの発案で朝礼、終礼をやることになったんです」
ダイソーは商品改廃のサイクルが速く、月に何百もの新商品が出てくる。どの商品がブラジル人に受けるか、大野は日系人の女性社員に意見を聞いている。
「Aランク、Bランクと彼女たちが判断している。日系人の子たちは、日本もブラジルも両方分かっているので、助かっています」
現在の価格は6.9レアル。インフレの激しいブラジルではこの価格を保つことも難しいと大野は言う。
「本来は7.5にしないと駄目なんです。ただどこまで6.9で出来るかの我慢比べ。多少売り上げの悪い月は電気代を見直すことで乗り切ったこともあります」
最近、大野は新たな試みを始めた。
以前からブラジル人は計算、暗算が苦手なことが気になっていた。そこで大野は自分の息子のために作った計算ドリルを終礼前にやらせることにしたのだ。時間を計り、出来た人間から手を挙げさせ、答え合わせをする。従業員たちはゲーム感覚で楽しんでいた。1桁の足し算から始め、2桁の足し算、かけ算まで進んだ。
「ぼくら、遊んでいるんです」
大野は楽しそうに笑った。
「ブラジル人に仕事は修業の場って言っても理解してくれない。でも少なくとも仕事に来て、何か学んでいる、前に進んでいるという感覚があれば楽しくなるんじゃないか。ダイソーの仕事はきつかったけど、自分のためになったと思ってくれればいいかなと」
地球の裏側で踏ん張っていたのは、サッカーの日本代表選手だけではない。
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【意外な現実】
・日系人の協力で朝礼・終礼を実施
・価格は一律6.9レアル(約315円)
・2012年から進出。現在4店舗
■「カワイイ」商品が飛ぶように売れる
そもそもはちょっとした人助けのつもりだった−−。
大野恵介は大学卒業後、繊維関係の企業に就職した。30才のとき、人から誘われて、ブラジルの農場で働くことになった。その後、大野はサンパウロへ出て、食品関係の企業で働いていた。そこで付き合いのある会社から「ダイソー」のブラジル出店の手伝いを頼まれた。
ブラジルは複雑な税制を敷いており、輸入品はほぼ倍以上の値段となる。さらに100円ショップのダイソーが扱う品目は3000品目を越える。仲介に入る予定だった会社は、膨大な作業に音をあげ、大野が現地社長としてダイソーを引き継ぐことになった。
「最初はこっちの日系人の方に言われましたよ。“誰がこんな国に5000品目も持ってこられるんだ。大野君、ブラジルをなめんなよ”と」
この指摘は正しかった。1号店オープンに合わせて、3つのコンテナが届いた。その中の一つを開けた通関業者は唖然とした顔になり、すぐに扉を閉めた。雑多な小物が天井までぎっしり、倒れてきそうなほど詰まっていたのだ。
1品ずつ検品しなければならないため、莫大な金額が掛かるという。とても受け容れられない話だった。大野は辛抱強く交渉するしかなかった。結局、最初の荷物が港に届いてから、通関が終わるまでに約3カ月かかることになった。
2012年10月、谷口正紘はブラジルに着いて唖然とした。来月に1号店がオープンすると聞かされていたのだが、とてもそんな状況ではなかったのだ。
谷口は大学を卒業後、新卒でダイソーに入社した。動機は簡単だった。実家の幕張近くにダイソーの事業所があったからだ。原宿店の店長から始め、西東京エリアを任されるようになった。
ダイソーの勤務時間は長く、会社の要求は厳しい。このまま此処にいてもいいのだろうか、と不安になることもあった。そんなとき、メキシコ、そしてロサンゼルス店の開店を手伝うことになり、その経験を買われたのか、ブラジル勤務を命じられた。
谷口には気の遠くなりそうな多くの仕事が待っていた。店のオープンは12月21日と決められた。ブラジルでは万事が予定通りに進まない。店の看板がつけられたのは開店当日、朝4時だった。
開店当日、サンパウロは雨だった。数日間ほぼ徹夜状態が続いていた大野は外に出て、目を疑った。ほぼ告知していなかったにもかかわらず、店の前には300人ほどの長い行列が出来ていたのだ。
ブラジル人が物価の高さに辟易していることを大野は感じていた。富裕層はともかく、一般の人々は高い物価に喘いでいた。ダイソーに対する人々の期待を肌で感じた。
開店の特別価格は、5.9レアル−−約270円。それでもブラジルでは格安だった。開店と同時に商品が文字通り飛ぶように売れた。
特に売れたのが、包丁だった。皆がまとめ買いするため、1人5本という制限を設けなければならない程だった。
ブラジルでは売れる商品の傾向がはっきりしていると谷口は言う。
「ファンシーな絵柄のマグカップや弁当箱、ひと言でいえばカワイイ商品が売れます」
ダイソーが上手く滑り出すことが出来たのは日系人の存在があると谷口は考えている。
「オープンしてすぐの頃は、まともに時間通り来る従業員は半分ぐらいでした。そうしたら日本で働いたことのある日系人たちがこれでは駄目だと言い出した。ルールを自分たちで作ってくれて、結果としていい人間が残った。彼らの発案で朝礼、終礼をやることになったんです」
ダイソーは商品改廃のサイクルが速く、月に何百もの新商品が出てくる。どの商品がブラジル人に受けるか、大野は日系人の女性社員に意見を聞いている。
「Aランク、Bランクと彼女たちが判断している。日系人の子たちは、日本もブラジルも両方分かっているので、助かっています」
現在の価格は6.9レアル。インフレの激しいブラジルではこの価格を保つことも難しいと大野は言う。
「本来は7.5にしないと駄目なんです。ただどこまで6.9で出来るかの我慢比べ。多少売り上げの悪い月は電気代を見直すことで乗り切ったこともあります」
最近、大野は新たな試みを始めた。
以前からブラジル人は計算、暗算が苦手なことが気になっていた。そこで大野は自分の息子のために作った計算ドリルを終礼前にやらせることにしたのだ。時間を計り、出来た人間から手を挙げさせ、答え合わせをする。従業員たちはゲーム感覚で楽しんでいた。1桁の足し算から始め、2桁の足し算、かけ算まで進んだ。
「ぼくら、遊んでいるんです」
大野は楽しそうに笑った。
「ブラジル人に仕事は修業の場って言っても理解してくれない。でも少なくとも仕事に来て、何か学んでいる、前に進んでいるという感覚があれば楽しくなるんじゃないか。ダイソーの仕事はきつかったけど、自分のためになったと思ってくれればいいかなと」
地球の裏側で踏ん張っていたのは、サッカーの日本代表選手だけではない。
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【意外な現実】
・日系人の協力で朝礼・終礼を実施
・価格は一律6.9レアル(約315円)
・2012年から進出。現在4店舗
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