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2024年09月19日

リスク社会学の観点からマクロに文学を考えるー危機管理者としての作家について1

1 はじめに

 この論文は、小説のデータベースを作成しながら、作家の執筆脳を集団の脳の活動として広義に説明するために、社会のあらゆる側面を考察の対象にする社会学の観点に基づいたマクロの文学分析を試みる。
 これまでは作家の執筆脳としてシナジーメタファーを作家毎に狭義で研究してきた。今回は集団を意識して、作家としての人間の条件にリスクの警鐘を鳴らす危機管理者というエキスパートとしての資質を設け、社会とリスクという観点に立ち、シナジーのメタファーから集団の脳の活動について考察していく。リスクとは現実に被る不利益や損益のことで、危機はそうなるかもしれないという不安感を指す。この論文でいう危機管理者は、双方を扱うことにする。作家の役割としては、他にも文化とか自然の観察者あるいは歴史の伝承者を考えることができる。
 花村(2018)の中で取り上げた作家、トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖が試みるリスク回避の研究をさらに濃くするために、それぞれの作家の小説を用いてデータベースを作成し、平易な統計分析、例えば、バラツキ、相関関係、多変量そして心理学によるデータ分析を行っている。こうすると文学や言語学に関するミクロの研究や国地域の比較に加えて、トップダウンからのリスク社会論に基づくマクロの研究と共に、中間に位置するメゾの研究を処理することができるからである。
 また、国地域に関して言語や文化による分け隔てはなく、地球上のどこもが研究の対象になるため、シナジーのメタファーは、すべての言語に適応可能な研究方法といえる。因みにこれまで筆者が研究した作家の国地域を見ると、東アジア(森鴎外、魯迅、井上靖、川端康成、小林多喜二)、ヨーロッパ(トーマス・マン、ハインリッヒ・ベル)、南アフリカ(ナディン・ゴーディマ)であり、さらに北米や南米など他の国地域の作家たちにもシナジーのメタファーの研究を適応させていきたい。

花村嘉英(2019)「リスク社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)-シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎-主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』-魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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