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2023年05月14日

314番:ハリエット嬢(121)


ハリエット嬢(121)
Miss Harriet
Maupassant



−−−−−−−−−−【121】−−−−−−−−−−−−−−−

Et tout au fond de cette brume épaisse et
transparente, on voyait venir, ou plutôt on
devinait, un couple humain, un gars et fille,
embrassés, enlacsés, elle la tète levée vers lui,
lui penché vers elle, et bouche à bouche.


−−−−−−−−−−−(訳)−−−−−−−−−−−−−−−−

 そしてこの靄の濃いところ、透けたところのずっと
奥に人のカップル、若い男女がこちらに向かって来て
いるか、あるいは抱き合ってキスをしている姿が、か
すかに見えます.女性は彼のほうを見上げて、男のほ
うは彼女に向かって上半身を傾けています.そして唇
を合わせていました.


 
..−−−−−−−−−−〘語句〙−−−−−−−−−−−−−−−

brume:[ブリュム](f) もや、(薄)霧、
  Il y a de la brume sur la Seine. /
  セーヌ川の上にもやが立ちこめている.
épais(se):(形) 部厚い
transparent(e):(形) 透明な、澄みきった、透けて見える
devinait:(半過去3単) 〜がかすかに見て取れた.
<deviner (他) (どうにか)見分ける
deviner une forme dans le brouillard. /
霧の中に何か物の形がかすかにみとめられる.
embrassés:(過去分詞男複)< embrasser (他) キスする、
   接吻する;(抱擁するという意味もあるがenlacer
があとに続いているのでキスをするという意味.
   尚、抱きしめるという意味になる場合でもキス
   はしています)(何?あんたもやりたい?誰と?) 
enlacsés:< enlacer (他) 抱きしめる、すがりつく
pencher:(他) 傾ける
bouche à bouche:口と口を合わせ



−−−−−−−−−−−≪文法≫−−−−−−−−−−−−−−

まずun couple humain と un gars et fille は同格による言
いかえです.「カップル、それは若い男女なのだが」
jeune という単語はありませんが、gars [ガ]は少年とか
若者の意味.garçon の古い主格形だそうです.fille も
娘の意味ですから若い女性.つまり「若い」意味が内蔵
された語です.

さて本題.この若い男女は知覚動詞の直接目的語で、 
on (主語) + 知覚動詞(voirもdevinerも) + 不定詞

と言いたいところですが不定詞ではなく過去分詞になっ
ています.なぜか?実はここには相互再帰動詞をおきた
いところですが、un gars et fille 自体目的格補語なので
避けたのでしょう.なので本来はêtre + 過去分詞を使う
ところだと思うのですが、煩雑を避けるためêtre は省略
されているのだと思います. 

その次の文法説明事項:
elle la tète levée vers lui, lui penché vers elle, et bouche à bouche.

lui lui と2つもあるので、書き間違いではないのか?
いいえ、書き間違いではありません.この変てこな文は
「分詞構文」でございます.分詞構文の基本形は「動詞」
から始め、その動詞を「現在分詞」にするのでした.

しかし、その分詞に主語が必要な場合があります.そんな
ときは意味上の主語をポツンと置きます.ここではelle が
ポツンと一軒家のように建っています.elle は主格なので
本来は「彼女は〜」となるところですが、ここでは「文主語」
ではなく「主題」のelle です.はっきり言って「副詞」だと
お考え下さい.「主語が何で副詞なんだ、ばかやろう」
「ハイ、ばかでも何でもいいですので、ここではelle は
(彼女のほうは彼女のほうで〜)となって分詞に続きます」
「elle が主語でないとは?」「elle は分詞の意味上の主語
ですが、文全体の主語ではありません.ここでは強勢形の
elle とお考え下さい.こういう例をご覧下さい
Je les connais, elle et sa sœur. /
私は彼女とその妹を知っている.
この例文のelle は目的語です.

分詞構文の肝心の現在分詞はどこに行ったか?
はい、消えて無くなりました.しかし残された
過去分詞のお陰で、être の現在分詞étant が消えたと
推測できます.
「彼女のほうの顔は彼の方へ上げられ」とな
ります.

それじゃ主語は la tète でしょ?
はい、そうです.消えてなくなったêtre の主語です.
なので受け身で訳します.

「彼女に関しては顔があげられて」

となります.

さて、その次ですが、
同様にlui も「彼は彼で」と訳します.
lui penché vers elle,

今度はêtre もtête も省略されています.

「彼は彼で顔を彼女の方に傾け」

となります.


私は英文学専攻だったので、このくだりは、英語では
with her head lifted toward him, his, bented down into her,
their lips touched each other.
ですが、このように分詞(脱落していますがbeing)
の主語と主節の主語が違う場合は分詞の主語にwith が
その別主語指標として置かれたりします.
きっとフランス語でも分詞構文の別主語指標にはavec
とかを使うんだと思います.



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