私に知っている90歳以上でかくしゃくとしている高齢者は、ほぼ例外なく食べることが好きです。
食べることは、それ自体が脳に対して大きな刺激になります。視覚や臭覚、味覚などの5感の刺激になるのはもちろん、手を使って食べ物を口に運び、咀嚼して飲み込むという一連の運動も、脳に多くの情報を与えます。その証拠に、術後などに点滴栄養を続けて認知機能が低下していた高齢者に、口から食べる食事を与えると、知能機能も体力も大きく回復するといった報告もあります。
しかし、食べることが好きと言っても、決して暴飲暴食ではなく、自分の食べる量をわきまえています。
江戸時代の儒医である江村専斎(1565〜1664)は90歳を超えても目や耳が衰えることなく強壮で、後水尾天皇に養生法を尋ねられ「養生の秘訣は別儀なし、飲食些く思慮も些し、ただ些に一時を体得するなり」「食事を少々、頭も少々、養生もほどほどに)と答えています。
貝原一軒の【養生訓】のも「腹八分に医者いらず」の名言がありますが、これらは現代でも通用しています。整理課国際病院院長で、現役最高の臨床医である日野原重明氏は、朝日新聞のコラム(2013年8月8日)の中で「江戸時代に貝原益軒が描いた養生訓は“腹八分“を薦めている。僕は”腹七分目"」と述べています。
2度の脳梗塞を乗り越え、現在も活躍中の歌手、西城秀樹氏の講演の中で「7・5の人生」と述べ原7・5分目を進めています。
食べる量を控えめにすることが長寿につながる根拠については、各地で様々な研究が行われています。
1935年アメリカの栄養学者であるクライド・マッケイ博士は、ラットを使った研究で、摂取カロリーを適度に制限すると血糖値が下がって糖尿病の発生が減少し、”若返りホルモン”と言われるDHEAS(デヒドロエピアンドロステロン)という副腎皮質ホルモンの分泌を高め、老化に伴う疾患が減少すると報告しています。 その結果、カロリーを制限したグループより25%ほど長生きしたと報告しています。(人では倫理上の問題があり、カロリー制限のような研究はできないため、実証的な確証は得られていません)。
また各地の長寿者を調査したアレキサンダー・リーフ博士は「世界の長寿村」という著書のなかで、長寿村にみられる共通点として@標高の高い所に住む、A長時間肉体労働に従事するB食物摂取量が少ない、の3点を挙げています。 さらに、近年、長寿遺伝子として注目されているS@r2遺伝子は、普段はスイッチ・オフの状態になっていますが、S@r2遺伝子を発見したガレンテ教授の研究では、25%のカロリー制限がこの遺伝子を活性化し、スイッチ・オンの状態にすることが示唆されています。
1979年と維持、国内でも長寿な地域として知られていた沖縄は、当時日本の3大死因であった脳卒中、がん、心臓病の発生率が本土の60〜70%と低率でした。当時の沖縄の成人の栄養摂取量は、たんぱく質や脂肪の摂取量には差がなかったものの、総カロリー摂取量ではほんどの平均を20%下回っていたことが知られています。ちなみにその後、沖縄では食生活が変化し、現在は長寿県の地位を長野県に譲っています。
【このカテゴリーの最新記事】
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image