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2018年04月30日

ハリル前日本代表監督、怒りの泥沼訴訟へ向けて

ワールドカップ(W杯)ロシア大会を約2カ月後に控えた4月9日、JFA(日本サッカー協会)はヴァイッド・ハリルホジッチ監督との契約を同7日付で解除したことを発表した。田嶋幸三会長は決断に至った理由を「選手とのコミュニケーションや信頼関係が多少薄れてきた」「今までのさまざまなことを総合的に評価して、この結論に達した」とし、後任には技術委員長だった西野朗氏が就任することを合わせて発表した。


 これを受けてハリルホジッチ氏は27日、都内で自らの解任に関する記者会見を実施。JFAから「事前に何も知らされていなかった」ことや、解任理由であるコミュニケーションについても「問題はなかった」と自身の見解を示した。

 会見翌日、セルビア人ジャーナリストのブラディミール・ノバク氏が電話での独占インタビューを敢行。自身の解任に関する思いや、日本サッカーについて、ファン・サポーターへのメッセージにいたるまで、あらためて話を聞いた。(取材日:2018年4月28日)

実に不誠実で、プロフェッショナルではない


――4月21日に来日してから何をしていた?


 私の身に何が起きたのかを知りたかった。私はまだ真の解答を得られずにいる。JFAの田嶋会長がどのような理由で私を解任したのか、誰も真実を知らないのだ。唯一の解任理由は、選手とのコミュニケーションの問題だという。当然、それは間違っているし、真の理由のはずがない。


 最近、私の元に15人ほどの日本代表選手からメッセージが届いた。すべての選手が驚きや怒りのような感情を書きつづっていた。実際に何が起きたのか。これは大きな謎だ。昨日の記者会見には400人近く(発表は332人)の報道関係者が出席していたが、そこで私は「いったい何が起きているのか」と問い掛けた。


 私の身に降りかかった出来事は実に不誠実で、プロフェッショナルではない。選手たちとのコミュニケーションの問題は一切なかった。むしろ、現在まで率いてきた歴代のチームの中では、選手たちと最も容易にコミュニケーションを取っていた。


――霜田正浩氏(元技術委員長・現レノファ山口監督)がJFAを去り、その後、西野朗氏が後任に就いたことについてはどう思ったか?


 2つの派閥が争い、その結果、一方が勝利したということだ。


――その時、JFAから新体制についての説明はあったのか?


 特別な説明はなかったし、説明の必要性は感じていない。会長は新しい技術委員長を選任する権利があるからだ。西野氏との直接的なやりとりは多くなかった。彼は私たちの練習を見守り、自身のための記録帳を用意していた。そしてコーチ陣との会議に出席していた。代表選手を選ぶときは、私が最終的な権限を持っていた。


 フランスでは、技術委員長と監督が何か特別なやりとりをすることはない。技術委員長はその国のサッカーの施策を練り、若手世代の強化に努めることが主な仕事だ。監督に直接的な影響を与えることはない。


――霜田氏が去った後、何か変わったか?


 私の仕事に関しては何も変化はなかった。とはいえ、私は霜田氏とはより多くの接触があったことは確かだ。霜田氏は機会があるごとに、日本代表での私の仕事に感銘を受けている旨を伝えてくれた。西野氏とは「こんにちは」とあいさつを交わすぐらいだった。

W杯前に明確なプランを持っていた



――W杯出場を決めた後、昨年11月、12月、今年3月に強化試合が行われた。試合では本大会のためのプランを披露せずにいたと思うが、具体的なプランを選手たちや協会スタッフ、技術委員会、会長らには伝えていのか?


 話していない。誰からも問われることはなかったし、誰からも求められなかった。強化試合では多くの選手を試した。その中にはけがのために、それまでプレーを見ることができなかった選手もいた。サッカーにおいて、試合結果はいつも重要だ。しかし、強化試合の場合、結果は必ずしも最優先事項ではない。


 私は強化試合を通して多くのポジティブな要素を発見した。例えば、11月のブラジル戦では0−3で劣勢に立たされた中で2−3(編注:実際は1−3)という結果だった。3−3の引き分けに持ち込むこともできた試合だった。1つのゴールが認められない不運もあった。選手たちは試合開始直後から、相手が強豪国という理由で心理面が欠落していたが、後半に入り、いくつかの修正とアドバイスを送った。すると、チームはより自由に、組織的になり、選手たちはより勇敢に、大胆にプレーできるようになった。


 ベルギー戦でも良いプレーを見せてくれた。失点は相手選手のドリブルで日本の5、6選手が揺さぶられた結果、ゴールを奪われるという個人技によるものだった。ただ、その後は試合を支配して得点のチャンスも何度か訪れた。3月は2つの強化試合があり、対戦相手の性質は異なっていた。その試合で若い選手を見たかった。私はW杯前に明確なプランを持っていたのだ。


 私はW杯前の期間を前向きな気持ちで過ごしていた。本大会に臨むための準備期間が今まで率いたチームよりも一番多く与えられていたし、(W杯準備・期間中の)約4週間をみんなと一緒に仕事ができる喜びを感じていた。しかし、残念ながらすべてがふいになってしまった。


――グループリーグの対戦国であるコロンビア、セネガル、ポーランドとはどのような試合戦術、ゲームプランがあったのか教えてほしい。


 すべて話すには3日間必要だ。私が準備、計画していたことの一部さえも、この場で話すことは困難だ。私はコロンビア代表の10試合を分析して、すべての情報を持っている。攻撃時、守備時では日本の選手がどのようにプレーすべきか詳細な部分まで分かっている。


 W杯ブラジル大会で私がアルジェリア代表を率いて、いかに用意周到に準備してきたかご存知のはずだ。私は戦術のスペシャリストだ。ブラジル大会では優勝国のドイツと対戦し、勝利目前まであと一歩のところに来ていた。ロシアW杯での日本の対戦国は、それぞれプレースタイルが異なる。私がグループリーグの3試合に向けて、どれだけ慎重に準備をしてきたかを分かってくれるはずだ。



――田嶋会長によると、日本代表は縦に速いサッカーよりもパス重視のサッカーが日本のスタイルに合っているとのことだが、どう思うか?


 持論を展開するのは自由だが、プレースタイルや戦術に関していえば、彼は門外漢のはずだ。彼の仕事はそこには存在しない。私は資料を作成して、日本のサッカーは選手の個人的かつ集団的な価値に基づいて、アイデンティティーを形成すべきだと説明してきた。他国のコピーであってはならない。自身のプレースタイルを磨く必要があるのだ。


 プレースタイルは選手の性質に依存する。日本人は背が低いが敏捷(びんしょう)性に長けているので、速くて爆発的なプレーが可能だ。100本のパスはゴールまでのプレーを遅らせるだけだ。相手ゴールを危険にさらすためには、速い動き出しこそ必要なのだ。私は17年間、センターFWとしてプレーした。ゴールを奪うための最良の方法を心得ているつもりだ。


――田嶋会長は「1パーセントでも2パーセントでも、日本代表が勝つ可能性を追った」と会見で話していたが、どう思うか?


 新監督は、私よりも何度がW杯を経験していて、選手時代もたいそう偉大な選手だったに違いない。だから、本大会でもきっとうまくいくのではないか。


――本大会で招集を予定していた23名の選手の名前を教えてほしい。サプライズで誰かを呼ぶ予定はあったのか?


 今ここで話すのは意味がない。自分の考えとしては、23名のベストな選手を呼ぶだけだった。


――選手たちとの関係は良好で、コミュニケーションもうまく取れていたと話していたが、一方で会見では本大会出場を決めたオーストラリア戦後に2人の選手が不満を持っていたことを明らかにした。その選手はそれまでの試合に出場していたという。それは本田圭佑と香川真司のことか?


 名前は重要ではないし、言うつもりはない。サッカーは集団スポーツだ。重要なのはチーム、プレー、パフォーマンス、結果だ。名前は重要ではない。チーム全体は選手個々よりも重要視されるべきである。オーストラリア戦での(選手起用に関する)私の決断は、日本では大きな衝撃だったようだ。日本代表の試合出場数が多い選手たちを使わなかったからだ。


 私はその時の最高のチームを選び、結果的に日本はオーストラリアに歴史的な初勝利を飾った。勝てると信じた人間は少なかったが、私は信じていた。サッカーの世界ではよくあることだ。どの監督も、たとえばジョゼ・モウリーニョ(現マンチェスター・ユナイテッド監督)でさえも、選手から不平を唱えられ、サポーターやメディアからはこの選手を使えと批判される境遇に置かれているのだ。

代表チーム、クラブからのオファーは留保している



――日本ではあなたの解任に不満を持つ者も多いという。解任の真の理由が日本代表戦のテレビの低視聴率の打開策だったり、スポンサーの圧力があったりといった憶測があるが、どう思うか?


 政治とサッカーの世界では何でも起こり得る。残念なことに金はスポーツよりも重要なものになった。そういう時代なのだ。これだけは絶対に言えることだが、日本代表選手たちとの連携に問題はなかった。むしろ素晴らしいコミュニケーションを確立していた。私たちの関係は理想そのものだった。


――すでに監督就任のオファーが届いているというニュースを耳にしたが、今後の予定について教えてほしい。Jリーグのクラブからオファーがあれば引き受けるか?


 代表チーム、クラブからオファーが届いていることは確かだ。しかし、今はすべて留保している。


――仮にヨーロッパのクラブを率いることになったら、自身のクラブでプレーをさせたい日本人選手はいるか?


 自分のクラブでプレーする選手が白人なのか、黒人なのか、国籍はどこなのかなど一切気にしたことがない。私は偏見を持たない。大切なのは良い選手であり、チームプレーに徹することができる選手だ。


――そういう一般的な話ではなく、あなたが自分のクラブに呼びたい具体的な日本人選手名を挙げてほしい。


 それはクラブ次第だ。例えばマンチェスター・シティやパリ・サンジェルマンのようなビッグクラブの場合、そこでプレーできるだけのレベルに達した日本人選手は現時点ではいないだろう。一方で、小さなクラブを率いることになったら、日本人選手の獲得もあり得るだろう。

私を支えてくれたすべての人に、心よりの感謝を



――JFAとの契約はW杯終了までだった。解任の知らせを聞いて、ひどく落胆していたが、その後、訴訟の準備をしているとの話も聞いた。違約金や慰謝料のオファーはあったのか。また訴訟をしたのか?


 現在は弁護士にすべてを任せている。訴訟はしていない。このテーマに関しては、これ以上、話すことができない。弁護士に任せている。


――来日後、JFAとの話し合いの場は設けられたのか?


 何もない。JFAから話し合いの提案はあったが、断った。


――なぜ断ったのか?


 なぜなら、私がどういう理由で解任されたのか、真実を知りたいからだ。互いに向き合った会話の中での説明はいらない。私はJFAが真実を公表してほしいのだ。


――最後に日本のサッカーファン、日本代表サポーターに対して伝えたいことはあるか?


 日本人が私にこれほどまで身近に寄り添ってくれていたことを知らなかった。来日後、東京を歩いてそれを確信した。道ですれ違うと、みんな励ましと同情の気持ちを表してくれた。昨日の記者会見では400人近くの報道関係者が駆け付けてくれて、会見終了時には大きな拍手をいただき、とても感動した。共に働いてきたJFAのスタッフからも、温かい言葉をかけてもらった。先ほども話したが、15名ほどの日本代表選手からも感動的なメッセージが届いた。


 私を支えてくれたすべての人に、心より感謝の言葉を贈りたい。残念なことに、今の時代は何が起きてもおかしくない。サッカーよりもビジネスが重要視される時代だ。ただ、今回の件は決して受け入れることができないし、受け入れるつもりもない。解任の理由がいわゆる「コミュニケーション」だと言うなら、事実無根である。JFAには真実を話して、解任の本当の理由を明かしてほしい。それを公に発表してほしい。私を支援してくれている人たちに感謝したい。
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