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2022年03月12日
父の運転免許証を返納せよ3
父「買い物行こうか」
母「買い物行くってどうやって行くん?」
父「どうやって行くんて車で行くんよ」
父は昨日の事を覚えていなかったのだ。
母「昨日運転免許証返したやん」
父「はあ?返しとらんよ」
昨日発行された運転免許の取消通知書を見せても「警察はこんなもの作らん、アンタが作ったんやろ?」と言った感じだ。
昨日の喜びと感動に包まれた本当に幸せな一日とはいったい何だったのか。
62年間無事故無違反のまま終わったのに、これで無免許のまま運転されて事故を起こしたらたまったものではない。
こうなったら妹が仕事に行く時に車の鍵を持って行ってもらい、物理的に車に乗れない状況にするしかない。
車の鍵が無い事にイライラして歩いて車まで行き、そこで転倒してまた頭を打っても、大腿骨頚部骨折しても仕方がない。車の運転だけは絶対に阻止しなければならないのだ。
妹が仕事の日は物理的に運転出来なくなったのだが、次は僕が実家に帰っている時の対応である。
父は買い物や病院に行こうかと言うと自ら車の鍵を取り車に向かうので、その度に「今日は僕が運転するよ」と言ったり、それまであまり運転してなかった妹が「運転の練習をするから助手席に乗って」と言うと助手席に乗るようになった。
「今日は」僕が運転する。
「今日は」助手席に乗って。
「今日は」母と後部座席に乗って。
と言うと「また?運転せんと感覚を忘れるわ」と言いつつもしぶしぶ運転席以外に乗ってくれるようになった。
僕らは決して怒らず、声を荒げる事もなく父を運転席以外に穏やかに誘導する生活を3週間ぐらい続けたら
父は運転すると言わなくなった。
父の運転免許証を返納せよ2
2020年10月27日、父を連れて自動車学校へ
アルツハイマー型認知症と診断された以上、もう運転免許証の更新が出来ない事は確定している。
しかし、父にそのことを少しでも理解してもらう為に敢えて試験を受けてもらった。
しばらく待つと係の人から呼ばれ、試験結果の結果が告げられた。
「運転免許証の更新が出来ません」
そう言われた父はしばし呆然とし、何が起こったのか分からない様子だった。
前回までは自動車学校で新しい運転免許証用の写真を撮り、更新されたピカピカの運転免許証をニコニコしながら持って帰っていたのに、初めて不合格通知を持って帰ることになった。
家に帰り、やや重たい雰囲気で昼食を済ませ「父に言うのは今日しかない」と僕は覚悟を決めて
「免許の更新が出来なかったから今日免許を返さないといけない」
と父に言った。
そう言われた父は「えー!何で?」と今にも泣き出しそうな表情であった。
それは今まで大切に大切にしていた大事な宝物を取り上げるようだった。
辛さをグッと堪えて「今までいろんな所に連れて行ってくれてありがとうございました、62年間無事故無違反は本当に凄いことです、無事故無違反のまま終わろう」と言ったら少し間を置いて父はようやく首を縦に振った。
それから警察署へ行き運転免許証返納の手続きをした。
そして実家で少し早い夕飯をみんなで食べた。
この時、父はとっても明るかった。
それとも無理に明るく振る舞ってたのかな?
僕らに課せられたラストミッションは「父が大好きな車の運転を62年間無事故無違反のまま終わらせる」であった。
これでミッション完了である。
夕食を済ませ、父と母が2人きりになった時父が
「62年間無事故無違反で終われたのはさっちゃんのおかげだ、ありがとう」と言って母は涙したと言う。
母も「あんな事言ってくれると思わんやった」と嬉しそうだった。
喜びと感動に包まれた本当に幸せな一日だった。
しかし次の日、父が母に言った衝撃の一言に僕らは凍りついた。
つづく