アフィリエイト広告を利用しています

2024年04月08日

フランツ・カフカの「変身」で執筆脳を考える3

「変身」の文体は、冷静な報告調に見る衝撃(佐藤1979)とか存在の不安を怪奇な姿形で表したもの(藤本他1981)ともいわれ、構文的には接続法の使用が多い。これは、前日まで家族のメンバーであったグレゴール・ザムザが虫の目になって家族の様子を語っていることもある。つまり、現実から内容が少しずれているためである。
 例えば、Er hätte Arme und Hände gebraucht, um sich aufzurichten; statt dessen aber hatte er nur die vielen Beinchen, die ununterbrochen in der vershciedensten Bewegung waren und die er überdies nicht beherschen konnte.
 この文のhätteは、通常であればザムザが起き上がるために腕や手を用いるという仮定の意味があり、害虫に変身した今となっては、細かく動き支配できない多くの小さな足がその代わりをすることになる。なお虫の目からの社会観察は、日本語では横光利一の「蝿」が有名である。
 Egon Schwarz(1984)は、害虫に変わった瞬間に存在の問題が発生していると説く。カフカの場合、人間の存在について証言するという目的がある。選択された動物の特徴や機能に依存しながら、動物寓話の習慣、メールヒェンの伝統、口悪い風刺の作用といった文学上の関係が作られる。人間の最小価値を信号で知らせるためもあろう。
 そこには日常見慣れた表現形式によそよそしさを加えて異様なものを作り、内容をさらに理解させるための工夫がある。これは、異化効果と呼ばれ、登場人物の振舞いが歪みの法則により捉えられる。
 この小論では、「変身」についての購読脳は、「異化と人の最小価値」とし、執筆脳を「適応と反応」にする。また、自己の心的構造に適合するように外界の状況を適合させる同化に対し、自己を外界の状況に適合するように変化させる異化効果によるシナジーのメタファーは、「カフカと適応」にする。

花村嘉英(2020)「フランツ・カフカの『変身』の執筆脳について」より
この記事へのコメント
コメントを書く

お名前:

メールアドレス:


ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/12503036
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
ファン
検索
<< 2024年07月 >>
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
最新記事
写真ギャラリー
最新コメント
タグクラウド
カテゴリーアーカイブ
プロフィール
花村嘉英さんの画像
花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
プロフィール