2023年12月01日
しあわせを感じる「ぼくプリ」を「大人になった女児たちが集まれる場所」と定義しているように、明確に女児ではなく「大人の女性を意識したコンテンツ」
男子の舞台「Dancing☆Starプリキュア」は確かに「プリキュア」だった 20年間来のプリキュアファンが“ぼくプリ”に感じた「プリキュアの芯」
ねとらぼ
2023年4月28日。突然発表された「男の子のみのプリキュア舞台化」の一報はプリキュアファンに大きな衝撃を与えました。賛否両論入り交じりSNSでも大激論。正直なところ、自分も初めて聞いたときは「それはもはやプリキュアじゃないだろう……」なんてことを思っていました。
「Dancing☆Starプリキュア」
しかし、僕は謝らなければいけません。実際に見て分かりました。「Dancing☆Starプリキュア」The Stage、最高にプリキュアでした。「プリキュアっぽい何か」ではなく、舞台上で踊る彼らは確かに「男子高校生のプリキュア」だったのです。
20年間プリキュアを見続けてきたアラフィフのおじさんが「Dancing☆Starプリキュア」のどこに「プリキュア」を感じたのか、記していきたいと思います。
「大人になった女児たちの場所」
「Dancing☆Starプリキュア」The Stage(以降「ぼくプリ」)。「プリキュアシリーズ」放送開始20周年を契機に制作された、シリーズ初の舞台化作品です。ダンス部に所属する男子高校生たちがプリキュアに変身するという、これまでのプリキュアシリーズとは大きく異なるアプローチの舞台作品です。
プリキュアシリーズを立ち上げた東映アニメーションの鷲尾天さんは、「ぼくプリ」を「大人になった女児たちが集まれる場所」と定義しているように、明確に女児ではなく「大人の女性を意識したコンテンツ」となっています。
かつて応援してくださった「大人になった女児たち」が集まれる場所、それが「Dancing☆Starプリキュア」The Stageです。鷲尾天 「Dancing☆Starプリキュア」The Stage パンフレットより
さらに同公演は、舞台作品ということもあり、規約で「未就学児」の入場は禁止となっています。つまり「未就学児が見られない初のプリキュアコンテンツ」ともなりました(後にネット配信で視聴はできましたが)。
観客の95%は女性客
正直なところ、開演前は「ぼくプリ」にあまり良い印象はありませんでした。
「プリキュアはあくまで女の子が主体」であって「男の子のみでプリキュア」が成立するとはとても思っていなかったのです。一人二人メンバーに入るのと「全員が男の子」では訳が違う。しかも男子高校生の舞台作品? いや、ありえない……なんてことを思っていました。
とはいえ、見ないで批判することはできません。「きっちり見届けよう」と11月3日13時の回を見に行きました。
お昼過ぎに会場の品川ステラボールに着くと、そこにはきれいに着飾ったお姉さま方の大行列。自分のようなおじさんは完全にアウェイです。
観客の内訳をざっと目視で確認すると、女性客95%、男女ペア2%、親子連れ2%、男性客1%といったところでしょうか。小学生と思われる女の子もちらほら見掛けます。
「東京千秋楽の1日前」という日で90%以上の席が埋まっている盛況っぷりです。
開演前のグッズの販売も長蛇の列。妖精バドドゥのポシェットやらフォトカードやらの売り切れ報告が飛びかい、こちらも大盛況。その人気の高さが伺えます。
王道のプリキュア
“プリキュアの生みの親”の鷲尾天さんが「ぼくプリ」の発表時に「破壊と創造」「20年で最大の挑戦」と言っていたので、どれだけ奇抜なものが出てくるのかと覚悟していましたが、ストーリーは意外なほどに「王道のプリキュア」でした。
プリキュアシリーズの1クール(1〜12話)までを一気に見た印象です。
「ボーイミーツフェアリー」から始まり、変身アイテム入手、主人公初変身、相棒の変身、先輩や後輩も変身し、友達の悩みを解決しつつの敵幹部登場、待ってましたの「ポーズを決めての5人集合名乗り」からの「合体決め技」で敵幹部との決戦、新しい謎が提示されて1クールが終了、という「プリキュア前半お約束の流れ」を2時間30分に凝縮した感じです。何なら「オープニング」も「エンディングダンス」もあります。
また「ダンスで勝敗を決めるダンスバトルもの」でもなく、普通にキックやパンチで戦います。敵の幹部に至っては大きな剣を振り回して戦いますし、プリキュアを構成する大切な要素である「肉弾戦」もきちんと描かれていました。
20周年のニチアサプリキュア「ひろがるスカイ!プリキュア」がやや変則的な展開をしている中、「変化球」と思われた男子の舞台プリキュアの方が逆に「王道のプリキュア物語」をやっていたのが興味深いところではあります。
仮にこの舞台作品を批判するのであれば「こんなのプリキュアじゃない!」ではなくて「創造と破壊とか言っておきながら、プリキュア過ぎるじゃないか!」になるのかもしれません。
というか、この作品を「プリキュアかどうか判断してやろう」なんてうがった目で見ていたのは自分のような頭の固い一部の古いプリキュアファンだけで、その観客のほとんどは純粋に「舞台作品」として見に来ていたのですよね。「純粋な舞台作品」としても最高に楽しかったです。
変身シーンが楽しい
プリキュアの花形である「変身シーン」。これを舞台作品でどう処理したのか? も気になるところでした(子ども向けのショーのように「入れ替わる」わけにはいきませんものね)。
この「変身シーン」がとても秀逸なアイデアでした。
変身の掛け声と共に、どこからともなく表れたダンサーたちと一緒に踊りながら変身開始。このダンサーズが「変身エフェクト」のように踊ります。最初の変身では踊りながらダンサーにパーツを付けてもらいつつ、子ども向けプリキュアショーでもおなじみの大きなパネルがスライドしてきます。このパネルでの演出とダンサーズのキレッキレの踊りで盛り上げながら徐々に変身。最後はキャスト本人によるダンスパフォーマンスで締める、といった変身スタイル。
変身にかかる時間を逆手にとってダンスを見せつつ変身するというアイデアで、これはあたかも「変身バンク」を見ているようなのです。この「変身シーンを見るのが楽しい」のもプリキュア的でした。
個人的にはキュアカグラ(緑のクール系男子)の「和傘が開いたり閉じたりしながらの変身」が最高にカッコよかったです。
魅力的な悪の存在
内容面を見てみると、この作品は「平等」と「悪平等」が対立軸として描かれ、やや重めのストーリーとなっています。
「才能や個性のある人だけが目立つのは不公平。できない人に合わせるのが公平である」という敵の主張に、プリキュア達がどう立ち向かうのかが描かれます。
この「悪役」(ネタバレ回避のため名前は伏せます)が、本当に魅力的に描かれています。特にパンの枚数を使った“悪平等”の例えが秀逸でした。
「パンが10枚あって人間が30人いるなら全てのパンを捨てて食べないという選択をする。それこそが真の公平なのですから。」セリフ引用:「Dancing☆Starプリキュア」The Stageより
プリキュアでおなじみの「敵との問答」が多々あるのもプリキュア的な要素の一つです。
「希望を持つから絶望が訪れる。希望と絶望は表裏一体。ならば最初から希望を持たない方が良い」という敵の正論に、「じゃあ逆に絶望の裏には必ず希望がある」と返すのは「スイートプリキュア♪」のノイズ戦や「Go!プリンセスプリキュア」のクローズ戦など、幾多のプリキュアシリーズでも描かれた、まさに「プリキュア問答」の真骨頂。
この「敵との問答」を通して、作品のテーマを視聴者に伝える手法も、まさに「プリキュア」的です。そして何よりも「良い悪役」もプリキュアにとって欠かせない要素の一つです。
「リズムを合わせるんだ!」「おや? 皆さんは、型にはまらない自由さがモットーだったのでは?」セリフ引用:「Dancing☆Starプリキュア」The Stageより
熱い主人公、周りの魅力的なキャラ、コミカルな妖精、テーマを引き立たせる悪役、脇を固めるダンサーたち、熱い物語、格闘、ダンス。全てが「プリキュアを構成する要素」となり、もうラストシーン前には彼らが「プリキュア」にしか見えなくなるのです。
ただ、ラストのオチはやや賛否の分かれるところでしょうか。特に玩具販促番組の側面もあるニチアサプリキュアにどっぷりつかっている人ほど、このオチを疑問に思うかもしれません(「魔法少女まどか☆マギカ」のキュゥべえ的、といえば分かる人には分かるかもですね)。
ニチアサプリキュアで、このオチをやったら大きな反感が起きそうですが、この作品はあくまで「大人の女性」をターゲットにしたものです。続編をにおわせるオチはこれで良かったのだと思います。
ニチアサプリキュアでは聞けない表現が新鮮
あと、個人的には「配慮のカタマリ」であるニチアサのプリキュアではなかなか聞くことができない表現が新鮮でした。
例えば、妖精パドドゥが人間の姿になる度に何度も「おっさん」呼びするギャグや、プリキュアが敵の幹部を「キモいおっさん」呼びして客席が沸いたり、劇中のファンの男の子が「靴になって合法的に踏みつけられたい!」と叫んだりするシーンなどは、プリキュアの名を冠する作品でここまでの表現ができる時代になったんだな、と妙に感心してしまいました。
自分の足で立っていること、凛々しくあること
プリキュア20周年記念映画「映画プリキュアオールスターズF」では「ヒラヒラの衣装を着て、街のみんなを守るために敵と戦うのはプリキュアの本質ではない」ということが描かれました。
同様に、この作品も「プリキュアを構成する本質は何か?」という命題を「男の子のみが舞台上で演じる」ことにより、われわれ古いプリキュアファンに突きつけました。
女の子は一人も出てきません。全員が男性の舞台です。しかも基本は高校生がダンスをしています。それでも確かに自分はこの舞台作品に「プリキュア」を感じました。それはなぜだったのでしょうか。
確かに「妖精」「変身シーン」「変身アイテム」「キラキラの衣装」「肉弾戦」「友情」「悪役との問答」「決め技」など、たくさんの「プリキュアっぽい」要素はちりばめられています。それはあくまで構成要素の一つであって「芯」ではないのです。
自分がこの作品に一番「プリキュア」を感じたのは、「大人は新しい夢などを見つけられない」と叫んだ敵の幹部に、「だったら、俺たちのダンスを見てくれよ!」と返したときです。このセリフ、最高に「プリキュア」っぽいです。
理屈じゃないのです。つまらない「大人の理屈」なんて一瞬で忘れさせてくれる、キラキラで真っすぐな思い。無鉄砲でも何でも、ただ目の前の人を助けたい。前を向きつづけること。絶対に諦めないこと。未来を信じること。自分自身で決めること。
鷲尾天さんが20年間言い続けてきた「自分の足で立っていること。凛々しくあること」。
それがクリティカルに描かれていた以上、男の子とか女の子とかは関係なく、この作品は「プリキュア」です。もう、白旗を上げるしかないじゃないですか。
ターゲットが女性である以上、自分のようなおじさんは外野から見ることしかできません。しかしあのとき、あの場所に立っていた男の子たちは確かに「プリキュア」でした。
ラストシーン。会場を埋め尽くしたたくさんの「かつての女児たち」が凛々しく踊る彼らに声援を送ります。色とりどりの推しの色に光らせた星形ペンライトを振りながら大号泣しているお姉さまたちの姿を見て、これは「新しい時代のプリキュア」なのだな、と感じました。
願わくは、新しくできたこの場所が続いてほしい。
男子プリキュアの舞台がこの先も演じられ続け「新しいプリキュア文化」になってくれると、20年来のプリキュアファンとしても、とてもうれしいです。
(C)Dancing☆StarプリキュアThe Stage製作委員会
著者:kasumi プロフィール
プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。
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ねとらぼ
2023年4月28日。突然発表された「男の子のみのプリキュア舞台化」の一報はプリキュアファンに大きな衝撃を与えました。賛否両論入り交じりSNSでも大激論。正直なところ、自分も初めて聞いたときは「それはもはやプリキュアじゃないだろう……」なんてことを思っていました。
「Dancing☆Starプリキュア」
しかし、僕は謝らなければいけません。実際に見て分かりました。「Dancing☆Starプリキュア」The Stage、最高にプリキュアでした。「プリキュアっぽい何か」ではなく、舞台上で踊る彼らは確かに「男子高校生のプリキュア」だったのです。
20年間プリキュアを見続けてきたアラフィフのおじさんが「Dancing☆Starプリキュア」のどこに「プリキュア」を感じたのか、記していきたいと思います。
「大人になった女児たちの場所」
「Dancing☆Starプリキュア」The Stage(以降「ぼくプリ」)。「プリキュアシリーズ」放送開始20周年を契機に制作された、シリーズ初の舞台化作品です。ダンス部に所属する男子高校生たちがプリキュアに変身するという、これまでのプリキュアシリーズとは大きく異なるアプローチの舞台作品です。
プリキュアシリーズを立ち上げた東映アニメーションの鷲尾天さんは、「ぼくプリ」を「大人になった女児たちが集まれる場所」と定義しているように、明確に女児ではなく「大人の女性を意識したコンテンツ」となっています。
かつて応援してくださった「大人になった女児たち」が集まれる場所、それが「Dancing☆Starプリキュア」The Stageです。鷲尾天 「Dancing☆Starプリキュア」The Stage パンフレットより
さらに同公演は、舞台作品ということもあり、規約で「未就学児」の入場は禁止となっています。つまり「未就学児が見られない初のプリキュアコンテンツ」ともなりました(後にネット配信で視聴はできましたが)。
観客の95%は女性客
正直なところ、開演前は「ぼくプリ」にあまり良い印象はありませんでした。
「プリキュアはあくまで女の子が主体」であって「男の子のみでプリキュア」が成立するとはとても思っていなかったのです。一人二人メンバーに入るのと「全員が男の子」では訳が違う。しかも男子高校生の舞台作品? いや、ありえない……なんてことを思っていました。
とはいえ、見ないで批判することはできません。「きっちり見届けよう」と11月3日13時の回を見に行きました。
お昼過ぎに会場の品川ステラボールに着くと、そこにはきれいに着飾ったお姉さま方の大行列。自分のようなおじさんは完全にアウェイです。
観客の内訳をざっと目視で確認すると、女性客95%、男女ペア2%、親子連れ2%、男性客1%といったところでしょうか。小学生と思われる女の子もちらほら見掛けます。
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王道のプリキュア
“プリキュアの生みの親”の鷲尾天さんが「ぼくプリ」の発表時に「破壊と創造」「20年で最大の挑戦」と言っていたので、どれだけ奇抜なものが出てくるのかと覚悟していましたが、ストーリーは意外なほどに「王道のプリキュア」でした。
プリキュアシリーズの1クール(1〜12話)までを一気に見た印象です。
「ボーイミーツフェアリー」から始まり、変身アイテム入手、主人公初変身、相棒の変身、先輩や後輩も変身し、友達の悩みを解決しつつの敵幹部登場、待ってましたの「ポーズを決めての5人集合名乗り」からの「合体決め技」で敵幹部との決戦、新しい謎が提示されて1クールが終了、という「プリキュア前半お約束の流れ」を2時間30分に凝縮した感じです。何なら「オープニング」も「エンディングダンス」もあります。
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20周年のニチアサプリキュア「ひろがるスカイ!プリキュア」がやや変則的な展開をしている中、「変化球」と思われた男子の舞台プリキュアの方が逆に「王道のプリキュア物語」をやっていたのが興味深いところではあります。
仮にこの舞台作品を批判するのであれば「こんなのプリキュアじゃない!」ではなくて「創造と破壊とか言っておきながら、プリキュア過ぎるじゃないか!」になるのかもしれません。
というか、この作品を「プリキュアかどうか判断してやろう」なんてうがった目で見ていたのは自分のような頭の固い一部の古いプリキュアファンだけで、その観客のほとんどは純粋に「舞台作品」として見に来ていたのですよね。「純粋な舞台作品」としても最高に楽しかったです。
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この「変身シーン」がとても秀逸なアイデアでした。
変身の掛け声と共に、どこからともなく表れたダンサーたちと一緒に踊りながら変身開始。このダンサーズが「変身エフェクト」のように踊ります。最初の変身では踊りながらダンサーにパーツを付けてもらいつつ、子ども向けプリキュアショーでもおなじみの大きなパネルがスライドしてきます。このパネルでの演出とダンサーズのキレッキレの踊りで盛り上げながら徐々に変身。最後はキャスト本人によるダンスパフォーマンスで締める、といった変身スタイル。
変身にかかる時間を逆手にとってダンスを見せつつ変身するというアイデアで、これはあたかも「変身バンク」を見ているようなのです。この「変身シーンを見るのが楽しい」のもプリキュア的でした。
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魅力的な悪の存在
内容面を見てみると、この作品は「平等」と「悪平等」が対立軸として描かれ、やや重めのストーリーとなっています。
「才能や個性のある人だけが目立つのは不公平。できない人に合わせるのが公平である」という敵の主張に、プリキュア達がどう立ち向かうのかが描かれます。
この「悪役」(ネタバレ回避のため名前は伏せます)が、本当に魅力的に描かれています。特にパンの枚数を使った“悪平等”の例えが秀逸でした。
「パンが10枚あって人間が30人いるなら全てのパンを捨てて食べないという選択をする。それこそが真の公平なのですから。」セリフ引用:「Dancing☆Starプリキュア」The Stageより
価格:5570円 |
プリキュアでおなじみの「敵との問答」が多々あるのもプリキュア的な要素の一つです。
「希望を持つから絶望が訪れる。希望と絶望は表裏一体。ならば最初から希望を持たない方が良い」という敵の正論に、「じゃあ逆に絶望の裏には必ず希望がある」と返すのは「スイートプリキュア♪」のノイズ戦や「Go!プリンセスプリキュア」のクローズ戦など、幾多のプリキュアシリーズでも描かれた、まさに「プリキュア問答」の真骨頂。
この「敵との問答」を通して、作品のテーマを視聴者に伝える手法も、まさに「プリキュア」的です。そして何よりも「良い悪役」もプリキュアにとって欠かせない要素の一つです。
「リズムを合わせるんだ!」「おや? 皆さんは、型にはまらない自由さがモットーだったのでは?」セリフ引用:「Dancing☆Starプリキュア」The Stageより
熱い主人公、周りの魅力的なキャラ、コミカルな妖精、テーマを引き立たせる悪役、脇を固めるダンサーたち、熱い物語、格闘、ダンス。全てが「プリキュアを構成する要素」となり、もうラストシーン前には彼らが「プリキュア」にしか見えなくなるのです。
ただ、ラストのオチはやや賛否の分かれるところでしょうか。特に玩具販促番組の側面もあるニチアサプリキュアにどっぷりつかっている人ほど、このオチを疑問に思うかもしれません(「魔法少女まどか☆マギカ」のキュゥべえ的、といえば分かる人には分かるかもですね)。
ニチアサプリキュアで、このオチをやったら大きな反感が起きそうですが、この作品はあくまで「大人の女性」をターゲットにしたものです。続編をにおわせるオチはこれで良かったのだと思います。
ニチアサプリキュアでは聞けない表現が新鮮
あと、個人的には「配慮のカタマリ」であるニチアサのプリキュアではなかなか聞くことができない表現が新鮮でした。
例えば、妖精パドドゥが人間の姿になる度に何度も「おっさん」呼びするギャグや、プリキュアが敵の幹部を「キモいおっさん」呼びして客席が沸いたり、劇中のファンの男の子が「靴になって合法的に踏みつけられたい!」と叫んだりするシーンなどは、プリキュアの名を冠する作品でここまでの表現ができる時代になったんだな、と妙に感心してしまいました。
自分の足で立っていること、凛々しくあること
プリキュア20周年記念映画「映画プリキュアオールスターズF」では「ヒラヒラの衣装を着て、街のみんなを守るために敵と戦うのはプリキュアの本質ではない」ということが描かれました。
同様に、この作品も「プリキュアを構成する本質は何か?」という命題を「男の子のみが舞台上で演じる」ことにより、われわれ古いプリキュアファンに突きつけました。
女の子は一人も出てきません。全員が男性の舞台です。しかも基本は高校生がダンスをしています。それでも確かに自分はこの舞台作品に「プリキュア」を感じました。それはなぜだったのでしょうか。
確かに「妖精」「変身シーン」「変身アイテム」「キラキラの衣装」「肉弾戦」「友情」「悪役との問答」「決め技」など、たくさんの「プリキュアっぽい」要素はちりばめられています。それはあくまで構成要素の一つであって「芯」ではないのです。
自分がこの作品に一番「プリキュア」を感じたのは、「大人は新しい夢などを見つけられない」と叫んだ敵の幹部に、「だったら、俺たちのダンスを見てくれよ!」と返したときです。このセリフ、最高に「プリキュア」っぽいです。
理屈じゃないのです。つまらない「大人の理屈」なんて一瞬で忘れさせてくれる、キラキラで真っすぐな思い。無鉄砲でも何でも、ただ目の前の人を助けたい。前を向きつづけること。絶対に諦めないこと。未来を信じること。自分自身で決めること。
鷲尾天さんが20年間言い続けてきた「自分の足で立っていること。凛々しくあること」。
それがクリティカルに描かれていた以上、男の子とか女の子とかは関係なく、この作品は「プリキュア」です。もう、白旗を上げるしかないじゃないですか。
ターゲットが女性である以上、自分のようなおじさんは外野から見ることしかできません。しかしあのとき、あの場所に立っていた男の子たちは確かに「プリキュア」でした。
ラストシーン。会場を埋め尽くしたたくさんの「かつての女児たち」が凛々しく踊る彼らに声援を送ります。色とりどりの推しの色に光らせた星形ペンライトを振りながら大号泣しているお姉さまたちの姿を見て、これは「新しい時代のプリキュア」なのだな、と感じました。
願わくは、新しくできたこの場所が続いてほしい。
男子プリキュアの舞台がこの先も演じられ続け「新しいプリキュア文化」になってくれると、20年来のプリキュアファンとしても、とてもうれしいです。
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(C)Dancing☆StarプリキュアThe Stage製作委員会
著者:kasumi プロフィール
プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。
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