2016年04月02日
松坂は「給料泥棒」の汚名を返上できるのか “日本的補強”に警鐘
背水のシーズンを迎えようとしている2人の大物プロ野球選手がいる。福岡ソフトバンクホークスの松坂大輔投手とオリックス・バファローズの中島裕之内野手だ。かつて日本の西武ライオンズでスターの座に君臨していた両者は米球界挑戦を経て昨オフ、それぞれ現在所属の球団から3年12億円(推定)の巨額契約を提示されて入団。しかしながら復帰1年目は、その期待に応えることはできなかった。つい1年前までヒーローとして歓迎されていた2人は一転して今、厳しい立場からのリスタートを強いられている。
【松坂の大リーグ時代の成績】
しかし日本の各メディアは欧米に比べ、なぜか優しい。崖っぷちであるはずの2人に対し、まだ温かい眼差しを向けている。特に松坂に対しては2月1日から始まった宮崎春季キャンプで順調な調整を続けていることに美辞麗句を並べて賞賛の嵐を送っている。ブルペン入りし、投球練習を行っただけで「開幕ローテ入りへ大きく前進」と論じているメディアもあった。だが、ここまで持ち上げるのはちょっといかがなものかと思ってしまう。どうしても違和感を覚えざるを得ない。
2015年8月に「関節唇および腱板のクリーニング術」などでメスを入れた右肩は確かに状態がいいようだ。先日はフリー打撃で“対戦”したチームメートでトリプルスリー男の柳田悠岐外野手から「スゴいです。とにかくスゴい」と絶賛された。松坂自身も現在の右肩について「米国に行った年くらい(の状態)です」と2007年からボストン・レッドソックスでプレーし、15勝をマークしたメジャーのルーキーイヤーと同等のコンディションであることを何度となく強調している。ただしそうは言っても、まだ開幕前の段階だ。
●米球界から「?」の声
いくら、この先もブルペンやフリー打撃などの練習においていい内容であったとしても、あるいはオープン戦などの実戦登板で好投しようとも、過剰なヨイショは禁物だろう。忘れてはいけないのが松坂は昨季1度も一軍のマウンドに立てていないということだ。
1年ごとに換算すれば、松坂の年俸は出来高を除いた基本給だけでも4億円。昨季は1勝もできないどころかゼロ登板でまったく仕事ができなかったものの、この巨額をごっそり手にできたことになる。そんな松坂のあまりにも恵まれた待遇に対し、実は米球界から「?」の声が出ている。
その声の主は、かつての“上司”。現在はシカゴ・カブスで球団副社長を務めるセオ・エプスタイン氏だ。2006年オフに松坂が西武ライオンズからポスティングシステム(入札制度)を使ってメジャー移籍を果たす際、当時ボストン・レッドソックスのGMだった同氏は約5000万ドルの入札金によって交渉権を獲得し、6年5200万ドルの巨額契約を結んで当人の入団にこぎつけた人物である。
「ダイスケについては今も応援している。しかし(ソフトバンク)ホークスが結んだ契約はここまでの流れを見る限り、彼のプラス材料になっていない。メジャーリーグで一定の成績が出せなくなった日本人選手をUターンさせるため大盤振る舞いを持ちかけ、獲得に動こうとすることは日本のプロ野球球団によくありがちな傾向だ。成績が下がっているにもかかわらずビッグオファーを出せば、その選手に甘えが生じる危険性がある。こうした流れに、ここまでのダイスケとホークスが残念ながら当てはまってしまっているように見受けられる」
これはエプスタイン氏が今年1月21日(現地時間)にカブスの地元シカゴのテレビ局「WGN・TV」の番組でインタビューに答え、かつてのレッドソックスGM時代に松坂獲得に尽力したことを語っていた際に口にしたコメントである。
●“日本的補強”に警鐘を鳴らす
レッドソックスが大枚をはたいて獲得した2007年オフ当時の松坂は西武のエースとして飛ぶ鳥を落とす勢いで、日本球界ナンバーワン投手の評価を欲しいままにしていた。結果的に松坂はメジャーで2008年の1年目は15勝、翌2009年に日本人シーズン最多となる18勝を挙げたが、その後は成績が急降下。
以降は2010年の9勝が最高でレッドソックスでの残り4シーズン、2013年からプレーしたニューヨーク・メッツでの2シーズンはパッとしない成績だった。2011年にトミー・ジョン手術を受けるなどコンディション的に苦しんだことも、その理由の1つだろう。
エプスタイン氏は、その松坂獲得について「1年目からフル稼働し、チームのワールドシリーズ制覇に貢献してくれた。総じて振り返れば、日本最高の投手であった当時の彼にミリオンダラーを費やす価値はあったと思っている」と自身の巨額投資が間違っていなかったことに今も強い自信を持っている。
しかしながら昨オフ、ニューヨーク・メッツからソフトバンクへ9年ぶりに国内復帰を果たした時の松坂はエプスタイン氏が指摘したようにメジャー各球団の評価が長らく低空飛行を続けていた微妙な時期であった。にもかかわらず、推定で3年12億円もの巨額オファーをソフトバンク側が持ちかけたことは「名を捨てて実を取る」ならぬ「実を捨てて名を取る」ことにつながり、松坂の気の緩みを生む結果につながってしまっているのではないか――。
エプスタイン氏は編成に携わる者として、そのように分析し“日本的補強”に警鐘を鳴らしているのである。
●“日本的補強”のツケ
これと同じことが松坂だけでなく、オリックスの中島にも言える。西武からFAでポスティングシステムを使い、2012年オフにオークランド・アスレチックスへ2年総額650万ドルで移籍。ところが、2年契約を結びながら米国では一度もメジャーのグラウンドに立つことができなかった。1年目の2013年はキャンプ中に右太ももを痛め3Aに甘んずると、2年目の翌2014年はその下の2Aへ降格を言い渡された。
マイナーの2年間でも打率2割6分7厘、10本塁打、69打点。平均以下の成績であってもオリックスから出来高込みで米球界時代を上回る3年総額12億円もの巨額オファーを受け、中島は昨年から日本球界復帰の道を選んだ。
しかし開幕4番に抜擢(ばってき)されるなど期待が大きかったはずの2015年は散々だった。シーズン開幕から1か月も経たない4月19日の西武戦で走塁中に肉離れを起こし、さらに復帰後の5月末に今度は何と昼食中にギックリ腰を発症するなど自滅のオンパレード。117試合の出場で打率2割4分、10本塁打、46打点では、中島獲得が費用対効果に見合った補強だったとはお世辞にも言えない。
エプスタイン氏の言葉を借りれば、これもオリックスが選んだ“日本的補強”のツケだったと言えるだろう。
どん底に落とされた中島、そして松坂が評価を覆すには、やはり今季活躍するしかない。ただし、昨年働かなかった分を補てんできるような貢献も彼らには求められる。今季が終わってみれば「そこそこ頑張りました」では誰も納得しまい。
●両者の現状は厳しい
今季の中島は正遊撃手の安達了一内野手が潰瘍性大腸炎で開幕一軍が微妙のため、代役として同ポジションに起用されるプランも浮上している。だが、あくまでもサブメンバーとしての穴埋め要員だ。
一方の松坂もいくら現段階で好調とメディアから持ち上げられているとはいえ、武田翔太、リック・バンデンハーク、攝津正、中田賢一、メジャー帰りの和田毅の5人が濃厚と言われるローテ候補の中に割って入ることは至難の業。誰かがケガ人となって代役としてチョイスされない限り、かなり厳しいと言わざるを得ない。
このように両者の現状は冷静に見ても厳しいが、仮に2人が奇跡のカムバックを果たせば前出のエプスタイン氏らメジャーの有識者たちが懐疑的な目を向ける“日本的補強”に対する見方が変わるのも事実。そして「巨額契約の誘惑に負け、甘い汁を吸った」と言われている汚名を返上できるチャンスにもつながる。
昨季に関しては“給料泥棒”となったはずの松坂と中島を本番前から「ワッショイ、ワッショイ」と担ぎ上げるのは甚(はなは)だ疑問だが、心の中のどこかで2人にはまた不死鳥のように這(は)い上がって欲しいと願う自分もいる。
さてビジネスパーソンの方々は、窮地の元スター2人にどんな思いを抱いているだろうか。
(臼北信行)
- 何が起きていたのか? 清原和博容疑者が古巣・巨人を「震撼」させていた
- テレビや新聞には、なぜ「文春砲」のようなスクープがないのか
- 清原和博が「スーパースター」から「容疑者」となった日
- NHKが、火災ホテルを「ラブホテル」と報じない理由
引用:松坂は「給料泥棒」の汚名を返上できるのか “日本的補強”に警鐘
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