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2016年03月11日

【社会】<大震災5年 茨城に残る影響>(2)子ども健康調査 甲状腺検査に鈍い行政

長男の初めての甲状腺検査で、医師の診断は「二年おきに経過をみれば大丈夫でしょう」だった。牛久市内で今年二月、民間団体が主催した子どもの甲状腺エコー検査。土浦市内の女性(43)は、胸のつかえが取れた思いだった。

 東京電力福島第一原発事故と因果関係は不明だが、福島県内で甲状腺がんの子どもが、推計より多く見つかったことをニュースで知った。甲状腺の末期がんになった茨城県内の子どもの話も、人づてに聞いた。「急に現実味のある話に思えた。うちは大丈夫と思ってはいけないのか、茨城も危ないのか、と不安になった」と振り返る。

 一年ほど前から、検査できる場所を必死でネットで探したが、なかなか見つからなかったという。「(局所的に放射線量が高くなる)ホットスポットがある地域には、人間ドックのように、子どもの甲状腺検査をできる場所があった方がいい」

 牛久市内で検査を主催したのは、守谷市の常総生活協同組合に事務局を置く「関東子ども健康調査支援基金」。ボランティアの医師らや各地の市民団体の協力で、二〇一三年秋から茨城、千葉など関東五県の約五十カ所で、六十回の集団検査を開催。これまで延べ約四千八百人の子どもを検査してきた。

 福島第一原発事故では、甲状腺がんの原因になる放射性ヨウ素が、首都圏などにも飛散。茨城県内では、南部などで高い放射線量が測定された。国連科学委員会の報告では「甲状腺がんが多数発生すると考える必要はない」などとする一方で、高い線量の被ばくをした子どもが甲状腺がんになる確率については、データが不十分で、はっきり結論を出さなかった。

 しかし、国の補助で行う健康調査は、福島県内に限定。茨城県は「必要ない」として甲状腺検査をしていない。県内では独自に検査をしたり、費用を助成する自治体もあり、対応にばらつきが出ている。

 このため、常総生協や市民有志らが「市民レベルでできることを」とカンパなどを集め、基金を立ち上げた。共同代表の谷田部裕子さん(58)は「はっきり分からない状況なら、学者や政治家の結論を待たず、まず子どもの現実を見た方がいい。検査して、何もなければ、それでいい。大人の健康診断と同じ」と話す。

 行政の動きが鈍い一方、基金の検査は毎回、定員いっぱいになる。初めて子どもの検査を受け、問題なしと診断され、安心して涙ぐんだ母親もいた。親に言われたわけでもなく、一人で検査に訪れた女子高校生もいるという。

 被ばくによる健康影響はいつ出るか分からず、エコー検査などは継続的に行う必要がある。基金は「とりあえず十年は続ける」とするが、医師や検査技師、資金は不足気味。検査できる子どもの数に限界があるのが、最大の悩みだ。

 谷田部さんは「基金の活動だけでは、親の判断で検査を受ける子と受けられない子に分けられる。子どもたちが平等に検査を受けるため、本当は行政に動いてほしい」と願っている。

◆来月17日 日立で実施

 関東子ども健康調査支援基金は四月十七日、甲状腺エコー検査を日立市会瀬町の福祉プラザで実施する。五歳以上が対象で、原発事故当時に十八歳以下だった人を優先する。ホームページなどを通じた事前申込制で、先着百人まで。費用はカンパとして一人につき千五百円。問い合わせは、事務局の常総生協(※元記事に電話番号記載)


・子どもの甲状腺エコー検査をする医師ら=今年2月、牛久市で(「関東子ども健康調査支援基金」提供)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/list/201603/images/PK2016030802100073_size0.jpg
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