2018年07月12日
【サッカー】W杯フランス代表キリアン・ムバッペを「エムバペ」と表記してはいけない理由
W杯フランス代表の弱冠19歳、キリアン・ムバッペ。現在、日本ではカナ表記で「エムバペ」とするメディアが優勢。だけど実はこれはには問題がある様子。理由は以下。
Mbappe はアフリカ系(母方のアルジェリアもしくは父の母国カメルーン)の姓。よって表記は本来の音を、おそらくフランス領だった時代にフランス語のアルファベットで表現したもの。だとすると、仏語表記から探った読み方よりも、本人や家族が発音にしているように「ム」から始まるのがもっとも正解に近い。しかもアフリカ系フランス人たちがSNSで指摘しているところによると、「M」と「b」を決して分けて発音してはいけないらしい。
ではなぜ余計な「エ」が付いてしまったのか。 仏語には「M」とその直後の「b」とで始まる単語はまったくと言っていいほど存在しない。読みづらい、発音できないし、なんだか気持ち悪い。
だったら「M」を「エム」って読んじゃおうぜ! だってほら、本人が自己紹介するときもキリアンの「ン」とムバペの「ム」の間に何か母音入ってるじゃん! 絶対「エ」だよ! フランス語だと「エ」がないと成りたないよ。もう「エ」ってことにしちゃえばいいよ! という人も出てきた。
これはよくあることで、たとえばアラビア語圏であるアルジェリアのMzab(ムザブ)人のことを、「Mzabite」と表記していたのに、「M」と「z」の間に母音が入っていないのは仏語として成立しないため、いつの間にか読みやすいように「o」を入れて「Mozabite」と表記するようになってしまったり……。言ってみれば日本語で「Venezia映画祭」が発音しづらいのでいつのまにかまったく違う音の「ベネチア映画祭」表記がマジョリティになってしまったのと似ている。
「エ」付きは見逃したとしてもまだしかし、「エムバペ」表記には問題がある。なぜなら「m」はあくまで「ン」だから。英語でも唇を閉じる「b」「p」など破裂音や「m」など唇を閉じる直前の「n」は特殊な場合を除き自動的に「m」の口になるので、「ム」の音になるが、あくまで子音のみ。ところが、これを「ム」と表記してしまうとどうなるか? 日本語の「ム」を正しく読まなければいけないアナウンサーたちはどうしても「m」の音に母音を付けざるをえない。仏語で表記すると「me」もしくは「mou」に近い音になってしまう。
ただでさえ元々の発音に「エ」が添加されているのに、「エムバペ」をアナウンサーたちが必死で滑舌よく読めば読むほど、本来のMbappe から遠ざかり、Emoubappeと書かれたものを発音しているかのように聞こえてしまう。それが今の時代SNSに載って世界中に発信されてしまうのだ。もし怠惰なフランス人が読んでいるように、頭に「エ」の付いた発音を表記するなら「エンバペ」と表記した方が正しい。同様に「ムバペ」もMoubappeに聞こえるので、「ンバペ」のほうがいいが、本人の発音を基準にすればこちらのほうがまだマシ。
ちなみに小さい「ッ」が入るのか問題も勃発しているようだけれど、これも音のリズムからして入っても間違いではない。子音が重なる「ff」「pp」などは平時では「ッ」の音は入らないけれど、勢いが付いたとき、特に中継など早口で繰り返すときは入てしまうものだから。そしてなによりも、「ムバペ」とすると「ム」が強調されてしまうところ、「ムバッペ」では「バ」がより強く発音されることで、「ム」に付属する母音が弱まるという効果がある。
いずれにせよ言語は想定外の名前に弱いので、表記が多少ぶれるのは仕方がないけれど、今は多様性の時代。さまざまな国からきた人たちがもつ、名前も含めた文化のルーツを尊重することが重要になってきている。その証拠に入団会見時のサンジェルマン側による紹介時も、フランスの公共放送F2でも民間放送TF1でも「エ」を発音せず、本人による読み方を採用している。間違ってもアフリカ系フランス人の名前の発音を参照するのに、英語圏の人がドヤ顔でYouTubeにあげた「Mbappeの発音の仕方」なんて動画にひっかかるのは避けたいもの。言語覇権とはその人の、その国の文化リソースを破壊するものだから。
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Mbappe はアフリカ系(母方のアルジェリアもしくは父の母国カメルーン)の姓。よって表記は本来の音を、おそらくフランス領だった時代にフランス語のアルファベットで表現したもの。だとすると、仏語表記から探った読み方よりも、本人や家族が発音にしているように「ム」から始まるのがもっとも正解に近い。しかもアフリカ系フランス人たちがSNSで指摘しているところによると、「M」と「b」を決して分けて発音してはいけないらしい。
ではなぜ余計な「エ」が付いてしまったのか。 仏語には「M」とその直後の「b」とで始まる単語はまったくと言っていいほど存在しない。読みづらい、発音できないし、なんだか気持ち悪い。
だったら「M」を「エム」って読んじゃおうぜ! だってほら、本人が自己紹介するときもキリアンの「ン」とムバペの「ム」の間に何か母音入ってるじゃん! 絶対「エ」だよ! フランス語だと「エ」がないと成りたないよ。もう「エ」ってことにしちゃえばいいよ! という人も出てきた。
これはよくあることで、たとえばアラビア語圏であるアルジェリアのMzab(ムザブ)人のことを、「Mzabite」と表記していたのに、「M」と「z」の間に母音が入っていないのは仏語として成立しないため、いつの間にか読みやすいように「o」を入れて「Mozabite」と表記するようになってしまったり……。言ってみれば日本語で「Venezia映画祭」が発音しづらいのでいつのまにかまったく違う音の「ベネチア映画祭」表記がマジョリティになってしまったのと似ている。
「エ」付きは見逃したとしてもまだしかし、「エムバペ」表記には問題がある。なぜなら「m」はあくまで「ン」だから。英語でも唇を閉じる「b」「p」など破裂音や「m」など唇を閉じる直前の「n」は特殊な場合を除き自動的に「m」の口になるので、「ム」の音になるが、あくまで子音のみ。ところが、これを「ム」と表記してしまうとどうなるか? 日本語の「ム」を正しく読まなければいけないアナウンサーたちはどうしても「m」の音に母音を付けざるをえない。仏語で表記すると「me」もしくは「mou」に近い音になってしまう。
ただでさえ元々の発音に「エ」が添加されているのに、「エムバペ」をアナウンサーたちが必死で滑舌よく読めば読むほど、本来のMbappe から遠ざかり、Emoubappeと書かれたものを発音しているかのように聞こえてしまう。それが今の時代SNSに載って世界中に発信されてしまうのだ。もし怠惰なフランス人が読んでいるように、頭に「エ」の付いた発音を表記するなら「エンバペ」と表記した方が正しい。同様に「ムバペ」もMoubappeに聞こえるので、「ンバペ」のほうがいいが、本人の発音を基準にすればこちらのほうがまだマシ。
ちなみに小さい「ッ」が入るのか問題も勃発しているようだけれど、これも音のリズムからして入っても間違いではない。子音が重なる「ff」「pp」などは平時では「ッ」の音は入らないけれど、勢いが付いたとき、特に中継など早口で繰り返すときは入てしまうものだから。そしてなによりも、「ムバペ」とすると「ム」が強調されてしまうところ、「ムバッペ」では「バ」がより強く発音されることで、「ム」に付属する母音が弱まるという効果がある。
オーケンウォーター
いずれにせよ言語は想定外の名前に弱いので、表記が多少ぶれるのは仕方がないけれど、今は多様性の時代。さまざまな国からきた人たちがもつ、名前も含めた文化のルーツを尊重することが重要になってきている。その証拠に入団会見時のサンジェルマン側による紹介時も、フランスの公共放送F2でも民間放送TF1でも「エ」を発音せず、本人による読み方を採用している。間違ってもアフリカ系フランス人の名前の発音を参照するのに、英語圏の人がドヤ顔でYouTubeにあげた「Mbappeの発音の仕方」なんて動画にひっかかるのは避けたいもの。言語覇権とはその人の、その国の文化リソースを破壊するものだから。
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