2008年07月12日
アメリカ型金融の破綻
アメリカ型金融の破綻
田中宇の国際ニュース解説 2008年7月12日
http://tanakanews.com/
からの引用。
(前略)
▼投資銀行は消える?
レバレッジ型金融は、1980年代にアメリカの投資銀行が開発した手法で
ある(それ以前の米投資銀行の主業務は、企業の資金調達相談など経営顧問役
や、株式上場の幹事役だった)。レバレッジ型金融の開始後、投資銀行の資産
は100倍に急拡大した。レバレッジ型金融の破綻によって、投資銀行は大急
ぎの資産圧縮を迫られている。
http://online.wsj.com/article/SB121564797624340969.html
アメリカでは、1929年の金融恐慌以来、国民の預金を保有するので連銀
(FRB)の比較的厳しい監督下に置かれる商業銀行と、預金を持たないので
証券取引委員会(SEC)による比較的ゆるい監督のみを受ける投資銀行(証
券会社)との2業容に分けられている。昨夏の金融危機は、投資銀行がレバレ
ッジ型の金融を野放図に急拡大させすぎたことが原因なので、米政府内では、
金融危機の再発を防ぐため、投資銀行も連銀の厳しい監督下に置く政策転換が
試みられ始めている。
連銀は、今年3月に投資銀行のベアースターンズが破綻しかけたとき、ベア
ーなど投資銀行各社に対し、初めて救済措置(ジャンク債と国債との交換取引)
を行い「連銀は商業銀行・SECは投資銀行」という垣根を80年ぶりに乗り
越えた。この救済措置は最近、来年まで延長されることが決まったが、同時に、
今後は投資銀行の監督をSECではなく連銀が行っていくことを、連銀とSEC
との間で決定し、覚書が取り交わされている。
http://www.ft.com/cms/s/0/e55e15f0-4db1-11dd-820e-000077b07658.html
米の投資銀行は今後、連銀によって、商業銀行並みの厳しい監督を受け、監
督がゆるかったがゆえに可能だった大儲けができなくなる。たとえば投資銀行
は、帳簿外(連結外)にSIVと呼ばれる金融組織を作り、銀行自身の信用力
だけを使って安く資金調達し、サブプライム住宅ローンなど高リスクの投資を
して大儲けしていた。SIVを帳簿外に作ったのは、帳簿上の資産を小さく見
せ、見かけの健全性を高めるためだったが、サブプライムの破綻で、投資銀行
は連鎖破綻を避けるため、SIVの債権債務を帳簿上に載せざるを得なくなり、
一気に不健全さを露呈した。このような手法は、今後の監督強化で難しくなる。
投資銀行は、これまでの大儲けができなくなっている。これまで巨額の報酬
をもらっていた社員の給料は、すでに急減が始まっている。インサイダー取引
に走る社員が増え、これまでヘッドハンターからの電話をとらなかった幹部社
員が、喜んでハンターと昼食に行くようになっている。ニューヨークとロンド
ンの高級マンションの価格は下がっている。
http://www.ft.com/cms/s/0/a0ae96a2-4c56-11dd-96bb-000077b07658.html
最終的には、投資銀行のいくつか(大半?)は、買収されたり潰れたりして
なくなっていくだろう。商業銀行と同じ規制を受けると投資銀行の利点は減る
ため、資本が大きな商業銀行に吸収されて一部門になった方が良いとの見方も
ある。米のポールソン財務長官は最近の講演で「これまで規制がなく、経営破
綻した場合の倒産方法すら確定していなかった投資銀行の破綻方法を確立する
必要がある。投資銀行が破綻しても、金融市場に悪影響が出ないようにする仕
組み作りが必要だ」と述べている。
http://www.marketwatch.com/news/story/big-brokers-threatened-crackdown-shadow/story.aspx?guid=%7bFA23DF5A-918F-41DA-B794-7E553ADAFAA7%7d
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601087&sid=aboaHbnfqqds
▼世界恐慌の後、国際政治の拡大均衡
信用格付けの信頼が失墜し、ジャンク債のリスクを下げていたはずのCDS
がねずみ講とみなされ、レバレッジ型金融の終焉が宣言された。大儲けしてい
たアメリカの投資銀行は、消えていく可能性が増している。
異様に巨額の給料をもらい、豪邸に住んでいた欧米銀行の幹部社員が失業す
るのは、市民感覚で見ると「ざまあみろ」だろう。しかし、喜ぶのは早い。レ
バレッジ型金融の消失は、世界のあらゆる企業の全体にとって、安い資金調達
の手法が失われ、資金調達コストが上がり、減収減益の要因である。世の中の
金回りが悪くなり、失業増や消費市場の不振になる。今後、3−5年ぐらいは、
世界的な不況感が続くだろう。
しかし同時に、国際金融界で激変があるときは、世界的な政治体制の変動も
起きる。政治変動の前兆として金融変動が起こる。1929年の金融恐慌は、
1945年のアメリカ覇権の始まりへの地平を開いたし(日本は敗戦で破綻し
たが)、1980年代の米英金融革命の始まりは、1989年の冷戦終結の準
備だった。
2007年からの米英金融危機は、おそらく国際政治の多極的な新しい大均
衡状態を作る。世界の政治体制は、従来の欧米中心の「小均衡」から、BRIC
など非欧米諸国を加えた「大均衡」に発展する。今回の金融危機は、日本が
対米従属という戦後の拘束から解放される転機にもなる。金融破綻や世界不況
やインフレが何年か続いても、それは「終わりへの道」ではなく「構造転換」
であり、新たなことを始める好機と考えることができる。
田中宇の国際ニュース解説 2008年7月12日
http://tanakanews.com/
からの引用。
(前略)
▼投資銀行は消える?
レバレッジ型金融は、1980年代にアメリカの投資銀行が開発した手法で
ある(それ以前の米投資銀行の主業務は、企業の資金調達相談など経営顧問役
や、株式上場の幹事役だった)。レバレッジ型金融の開始後、投資銀行の資産
は100倍に急拡大した。レバレッジ型金融の破綻によって、投資銀行は大急
ぎの資産圧縮を迫られている。
http://online.wsj.com/article/SB121564797624340969.html
アメリカでは、1929年の金融恐慌以来、国民の預金を保有するので連銀
(FRB)の比較的厳しい監督下に置かれる商業銀行と、預金を持たないので
証券取引委員会(SEC)による比較的ゆるい監督のみを受ける投資銀行(証
券会社)との2業容に分けられている。昨夏の金融危機は、投資銀行がレバレ
ッジ型の金融を野放図に急拡大させすぎたことが原因なので、米政府内では、
金融危機の再発を防ぐため、投資銀行も連銀の厳しい監督下に置く政策転換が
試みられ始めている。
連銀は、今年3月に投資銀行のベアースターンズが破綻しかけたとき、ベア
ーなど投資銀行各社に対し、初めて救済措置(ジャンク債と国債との交換取引)
を行い「連銀は商業銀行・SECは投資銀行」という垣根を80年ぶりに乗り
越えた。この救済措置は最近、来年まで延長されることが決まったが、同時に、
今後は投資銀行の監督をSECではなく連銀が行っていくことを、連銀とSEC
との間で決定し、覚書が取り交わされている。
http://www.ft.com/cms/s/0/e55e15f0-4db1-11dd-820e-000077b07658.html
米の投資銀行は今後、連銀によって、商業銀行並みの厳しい監督を受け、監
督がゆるかったがゆえに可能だった大儲けができなくなる。たとえば投資銀行
は、帳簿外(連結外)にSIVと呼ばれる金融組織を作り、銀行自身の信用力
だけを使って安く資金調達し、サブプライム住宅ローンなど高リスクの投資を
して大儲けしていた。SIVを帳簿外に作ったのは、帳簿上の資産を小さく見
せ、見かけの健全性を高めるためだったが、サブプライムの破綻で、投資銀行
は連鎖破綻を避けるため、SIVの債権債務を帳簿上に載せざるを得なくなり、
一気に不健全さを露呈した。このような手法は、今後の監督強化で難しくなる。
投資銀行は、これまでの大儲けができなくなっている。これまで巨額の報酬
をもらっていた社員の給料は、すでに急減が始まっている。インサイダー取引
に走る社員が増え、これまでヘッドハンターからの電話をとらなかった幹部社
員が、喜んでハンターと昼食に行くようになっている。ニューヨークとロンド
ンの高級マンションの価格は下がっている。
http://www.ft.com/cms/s/0/a0ae96a2-4c56-11dd-96bb-000077b07658.html
最終的には、投資銀行のいくつか(大半?)は、買収されたり潰れたりして
なくなっていくだろう。商業銀行と同じ規制を受けると投資銀行の利点は減る
ため、資本が大きな商業銀行に吸収されて一部門になった方が良いとの見方も
ある。米のポールソン財務長官は最近の講演で「これまで規制がなく、経営破
綻した場合の倒産方法すら確定していなかった投資銀行の破綻方法を確立する
必要がある。投資銀行が破綻しても、金融市場に悪影響が出ないようにする仕
組み作りが必要だ」と述べている。
http://www.marketwatch.com/news/story/big-brokers-threatened-crackdown-shadow/story.aspx?guid=%7bFA23DF5A-918F-41DA-B794-7E553ADAFAA7%7d
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601087&sid=aboaHbnfqqds
▼世界恐慌の後、国際政治の拡大均衡
信用格付けの信頼が失墜し、ジャンク債のリスクを下げていたはずのCDS
がねずみ講とみなされ、レバレッジ型金融の終焉が宣言された。大儲けしてい
たアメリカの投資銀行は、消えていく可能性が増している。
異様に巨額の給料をもらい、豪邸に住んでいた欧米銀行の幹部社員が失業す
るのは、市民感覚で見ると「ざまあみろ」だろう。しかし、喜ぶのは早い。レ
バレッジ型金融の消失は、世界のあらゆる企業の全体にとって、安い資金調達
の手法が失われ、資金調達コストが上がり、減収減益の要因である。世の中の
金回りが悪くなり、失業増や消費市場の不振になる。今後、3−5年ぐらいは、
世界的な不況感が続くだろう。
しかし同時に、国際金融界で激変があるときは、世界的な政治体制の変動も
起きる。政治変動の前兆として金融変動が起こる。1929年の金融恐慌は、
1945年のアメリカ覇権の始まりへの地平を開いたし(日本は敗戦で破綻し
たが)、1980年代の米英金融革命の始まりは、1989年の冷戦終結の準
備だった。
2007年からの米英金融危機は、おそらく国際政治の多極的な新しい大均
衡状態を作る。世界の政治体制は、従来の欧米中心の「小均衡」から、BRIC
など非欧米諸国を加えた「大均衡」に発展する。今回の金融危機は、日本が
対米従属という戦後の拘束から解放される転機にもなる。金融破綻や世界不況
やインフレが何年か続いても、それは「終わりへの道」ではなく「構造転換」
であり、新たなことを始める好機と考えることができる。