2歳のとき、赤い魚の目玉が好物だった。
目玉の中に固い透明なものがあって、それをコリコリして食べるのが好きだった。
私のぶんを食べてしまうと、家族の魚の目玉をねだったものだ。
考えてみれば私が甲殻類を好きになった原点だったかもしれない。
小学2,3年の頃、母に頼まれてよく魚を買いに行った。
その頃、私の近所には魚屋と酒屋しかなかった。
「サバ、一本ください。煮て食べるの」
魚をどうやって食べるか、母から言いつけられていた。
そうすると、魚屋さんは煮込み用に魚をさばいてくれた。
初めて冷凍海老フライを食べたときはショックだった。
海老らしいものがなく、加工したすり身のようなものが入っていた。
どこに海老が入っているのか、母に訊いたことがある。
そんなものよと母は平然と答えた。
梅干の種に何が入っているのか気になった。
「何が入っているの?食べられる?」
「食べちゃだめよ。おなか壊すから。天神様が入っているし」
「えーっ!てんじんさまってなに?」
ただ母は笑うだけで教えてくれなかった。
ときどき思い出しては天神様ってなんだろうと考える。
そして、とうとう好奇心に負けて、梅干の種を割った。
中には小さな身のようなものがあった。
これが天神様なんだろうと思った。
結婚して実家を離れてから魚を食べることが少なくなった。
スーパーで鰹の切り身を買って食べても味が違う。
生臭いのだ。
実家の魚屋さんのように新鮮じゃないのかもしれない。
それから私はますます甲殻類が好きになった。
固い殻の中から、いつか本物の天神様が現れるんじゃないかと思っている。