どんよりとした曇り空だった。
家でごろごろしていたくせに、午後からたまらなくなって外に出た。
から松の葉を抜けて、アスファルトの道に出たとき、雨が馬鹿みたいに降りだした。
折りたたみ傘を手に持ち、電車に乗った。
電器街をぶらぶらしていたら、夕暮れはすぐにやってきた。
飲食店の並ぶ繁華街を歩く。
ごみの溜まったところから、ばたばたと黒いカラスが羽ばたいて近くの電線にとまる。
そして、くわくわと鳴く。
日夜、天候に関係なくカラスはどこからか姿を現す。
人と共栄共存か。
まったく夜鳴くカラスは不吉だな。
ネオンが夜にそびえて寂しい舗道。
ころころ転がるヘッドライン。
僕の立っている路が怪しく揺らいで夜に溶ける。
クリスマスツリーが眩しくて、一瞬目を閉じる。
そして、再び目を開けて歩き出す。
見知らぬ女性がひとり、ガードレールの隅にしゃがんでいた。
歩き疲れたのかな。
女性が前髪をあげたとき、僕はハッとした。
女性の頬がきらりと光った。
泣いているんだ。
女性はハンカチで拭こうともしない。
僕が声をかけたところで何も言わないに決まっている。
きっと、ひとりで感傷に耽りたいんだ。
僕は少し距離をおいて、クリスマスツリーを見るふりをしながら女性を見守っていた。
夜の風は冷たい。
あごが落ちそうだ。
僕は煙草に火をつけて、いかにも誰かを待っているふりをした。
いや、もう、ふりをやめて、女性に声をかけようと思った。
そのとき、ガードレールの横に赤い車がとまった。
ドアから茶髪の男が出てきた。
泣いていた女性の顔が輝いて、嬉しそうに笑った。
車は女性を乗せて走り去った。
僕の前には虹色のクリスマスツリーだけが残った。
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