寒い。
体をコタツに沈めて本をひろげる。
数分も経つと指や腕がしびれる。
小暮写真館の本ときたら、鉄アレーみたいに重い。
寝転んだ姿勢で読むのは無理かも。
大量のアドレナリンが分泌される前に本を机に置く。
さて、夕飯を作りますか。
今日は妻が遅番なので、鍋焼きうどんを作っておくと約束した。
台所に立ち、鍋に水を入れる。
鍋が沸く前に、焼きうどんに入れる野菜を切る。
ネギ、シイタケ、カブ、ほうれん草。
鍋から白い湯気が立ちのぼる。
その中に醤油、みりん、酒を加える。
台所の窓が結露して、つぶつぶの水滴が流れる。
ときどき窓から冷気が入り込む。
うどんを鍋に入れて菜箸でほぐしていると、コンコンと音がした。
ん、もうそんな時間かな。
しばらくして「こんにちは」という女性の声がした。
僕は鍋の火をとめて玄関のドアをあけた。
笑顔の美しい女性がいた。
「こんばんは!あの、あなたは神を信じますか?」
夕暮れの風にのってメロディがきこえてくる。
「え、かみ?あの、失礼ですけど…」
「神は、すべての人が救われて、真理を知るようになるのを望んでおられます」
「ええと、どなたでしょうか?」
「神の前には、すべてが裸であり、すべてさらけ出されています」
まるで要領を得ない。
「どういった用件ですか?」
ふっくらした唇の片方を少し上げて、「まだ分からないの」という表情をしたが、すぐに相好を崩した。
「いつも変わらずあなたを見守っているんです」
一瞬、沈黙がつづき「興味ありません」と僕は答える。
「では、このパンフレットをお読みください」
セクシーな女性は丁寧にお辞儀をして、ゆっくり去っていった。
ドアを閉めて台所に戻る。
気のせいか、鍋の汁が少なくなったみたいだ。
再びコンロに火をつける。
野菜を加え、そして卵を入れて蓋をする。
鍋はぐつぐつ音をたてる。
「さむー」
「おかえり」
「わ、いい匂い」
参考:高山なおみ「今日のおかず」
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