冬の晴れた休日。
手をつなぎながら、僕たちは駅前の舗道を歩いた。
交差点に出ると、おどろくほどの強風が吹きつける。
僕は目に埃が入らないよう注意して歩く。
妻は首をひねって僕の顔をのぞき込む。
「あ、キム兄になってる」
そう言って、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
自分だって、サヤエンドウのような目になってるじゃないかと僕は思った。
新しくできた歩道を歩いて、電車の高架をくぐると、いつのまにか大型スーパーの前にいた。
スーパーで弁当を買って、店舗の中をぶらぶらとした。
そのとき100円レンタルののぼりが見えた。
ラッキー!と僕は思わず叫ぶ。
ツタヤが100円レンタルをしていた。
僕はCSIニューヨークを手にし、妻は奇跡のシンフォニーを持っていた。
帰宅して、DVD祭りを楽しむ。
奇跡のシンフォニー。
奇跡という言葉がなんだか宗教的で嫌だな、と僕は思う。
「ね、これはどんな映画?」と妻に訊く。
ポップコーンの袋に手を入れたまま、「少年が、両親をさがすの」と妻は言った。
へえ、両親を探すのかぁ。
で、それのどこが奇跡なんだろう。
僕が納得していないことを悟ったのか、「あのね、音楽でさがすんだよー」と妻はいたずらっぽく笑って、ドライブにDVDを入れた。
ふうん、ますます僕は分からなくなった。
ああ、なんかこの映画、まずいな。名前も顔も分からない両親を探し続ける、一途な想いの少年が描かれているんだ。
僕は人前で泣かないことを身上にしているのに。
まだ僕は妻に涙をみせたことがない。
とてもまずい。こういう映画に弱いんだ。
養護施設を飛び出し、ストリートミュージシャンになる少年。
少年のギターに引き寄せられるように現れる父。
父子、お互いに知らない2人が出会ってギターを弾く場面。
なんだか鼻の奥がつんとして、「あ、やべ」不覚にも涙が。
ちらっと妻を見たら、不自然なくらい顔が赤くなってる。
僕はそっと立ってトイレに逃げ込んだ。
ああ、場面を思い出しては感動の涙が。
トイレットペーパーで涙を拭いてトイレを出る。
「おそかったじゃない、ビデオ止めといたよ」と妻は言った。
「ああ、ありがとう」
僕は顔を見られないよう、そっけなく答えた。
クリスマスの夜。
カップルでみても、家族でみても、勿論、1人でみても
楽しめる感動の映画。
奇跡のシンフォニー。