2021年11月22日
「日本は貧乏が似合って居る」 立川談志
「日本は貧乏が似合って居る」
立川談志が生前にコノ言葉を繰り返して居た真意
11/21(日) 12:16配信 11-22-20
談志と筆者 筆者の真打昇進披露パーティーにて 撮影 ムトー清次 11-22-21
立川流真打・落語家 立川 談慶
■談志の言葉の数々は 予言だったのではないか?
今年の11月21日で、我が師匠談志がこの世を去って丸10年です。思えば、今から10年前の2011年は、談志・ビンラディン・カダフィ大佐・金正日と、独裁者4人が消えた年でありました(笑)
ま、冗談は兎も角、私ことコノ度不肖の弟子として、没後10年の晩秋に合わせて『不器用なママ、踊り切れ。超訳 立川談志』(サンマーク出版) 『天才論 立川談志の凄み』(PHP新書)を出版させて頂きました。前者は「過去の談志の発言集をデータベースに、もし談志が今も健在だったら、コンな事を言って居た筈だ」と云う観点から談志の言葉を思い切り「超訳」してみました。
後者は「前座修業クリアに他団体の3倍近く要しながらも、その後回復運転し、トータル14年で真打ちに昇進した自分のドキュメンタリーから浮かび上がって来た談志の天才性に付いての論考」です。
2冊に共通するのは「談志の言葉の数々は予言だったのでは無いか」と云う観点です。日本は、先進国で唯一給料の上がって居ない国に為りました。平均賃金では韓国に既に抜かれて居ます。
平成元年は世界4位だった国民1人当たりGDPは18年には26位迄転落し、アジアでも香港やシンガポールに大きく引き離されても居ます。
「日本は貧乏が似合って居る」
生前談志がサイン色紙に頻繁に記して居た言葉ですが、正に似合うと云う形に収まったと云う感じがします。
■「栄華を極めて国は滅びる」
此処で談志の少年期を想像して観ましょう。育ち盛りのアノ忌まわしい戦争体験が後の談志の人生にも多大なる影響を及ぼす事にも為りました。今年で入門が丁度30年に為る私ですが、今振り返ると未だバブルの余波と云うか、景気の良さが残って居る入門当初の時期に「日本は貧乏が似合って居る」「アノ頃は国中が貧乏だった」と頻繁に呟いて居たものです。
「日本は貧乏が似合って居る」ナンて、一見「皆で貧乏に為って廃れてしまえば好い」等と云う過激で厭世的な主張なのかと誤読され勝ちですが、決してそうではありません。これも好く言って居た「貧乏で国は滅び無い。栄華を極めて国は滅びるんだ。ローマ帝国を見よ」と云うセリフを補助線に「超訳」すると、好景気で浮足立って居る人達に対する冷ややかな目線が光って来る感じがします。
「バブルが残したものは何か?金持ちに為って何をした?海外へ女遊びに行った位だろ」
とも落語会のマクラでも揶揄(やゆ)して居ました。「俺達は戦後の焼け野原からアソコ迄立ち直ったんだ」とキラキラした眼差しで、悲惨な環境から復興して行くこの国の底力を見届けた談志からして観れば、裕福な場所からでは無く「貧乏と云うマイナスなスタート地点から出発すべきだ」と云う現代人への叱咤(しった)激励にも聞こえて来ませんでしょうか。
「俺がお前にして遣れる親切は情けを掛け無い事だ。欲しけりゃ取りに来い」
と云う言葉も前座の後半期に好く云われたものでした。
■「自作の持ち帰り容器を持ち歩く」談志ドケチ伝説
そして、戦後の貧しい時代に生まれた談志は非常にケチでした。前座の入門当初、談志が舐め掛けて居たのど飴を、もう舐め終えたものだと思って捨ててしまった事で怒鳴られた事が在りました。
「バカ野郎、何て事するんだ。未だ舐められたのに!」
と、のど飴を喉から手が出る程に惜しんで居たものです。私の真打ち昇進パーティーの会場で出されて居たピラフは「談志パック(談志の絵と「食べ物は大切に」等と書かれたオリジナル容器)」に入れて持ち返り、炒め直しては食べ続けて居ましたッけ。
滞在先のホテルに置かれて居た小さな石鹸を「ミカンを入れるオレンジ色の網」に詰めて大事に使って居たものです。正に「ネット(網)」を当時から駆使して居たのです(笑) もう此処迄来ると、ケチと云うマイナス評価を通り越して、談志のキャラに迄昇華しても居ました。
■不快感を自分の力で解決するのが「文化」
「しわい屋」と云うケチを自慢する落語があります。あるケチな男が「1本の扇子を10年持たせる方法が在る」と言って「半分だけ広げて5年仰ぎ、次の5年でそれを畳んで残りの半分を広げて使う」と主張します。言われたケチな男も負けては居ません「俺はソンな事しない。扇子はそのママ動かさ無い状態で顔を方を動かす」
談志は「此奴は見事だ。不快感を自分の力で解決して居る。文化そのものだ」と絶賛して居ました。談志は、文明と文化を次の様に定義し、生涯を通してアンチ文明の立場でした。
「不快感の解消を自分の手で遣るのが文化で、お金で他人や機械に遣って貰うのが文明だ」と。 詰まり、江戸時代とはソモソモ文明が未発達で、文化に頼らざるを得無かった時代でも在ったのです。
そんな環境だからコソ、落語の様な大衆娯楽が生まれたのだと考えて居ました。だから、貧乏に戻る事は、現代人が文化を取り戻す良い切っ掛けに為ると云える訳です。
勿論談志とて現代人です。多少の文明の恩恵は享受しつつも「何とかして文明の思い上がりを食い止めよう」と文化人としての気概を、落語を通じて訴え続けて居た様な感じでした。
芸人故の茶目っ気が溢れて居ましたから、徹底して文明批判を貫く様な活動家的なポジションでは決して在りませんでした。
■文明社会の成れの果て
処で、このママ文明がアクセル状態を続けて行けば如何為るのでしょう? 今や地球環境が悲鳴を上げて居ます。 富と成功の象徴としての億万長者が利用するプライベートジェットのCO2 排出量は、長距離バスの10倍、高速列車の150倍と迄言われて居ます。
そう考えて見詰めてみると「SDGs」が叫ばれる遥か以前から談志はこの現況を笑いと共に訴え続けて居たのかも知れません。マルクスが再評価されピケティが注目され、斉藤幸平さんの『人新世の資本論』がベストセラーに為ったりと、コウ云う時代を談志は想像して居たのかも知れません。天才にはキット見えて居た筈です。
■フェミニストだった談志
「男が勝手に作ってダメにした社会を、直して行くのは女だろう」
これも談志を代表する名言の一つでした。談志は可成りのフェミニストでした。20年以上前ですが、当時前座の分際で結婚した私でした。前座と云うのは修行期間の身分故、云わば結婚するのはご法度に近い事です。
私はコッソリ結婚して、ほとぼりが冷めたら談志にカミさんを紹介しよう等と姑息(こそく)な事を考えて居たのですが、カミさんはとても気丈でした。
「後で師匠に『ナンでアノ時に言わ無かったんだ!』と言われるのは嫌だから、ドンなに怒られても好いから挨拶に行きたい」
と云う彼女の声に押される格好で根津のマンションへ向かいました。夏場の事でした。談志はランニングと短パンで寛いで居たのですが、カミさんの姿を見掛けると直ぐ奥の部屋に戻り、ポロシャツを上に着て応対して呉れたものです。
無論、結婚に関しては「身分をわきまえろ!馬鹿野郎」と激怒されましたが、 その後も、カミさんのお礼状への返信には、直筆で「何か在ったら力に為ります」と墨痕鮮やかに印して呉れました。
二人のお子さんや御内儀さんからは「パパ」と呼ばれて居ました。家父長制の延長線上に位置すべき徒弟制度を前提とする落語家としてはとても異例の事だった筈です。
「男に出来て女に出来無い事は無い。運転は男の方が旨いナンてウソコケで、女には経験が無いだけだ。大概何処の家も亭主がだらしなくて、カミさんが確りして居るものだ」
とも言って居ました。正に「LGBT」と云う言葉の先駆けの様な思考を持って居たのです。女性蔑視発言等で窮地に追い遣られた森元首相と同世代の人の考え方とはとても思えませんよね。矢張り革新的な思考だったのです。
だからコソ「落語は人間の業の肯定だ」と云う落語への歴史的な定義を施したばかりでは無く、それ迄の落語のスタイルや存在意義迄も変える様な革命を遣って退けたのでしょう。
■地球と女性を大切に
そんなバランス感覚と先見性が在ったからコソ、談志からして観れば、男性が「勝手に作ってダメに為った社会」をキチンと立て直して行くのは女性だろうと云うのは予言では無く「未来への提言」にすら思えて来ます。
以上、まとめて「超訳」すると、もし談志が此処に居たの為らば
「地球環境を大切にしろよ。人間さえいなけりゃこんな好い星は無い。そして、モッともッと女性を大事にしろよ。それから談慶のバカの書いた本、買って遣って呉れよな」
と、優しい言葉を残して呉れて居た筈です。天才の言葉、今コソ噛みしめましょう。 「落日」の後は「朝日」です!
立川 談慶(たてかわ・だんけい) 立川流真打・落語家 1965年 長野県生まれ 慶應義塾大学経済学部卒業 ワコール勤務を経て91年立川談志に入門 2000年二つ目昇進 05年真打昇進 著書に『大事なことはすべて立川談志に教わった』等
〜管理人のひとこと〜
世間を斜めから読み解く・・・噺家とはソンな批判的心情が無いと存在感が問われてしまう・・・と考えてしまうが、逆に噺家迄が政治に口を出す・・・との批判めいた言葉も在りましょう。しかし、公務員でも会社員でも無いフリーの立場で何事かを呟くのは個人の勝手であり自由です。
噺家程自由にものを言える職業も無いのです・・・現在は余り、テレビのニュースショーに出る噺家も少ない様ですから。社会から縛られる事も少ないのです。管理人も談志氏の落語の大ファンです。矢張りある種の天才と云って間違いありません。アノ口調がとても好きですね、優しさが話の中に溢れ出て居ます。
しかし、この時代の落語家生活は大変でしょう・・・政府から補助金は無いのでしょうか、そんな気の利く政府では無い様ですね。何れにしても世知辛い世の中な事は変わりません。
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