2021年09月08日
「日本から一番近い楽園」グアムが崩壊寸前 新型コロナ禍
時事ドットコムニュース 特集
「日本から一番近い楽園」グアムが崩壊寸前 新型コロナ禍
文章 陣内真佐子 文筆家 グアム在住
グアム政府のロックダウン政策で、無人に為ったグアム島の繁華街・タモン地区 2020年4月10日【AFP時事】9-8-1
「本土」から数千キロ離れた「米国の植民地」グアムの悲劇
成田や関西等の日本の主要空港から約3時間半しか掛からず、1年中気候も温暖な事から〔安近短〕の旅行先として人気を誇って来たグアム。〔日本から一番近い楽園〕とも云えるこの地を訪れた事が在る人も多いだろう。そのグアムが今、崩壊の危機に晒されて居る。
世界で猛威を振るって居る新型コロナウイルス感染症。米国の〔準州〕で在るグアムでは、2020年3月14日に知事が〔公衆衛生緊急事態〕を発令、その後、島内で感染者が確認された事を受け、同20日にはショッピングモールや娯楽施設・レストラン等の人が集まる施設を閉鎖すると共に学校も休校とし、住民にも在宅を原則とする〔ステイホーム令〕が発せられる等事実上の〔ロックダウン・都市封鎖〕政策が施行された。
グアム政府が迅速に対応した事で、その後の感染者拡大には歯止めが掛かり、5月から経済活動への規制が段階的に緩和され、6月には日本等からの観光客受け入れを再開する方針も打ち出された。
処が、7月下旬から再び感染者が増加し、8月14日には再度のステイホーム令を含む最高レベルの規制が再開されたものの、その効果は限定的で12月初旬には人口約16万6,000人のグアム島内の累計感染者は約7,000人に達し、感染者の拡大が抑え込めて居ない深刻な状況下に在る。
グアム島北部の米空軍アンダーセン基地に着陸するB1戦略爆撃機 同基地は太平洋戦争中に日本本土爆撃の為に整備されたが現在も米空軍の西太平洋地域の主要拠点として機能して居る 2020年9月10日(米国防総省提供)【時事通信社】9-8-2
グアムは太平洋に浮かぶ孤島で在る為、空港で島外からの入島者検疫をすれば水際で感染が防げそうに思える。実際、7月26日以降、一般入島者は空港でのPCR検査結果が〔陰性〕で在っても14日間、政府指定検疫施設(デュシビーチリゾート又はデュシタニホテルの客室)から一歩の外出さえも許され無い強制完全隔離を強いられて居た。
しかし、島民からグアム政府への不平不満が膨らんだ為、グアム公共衛生保健局が隔離制度の見直しを行い、隔離6日目にPCR検査を受け、7日目に出るその検査結果が〔陰性〕で在れば、残りの7日間を自宅又は自分で手配した別のホテルや友人宅等での隔離に変更出来る様に為った。
但し、検査結果が〔陽性〕の場合、発熱等の症状が認められれば漏れ無く病院に搬送され、無症状為らば別の検疫施設(ベイビューホテルの客室)に14日間強制収容される。
軍関係労働者は検疫も隔離も無し
その一方、米連邦政府からグアム島内の米軍軍事施設の工事の為に送り込まれる労働者に限っては〔必要不可欠な労働力〕として〔H2就労ビザ〕が与えられ、入島時の検疫のみ為らず14日間の強制隔離も免除されて居る。
島民や観光客とは明らかに異なる扱いを受けて居るが、グアム政府はそれに対して反対も抗議も出来無い。何故なら、米連邦法上「グアムはアンインコーポレッド・テリトリー(未編入領土)で在り米連邦政府の所有物で在る」と明記されて居るからだ。〔未編入領土〕と云うと聞こえは好いが、事実上グアムは米国の〔植民地〕で在る。
1950年、グアム島民に米国市民権が付与されて以来70年も連邦政府が定める法的義務を果たし、合衆国憲法を順守しながら生活をして居るにも関わらず、大統領選挙は疎か国政選挙の選挙権も無く、ワシントンDCの連邦議会に地域代表の議員を立てる権利も認められて居ない。
詰まり、米軍基地外に住むグアム島民のコミュニティーは存在して居ないも同然で、グアム政府は連邦政府の決定には口出しが出来無い一方的な支配関係が21世紀の現在も続いて居るのだ。
病院数が少なく医療水準が低い「孤島」故、医療崩壊寸前に
グアムの米海軍基地に停泊する原子力空母セオドア・ルーズベルト 同艦は2020年3月、フィリピン近海で作戦中に乗組員の間で新型コロナウイルスの感染が広がった その後の検査で乗組員約4,800人のうち約850人が陽性と診断され、グアムで大多数を下船させる事に為り、海軍艦艇として活動する事が出来無く為った 2020年5月15日【AFP時事】9-8-3
8月上旬からの第2波を引き起こしたのは、この軍事施設新設並びに拡張工事の為、入島時の検疫も14日間の強制隔離も無しに入島して来るH2ビザ労働者が原因だと目されて居る。その理由は7月時点ではグアム島内での新規市中感染者数はホボゼロの日々が続き、島外からの一般の入島者は前述の様に14日間ホテルの客室からすら出られ無い〔強制隔離〕を強いられて居る。
そう為るとウイルスを再度グアムに持ち込んだのは、数千人ともされるH2ビザ労働者達以外に無いと考えられたからだ。
島内でPCR検査を受け、陽性反応が出た患者達が治療を受けて居る公立病院のグアムメモリアルホスピタル並びに私立病院のグアムリージョナルメディカルシティは、共に集中治療室(ICU)病床が僅かしか無い。
重篤な肺炎に対応出来る体外式膜型人工肺(ECMO・エクモ)も、それを操作出来る医療技術者も居ない為、コロナ患者が重篤症状に陥った場合、その人の命を助ける事が出来無いのだ。尚、島内には海軍病院も存在するが、現役軍人・退役軍人とその家族等限られた軍関係者しか受診出来ない。
グアム公共衛生保健局の担当者は9月11日、米国本土のABCニュースに対し「グアムでは16万6,000人の島民の1.1%(1750件)の感染が確認されて居り、既に島内に在る二つの病院は定員に達して居る。ワシントンDCに救援を求めて居るが、グアムは医療崩壊寸前の状態で在る」と語って居る。
新型コロナウイルスに感染した可能性の在る〔米海軍の関係者〕を収容する施設に為ったグアム島内のホテル 中央の看板には〔軍関係者以外立ち入り禁止〕と掲示されて居る 2020年4月10日【AFP時事】9-8-4
新型コロナ第2波の影響で島民達が休職や解雇を余儀無くされ、日々の暮らしに貧窮して居る中、グアム政府はグアムメモリアルホスピタルの人手不足を補う目的で、145ドル(約1万5,000円)と云う非常識な迄に高い時給で35人の看護師を米国本土から雇い入れた。
「医療」か「経済」か
こうした状況を受け、島民達からは何よりも経済再生を優先して欲しいと云う要望が高まって来て居る。しかし、主要産業で在る観光業が壊滅状態の今、グアムが経済的な活路を見い出す方法は何処に在るのだろう。地元では、2025年頃に為ら無ければ、観光業は再開出来無いと云った悲観説も在るが、それすら定かでは無い。
そして最近では、グアム政府は本気でコロナ禍を収束させる気持ちが無いのでは無いかと云う声迄聞かれる様に為って来て居る。
何故なら島内で新型コロナ関連の死亡者が出た場合、連邦政府からグアム政府に支払われる1人当たり4万ドル(約420万円)の弔慰金の内4分の1の1万ドル(約105万円)は遺族に給付されるものの、残りの3万ドル(約315万円)はグアム政府の収入に為るからだ。
こう言っては身も蓋も無いが、コロナ禍で観光業が大打撃を受け、米軍基地関連工事以外に大きな産業が無く為ったグアム政府に取って、連邦政府からの〔コロナ禍に依る死亡者への弔慰金は大きな財源〕と為って居る事は間違い無い。
実際、12月12日時点でグアム政府は既に351万ドル(約3億7千万円)の弔慰金(死亡者累計117人)を連邦政府から得て居る。しかも、グアム政府管轄の行政機関職員は、病院・保健局・警察・消防・介護福祉等実働して居る人達以外の自宅待機者も含め割増賃金を支給されて居て、これも一般住民達に取っては苛立ちのタネに為って居る。
更に強まる「米軍基地」の比重
グアム島で観光客に人気のタモン湾のビーチ 2017年8月15日【AFP時事】9-8-5
この様にコロナ禍で大打撃を受けて居るグアムは更に連邦政府の〔抑圧〕に逆らえ無い状況に追い込まれつつ在る。2006年、日米両国の政府間で合意された宣野湾市の在沖米軍基地再編に伴う〔グアムビルドアップ計画〕に依り24年迄に沖縄からの移転が決まって居る在沖米軍海兵隊司令部要員8,000人とその家族9,000人の移入に依ってグアム経済は隅々まで潤う様に為るとも言われて居る。
そしてもし、中国との紛争に備え〔弾道ミサイル防衛能力を持つイージス駆逐艦又は巡洋艦防衛システム〕のグアム設置計画の予算支出を連邦議会が承認した場合、今迄以上に多額の軍事補助費が毎年グアム政府に支払われる事に為る筈だ。
その時、沖縄全島の4分の1にも満た無い(沖縄本島の半分以下)約549平方キロのグアム島の総面積の内米軍軍事施設の占める割合は現在の〔33%から60〜70%近い数字〕に為る可能性が在る。
軍関連施設が増える事に依り、島内のライフラインの内特に上下水道への負担が増し、一般住民への水の供給に不安が出る事や、周辺海域の汚染等を心配する声も多い。そして連邦上院下院議会の公聴会等で国防総省の高官達が屡々口にする〔太平洋の要塞(ようさい)米国最大最強の沈まぬ航空母艦(米軍軍事基地)〕にグアムは為ってしまうのではないかと危惧されて居る。
グアム政府観光局の統計によると、2019事業年度(18年10月1日〜19年9月30日)にはグアム島観光歴史上最多と為る163万人の来島者(前年度は152万人)が訪れた。ここ数年韓国マーケットに押され低迷して居た日本マーケットの復活と成長を20年度に期待して居たグアム。この〔日本から一番近い楽園〕に再び観光業が戻る日は何時遣って来るのだろうか。
終息の見え無い〔新型コロナ〕と島内で可成りの比重を占める〔米軍基地〕の拡張。楽園グアムの観光はその両方から挟み撃ちに遭って居る。
陣内真佐子(じんない・まさこ) 文筆家
1996年3月より家族と共にグアムに移住 グアム大学で3年半の学び直し生活を送った後、2000年にグリーンカード(米国永住権)を取得しグアム政府観光局等に勤務 10年に取得したグアム政府公認ガイドの知識を生かし、15年から国内最大手の旅行情報誌のグアム特派員としてブログ活動や各種雑誌やウェブ記事の執筆や翻訳を手掛けている 海外書き人クラブ会員 (2020年12月掲載)
〜管理人のひとこと〜
本文に在る・・・米国の〔準州〕で在るグアム・・・グアムはアンインコーポレッド・テリトリー〔未編入領土〕で在り米連邦政府の所有物で在る〔未編入領土〕と云うと聞こえは好いが、事実上グアムは米国の〔植民地〕で在る・・・初めて聞いた言葉である。準州・属州との文字は知ってるがその中身も違いも知ら無い。
コロナ禍に対処する政府・機関は、余りにも効果がハッキリし無い日々の対策・対処の方法に自信を無くし、日本の首相の様に責任者の地位を捨て様とする人達も出て来た。これは、生死に直結する事で在り国民の批判が凄まじいからだ。
恐らく成功した例は世界でも少なく、一度感染を抑える事に成功しても次に爆発的な感染を迎えてしまう。効果的な方策は未だに見出されて居ない。政治環境・地勢的環境に依って打つ手が区々で効果が定められ無い。責任者を変えて成功すれば好いのだが・・・そうとも限ら無いだろう。
最近は諦めたのか〔抗体保持者が過半数を占めても感染は抑制され無いだろう・・・〕との悲観論も出て来た。以前は〔ワクチン接種で抗体保持者が30%を超えれば自然に収まるだろう〕と云われたものだ。今では感染を撲滅するから〔ウイズコロナ・・・コロナと共に〕へと変化してしまった・・・コロナへの敗北宣言に等しいのだ。
次々と有名人が罹患し死亡する事態が増え、危機が身近に迫って居る。時間はそうは無い、今が瀬戸際なのかも知れ無い。解決するのは政治なのだが、政治的な駆け引きの時間は無い・・・敢えて愚直な方法を固持しそれを続ける者が勝者に為るかも知れ無い。
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