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2021年09月07日

内田 樹・姜尚中 対談・鼎談 コロナ・オリンピック・総選挙・・・日本のこれからを展望する




 内田 樹・姜尚中 対談・鼎談 

 コロナ・オリンピック・総選挙・・・日本のこれからを展望する



              9-7-1.jpg

          9-7-1『新世界秩序と日本の未来 米中の狭間でどう生きるか』
           
     著者 内田 樹 姜尚中  出版社 集英社 ジャンル 社会科学 政治・含む国防・軍事 

        ISBN 9784087211740 発売日 2021/07/16 価格 946円(税込)



          9-7-2.jpg

                    姜尚中 9-7-2


 未曾有のコロナ禍を経た2020年代の世界は何処へ向かうのか。好評既刊『世界「最終」戦争論』『アジア辺境論』に続く七月発売の『新世界秩序と日本の未来』(集英社新書)は、内田樹さん姜尚中さんが歴史的大変革の時代を縦横無尽に論じる刺激的な対談本です。
 幅広い知見から導き出される新たな「世界秩序」の見取り図には、兎角悲観的に為り勝ちな現状を超える確かな希望が込められて居ます。刊行を前に行われた今回の対談では「日本に取ってのカウントダウンが始まって居る」と云う言葉も飛び出しました。過去の歴史から地続きに在る現在、そしてそこから見えて来る未来の景色はどの様なものなのか、お二人に存分に語り合って頂きました。
(2021年5月29日ZOOMにて収録)



          9-7-3.jpg

                   内田 樹 9-7-3


 既視感が在る「破滅への道」

 内田 僕が子供の頃、日曜日の朝に〔時事放談〕と云う番組が在って、細川隆元(たかちか)と小汀利得(おばまとしえ)と云う二人のジジイが怖いもの知らずで暴言を吐き続けて居たのが凄く面白かったんですよね。
僕等も、もう好いジジイなので(笑)今度の対談本では〔時事放談〕に倣(なら)って、僕の荒唐無稽な話を姜さんに存分に受け止めて貰いました。


  内田さんと僕は同い年で古希を迎えて居る訳ですから、確かにジジイの資格十分ですね(笑) コロナ禍で今回の本の対談は全てオンラインと云う形に為りましたが、内田さんとはとても楽しい、且つ実り在る議論が出来たと思います。僕等の〔時事放談〕がミリオンセラーに為る位で無いと、日本はもうダメなんじゃないかな(笑)

 内田 マア、ミリオンセラーは無いと思います(笑)

  冗談はさて置き、今の日本は本当に切迫した状況に為って居ると思います。コロナ禍でのオリンピック開催を巡る政府の対応を見るに着け「此処迄来たか」と一寸驚いてしまいますね。
 2015年に強行採決された安保法制(平和安全法制)では〔国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険が在る事〕が〔武力行使の新三要件〕の一つとされて居ますが、今の日本は正しく〔武力行使事態〕と言える様な危機に陥って居るのではないかと思う程です。


 内田 今回の対談本の中でも話して居る事ですけれども、日本人って、途中で方向転換をして被害を最小限に抑える為に頭を使う事がどうしても出来無いんですよね。ポツダム宣言が出された時も、受諾するしか無いと云う事は判って居るのに〔笑止千万〕〔ポツダム宣言は黙殺〕等と虚勢を張って居た訳でしょう? 結局一ヶ月も経た無い内に〔スミマセンでした〕と謝る事に為りましたが。
 〔破滅に向かうと為ったら、兎に角最後迄突き進む〕と云うパターンは、ミッドウェー海戦の敗戦後やインパール作戦、或いはそれ以前のノモンハン事件の時等、日本では何度も繰り返されて来ました。ドンドン泥沼に嵌って行く様な状況に置かれた時、早く修正する位ならモッと酷い事に為る迄加速させた方が良いと云う・・・非常に嗜虐(しぎやく)的な方向に向かってしまうんです。コロナにしてもオリンピックにしても、もう行く処迄行って、そこで大きく方向転換をすると云う事に付いては、皆が何と無く暗黙の合意に達して居ると云う感じじゃないでしょうか。


  先の戦争では、広島・長崎、そして沖縄の人達が甚大な悲劇を被りましたが、コロナ対策やオリンピックの失敗で今後、誰が犠牲に為るのかと考えると非常に暗澹(あんたん)たる気持ちに為ります。

 内田 オリンピックと云う国際的な大イベントにコロナが絡めば、被害者は日本人だけに留まら無い可能性が大きい訳です。責めて今度位は、どうにも為ら無く為る前にブレーキを踏むと云う事をしないと拙いんじゃないかと思いますね。

 一枚岩では無いアメリカの思惑

  その点、アメリカは流石にクールに見て居るなと思います。5月に国務省が日本への渡航中止勧告を粛々と出したのはその表れでしょう。対中国戦略と云う観点からは日本をアメリカ側に引き留めて置きたいと云う思惑は在るとしても、今度のオリンピックに付いて、アメリカは可成り辛辣(しんらつ)に見て居る感じがしますね。

 内田 アメリカも一枚岩じゃ無いですからね。アメリカの感染症対策を担うCDC(疾病対策センター)はキチンとした科学的組織ですから〔日本への全ての渡航を避けるべきだ〕と強い懸念を示して居ますし(編集部注 その後6月8日に〔渡航を再考せよ〕のレベルに一段階引き下げ)恐らくオリンピックにアメリカのアスリートを送る事には反対の立場だと思います。
 けれども、姜さんが今仰った様にバイデン政権としては色々な政治的思惑が在る。だから、ホワイトハウスは〔菅政権の判断を尊重する〕〔オリンピックの成功を心から祈念する〕と云った公式メッセージを発信し続けるでしょう。
 何故かと云えば、自国の国益よりもアメリカの国益を優先的に配慮する政治家なんて世界中探しても日本位しか居ないので(笑) アメリカは自公連立政権が未来永劫続いて欲しい訳です。見識も哲学も無い現政権は次々と失敗を犯し、コロナ対策でも先進国最低のレベルなのに、アメリカはそれに対して批判がましい事を一切言いません。これは、何とかして日本の面子(メンツ)を立て様として居ると云う事でしょう。


  今回の本の中で、内田さんは〔日本の国力の衰微を代償にした〕と安倍長期政権を評しました。外交に於いても、北方領土問題や悪化の一途を辿った日韓関係等、日本の国益が毀損(きそん)され続けたにも関わらず、安倍政権の支持率は殆ど下がりませんでしたね。悪くても30パーセント位で、大体40パーセント台後半の支持率を維持して居た訳ですけれども、それには矢張りアメリカの影響が大きいと云う事でしょうか。

 内田 日本の内閣支持率のコアと為る30パーセントは〔アメリカに信任されて居るから支持する〕と云う、属国マインドが骨の髄迄染み込んで居る人達なんですよね。だから、アメリカ大統領が〔この人で良い〕と言って居る限り政権交代は起こら無い。

  支持率が3割しか無くても政権が維持出来るのはそう云う構図だと云う事ですね。

 内田 只、そう云うコアな支持層で在っても、流石にコレだけ失政が続くと、菅(義偉・よしひで)さん自身の政治的な能力に関しては殆ど評価して居ないと思います。

  そうでしょうね。

 内田 アメリカにしても、何処かでもう少し賢い政治をする人で且つアメリカを優先的に配慮する政治家が居るなら、ソチラに代えたいと云う処は在るんじゃないかと云う気がします。と云うのは、余りに政権が無能で民衆に取っての忍耐の閾値(いきち)を超えてしまうと、国民の憎しみがそう云う無能な政治家を支えて居るアメリカに向かうからです。
 アメリカの傀儡(かいらい)だった南ベトナムのグエン・カオ・キやパナマの独裁者ノリエガが失脚した時何て正にそうでしたよね。日本で同じ事が起これば、アメリカの西太平洋戦略に大きな障害が生じる事に為りますから、それは避けたいとアメリカは思って居るでしょう。
 もし僕がアメリカ国務省の人間だったら(笑)先ずは立憲民主党の処にソーッと行って〔政権交代するならするで全然俺等は構わ無いし、君達が遣りたいリベラルな政治を遣っても好いけれども、対中国戦略に関しては大筋では賛成して欲しいんだよ〕みたいな事を言って置くと思います。


  同感ですね。韓国の場合で言うと、金大中(キムデジユン)元大統領が野党の指導者だった時、滞在先の日本のホテルでKCIA(韓国中央情報部)に依って拉致(らち)された事件が在りましたが、アノ時彼が殺害され無かった事にはアメリカの関与が在ったと言われています。
 当時、アメリカは朴正煕(パクチヨンヒ)に依る軍部のクーデターを差し当たりは容認したけれども、そう云う時、アメリカは必ず代替と為るB案を用意して居るんです。


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                  内田 樹 9-7-4


 恐らく、金大中はアメリカに取って朴正煕独裁政権のオルタナティブだったのだと思います。民主国家で在る日本のオルタナティブとして、野党にお鉢が回って来る可能性は当然在るでしょうね。


 「反省が出来ない」日本人

 内田 今回の本の中では〔日本人は反省が出来ない〕と云う話も出ましたけれども、コロナ対策でもそうですよね。この一年半に渉って失敗し続けて居るにも関わらず、現政権は〔これ迄特に問題は無かった〕と言うだけで〔こう云う風にすべきだったのにし無かった〕〔此処でこう云う失敗をしたから修正する〕と云う検証や反省が全く在りません。

  安倍前首相の振る舞いを見て居ても〔反省〕と云う言葉は何処にも無かった様に思いますけれども〔反省が出来ない〕と云うのはどうも吉田松陰以来のものナンじゃ無いかと思いますね。陽明学を信奉した吉田松陰は〔志が好ければ反省は要ら無い〕と云う考えの持ち主でしたが、そう云う〔純な心で突っ走る〕と云うか、志が在ればドンな手段も厭(いと)わ無いと云う様な処は、明治の大アジア主義や北一輝的な革命思想に被れた人達の中に流れ続けて行った様な気がします。
 日本の近代は諸外国と比べても非常に暗殺が多いと思いますが、アア云うアナーキーな暴力性が対外的に噴出し、閔妃(ミンビ)暗殺の様な事が起こってしまった訳です。


 内田 只、本来、テロリストと云うのは、大義の為に人を殺す場合でも代償として自分の命を差し出す覚悟が在る人間の事です。大義の為に人は殺すけれど、自分は〔大義の完遂〕の為に必須の人材なので引き続き生き残る積りで在ると云うのはテロリストでは無くて政治家です。今の日本の与党政治家達ナンかは、自分の命は一般国民よりも重いと思って居るんじゃないですか。

  そう云う自己正当化の論理の恐ろしさを、最近トミに感じますね。以前、僕が菅さんと話した時、菅さんは師と仰ぐ故・梶山静六から〔政治の要諦、ミッションは雇用だ〕と言われたと語って居ました。けれども今、彼が遣って居る事は、日本国首相で在る自分の雇用だけは確保しようと云う事じゃないですか。
 これはもう、究極の自分ファーストだと思います。何と云うか、政治家の中から最後の何かが抜け落ちて居ると云う気がして仕方がありません。


 総選挙で自民党大勝のシナリオは無い

  今回の本の結論は〔振り子の原理と同じで、日本は行く処まで行か無いと、その反動が出て来ない〕と云う事でしたが、内田さんとしては、今後、どう云うシナリオが在ると思いますか。

 内田 コロナでの失敗は大勢の犠牲者が出るので絶対に避け無ければいけませんが、もし、オリンピックの大失敗に依って〔敗戦〕に匹敵する様な大きな振り子の転換点に為れば、それが一番有り難いシナリオかなと云う気がします。


    9-7-5.jpg

                   姜尚中 9-7-5


  オリンピックの失敗には痛みも伴うでしょうが、東日本大震災や福島第一原発事故でも変わら無かったものが変えられる転換点に為るので在れば、その点では希望も在るのかも知れません。
 何れにしても、今年行われる総選挙がどう為るかが決定的に重要ですが、オリンピック後に総選挙を遣れば自民党が大勝すると云うシミュレーションをして居る人も居ますよね。僕も、下手すればそう為る可能性も在るんじゃないかと云う気がするんです。


 内田 ウーン・・・如何でしょうかね。サッキも言いましたけれども、失敗続きのコロナ対策を劇的に転換して成功に導く為には何処かで失敗を認めるしか在りません。でも、現政権は絶対に失敗を認め無い人達ですから、これから先もコロナ対策で失敗し続けて行って、場合に依っては第五波・第六波の渦中で選挙が行われる事に為るでしょう。
 コロナ対策の失敗は、有権者に取っては自分の命に関わる事です。政権交代した先にドンな希望が在るかと云う事を脇に置いても、此処迄仕事が出来無い政権に対してバツを付けると云うのは極自然な反応だと僕は思いますね。政権交代迄は行か無いとしても、自民党が大敗する事はもう避けられ無いんじゃ無いでしょうか。

  本来で在れば、自民党内部や公明党からもう少し修正への働き掛けが在っても好い筈だと思いますが、そう云う動きすら無い状況ですからね。

 内田 そうですね。行き着く処迄はもうカウントダウン・・・と云う感じがします。

  何れにせよ、振り子が振り切ったら見えるものが見えて来るんじゃないかと云うのは、僕達が今回の対談本を通して得た共通の理解ですね。これ迄僕は、余り長生きはしたく無いと思って居たんです。でも、ヤッパリ日本を愛するが故に、これから先の日本が如何為るのか、この目で確かめてみたいと最近、思う様に為りました。

 内田 フフフフ(笑) もう一寸先を見たい。

  これからの10年、日本は大変に為るだろうと云う思いと、だから逆に面白いんじゃないかと云う思いと両方在るんです。まだまだクタバレ無い積りで居ますので、内田さんとはお互い80に為っても時事放談を続けたいと思います(笑)

 内田 小汀利得も80代迄「時事放談」を遣って居ましたからね。此方こそ、これからもよろしくお願いいたします! 


 内田 樹 うちだ・たつる 1950年東京都生まれ 思想家・武道家 東京大学文学部仏文科卒業 専門はフランス現代思想 神戸女学院大学名誉教授 京都精華大学客員教授 合気道凱風館館長 著書に『寝ながら学べる構造主義』『日本辺境論』『街場の天皇論』『街場の芸術論』等多数

 姜尚中 カン・サンジュン 1950年熊本県生まれ 政治学者 東京大学名誉教授 熊本県立劇場館長・鎮西学院学院長 専門は政治学・政治思想史 著書に『悩む力』『続・悩む力』『心の力』『悪の力』『母の教え 10年後の「悩む力」』『朝鮮半島と日本の未来』等多数 

                9-7-7.png 

    構成 加藤裕子 撮影 三好妙心(内田樹氏)野ア慧嗣(姜尚中氏)9-7-7              

                9-7-6.png 

      2021年8月号 掲載 ※この記事の内容は掲載当時のものです



 〜管理人のひとこと〜

 管理人もこのお二人と同じ様な年代であり思考も似て居ます。詰まり根っからのリベラル・非保守的な人間なのですが、この様な人種は今では希少的生物と化してしまいました。これも時代の流れで在り価値観の変遷なのです。今は現在を基盤にした総保守化の中での新たな思想・価値観が芽生えて居ます。
 これは決して間違いでも無く誤った道でも在りません。戦後を脱皮した新たな流れで在り当然の帰結なのかも知れません。ですから当然価値観・理想とするものも大いに異なるのか当然で求めるものも異なるでしょう。ですから別の政治を知らず今の政治を観て「当然な政治」と思い込むのが当たり前、批判せず飲み込むのです。
 時々この様なオジサンが出て来て場違いな事も言うのですが「戯言・たわごと」として記憶の隅にでも残して置いて欲しいものです。











 
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