2021年03月12日
和中清の日中論壇 その1
和中清の日中論壇 その1
中国は覇権主義国なのか? 2020年2月6日
和中 清 潟Cンフォーム代表取締役
昭和21年生まれ 同志社大学経済学部卒業 大手監査法人 経営コンサルティング会社を経て昭和60年(株)インフォーム設立 代表取締役就任 平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力・相談に取り組む 主な著書・監修
o 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
o 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
o 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
o 『仕組まれた中国との対立 日本人の83%が中国を嫌いになる理由』(クロスメディア・パブリッシング、2015年8月)
今も変わら無い日本人の中国観
この度、筆者の『奇跡 発展背後的中国経験』が中国で発売され国家シルクロード書香プロジェクトの「外国人が書く中国」の傑出創作賞を受賞し、その日本語版の『中国はなぜ成長し何処に向かうか、そして日本は』が出版された。そのメインテーマは中国が何故成長したかである。
筆者は中国の成長要因を四つのテーマで捉え各3項目、全部で12項目をその要因と考えてその基礎に「平和主義」を掲げた。しかし日本では「中国の平和主義」に対し異議を唱える人も多い。異議処か「フン」と鼻でアシラウ人も多いと思う。筆者の本への反発も予想される。
どうして「中国の平和主義」を言えば反発が出るのか。思い浮かべるのが「尖閣」「南沙」「覇権主義」「軍備拡張」「独裁」であろう。又最近では「香港」や「新疆ウイグル」問題が指摘されると思う。
今から5年程前の調査で日本人の83%程の人が「中国を良く思わ無い」との結果が出たが、今もその傾向は続いて居る。83%の人が思い浮かべるのも「尖閣」「南沙」「覇権主義」「軍備拡張」「独裁」だろう。
しかし調査に答えた殆どの人は「尖閣」や「南沙」の歴史経過も「覇権」の言葉の正しい意味とそれに中国が該当するのかの認識も、中国の軍備の内容も、政治体制と「独裁」の意味も深く考えずに答えて居ると思う。
C8
新疆ウイグル 警察の暴動取り締まり
最近の「香港デモ」や「新疆ウイグル」問題もテレビや新聞で流れる情報を元に漠然とした印象で中国を批判的に捉えているのでは無いだろうか。
筆者は2015年の日中論壇「『中国を好く思わ無い83%の世論』の裏にあるもの」 で日本人の中国観に付いて述べたが、5年が経過した今、改めて「覇権主義」「軍備拡張」「独裁」「新疆ウイグル」「香港問題」を題材に、何故日本の世論が変わら無いのかを考えて見た。
「尖閣」「南沙」に付いても日本人の捉え方には多くの誤解があると思って居るが、政治的にも複雑な背景がありここでは述べ無い。興味のある方は筆者の近著や前著『仕組まれた中国との対立』をお読みいただきたい。
的外れな中国覇権国家論
先ず「覇権主義」に付いて考える。インターネットの百科事典のウィキペディアはその信頼性において疑問もあるが、そこに書かれている「覇権主義」の記述は多くの日本人が考えて居る事に近いのではと思い敢えて引用するが、ウィキペディアでは、覇権主義とは
「当該国の実利的利害関係にのみ基づいて他国に対する対応を決定し、敵対国に対する侵略戦争や先制攻撃によって領土の拡大や自国の安全保障を行い、同盟国や敵対国の反対勢力に対する軍事、経済協力を進める」
と説明して居る。そして例として、米国と中国を覇権国家として居る。但し米国には「反米派によって覇権主義的と指摘される事がある」
との断りが着くが、中国にその断りは無い。そして中国は「台湾問題やチベット問題、ウイグル問題、又東南アジアやアフリカへの進出、南沙諸島問題、尖閣諸島問題等に於ける高圧的な対外拡張政策等から覇権主義と指摘される」と書かれて居る。
何故中国には「反中派により覇権主義とされる」の断りが無いのだろうか。筆者にはダブルスタンダードの不思議な論に思える。先ず、ウィキペディアの記述を元に中国が「覇権主義」かに付いて考える。
C9
チベットやウイグル問題は中国の内政上の問題で「他国に対する」文言に当て嵌ら無い。中国内の安全上の問題である。ここでは触れ無いが、南沙や尖閣も関係国間の主張がある領土問題で、一方的に中国が覇権的と言える問題でも無い。
「当該国の実利的利害関係にのみ基づいて他国に対する対応を決定」を覇権主義とするなら多くの国がそれに該当する。諸国の外交は「自国の実利的利害」を中心に動く。中国が実利的利害のみで外交をして居るとも思え無い。トランプ大統領の米国は「実利的利害」だけで動いて居る様にも見える。
「敵対国に対する侵略戦争や先制攻撃によって領土の拡大や自国の安全保障を行い」にも中国は該当しない。中国には侵略の歴史は無く逆に侵略された国である。
中国が「覇権主義」との印象に影響を与える一つは中国の対外進出である。だがそれも多分に日本人の持つ中国へのイメージにより「覇権主義」に結び付けられている。「東南アジアやアフリカへの進出」が「覇権主義」なら日本も、そして多くの国も「覇権主義」に為る。
一帯一路での投資も「債務の罠」と批判される。その批判も多分に批判の為の批判であることは前回の「日中論壇」 で述べた。日本の戦後復興も米国等からの「債務」で実現した。港湾建設も道路建設も資金が無くては何も始まら無い。
筆者の前著『仕組まれた中国との対立』で約千人の日本人にアンケート調査した時にも「中国は世界で資源や土地を買い漁っているので覇権主義」と言う人もいた。グラフは2017年の各国の対外直接投資額とそのGDPに対する比率である。
C1
C2
これを見る限り中国の対外進出が「覇権主義」との批判は的外れである。更にグラフは各国の輸入額とそのGDPに対する比率、国民一人当たりの輸入額を表わしている。
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C5
更に次の表は鉱物資源や石油、石炭等のエネルギー資源、農産物と食品の輸入額上位3か国を表わして居る。鉱物・金属資源や石油輸入額等では中国がトップであるが他の資源では米国や日本が中国を上回る。それらを国民一人当たりの輸入額で見れば中国は格段に低く為る。
又事業用不動産の売買やリサーチを行うCBRE社のリポートによると2014年から2018年迄の5年間の日本での海外からのインバウンド不動産投資に占める北米の比率は48%、アジアの比率は43%で、アジアからの投資は香港とシンガポールと韓国の投資合計が中国を遥かに上回る。
だからこれらを見る限り「中国は世界で資源や土地を買い漁って居る」には該当し無い。国民一人当たりで見る限り米国や日本の方が「買い漁って居る」
国別資源輸入額上位3カ国
C6
GLOBAL NOTEより 輸入額単位:百万US$ 一人当たり輸入額単位:US$
ウィキペディアの論の様な単純な覇権主義への結び付けが中国への誤解を生んで居る。
その2につづく⇒
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