2020年04月06日
中野剛志さんに「MMTって可笑しく無いですか?」と聞いてみた 第一回
中野剛志さんに「MMTって可笑しく無いですか?」と聞いてみた 第一回
経済学200年の歴史で、最もスキャンダラスな理論
〜中野剛志 経済評論家 2020.3.31 4:45〜
〜〔財政健全化し無ければ財政破綻する〕と云う常識に真っ向から反論するMMT・現代貨幣理論が話題だ。〔日本政府はもっと財政赤字を拡大すべき〕と云う過激とも見える主張だけに賛否両論が渦巻いて居る。常識とMMTのドチラが正しいのか?
〔経済学オンチ〕の書籍編集者が、日本に於けるMMTの第一人者である中野剛志氏に、素朴な疑問をブツケ捲くってみた〜 構成 ダイヤモンド社 田中泰
・・・中野さんは、賛否両論を呼んで居るMMT・Modern Monetary Theoryの中心的論者であるL・ランダル・レイが書いた『MMT 現代貨幣理論入門』(2019年8月刊)の日本版の序文を書いていらっしゃいますが、どう云う経緯で執筆されたのですか?
私が初めてMMTに付いて触れた『富国と強兵 地政経済学序説』と云う本を2016年に出版したんですが、その担当編集者にコノ本の翻訳書を出したらどうかと勧めたんです。それが2018年の事ですから、アメリカ民主党のオカシオ・コルテス議員がMMT支持を表明する前の事です。まさかかMMTが米国内で大論争に為り、それが日本に飛び火して来るとは思って居ませんでした。
・・・為る程、それで序文を依頼された訳ですね。今正に、アメリカ民主党の大統領候補者争いで健闘して居るサンダース議員の政策顧問に、MMTの主唱者の一人であるステファニー・ケルトン・ニューヨーク州立大学教授が付いて居るそうですから、アメリカでは、これから更にMMT論争が広がりそうですね。それにしても、500ページを超える大著で、3400円(税別)と云う高価格本としては、好く読まれて居ますね?
その様ですね。アメリカから日本にMMT論争が飛び火して、財務省や主流派の経済学者を中心に、MMTはそんな事は言って居ないのに「野放図に財政出動するなんてバカげて居る」と云った批判が噴出して、多くの国民も「MMTって何なんだ?」と関心を持ったのでしょう。MMTを体系的に説明する入門書が出版されたら、これを読まずに議論するのはフェアじゃないですからね。
・・・この本が出てから、日本に於けるMMTに対する批判はどう為りましたか?
当初好く在った〔トンデモ理論〕〔単なる暴論〕と云った批判は止んでしまった感じもしますが、単に世の中の話題としてMMTの旬が過ぎただけなのかも知れません。それは判ら無いですね。
・・・私は、もっと批判が出て議論が深まって欲しいと思って居ます。中野さんのMMTの解説を読んで居ると〔為る程〕と思うんですが、一方で、私には経済学の素養が無いので、何かを見落として居て、騙されてるんじゃないかと不安に為るからです。
為る程。
・・・勿論、当初、MMTは〔ポッと出の新奇な理論〕なのかと思いましたが、可成り歴史的な蓄積の有る理論で有る事も解かって居る積りです。しかし、MMTの議論を見聞きして居ると、これ迄、何と無く〔当たり前〕と思って来た事が、次々に覆されるので戸惑いも感じてしまうんです。
そうですね。MMTは、20世紀初頭のクナップ・ケインズ・シュンペーター等の理論を原型として、アバ・ラーナー、ハイマン・ミンスキー等の卓越した経済学者の業績も取り込んで、1990年代に成立した経済理論ですから、その原型も含めて考えれば約100年に及ぶ歴史を持って居ます。
そして、MMTは、世界中の経済学者や政策担当者が受け入れて居る〔主流派経済学〕が大きな間違いを犯して居る事を暴きました。しかも、経済学とは、貨幣を使った活動に付いての理論の筈ですが、その貨幣に付いて、主流派経済学は正しく理解して居なかったと云うんです。
もし、MMTが正しいとすれば〔主流派経済学〕はその基盤から崩れ去って、その権威は地に落ちる事に為るでしょう。こんなスキャンダラスな事は、アダム・スミス以来、約200年の歴史を持つ経済学でも早々無かった事です。アナタが戸惑うのも無理無いと思います。
「日本に財政破綻が有り得ない」事は財務省も認めて居る
・・・もしも、現実の経済政策に影響を与えて居る〔主流派経済学〕が大きな間違いを犯して居るとしたら一大事です。しかし〔主流派経済学の理論が基盤から崩れ去る〕と聞くと、矢張り〔まさか〕と云う気がします。そこで、改めてMMTに付いてご説明頂けませんか? そして、私の素朴な疑問にお応え頂きたいのです。
判りました。誤解を恐れずに、MMTを最も手短に説明するとこう為ります。〔日英米の様に、自国通貨を発行出来る政府(中央政府+中央銀行)の自国通貨建ての国債はデフォルトしないので、変動相場制の基では、政府は幾らでも好きなだけ財政支出をする事が出来る。財源の心配をする必要は無い〕と。経済学の世界では、好く〔フリーランチは無い〕と言われますが、国家財政に関しては〔フリーランチは有る〕んです。
自国通貨発行権を持つ政府は、レストランに入って幾らでもランチを注文する事が出来る。カネの心配は無用。但し、レストランの供給能力を超えて注文する事は出来ませんけどね。
・・・行き成り強烈な違和感が・・・〔政府はデフォルトし無いから、幾らでも好きなだけ財政支出出来る〕と聞くと、矢張り抵抗を感じます。政府やマスコミはズッと「これ以上財政赤字を増やしたら、財政破綻する」と言い続けて居ますし、多くの国民もそう思って居る筈です。
マァ、そうですね。それが社会通念でしょう。でも〔日本政府はデフォルトしないから、幾らでも財政支出出来る〕と云うのは、MMTを批判する人々も同意して居る、或いは同意出来る単なる〔事実〕を述べて居るに過ぎ無いんです。
・・・単なる事実? しかし〔GDPに占める政府債務残高〕は240%に近づいて居り、主要先進国と比較しても最悪の財政状況です。これも厳然たる事実ですよね?
「国家経営」と「企業経営」を同一視するのは初歩的間違い
・・・為る程・・・しかしですね、今の日本の一般歳出の内、税収等で賄えて居るのは約3分の2。残り3分の1は新規国債で賄って居る状態です。そして、図2の様に、累積赤字はドンドン積み上がって居ます。これが民間企業や家計なら確実に破綻しますよね? だからコソ、政府はプライマリーバランスの黒字化を訴えて居るのでは?
確かに、政府債務は積み上がって居ます。しかし、国家の経済運営を企業経営や家計と同じ発想で考えるのは、絶対に遣っては為ら無い初歩的な間違いです。何故なら、政府は通貨を発行する能力が有ると云う点に於いて、民間企業や家計とは決定的に異なる存在だからです。
個人や民間企業は通貨を発行出来無いので、何れ収入と支出の差額を黒字にして、ソコから借金を返済し無ければ為ら無いのは当然の事です。処が、通貨を発行出来る政府にはその必要はありません。国家は自国通貨を発行出来ると云う〔特権〕を持った存在ですから、自国通貨建ての債務がドンなに積み上がっても、返済出来無いと云う事は有り得ない。
その意味で、共通通貨ユーロを採用したヨーロッパの国々は、自国通貨の発行権と云う特権を放棄した為に、国家で有るにも関わらず民間主体と同じ様に、破綻する可能性の有る存在へと成り下がってしまったとも言えるのです。
・・・確かに、通貨発行権を持つ政府と民間企業・家計を同列に語れ無い事は判ります。しかし、国家が〔特権〕を持つからと言って、幾らでも借金が出来るなんて、そんなに〔旨い話〕が有るとは俄かに信じられません。
そもそも政府がこれ以上借金出来無く為る時が来るのではないですか? 今の日本には、民間の金融資産(預金)が豊富に有るから、銀行は国債を引き受ける事が出来ますが、何れ民間の金融資産が逼迫して来れば、国債を引き受ける事が出来無く為る筈です。
それも世間で好く言われる事で、主流派の経済学者もそう主張して居ます。だけど、それは完全な誤りです。その証拠に、図3を見てください。国債引受の為に民間の金融資産が減って居る為らば、国債金利を上げ無ければ新たな国債を引き受けて貰えない筈ですよね?
しかし、1990年代から国債を発行し捲くって政府債務残高がドンドン増えて「国債金利が高騰する、高騰する」と言われ続けて来ましたが、ご覧の通り長期国債金利は下がり続けて居ます。世界最低水準で遂には殆どゼロに迄下がって居ます。アナタが言うのが本当ならば、こんな事は起きる筈が無いですよね?
・・・そうですよね・・・
しかも、国債金利が世界最低水準に有ると云う事は、世界中のドノ国よりも〔国家財政が信認されて居る証拠〕でもあります。何故、そんな国が財政危機なんですか?
・・・うーん・・・
アア、これは好く見るグラフですね。確かに〔GDPに占める債務残高〕は深刻な財政危機に陥って居るギリシャやイタリアよりズッと悪くて日本はダントツの最下位です。だけど、それって可笑しな話だと思いませんか? 寧ろ、このグラフを見たらこう考えるべきなんです。
何故、ダントツで最下位の日本では無く、ギリシャやイタリアが財政危機に陥ってるのかと。日本とギリシャが同じ為らば、日本の財政は2006年位の時点でトックニ破綻して無ければ可笑しいじゃないですか?
・・・確かにそうですね。何故、そう為って居ないんですか?
簡単な話で、ギリシャとイタリアは、ユーロ加盟国で自国通貨が発行出来無いからです。過つて、ギリシャは〔ドラクマ〕イタリアは〔リラ〕と云う自国通貨を持って居ましたが、両国は自国通貨を放棄して共通通貨ユーロを採用しました。そして、ユーロを発行する能力を持つのは欧州中央銀行だけであって、各国政府はユーロを発行する事は出来ません。
だから、ユーロ建ての債務を返済する為には、財政黒字によってユーロを確保する他無く、それが出来無ければ財政危機に陥ります。自国通貨発行権を持つ日本とは全く状況が異なるのです。
・・・では、2001年に財政破綻したアルゼンチンは? アルゼンチンには〔アルゼンチン・ペソ〕と云う自国通貨がありますよね?
アルゼンチンの場合は〔外貨建ての国債〕がデフォルトしたのです。外貨建て国債の場合には、その外貨の保有額が足り無ければデフォルトします。
しかし、日本は、ホボ全ての国債が〔自国通貨建〕てですから、自国通貨を発行して返済に宛てれば好い。何等かの理由で〔返済し無い!〕と政治的な意思決定をし無い限りデフォルトする事は有り得無い。実際、歴史上、返済の意志の有る国の自国通貨建ての国債がデフォルトした事例は皆無です。
・・・そうナンですか?
エエ、これは財務省も認めて居る事で、2002年に外国の格付け会社が日本国債の格付けを下げた時に、財務省は「日・米等先進国の自国建て国債のデフォルトは考えられ無い。デフォルトとして如何為る事態を想定して居るのか」と云う反論の意見書を出しました。今も、財務省のホームページに載って居ます。詰り、MMT批判者も〔自国通貨を発行出来る政府の自国通貨建ての国債はデフォルトしない〕と云う〔事実〕は受け入れて居る筈なんです。
「財政破綻論者」は根本的な「事実誤認」をして居る
実は、何故こんな事に為るのか〔国債金利が高騰する〕〔財政破綻する〕と言い続けて来た経済学者も真面に説明出来て居ません。嫌、説明出来る筈が無いんです。と云うのは、彼等が根本的な〔事実誤認〕をして居るからです。
・・・事実誤認ですか?
エエ。貴方は先程「民間の金融資産(預金)が豊富に有るから、銀行は国債を引き受ける事が出来る」と仰いましたね? 詰り、銀行が国債を買う原資は、民間が銀行に預けて居る金融資産だと云う訳です。そして、政府は、国債を発行する事で民間の金融資産を吸い上げて、それを元手に財政支出を行って居るのだから、国債を発行すればする程民間の金融資産は減ると考えて居る訳ですよね?
・・・そうですね。
しかし、ソコが決定的な間違いなんです。事実は逆で〔国債を発行して財政支出を拡大すると、民間金融資産(預金)が増える〕んです。
・・・チョット理解出来ません・・・〔国債を発行して財政支出を拡大すると、民間金融資産(預金)が増える〕何て事が有る訳無いじゃないですか?
しかしそれが事実です。理解出来無いのは、アナタが〔貨幣とは何か?〕を正しく理解して居ないからです。最も〔主流派経済学〕も貨幣に付いて正しく理解して居ません。先程「世界中の経済学者や政策担当者が受け入れて居る〔主流派経済学〕が大きな間違いを犯して居る事をMMTが暴いてしまった」と言いましたが、このポイントがマサにそれなんです。
中野剛志(なかの・たけし)1971年神奈川県生まれ 評論家 元・京都大学大学院工学研究科准教授 専門は政治経済思想 1996年 東京大学教養学部(国際関係論)卒業後 通商産業省(現・経済産業省)に入省 2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し政治思想を専攻 2001年に同大学院より優等修士号 2005年に博士号を取得 2003年 論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞
主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)『TPP亡国論』『世界を戦争に導くグローバリズム』(集英社新書)『富国と強兵』(東洋経済新報社)『国力論』(以文社)『国力とは何か』(講談社現代新書)『保守とは何だろうか』(NHK出版新書)『官僚の反逆』(幻冬社新書)『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室【基礎知識編】』『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』(KKベストセラーズ)など 『MMT 現代貨幣理論入門』(東洋経済新報社)に序文を寄せた
第一回 おわり 第二回につづく
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