2020年04月03日
政治家よ 貴方方は何処まで他人事なのか
政治家よ 貴方方は何処まで他人事なのか
〜東洋経済オンライン 4/3(金) 13:46配信〜
東京都心部を往来する人は通常よりも格段に減り、街行く人達の大半はマスクを着けて警戒を高めて居た 2020年4月2日 東洋経済オンライン編集部撮影
〜東京に於ける新型コロナウイルスの感染拡大が止まら無い。若者等の飲み会やカラオケ・中高年のクラブやキャバクラ通い等による集団感染が広がる中、医療の現場では未知のウイルスとの厳しい闘いが始まって居る。パニック寸前で踏み留まる医療現場の窮状を知る☟東京都医師会の尾崎治夫会長は、何時迄も緊急事態を宣言しない国の姿勢に怒りをブチ撒ける〜
「国会に閉じ籠って居ないで、現場を見に来い!」
この国難に都民の命を守る医療体制維持の為に奔走する医師のトップの動きを追うと、感染爆発を目前にした医療の窮状が見えて来る。
尾崎会長がFacebookに投稿をアップしたのは3月26日の深夜だった。スマホで綴った《東京都医師会長から都民の方にお願い》と題した文章には、ロボット犬の〔アイボ〕が撮った自分の写真を添えた。会長室に在るアイボの前にシャガミ込み、赤いボールを手に笑みを浮かべた写真だ。投稿は《平和ですね。でもこうした平和が、あと2、3週間で崩壊するかもしれません》との文言で始まる。
若い方々、もう少し我慢してください
東京での感染者の急激な増加に危機感を抱き《今が踏ん張り処なのです》と語り掛ける相手は若い世代だ。アクティブに行動する彼等に向けて《もう飽きちゃった。何処でも行っちゃうぞ・・・もう少し我慢して下さい。(中略)密集・密閉・密接の所には絶対行かない様、約束して下さい。お願いします。私達も、患者さんを救う為に頑張ります》
東京都医師会長と云う、お堅い職にしては型破りな投稿にメディアも注目しネットニュースやテレビで取り上げられた。普段のFacebookでは、殆ど医師会の話には触れ無いが「政府も政治家の動きも鈍いなか、命を預かる立場として声を上げ無ければ為ら無いと云う切実な思いだった」と振り返る。
遂2週間程前の3月中旬、東京と同じ様に小康状態を保って居たイタリアやスペイン、それにアメリカ・ニューヨークの感染者数が瞬く間に何倍にも膨れ上がって医療崩壊に繋がって行った。ヤガテ日本にも押し寄せて来る覚悟は決めて居る。
だが、通勤時間帯は相変わらずの人混みで、小池百合子都知事の外出自粛要請にも関わらず、街は若者で賑わい、海外旅行に出掛ける学生も少なく無い。彼等だけを責める訳では無いが、一度感染者が上向けば指数関数的に増えて行くのは海外の例から予想出来る。でも、それからでは遅いのだ。
新規の感染者数を抑える為には、時に政府の強権発動も必要だと尾崎会長は考えて居る。新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言もそのひとつだ。宣言されれば若者も銀座のクラブ通いの中高年も自粛せざるを得ないだろう。だが、その宣言も未だ無い。こう為ったら、医療人である自分が呼び掛けるしか無い。そう云う思いがFacebookへの投稿に繋がった。
医療体制の備えを進める事も東京都医師会長に課せられた大切な仕事のひとつだ。感染者が増えて行くに連れて、既に病床に余裕が無く為って来て居る。感染症の指定病院が重篤・重症の患者の治療に専念出来る様に、公立・一般病院にも病床を空けて貰う必要がある。
空き病床の確保は難航
だが、それは簡単な事では無かった。誰しも新型コロナウイルス感染者を受け入れる事には難色を示す。感染すれば重症化するリスクを抱えた他科の患者が居るし、医療従事者が感染すれば、病院全体が機能不全に陥る。空き病床を確保する事は難航して居る。
更に問題なのは、無症状や軽症の感染者の扱いだ。無症状でも感染が確認されれば、感染症法に基づいて入院隔離し無ければ為ら無い。こう云った無症状の感染者で病床が一杯に為れば、重症や重篤な感染者を入院させる事が出来無く為り、延いては治療に支障を来す事に繋がる。
東京都医師会は都と協力して、無症状の感染者を病院では無い宿泊施設へ移す為のスキームを検討して居る。例えばオリンピックの選手村やホテルを借り上げて、そこで〔隔離〕する。無症状でも病態が急変する為、地域の保健所に詰めた医師会の会員である医師が、オンラインで異常が無いかをチェックする。容体が悪化すれば、防護服を着て往診して転院させる等症状を見極める・・・こんなプランだ。
尾崎会長が、今最も心を痛めて居るのは、未だ感染爆発して居ない現在でも、医療現場では試行錯誤の闘いが始まって居る事だ。救急医療の現場には、患者が日常的に搬送されて来る。例えば心不全の患者が運ばれて来たとしよう。呼吸を助ける為に気管内挿管するが、この患者が新型コロナウイルスに感染して居れば、医師も周囲の医療従事者も感染してしまう。
着脱の手間が掛かる防護服を着て居ては治療の効率が悪く為る。でも、感染してしまったら、医師や看護師と云う貴重な戦力を失う事に為り、ヤガテ病院は機能不全に陥る。
救急現場は、そう云ったコロナウイルス対応でパニックに陥り、疲弊し切って居ると云う声が、尾崎会長の元にも届いて居る。尾崎会長自身、午前中は東京都東久留米市に在る内科循環器科クリニックで診療を続けて居るが「緊張の連続だ」と打ち明ける。
インフルエンザなら症状からホボ断言出来るが、新型コロナウイルスは見分けが付かない。気付いたら待合室で感染の疑いが有る患者がズッと順番を待って居た事もある。もし自分の診療所から感染者が出れば、更に感染を広めてしまうし、診療所も2週間は閉めざるを得ない。
自分も感染のリスクを背負う事に為る。都内の医療機関は病院も診療所も緊張の連続と云う状況に晒されているのに、政府の反応は鈍い様に思える。
理解を示して呉れる政治家は寧ろ少数
医療体制を築くにも、都民に危機感を持って貰う為にも、緊急事態宣言は必要だと尾崎会長は考えて居る。だが、現場の窮状を説明しても、理解を示して呉れる政治家は寧ろ少数だ。
「これ以上経済が落ち込む事は避けたい」
と何度言われた事か。安倍晋三首相は3月28日の記者会見で「未だギリギリ持ち応えて居る」と表現し、菅義偉官房長官も「現状では未だ緊急事態宣言が必要な状態では無い」と否定した。新型頃内ウイルス対策の担当に為った西村康稔経済再生相も緊急事態宣言には否定的だ。
東京都医師会の会長室でインタビューをして居た尾崎会長の声のトーンが上がって来たのは、この話に及んだ時だ。
「確かに経済は大切だ。でも、感染症に打ち勝た無かったら経済は成り立た無いでしょ。経済の為に宣言出来無いとしたら、悲しい事だよ」そして、語気を強めてこう言い放った。
「現場からは、もう無理だ。何とかして呉れ、と云う声が上がって来て居る。コンなんじゃ患者を救え無いでしょ。緊急事態じゃ無いって言うなら、国会の中で閉じ籠って居ないで現場を見に来いって言いたいよ!」
尾崎会長は、30日早朝の午前7時過ぎ、日本医師会の横倉義武会長にFacebookのメッセージ機能を使ってメールを送った。
「一両日中に、緊急事態宣言を出す様政府に進言してください。私は猶予は無いと思います。マイルドな自粛要請ではもう無理です。(東京都)知事には今日電話して早めの日本型ロックダウン(都市封鎖)を改めて要請しました」
すぐに横倉会長から応答があった。「検討してみます」その日の午後、日本医師会の釜萢敏常任理事が臨時に開いた記者会見で、緊急事態宣言に付いてこう述べた。.
「個人的には(宣言を)出して頂いて、それに基づいて対応する時期では無いかと思う」
東京の感染者は日を追う毎に膨れ上がって居る
これに続いて4月1日に定例会見に臨んだ横倉会長は、病床数が不足しつつ在る東京の現状を踏まえて「医療危機的状況宣言」を出すと同時に、緊急事態発言の発動を政府に要望した事を明らかにした。尾崎会長のメールが功を奏したのかどうかは判らない。だが、尾崎会長は、横倉会長が意を酌んで呉れたのだと思って居る。
都内の感染者数は、3月23・24の両日には、感染者数がそれ迄の10人前後から、16人・17人と増え、25・26日は40人台・28日には63人・31日には78人、そして4月2日には97人と急増して居る。病院の院内感染や、夜の街がクラスターと為って検査件数そのものが膨れ上がって来た為でもあるが不気味な増え方だ。
筆者自身、強権的な緊急事態宣言は慎重にした方が好いと考えて居る。が、一方でウイルスとの闘いには、人々の行動が縛られる事は覚悟し無ければ為ら無い事も承知して居る。先ず優先すべきは人命であり、その為に医療態勢を守ること。尾崎会長の「現場を見に来い!」と云う強い怒りの根源には同意せざるを得ない。
辰濃 哲郎 ノンフィクション作家 以上
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