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2020年04月13日

日中戦争・太平洋戦争従軍の証言 赤池 光夫さん(兵士・男性)その3



  日中戦争・太平洋戦争従軍の証言 

  赤池 光夫さん(兵士・男性)その3


 その3 シンガポール攻略戦 

 戦場の「シンガポール」は狭い。中央にブキティマ高地が在り、この丘を手中にすればシ島の町は眼下に在り、戦略上重要な意義がある。是が非でも攻略しようとする我が軍と、これを死守しようとする英軍との思惑が絡み合い、この高地の攻防戦は熾烈な戦いとなり、丘は双方の激しい砲爆弾で焼け爛れ、真っ赤な山肌を曝け出し無残な姿に変貌した。
 夜ともなれば、我が軍の突撃する悲壮な喚声が沸き起こり死闘が繰り返されていた。こうした状況の中で、英軍も抗し切れず遂に撤退。我が軍は多くの犠牲を払いながらこの高地の奪取に成功し、これにより戦況は一転有利に働き2月15日を迎えた。

 この日は前夜から激しい攻防戦が展開され、頑強に抵抗する敵に攻め倦んで居た。夕闇が迫る頃、我が軍は市の郊外「パヤレバー」付近に進出した。午後8時ごろ、突然背後から「敵は降伏した。戦闘停止」の逓伝が戦闘指令所から届いた。
 耳を澄ませば遠地近地で「万歳」「万歳」の歓声が沸き起こり、先刻まで激しく撃ち合っていた砲声は鳴りを潜め、時折散発的に銃声が聞こえてくる。敵は降伏したのだ。

  「現在地に停止」「煙草を吸って良し」「警戒は続行すべし」

 部隊長の命令が次々と出された。思わず自分たちも「万歳」「万歳」と叫び抱き合って喜ぶ者、嬉し涙を軍服の袖で拭く兵士、戦勝の喜びの興奮に一同酔い痴れた。思えば16年12月8日、シ島攻略戦の火蓋を切って以来、激しい戦闘の日々が続いた。そして数多くの戦友の尊い命が失われた。こうしてシンガポール攻略戦は日本軍の勝利に帰した。

 私が復員後間も無く兄が出征した為、兄の代わりと為り留守宅を守って居りましたが、僅か90日で私に召集令状が来た。同年兵に来無いのに何で俺だけに令状が来たのかと理解に苦しんだ。令状を受け取り5日目、慌ただしく東部63部隊(甲府49連隊)に応召入隊した。案内され本部前に行くと、底には去る6月、一緒に帰還した同じ中隊の古屋少尉と下士官数人も、中隊コソ違ったが同じ宮部隊の人達だった。

 「来る10月1日には、第1回学徒兵が入隊して来る。戦争体験の有る諸君は、短期間で有るが実践的教育訓練をして欲しい」との事だった。
 数日後の10月1日、学徒兵が入隊起居を共にし教育に専念。翌19年3月、学徒兵が前橋予備士官学校に転属・入校と同時に私たちは召集解除された。しかし、同年10月、再び東部63部隊へ応召、軍務に就いた。思えば昭和18年戦地から帰還、同年10月末に召集、翌19年3月召集解除、そして同年10月召集と軍務に振り回され、私生活は全く無視された日々が続き悩み苦しんだ。

 軍隊教育も3月召集解除され、僅か7か月留守の間に大きく変わり、戦闘訓練も従来は専ら攻めの訓練だったが、敵の本土上陸を想定し、今如何にして本土を守るか、一兵と云えども足を踏ませ無い為の守りの戦法に変わり厳しい訓練が続いた。
 その一方で、一段と激しさを増す空襲の被害を最小限に留める為兵舎の間引きも始まり、湯村山には陣地構築作業も行われて居た。7月6日の深夜から7日の早朝に掛けて空襲があり、一夜の内に甲府の町は焦土と化した。

 8月15日終戦当日、私は平常通り練兵場へ出て教育訓練を行い、正午近く部隊へ戻って来たら、重大放送が有るからコレを聞く様にと命令が在った。放送は雑音が多く好く聞き取れ無かったが、昭和天皇自らのもので、我が国はポツダム宣言を受け入れ無条件で連合国に降伏したとの趣旨の玉音放送だった。
 図らずも敗戦の悲報を聞いた将兵は口惜しさと、無念、憤りがその極みに達し、皆男泣きして軍服の袖で涙を拭いた。

 戦争は敵だ。戦争に正義は無い。如何なる理由が有ろうとも戦争と云う手段は許されぬ。戦争は世界の人類を苦しめ、平和は幸福をもたらす。私は過つて戦場へ駆り出され、祖国日本の為に命を賭けて戦い、過酷で悲惨な日々を送った戦争体験者なのであります。今は高齢で残された余命は僅かだが、この命の有る限り、日本は元より世界に不戦平和を訴え続けて行きたいと思って居る。


                   おわり














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