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2020年04月13日

日中戦争・太平洋戦争従軍の証言 赤池 光夫さん(兵士・男性)その2

 

 日中戦争・太平洋戦争従軍の証言

  赤池 光夫さん(兵士・男性) その2



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 その2 宮部隊は山下奉文の第25軍の指揮下に

 7日の午後、突如出動命令が下った。「我が軍はX日Y時を期し某国境を武力を以て突破する。各員は出来るだけ弾薬と食糧を確保し戦闘の万全を期すべし」との事だった。

 準備が完了し、出発したのは夜10時頃だった。行動は静かに慎重に行われ、国境へと近付き、8日午前零時の侵攻の時の来るのを待った。そして運命の零時が到来、砲口は一斉に火を噴き「タイ」国境の平和の夢を破り仁義無き戦争が始まった。この行動が世界の国々を巻き込む大戦に為ろうとは、神為らぬ身の誰しも夢想だにして居なかった。
 国境を越えた我が軍は「バンコク」で編成替えが在り、南支派遣宮部隊第25軍と為り山下奉文の指揮下に入った。この時、主力は既にマレー北部「シンゴラ」に上陸南進中で、宮部隊もコレに追随すべく前線へ急いだ。

 対する英軍は全てが機械化され、近代的装備と物量で頑強に抵抗する敵に何時も苦戦を強いられ、多大な犠牲を払う日々が続いた。こうした状況の中で、部隊はジャングルを掻き分け、側面からの攻撃に連係退路を遮断する等、混乱に陥れ、戦果を収める様に為った。

 「敵が敗退したら直ちに追え」「1時間余裕を与えれば攻略に2時間掛かる」

 これは山下奉文の厳命だ。敵が敗退すれば直ちに追い、遭遇すれば激しい戦いが続く。犠牲者も日毎に増え、戦死者の荼毘等する余裕が無い。ソコで小指を切り煙草(たばこ)の空き缶に入れ白布に包んだ。戦友を2人も負い戦って居る勇敢な戦友も居た。
 中部マレーを過ぎた頃、シンガポールの軍港から艦砲射撃が始まった。私は実物を見た事は無いが、この砲弾は大人の等身大も有る巨大な物で、兵隊仲間ではドラム缶が飛んで来ると恐れられて居た。

 熱地では雨期に為ると毎日の様にスコールが有る。ズブ濡れに為っても着替え等は無い。太陽と体温で乾かす。弾丸を避け窪地に入れば、そこは水溜りだ。負傷でもすれば鮮血と泥濘で全身泥塗れと為り、その惨たらしさに思わず目を反らしたく為る。「傷は浅いぞ、頑張れ」と巻く包帯も泥んコだ。親、兄弟、肉親がこの惨状を見たら、誰でも気を失い卒倒するだろう。
 戦争の日々は毎日が命の綱渡りだ。今在って数分後の命の保障は無い。幸い私は武運を得て、翌年1月31日、ジョホールに入城する事が出来た。目の前には幅僅か2q程のジョホール水道が在り、その向こうは目指すシンガポールだ。

 上陸地点を偵察に行き眼鏡で覗けば、幾つものトーチカが並び銃眼がコチラを睨んで居る。シンガポールへ英軍が立て籠った今は、歩兵の戦闘は休止状態に為って居る。しかし、空中戦と砲撃戦は一層激しく続けられ、我が軍は機を見て上陸作戦を敢行すべくそのチャンスを狙って居た。
 2月9日、遂に出動命令が下り、早夕げを終え暮色迫る泊地を出発、乗船地へ向かった。敵の目を盗み、乗船地へ着いた時はスッカリ夜の帳が下り、重油タンクの真っ赤な火柱が目に飛び込んで来た。

 命令が出る迄背嚢を枕に寝そべれば、両軍の撃ち合う砲弾が上空で不気味な音を立て唸って居る。間も無く乗船命令が出て鉄舟に足を踏み入れた。

 「もう二度とこの大地は踏め無い」

 悲壮の思いが全身を駆け巡った。鉄舟には20人位乗っただろうか。小さい鉄舟では身動きも出来ず、増して銃を構え応戦する事も出来無い。只マッシグラに敵陣へ突っ込む。上陸すれば成功だ。エンジンを全開し横一列と為り、弾雨の海へ躍り出た。
 海上は重油タンクの燃える火柱で昼の様に明るく、突進する船団は敵弾に次々と沈没した。海上は助けを求める声、大声で何やら叫ぶ声等が交錯し、阿鼻叫喚・魔の海と化した。幸い私の乗った鉄舟は無傷で対岸へ到着した。


 その3へつづく













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