2019年06月04日
何故沖縄に米海兵隊が要るのか? 軍事的に考察するC
何故沖縄に米海兵隊が要るのか? 軍事的に考察するC
ミリタリーリポート@アメリカ2018.10.11より引用します
全4回連載C 抑止力は沖縄の海兵隊で無く空軍だ、と言えるこれだけの理由
戦闘では自らの命を賭して国防任務を遂行する軍隊は、自らの組織こそ国防の要との強固な自負心を持つ。そうした確固たる意識が無ければ、戦闘に打ち勝つことも出来ない。
我こそが抑止力だ
現代戦では各軍種(海軍・空軍・陸軍等)が統合して運用され無いと任務遂行し難いが例えば
⊡米海兵隊は「米国の911フォースである米海兵隊こそが国防の要」と胸を張る。
⊡米海軍は「海軍こそシーパワーたるアメリカ防衛の大黒柱だ」と自負する。
⊡米空軍も「宇宙時代に突入する現代戦に勝ち抜く決め手はエアーパワーだ」と自信満々だ。
従って、沖縄に大規模な部隊を駐留させる米海兵隊と米空軍を巡り「日本や東アジアの安定に最も睨みを利かせて居るのは実際、ドチラなのか?」と云う議論が生じると、
⊡海兵隊側は「アメリカ軍の先鋒部隊の海兵隊が東アジアの要の沖縄に陣取って居る事こそ、何より強力な抑止効果を発揮して居る」と語る。
⊡対して空軍側は「アメリカ支援軍の先鋒として先陣を切るのは間違い無く空軍で、嘉手納に陣取る米空軍戦闘機部隊こそが最大の抑止力だ」と反論する。
主観的概念である「抑止」
云う間でも無く「抑止」「抑止力」「抑止効果」と云う言葉は、日本防衛に話を絞ると、外敵が日本に軍事力を行使する事(最たるものは直接軍事攻撃を加えること)を思い留まらせる事、その様な軍事力、その様な状態が生じて居る事を意味する。
しかし「抑止して居る」「抑止力と為っている」「抑止効果が発揮されて居る」と表現しても、それを客観的には検証出来ない。
例えば、日本国防当局や米軍当局が「中国人民解放軍の対日軍事攻撃を抑止して居る」としても、日米側が「抑止して居る」と考えるだけ、或は主張して居るだけに過ぎ無い。中国人民解放軍や中国共産党が日米側の強力な軍事力による防御態勢に「恐れを為して」そこまで行かなくとも「強く警戒して」日本への軍事攻撃を差し控えて居るかは、中国人民解放軍首脳や中国共産党指導者等に真意を聞か無ければ確認出来ない。
要するに「抑止」とは、彼我(ひが)の主観に左右される極めてアヤフヤナ概念だと言わざるを得無い。とは言え、その様な主観は、客観的に測定出来る兵力や装備、配置等軍事力で“或る程度”は推測出来る事も事実だ。
その様な推測をし推測に基づいて戦略や作戦概念を調整したり、軍備を整えたりすることこそ、国防当局の重大な責務の一つだ。
F35Bステルス戦闘機を米空軍嘉手納基地で撮影
中国が気にするのは地上部隊より航空戦力
既に紹介した様に米海兵隊は「アメリカの先鋒部隊の海兵隊が陣取る沖縄は勿論日本の領域に軍事攻撃を加える事は、海兵隊に敵対行動を取ったことに為る。それはアメリカへの軍事攻撃と見做され、アメリカの反撃を覚悟し無ければ為ら無い。詰まり沖縄に海兵隊が本拠地を置いて居る事は、大きな抑止効果を発揮して居る」と考える。この様な海兵隊の主張に、矢張り沖縄に嘉手納航空基地と云う重要戦略拠点を置く米空軍関係者から以下の様な意見も聞こえて来る。
在沖縄海兵隊が口にするレベルの抑止効果なら、米海兵隊部隊で無くとも米陸軍部隊、例えば“アメリカの軍団”として勇名を馳せる米陸軍第1軍団の精鋭部隊のストライカー旅団戦闘団を駐留させても「アメリカを攻撃した」と十分見做し得るだろう。
しかし、第3海兵師団や第31海兵遠征隊或はストライカー旅団戦闘団等どれ程精強な部隊であれ、沖縄配置の地上移動部隊に、中国人民解放軍に対日軍事攻撃を思い留まらせるだけの効果があるだろうか。
中国軍が日本に軍事攻撃を仕掛ける場合、自力では沖縄から一歩も出られず、沖縄での地上戦以外に中国侵攻軍と戦闘を交える事が出来無い米軍地上部隊を攻撃するのは無駄な作戦だ。攻撃用軍事資源は、嘉手納基地の米空軍を初めとする航空戦力に向けられるのが当然だ。
嘉手納基地には、中国侵攻軍を東シナ海上空で迎え撃つ為の戦闘機部隊が常駐して居るからだ。日本侵攻を企てる勢力が恐れるのは、強力な戦闘機部隊であり屈強な歩兵部隊では無い。
V22オスプレイ
嘉手納空軍基地こそが「扇の要」
米軍にせよ日本国防当局にせよ、沖縄を語る際、沖縄の地理的位置を強調し「沖縄は東アジア或は西太平洋の『扇の要』に位置する重要戦略要地だ」と指摘する。既に紹介した様に、海兵隊が沖縄に本拠地を置く理由の一つも「扇の要」が挙げられる。
確かに沖縄は、距離的に東アジアの「扇の要」に位置する。但し「沖縄の距離的位置を軍事的優位として名実共に生かして居るのは、沖縄に駐留する米海兵隊では無く、嘉手納航空基地を本拠地にする米空軍だ」と指摘する米空軍関係者は少なく無い。それは以下の様な理由による。
沖縄から台北まで約600km上海まで約800km ソウルまで約1250km 香港まで約1450km マニラまで約1500km 東京まで約1500km 北京まで約1800kmと云う様に、沖縄は東アジア諸国の「扇の要」と言われる。
しかし、米海兵隊であろうが米陸軍であろうが、如何なる陸上戦闘部隊もその様な“長距離”を数時間で移動出来無い。処が、米空軍はその程度の“短距離”なら数十分〜2時間もあれば移動可能なのだ。
例えば、第18航空団を初めとする米空軍部隊が本拠地にする嘉手納航空基地から、米空軍第35戦闘航空団が配置されて居る三沢航空基地まで“約2015kmに過ぎず”、低速のC−130輸送機でも4時間、嘉手納基地のF−15戦闘機や三沢基地のF−16戦闘攻撃機なら2時間程で移動出来る。
処が、もし沖縄のキャンプ・ハンセンから第31海兵遠征隊が三沢基地に戦闘作戦行動で緊急展開するなら、沖縄各地に分散配置されて居る海兵隊部隊(各種車両や資機材を含む)を揚陸艦に積載する沖縄のホワイトビーチ海軍施設から、その海兵隊部隊を揚陸する三沢航空基地近郊の八戸港まで“1220海里も離れて居て”、揚陸艦隊が急行しても3日程必要に為ってしまう。
F/A-18航空機
三沢航空基地だけでは無い。嘉手納基地から在日米軍司令部そしてアメリカ空軍第5空軍司令部のある横田基地まで約1515km、在韓米空軍司令部や米空軍戦闘攻撃機部隊が本拠地にするソウル南方の烏山空軍基地まで約1190km、韓国西岸中央部に位置し米空軍戦闘攻撃機部隊が配備されて居る群山空軍基地まで約1060km、そして爆撃機を中心とした部隊が拠点を置くグアム島のアンダーセン空軍基地まで約2280kmと、何れの米空軍前方展開航空施設との間は1時間強〜2時間半以内で移動可能である。
従って米空軍は、嘉手納航空基地を名実共に「扇の要」とし、日本・韓国・グアムの航空基地をネットワーク化して使用出来る。即ち嘉手納基地を拠点とする事で、米空軍は沖縄の地理的好条件を軍事的優位に転化して「抑止力」を生み出して居るのだ。
これに対し、幾らキャンプ・バトラー(キャンプ・コートニー、キャンプ・ハンセン、キャンプ・フォスター、牧港補給地区、キャンプ・シュワブ等沖縄各地に点在する米海兵隊施設の総称)や普天間航空基地が沖縄に在ると言っても、基本的に地上移動軍で空軍の様にスピードを伴わ無い海兵隊は、地理的好条件を軍事的優勢に転化出来ない。
この様に、沖縄を戦略的要衝たらしめる嘉手納航空基地並びに嘉手納を本拠地にする米空軍部隊こそ、日本侵攻を企てる中国人民解放軍の作戦立案者達には「目の上のコブ」なのだ。
中国軍が対日侵攻を企てる際は、目障りな嘉手納航空基地に陣取る米空軍の戦力や動向を廟算(びょうざん)(作戦立案段階で、勝てるか勝て無いかを十二分に検証する事)し、然したる障害で無いと判断したら、対日侵攻作戦を実施する事に為る。
大い為る障害に為ると判断したら、米海兵隊が言う様に、アメリカによる大規模反撃の引き金に為る事を憂慮し、人民解放軍作戦家達は対日侵攻を差し控えるのだ。
要するに、アメリカの911フォースとしての米海兵隊が緊急展開作戦に投入されるシナリオは多々あるが、沖縄を本拠地とする米軍部隊が対処することに為る対日軍事攻撃或は日本周辺での軍事紛争に話を限定するなら、抑止力として中国や北朝鮮に睨みを利かせて居るのは、在沖縄海兵隊では無く嘉手納航空基地の米空軍なのである。
今回の連載では、沖縄の米海兵隊基地問題を議論する大前提として、沖縄の米海兵隊の駐留理由や意義に付いて、イデオロギーや県民感情、騒音問題や環境問題等を切り離し、純然たる軍事問題として考察した場合、どの様な議論が為されているかを、筆者の知り得る範囲ではあるが、米海兵隊、米海軍、米空軍、シンクタンク等の軍事専門家達(その大半は沖縄に駐留した経験がある高級将校)の意見や実際の論争を、筆者の考えや立場等を交えず、簡明に要約する形で紹介した。
何と言っても沖縄への米軍駐留は、一義的に日本自身の国防問題だ。米軍関係者の間でもこの様な軍事的視点で賛否両論が展開されて居る事を踏まえ、日本側でも沖縄の米海兵隊や米空軍、それ等の各種施設等に関する軍事的考察が加えられる事が強く望まれる。
ミリタリーリポート@アメリカ 以上
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