2023年04月17日
シシノケ 2
道はある程度手入れじゃされてるけど、コンクリートじゃないし雨でぬれててびしょびしょ。
正直腰が抜けそうなくらいびびってた俺は足元に気を配る暇なんてなかった。
地面に出ていた木の根っこに足をひっかけた。
見事にすっころんだ。
崖っていうほどじゃないけど、すこし段差になっているところから落ちた。
ランタンとガスガンは手元にあったけど、頭をちょっとぶつけたらしく視界が不明瞭だった。
犬が道のほうからこっちに向かって吼えてるのが見える。
体を起こそうと思ったが上手いこと体が動かない。
一瞬もうだめかと思った。
まぁでも犬がずっと吼えてたらしく、しばらくして視界がはっきりしはじめて起き上がれた。
崖っていうよりほんと段差だったから自力でのぼったんだけど、さっきまで元気に吠えてた犬の声が聞こえない。
不安に思い急いでかいだんを上がって道に戻った。
そこにはさっきのそれと唸りながら距離を詰めずに身構えてるうちの犬がいた。
とにかく俺はそれの顔らしき部分に一発撃ち込んだ。
8oとはいえ所詮サバゲで使ってるエアガンだから威力なんて大してないことはわかってたけど、犬にこれ以上危険なことをさせたくなかった。
ちょっと文字で表せない音でそれは鳴いた。
そのまま俺は犬と一緒に道を走り始めた。
いっこくも早く管理人さんのいる建物へ。
それだけを考えていた。
管理人さんがいる建物までは結構距離があったけど夢中で走った。
雨は土砂降りだし体中擦り傷なのか打撲なのか分からないけど痛いし、泥だらけで気持ち悪かった。
ただそこで立ち止まったらやばいと思って無我夢中で走った。
なんとか管理人さんがいる建物までたどりついた。
カギはしまっていたが明かりはついていたので、思いっきり玄関の扉をたたいた。
管理人さんがあけてくるまでの時間がかなり長く感じたけど、なんとか中に犬と一緒に入れた。
管理人さんが扉をしめると腰が抜けたように地面に座り込んでしまった。
俺は多分すごい大声で、「扉を!早く鍵を閉めてください!」と怒鳴った。
管理人さんは不思議そうな顔をしながら俺と犬を見つつ鍵をしめた。
息があがっていたので俺はしばらく管理人さんに何があったのかと問われても答えられなかった。
とりあえず談話室のようなところに通されて、タオルを渡してくれたのでそれで体を拭きつつ、出されたコーヒーを飲んで冷静さを取り戻そうとしていた。
犬のほうは管理人さんがタオルで体を吹いてくれた。
犬に傷らしい傷はなく安心した。
管理人さんが犬を吹き終わると対面の椅子に座り、「どう?落ち着いた?」と言ったので、俺は事のあらましを語り始めた。
管理人さんはあいづちをうちつつ話を聞いてくれたが、次第にその表情が強張っていくのが分かった。
一通り話を終えると管理人さんは立ち上がり、談話室の片隅に置いてあるロッカーに向かい鎖についた軟禁所を外し中から猟銃?らしきものを持ち出してきた。
そして「戸締りを確認してくる」と言って他の部屋に行った。
管理人さんがいるのはちょっと大きめのバンガローみたいな感じで、部屋もそんなにあるわけではないと思うんだけど、管理人さんは中を走り回っていた。
しばらくして帰ってきた管理人さんは、談話室にある暖炉に薪をくべはじめた。
一通り作業が終わると猟銃を片手に管理人さんは俺の対面に座り、厳しい表情で話をはじめた。
管理人さんが話したことをまとめると、この山には昔から土俗?の神の類がいると言われていて、管理人さんはこの山を所有する一族らしく昔からそういう話は聞いていたらしい。
姿形や特徴は俺が話したものとほぼ同じのもので、カモシカを食べたりする話が残ってるらしい。
管理人さん自体は見たことはないらしいんだけど、ナメクジのような化物を見たという話をお客さんからされたこともあるらしい。
今回管理人さんが驚いたのは、滅多にいないけど見たお客さんはいたけど、襲われたとか追いかけられたとかそういう体験談がないかららしい。
管理人さんはそういうのは信じないタイプらしいが、俺のただならぬ様相を見てちょっとやばいと感じたらしい。
管理人さんと俺と犬のまぁ3人でその夜は談話室で過ごした。
午前2時くらいだろうか。
俺は疲れていたせいかいつの間にか寝てしまっていたみたいで、管理人さんに肩を揺すられて起こされた。
外から例の赤ん坊の泣き声がするらしい。
ルッツも俺の足元で身構えていた。
管理人さんも俺も外を見る勇気はなかった。
とりあえず暖炉の火を絶やすまいと二人で薪をくべた。
管理人さんの話だと人を食うという話はないらしいけど、襲われたのは事実だから警戒を解くわけにはいかなかった。
ふと話しかけられた声の内容を思い出した。
イトッシャノウ?
このことを管理人さんに話してなかった。
管理人さんに話すとわからないと言うが、言葉のニュアンスから金沢弁か石川県の方言ではないかということだ。
管理人さんもいざ例の声が聞こえると、いてもたってもいられなくなったらしく二人で玄関のほうにいき外の様子を窓から覗いた。
外は相変わらず真っ暗な状態だったが、確かに赤ん坊の泣き声は玄関のほうから聞こえてきた。
そのときドン…ドン…と鈍い音で玄関の扉をたたく音が聞こえた。
地響きって言ったほうがいいかも、そんな感じ。
木製の扉をドン…ドン…と、地響きのような音と雨の音、赤ん坊の泣き声が不気味さを変に増微させていた。
管理人さんは猟銃を扉に構えた。
俺もつられてガスガンを扉のほうに構える。
ルッツも俺のすぐ隣で扉に向かって身構えていた。
管理人さんの猟銃は2連発?
銃身が2本横に並んでる奴で中折れ式のやつ。
管理人さんは扉に向かってちょっと声が裏返ってたけど「だれだっ!何の用だ!」と怒鳴っていた。
鳴き声と扉をたたく音が止み雨の音だけが不気味に聞こえた。
3分ほどその静寂は続き、管理人さんと顔を見合わせてもう大丈夫でしょうかと俺がいいかけた瞬間、
ドンドンドンドン!!!
と大きく音がなり扉に何かが体当たりしてるように聞こえた。
管理人さんが引き金を引いた。
はじめて本物の鉄砲の音を聞いたけど耳がキーンとなった。
管理人さんは腰をぬかしていた。
扉にはいくつかの穴があいていた。
二人で恐る恐る扉をあけて外を見るも、そこには何もいなかったけどいくつも針のような毛が落ちていた。
二人で穴のあいた部分をべニア板や薪で補修した。
その日はルッツと管理人さんと俺で談話室の暖炉の前で寄り添って朝まで待った。
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