2021年04月21日
残穢
残穢(ざんえ)とは小野不由美により発表された小説である。
全体的な小説の雰囲気としては、小野不由美自身が小説家であり、本編の主人公が同じような境遇であることも手伝ってか、私小説や実際にあったことを書いているような印象があった。
残穢はホラー小説であるものの、リングや呪怨のように明確明瞭に幽霊やお化けといったものが登場するわけではないが、いかにも「ありそうな」雰囲気たっぷりのじわじわと来るタイプなので、苦手な人は本当に苦手である印象が強い。
映画より想像力が掻き立てられる小説の方が個人的にオススメ。
超個人的な話になるが、自宅で度々隣室から人の気配があり気になって見にいくと誰もいないといった現象が身近に度々あるので、残穢の読書感は正直下手なホラーよりも怖かった。
【内容】
残穢の大まかな粗筋は、小説家である「私」が読者からもらった手紙の内容が気になって長期的に調べていくという内容。
読者の手紙内容は要約すると「大したものではないが奇妙な音がする」といったもの。
その異音は「ざつ」といった、一軒家などでありがちな、誰もが一度は経験したことがあるであろう建物の軋みや夜間、光に惹かれて窓にコツンとぶつかってきた虫の衝撃音といった感じの、非常に軽いものである。
その「ざっ」の聞こえる音が畳の敷かれた部屋(手紙の送り主は気味悪がって物置部屋にして常に閉じている)が和室であることから、「手で畳を擦るような」、もしくは「箒をはいたような音」と、初期では表現していた。
音を聞く頻度もそれほど多くなく、たまに聞く程度といったもので心霊現象ともいえない、音から連想されるモノに勝手なイメージが付随しているという程度で怪異でも何でもないように思われていたが、事態は深刻化していくのであった。
月日が流れるにつれ、「ざっ」と言う音に顕著なイメージが想起されるようになり、「箒をはいている」ものから「布らしきものが左右に素早く動く」ものへと別物へと変化していく。
「ざっ」とした音によるイメージ想起の変化はそれだけに留まらず、やがて「布が左右に素早く動く」から、「着物の帯」、そうして最終的には「和装の首吊り死体のつま先が畳を擦っている音」といった物騒なものへと変わっていくのであった。
単に畳を擦る「ざっ」とした音から最終的に着地した地点がかなり大袈裟で臆病じみたもののように思えるが、家鳴りの軋みとは明瞭に異なった畳を擦る音は中々自然に聞くようなものではないように思われる。
「ざっ」の音が深刻化するにつれて、引っ越した先でも「ざっ」の音が付いて回るようになっていた。
手紙の投稿者は突発性難聴になったり、自身のプロジェクトが中止するといった不幸のアクシデントを迎えるものの健康に取り返しのつかない深刻な状態や不幸に見舞われることはなく、普通に生活している。
実は「ざっ」とした異音だけでなく、手紙を送った読者が住居を構える場所は「岡谷マンション」という場所で読者だけではなく、その他住民もいるはずのない赤ん坊の泣き声や奇妙な気配など、勘違いや気の所為スレスレの体験をしていたのであった。
実は某お笑い芸能人が曰くつきの物件に住んだ実話のように、岡山マンションも過去に自殺者ありの曰く付き物件であることが確かになる。その自殺者は男性であり、「ざっ」と音を立てる着物姿の首吊りと関係はないものの、その男性自殺者が出てから、後に入って来た新しい住居者は「着物の女性が首を吊っている」と証言して、早々に引っ越しをしていることが明らかになっていく。
心霊現象そのものはかなり地味で人や場所により頻度は少ないものでありながらも、呪怨のように強烈なものではない。
手紙の送り主もお祓いを受けたり、「私」自身も岡山マンションの奇妙な音や女性幽霊について調べていく中で、呪いの発祥地が判明することになる。何と原点は岡山マンションなどではなく遠く離れた地域である福岡の北九州。
「私」、手紙の送り主など様々な人物を集め、呪いの拠点に赴くことになるのだが、その土地最強の怪談である「奥山怪談」の存在が浮上する。奥山怪談とは話したり聞いたりするだけで呪われてしまうもので、恐らく呪い事態は本拠地から広まっていくにつれ徐々に薄まりながら、岡山マンションの男性の自殺など様々な現象を引き起こしていたものだと推測される。
呪いの力は健在なのか完全に穢れが祓いきっていないのか、「私」の同行者の一人が
「実は無関係に思える怪談話でも内容を確かめていくうちに、同じものである場合がある」
と述べたように奥山怪談は長年細々と人々に程度は様々でありながらも、悪影響を及ぼしていたと裏付けの取れる発言をしていた。
本編は呪いによる問題を解決することなく終わるのだが、読了後、ここから残穢のホラーが真骨頂を見せる。
それは小説の内容などではなく、リアル側の読破した人間の意識。
要は本を畳むのと同時に些細な物音に怯えてしまうといったものであるのだが、この所以が小説「残穢」を手元に置きたくないホラー小説たる異名になっているのであった。
首吊りを連想するなど突拍子がないながらも、家内でささやかな異音を耳にする機会など多くの人間が恐らく体験している。
身近なホラーとして、残穢は君臨しているのだ。
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