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2022年09月14日
中つ森の山神
中つ森の山神とは、洒落怖のひとつである。
山神様がやたらと人間臭い。
文章がやたら小説っぽい。
【内容】
もう30年以上も前の、私が小学生だった頃のこと。祖父の家に遊びに行った時の出来事だった。
寒くて凍てつきそうなこの季節になると、昨日の事の様に記憶が鮮明に蘇る。
学校が夏休みや冬休みになると、私は父親の実家でもある祖父の家に、毎年の様に長期で預けられた。
ひと夏・ひと冬を祖父と必ず過ごしていた。
あの年の冬も、祖父は相変わらず太陽の様な愛情に満ち溢れた優しい笑顔で私を迎えてくれた。
祖「よう来たなK(私の名前)。少し大きくなったか?」
私はたまらず祖父に抱き着き、いつもの様に風呂も寝る時も一緒に過ごした。
祖母は随分前に他界しており、祖父は一人、小さな家で暮らしている。
祖父もきっと、私が訪れるのを毎回とても楽しみにしていたに違いない。
祖父の家は、東北地方の山間に位置する集落にある。
私は毎年祖父の家を訪れる度に、冒険するようなワクワク感に駆られていた。
当時、私は都心の方に住んでいたので、祖父の住む土地の全てが新鮮だった。
清らかに流れる川や、雄大な山々、清々しい木々など、神々しく感じれる程の素晴らしい大自然が、私は大好きだった。
いつも穏やかで優しく、決して怒るということはしない。
その穏やかな性格と屈託のない笑顔で、祖父はたくさんの人たちから愛されており、花がパッと咲いた様に、祖父の周りはいつも笑顔が絶えなかった。
また、祖父は農業の他にマタギ(漁師)の仕事をしており、山の全てに精通していた。
大自然と共に生き、また、生き物の命を奪う、マタギという仕事をしているが故に、誰よりも命の尊さや、自然の大切さと調和を何よりも重んじている人だった。
祖父の家に滞在してはや一週間経ったそんなある日の朝、私は集落の友人AとB2人で秘密基地を作りに出かけた。
私「いってきまーす!おじい、おにぎりありがとう」
祖「おお、気をつけるんだぞ。川に落ちないようにな。あまり遠くに行くんでねぇぞ。あ、ちょっと待てK」
私「なに?」
祖「ええか、K。何度も言うが“中つ森”にだけは絶対に行ったらあかんぞ。あそこはおじい達も近づけん場所だからな。わかってるか?」
私「うん、わかってるよ」
祖「それと…なんだか今朝から山の様子がおかしくてな。鳥がギャーギャーうるせぇし、それでいて山の方は妙に静かなんだが、変に落ち着かねぇ。おめぇにあまり小うるせぇ事は言いたくねぇけど、こんな日はなるたけ山の奥には行くんでねぇぞ」
私「はーい」
その日はこの時期には珍しく雪が降っておらず、よく晴れた日だった。それ以外は何も変わらない、いつもの朝だ。
だが、この時私はまだ、祖父の言っていた言葉の意味がよくわからなかった。
ところで“中つ森”というのは、この山の中にある一部の森で、『そこには絶対に行っては行けない』と、祖父から常々言われている場所だった。
近づいていけない理由は、なんでも“中つ森”はこの山の神様である“山神様”を奉ってある神聖な森であるから、決して立ち入ってはならないのだとか。
もし山神様に会ってしまうと、命を吸われたりだとか、はたまた生命力を与え、一生健康に暮らせるだとか、色々な話があるようだ。
『命を奪いもすれば与えもする、この山そのものの神様』と祖父は言っていた。
もっとも、私はもともとここの人間ではないし、“中つ森”の場所がどういう場所でどこに存在するのかも、いまいちわからなかったので、祖父の言うことはよくわからなかった。
そして私は友人たちと合流し、山に到着したあと、秘密基地を作る場所を探した。
A「さてどこで作るか?」
私「大人に見つかったら隠れ家の意味ないもんね」
私達は更に山奥に進んだ。
30分ほど歩くと、雑木林の中に丁度良い開けた場所があり、そこに秘密基地(秘密基地と言ってもかまくらだが)を作ることにした。
そして昼も過ぎ、昼食をとりながら基地作りに没頭していた。
日が暮れかけている夕方になった頃、Aは落ち着かない様子で林の奥の方を見つめていた。
私「どうしたの?」
A「…なんか、山が変な感じだ。いつもと違う」
私にはAの言ってる意味がよくわからなかった。
私の目に映るのは、別にいつもと変わらない、ありふれた山の光景だ。
ただ、確かなことは、Aの言っていることは祖父の言っていたことと重なっていた。
私「どういうこと?」
A「俺もようわからんけど、なんかこう…山がゆらゆら揺らめいている感じだ。吹いてくる風もなんか変だ。寒くもないし暖かくもないし…ほら、見れ!」
Aが指さした森林の奥を、鹿が5、6頭群れをなして走り去った。
そして続くように、鳥の群れも、何かから追われるように騒ぎ立てながら私達の上を飛び去っていった。
B「今の時期、鹿はもっと上の奥の方にいるはずなのにどうしてだ?熊から逃げてるのかな?それだったらまずいぞ」
A「いや、この辺りは村のおじい達(マタギ)が仕切ってるから、熊は絶対近寄らんて。やっぱりなんか変だよ、もう今日は帰ろう」
B「そうだな、今日は帰った方がよさそうだ。遅いし」
まだまだ遊べたが、私達は早々に帰ることにした。
この時なんとなく嫌な感じがしたのをまだ覚えている。
中つ森の山神 2へ
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2022年09月13日
ヒギョウ様 2
次の日、午前中、弟と虫取り遊びをし、帰って早めの昼食を摂っていると何か違和感を覚えました。
(ああそうだ、今日はお爺ちゃんが居るんだ)
よく考えてみると、それまでお爺ちゃんと一緒に昼食を摂った記憶がありません。
いつもお昼の11時30分頃から姿が見えなくなっていたのです。
その日は村の寄り合いがあるとかで朝から出かけており、11時頃にベロベロに酔っ払って帰ってきて、一緒に食卓を囲んだのでした。
お爺ちゃんは白飯に冷たい麦茶と漬物でお茶漬けにして食べていましたが、途中で食卓に突っ伏して寝てしまいました。
私達は起こしちゃ悪いと思って静かに食事を済ませ外に遊びに行きました。
外に出てから前の晩にチラッと見た孵化室の玩具のようなものを思い出し、弟と一緒に見に行くことにしました。
それは、玩具ではありませんでした。
ペンキのようなもので鏡面を朱色に塗られた手鏡。
粘土で作られた小さな牛の像。
プラスチックの安そうな造花。
昨夜はカラフルな色合いから、玩具のように見えたのでしょう。
しかし、それらはなんに使うものかまったく見当も付きませんでした。
私はお爺ちゃんが昨夜卵を捨てていたゴミ箱に気が付きました。
昨夜は暗くてよく分かりませんでしたが、明るいところで見るとそのゴミ箱の蓋は昔風の線を崩した読めない字で何か書いてある古そうな紙が一杯貼ってありました。
「あっ!生まれとるで!…え、何…アレ…」
孵化器を覗いていた弟が卵が孵っているのを見つけたそうです。
私は、生まれたての雛を見たくて孵化器の扉を開けました。
すると雛?がいました。
しかし、その雛?は他の雛とは何かが違いました。
良く見ると他の雛達と違い、全く震えていませんでした。
全くさえずっていませんでした。
そして眼が、眼だけが、人のそれでした。
ソレは孵化器の棚からドサッと土間へ落ちると、首を振らず、スタスタと歩いていきました。
私はその異様さに、動くことができませんでした。
それが孵化室を出て西のほうへ歩いていき、見えなくなると、金縛りが解けたようにやっと動けるようになりました。
そして弟の方を見ると、弟はよだれをダラダラ流し、眼はどこを見ておらず、呼びかけても呼びかけても、反応がありませんでした。
私が大声で弟の名を何度も呼んでいると、お爺ちゃんとおばあちゃんが息を切らして飛び込んできました。
「おいっ!!見たんか!!」
私はお爺ちゃんの形相が恐ろしくて「見てない」と答えました。
お爺ちゃんは私の眼を見ながら
「見とるんじゃろ。どっち行ったんなら?」
と怖い眼で聞きました。
「あっち」
と私は西のほうを指差しました。
するとお爺ちゃんは出入口のドアの横においてあった粘土と牛の像と造花を持って、私の指差した方へ走っていきました。
お婆ちゃんは弟の名前を何度も呼んでいましたが弟はよだれを流すばかりでなんの反応もしませんでした。
「ヒギョウさまと眼が合うたんか…」
お婆ちゃんは悲しそうに言いました。
「もう治らんの?」
私は、弟とそれを見るお婆ちゃんに、幼いながらもただならぬ様子を感じ、そう訊ねました。
「いや…坊、そこの赤うに塗っとる鏡を取ってくれ」
私が鏡面を朱色に塗られた手鏡を手渡すとお婆ちゃんは、
「見ちゃあいけん、母ちゃんのところへ行っとき」
と、私を孵化室の外へ出しました。
私は母と姉のところにも行きましたが、母に何と話してもいいものか、何も言えずに母に抱きついていると、弟とお婆ちゃんが戻ってきました。
私は歩いてくる弟を見て、
(ああなんでもなかったんだ。良かった)
とホッとしましたが、何か、弟に違和感を覚えました。
話してみると、確かに弟です。
一緒に孵化室に行ったことや、昨日のこと、一昨日のことも覚えています。
しかし、どこか、何かが違うのです。
母も、弟に何かを感じたのでしょう。
お婆ちゃんに
「お母ちゃん、まさか…」
と聞きました。
お婆ちゃんは悲しそうに頷くだけでした。
母が、弟を抱きしめてワンワンと泣いたのを覚えています。
弟はキョトンとしていました。
姐は弟を薄気味悪そうに見ていましたが、母が泣くのを見て、一緒に泣き出しました。
しばらくすると、お爺ちゃんが帰ってきました。
「ダメじゃ、間に合わなんだ」
そう言って悲しそうに首を振りました。
「婆さん、誰かは分からんが、遅うても2、3日の内じゃろう、喪服を出して風邪に当てというてくれ」
そういうとお爺ちゃんは弟を抱きしめ、
「すまんのう、お爺ちゃんが寝とったけえ、こがあなことに…ほんまにすまんのう」
お爺ちゃんはボロボロと涙を流して謝りました。
弟は
「何?お爺ちゃん痛いよ」
等言っていました。
その声、そのしぐさ、確かに弟なのですが、やはりソレは弟ではありませんでした。
後からお爺ちゃんは言いました。
「お天道さんお一番高い刻と夜の一番深い刻に生まれた雛は、御役目を持っるんじゃ。じゃけえ、殺さにゃいけんのよ」
「夜に生まれた雛も『ヒギョウさま』になるの?」
と、私は聞きました。
「確かに…ほうか、婆さんが言うたんか。いや、違う。夜に生まれたんはもっともっと恐ろしいもんになるんじゃ」
そういってお爺さんは薄気味わるそうに孵化室のほうを見ました。
この時の話はこれで終わりです。
後に、私が高校の時に、実家が養鶏場を営んでいる同級生がいました。
そいつに『ヒギョウさま』について聞いてみると、最初は何のことか分からない様子でしたが、あの夏の出来事を話すと
「ああ『言わし鶏』のことだな」
と言っていました。
何でも、今ではオートメーション化が進み、センサーとタイマーにより、自動的に12時と24時に孵りそうな卵は排除されるのだそうです。
あれから毎年島根へ帰省しています。
弟は元気に小学校で教師をしています。
もう、以前の弟がどうだったか、覚えていません。
だからもういいのです。
アレから二十年も家族として暮らしてきたのですから、もう完全に家族なんです。
2022年09月12日
ヒギョウ様
ヒギョウ様とは洒落怖の一つである。
家族が増えたね。
【内容】
今はもう廃業していますが、私の母方の実家は島根で養鶏場をしていました。
毎年の夏休みには母親と姉、弟、私の4人で帰省していました。
父は仕事が休めず毎年家に残っていました。
母の実家は島根県の邑智郡と言うところで、よく言えば自然豊かな日本の原風景が広がる土地、まあはっきり言って田舎です。
そこでいつも一週間ぐらい滞在してお爺ちゃんとお婆ちゃんに甘えながら楽しく遊びました。
田舎のことですのでお爺ちゃんもお婆ちゃんも朝がとても早く、夜がこれまたすごく早い。
朝4時ころには起きて、一番鶏が鳴く前に養鶏場の鶏に飼料をやり初め、そのまま糞をとったり卵を回収したり、孵化器を見たりの作業をしつつ、畑の手入れをし、夕方の5時ころには作業をやめて夕食、そして夜の7時ころには晩酌のビール片手にうつらうつらし始めるのです。
自然と私達も夜の8時ころには布団に入るのですが、そんな早くから寝れるものではありません。
布団の中でその日行った川での出来事や、明日何をしようか等考え始めると、目が完全に冴えてしまい、寝られなくなりました。
夜中、真っ暗な天井の貼りを見るともなしに見ていると、私達の居る居間の隣、お爺さん達の寝ている六畳間のふすまが開く音がし、廊下をギシギシと誰かが歩き、玄関をあけて出て行きました。
そのまま夢うつつでボーっとしているとしばらくして柱時計がボ〜ンボ〜ンと12回鳴り
(ああ、もうそんな時間か)
と思いました。
すると5分くらいして玄関の開く音がし、誰かがサンダルを脱ぎ、廊下をまたギシギシと歩き、六畳間へ入っていきました。
(お爺ちゃんかお婆ちゃんが鶏の様子か畑の様子でも見に行ったのだろう)
そう思い、あれこれ想像しているうちに寝たようで、気が付くと朝になっていて、皆もう朝ごはんを食べていました。
夢うつつの状態の出来事だったので、夢かもしれないと思いましたが、その日の夜、また眠れずに居ると、やはり同じように夜中に誰かが外に出て、同じようにしばらくして戻ってくるのです。
次の日も、また次の日も、どうやらその誰かは毎晩11時30分に出て行き、0時5分ころに戻ってくるようです。
昼間に姉と弟に聞いてみても、二人ともぜんぜん気付いていない様子でした・
大人のする事にはなんでも興味があった頃のことです。
私は誰が何をしているのか見てみたいと思いました。
5日目、昼間あまり騒がないように体力を温存し、眠くならないようにしてその誰かの後をつけることにしました。
これまで毎晩眠れなくて困っていたのに、眠らないようにしようと思うと今度は眠たくなるもので、危うく寝過ごすところでしたがないとかその誰かの気配で目を覚ますことが出来ました。
気配が玄関を出て行くのを待って、私も玄関へ行き、サンダルを履いて外に出ると、お爺ちゃんが母屋から50pくらい離れたところにある孵化質の中へ入っていくところでした。
孵化室というのは、鶏の産んだ卵をある程度まで育てる専用の建物で、本来なら孵化所とでも呼ぶべきなのでしょうが、お爺ちゃんは孵化室と呼んでいました。
私もそっとお爺ちゃんの後に入ってみると、中は照明が付いておらず、孵化器の中から漏れるヒヨコ電球のボンヤリとした赤い光だけが頼りでした。
薄暗いと言うかコタツの中のような赤暗い中で、お爺ちゃんは凄く真剣な顔で孵化器の中を覗いていました。
そしてたくさんある卵の中から3つほど取り出し、卵から顔をそむけるといきなりブルキのゴミ箱の中に叩きつけました。
私はビックリして
「なにしょうるん?」
と大声で言ってしまいました。
お爺ちゃんは私以上にビックリした様子で、倒れるんじゃないかと心配になるくらいの形相で下が、私だと分かると安心したのか全身の力が抜けたようになって
「なんじゃ、坊か、ビックリさすなや」
と苦笑いを浮かべました。
私がもう一度
「なにしょうるん?」
と聞くとお爺ちゃんは
「悪いんをとりょうるんよ」
と言って、また孵化器の中を覗き始めました。
私はこれまでに孵る前の雛を間引くなぞ聞いたことも無かったので
「ヒヨコに悪いんがおるん?」
と聞きました。
お爺ちゃんは
「ほうよ、取らにゃ大変なことになるんよ」
と言って孵化器の中からまた一つ卵を取り出しました。
私は卵を良く見ようと覗き込みましたが、お爺ちゃんがあわてた様子で
「こりゃ見ちゃダメじゃ!目が潰れるで!」
と言ってすぐにブルキのゴミ箱の中に卵を叩きつけてしまいました。
私が見た卵には、中から雛が突いたのでしょう。大きなヒビが入っており、もうじき雛が孵りそうな様子でした。
ゴミ箱の中はスプラッタな様子が用意に想像できたので見たいとも思いませんでしたが、お祖父さんは私の目から隠すようにすぐに蓋をしていました。
その時、ゴミ箱の蓋に何か白い紙のようなものが貼ってあるのが見えました。
何だろうと思っているとお爺ちゃんが腕時計を見て、
「0時を回ったけえ、今日は終わりじゃ、坊、帰って寝ようや」
と言い、すぐに孵化室から出ようとしました。
私も夜中にこんな不気味なところへ一人で残されるのは御免なのであわてて孵化室を出ました。
そのとき、孵化室のドアの横になにか玩具みたいなものが見えたような気がしましたが、もう眠いし、ちょっと怖くなってきたので、次の日見ることにして、お爺ちゃんと一緒に母屋に帰り、その晩はお爺ちゃんの布団で一緒に寝ました。
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2022年09月09日
固芥さん
固芥(こっけ)さんとは、洒落怖の1つである。
どうやら、こけしに関わりがある話のようだが……。
【内容】
こんばんは。
コケシの話が怖いみたいですね。
あんまり自分の出た地域のことは言いたくないんですけど…私の田舎ではコッケさんといって、コケシのような呼び方をすると大人にそうとうおこられました。
中学に上がりたての頃、半端なエロ知識で「電動こけし」という単語を知ったクラスの友達が、コケシコケシと連呼しているのを、副担当に見つかり、バカスカ殴られていました。
大学に入って初めて知ったんですけど、副担任(フクタンニン)なんておいう役職はほかの地域にはないんですよね。
あ、副担任というのは、生活指導副担という意味で、別に何の教科を担当しいぇいたわけでもないです。
野球部のコーチみたいな感じで、毎日学校には出てくるのですが、だいたい用務員室で茶飲んで定時前には帰るような感じでした。
学校行事の中で、踊りみたいなものは、副担当の先生が、指揮をとっていました。
運動会で、必ず、メイボールの祭りみたいな踊りを、伝統的にやらされていたのですが、これは、副担任の独壇場でした。
列が乱れたり、ボールから引いたリボンがたるんでいたりすると、起こるような。組体操よりぜんぜんこっちが大事でした。
体育教師の数倍ヤな感じでした。
高校に入って、地元の青年会に入ると、コッケさんのあらましは聞かされるのですが、それもまぁ、コッケさんという地神さんは伝統だから、行事は守らないといけない、みたいな感じの話で要領を得ません。
地元に大きな神社や宗教施設がないし、中学高校にもなると、さすがに、いろいろヘンなうわさが立っていました。
・**中学の裏にある井戸が本導で、毎年一人生贄にされる
・高校出て町に出るときは井戸に後ろ髪を収めさせられる
噂は噂でしたけど、実際私がいたところは後ろ髪を伸ばした奴が多かったです。単なるヤンキーだったのかもしれないんですけど。今は帰らないのでどうかわかりません。
今、同郷の女の子が近くのマンションに住んでて、そこのこの叔父さんが福担当やってたんですけど、このスレで、コケシの話題が出たので、なんか関係ありそうだったので聞いてみました。
*
私たちがコッケと読んでいるのは「固芥」と書くらしいです。
明治に入ってすぐのころ、飢饉と水害と土砂崩れで、ムラが、外部との交通が遮断されたままひと冬放置されたことがあったそうです。
十二月二十八日のこと(旧暦かどうか不明)、知恵の遅れた七歳の子供が、村の地区(どの地区かは教えてくれませんでした)の備蓄の穀物を水に戻して食べてしまったそうなのでした。
その子供は村の水番が、妹の間につくった子供で(本当かどうかわかりませんが、水車小屋のような場所があったのですぐそういう、性的な噂が建てられた)水番が罪を犯すと翌年は日照りになるという迷信がまだ残っていました。
水番は責任感が強かったので、子供を殺して村に詫びようとしたそうです。
実際「子供を殺せ」と書いた無記名の手紙を投げ入れるような嫌がらせが、すぐ始まったそうです。
水番に不利に扱われていた家も多かったし、実際、穀物の管理責任は水番にあるのでそういうのがおきても仕方ない状況ではあったそうです。
年明けて、一月二十八日の深夜。
いくら何でも水番が自分の息子を殺すのを容認はできませんので、このことは村全体で考えよう、と談判していたところだったのですが、水番の妻が泣きながら世話役の家にまで走りこんで来て、亭主が首を括ったので来てくれ、と言うのです。
水番の家に行くと、井戸の上に「井」の字に竹を渡して、そこから首を吊るすようにして絶命している水番がいました。
あまりの酷さに世話役たちが顔を背けていると、くだんの息子が、傍らから、世話役の袖を引いて、
「みましたか!みましたか!」
と、目をらんらんと輝かせて尋ねるのだそうです。
この子はもはや正気ではないとわかっていました。
が、当時の解釈ではこれは、水番の相反する気持ちが、子の魂は滅ぼしても子の肉体は母のために生かしておいてやりたい、という願いになり、親子の魂が入れ替わったのだ、というのが支配的でした。
間引きのために子供を殺したことはありませんでしたが、このとき、村で初めて、この子供を「殺そう」という結論が出たのだそうです。
横糸を斜めに織った長い綿布で首を包んで、布に少しずつ水を吸わせて、誰も手をかけないうちに殺そうということになりました。
しかしそこは、素人考えですので、首は絞まっても中々絶命しません。
子供は父と同じ顔で「誰じゃ、食ったのは誰じゃ」と声を上げていました。
恐れおののいた村人は、父が死んだのと同じように井戸に竹を渡してそこから子供を吊るしました。
ものすごい形相でにらむので、まぶたの上から縦に竹串を刺しました。
子供は、数日、糞便を垂れ流して暴れたのち、絶命しました。
その明けた年は、飲み水から病気が発生し、多くの人が命を失いました。
さらに、本当に穀物を食ったのが、この子供ではなく、世話役の十三になる子供だったことがわかったのだそうです。
このとき、世話役は容赦なく、わが子を同じ方法で吊るしたのだそうです。
あくる年の一月二十八日のことだそうです。
*
「というわけで、一月二十八日はコッケさんの日になったんですよ」
「はー、なるほど。命日なわけな」
うちで飯を食べてもらいながら、彼女(指副担の姪っこ)に、教えてもらいました。
「だから固芥忌(コケキ)っていうのが正しいんですよ」
「運動会の行事も、意味がわかると、ひどいね」
「…村人全員で子供をシめる儀礼ですからね。本来こういうk達でやさしく弔ってあげたのに、という。偽善ですよね」
「うん」
(運動会の踊りは、メイボールMaypoleの祭りに似ていますので、知らない人は検索してもらうとどういう形なのかわかります。中央のボールが子供です)
「…あとですね、これ、私一人で気づいたんですけど」
彼女は、ペンを取って、チラシの裏に、「芥」の字を書きました。
「おお、28やん。オレも今気づいた」
くさかんむりと、その下の八の字で、二十八と読めます。
「え?」
彼女はきょとんとしていました。
「いやだから、にじゅうとはちで、その命日を表してるんでしょ?」
「…ほんとだぁ」
「え、違うの?」
「いや、そっとが正しいんですよねたぶん」
「何よ、教えてよ」
「いや、いいです」
しばらく押し問答した末、彼女は折れて、文字を書き足しました。
「これね、縦書きなんですよ」
固
芥
「目をつぶされた子供が、竹の枠に首から下がってるの、わかるでしょ?」
2022年09月08日
両手で顔を覆う人々
両手で顔を覆う人々とは洒落怖の一つである。
【内容】
人ごみにまぎれて妙なものが見えることに気付いたのは去年の暮れからだ。
顔を両手で覆っている人間である。
ちょうど赤ん坊をあやすときの恰好だ。
駅の雑踏の様に絶えず人が動いている中で、立ち止まって顔を隠す彼らは妙に周りからういている。
人ごみの中でちらりと見かけるだけでそっちに顔を向けるといなくなる。
最初は何か宗教関連かと思って、同じ駅を利用する荒廃に話を聞いてみたが彼は一度もそんなものを見たことはないという。
その時はなんて観察眼のない奴だと内心軽蔑した。
しかし、電車の中や登下校する学生達、さらには会社の中にまで顔を覆った奴がまぎれこんでいるのを見かけてさすがに怖くなってきた。
後輩だけではなく何人かの知り合いにもそれとなく話を持ち出してみたが誰もそんな奴を見たことがないという。
だんだん自分の見ていないところで皆が顔を覆っているような気がしだした。
外回りに出てまた彼らを見かけた時、見えないと言い張る後輩を思いっきり殴り飛ばした。
俺の起こした問題は内々で処分され、俺は会社を辞めて実家に帰ることにした。
俺の故郷は今にも山に呑まれそうな寒村である。
両親が死んでから面倒で手をつけていなかった生家に移り住み、しばらく休養することにした。
幸い独身で蓄えもそこそこある。
毎日本を読んだりネットを繋いだりと自堕落に過ごした。
手で顔を覆った奴らは一度も見なかった。
きっと自分でも知らないうちにずいぶんとストレスがたまっていたのだろう。
そう思うことにした。
ある日、何気なく押入れを探っていると懐かしい玩具が出てきた。
当時の俺をテレビに釘付けにしたヒーローである。
今でも名前がすらすら出てくることに微笑しながらひっくり返すと俺のものではない名前が書いてあった。
誰だったか。
そうだ、確か俺と同じ学校に通っていた同級生だ。
同級生とはいっても机を並べたのはほんの半年ほど。
彼は夏休みに行方不明になった。
何人もの大人が山をさらったが彼は見つからず、仲のよかった俺がこの人形をもらったのだった。
ただの懐かしい人形。
だけど妙に気にかかる。
気にかかるのは人形ではなく記憶だ。
のどに刺さった骨のように折に触れて何かが記憶を刺激する。
その何かが判ったのは生活用品を買いだしに行った帰りだった。
親友がいなくなったあの時、俺は何かを大人に隠していた。
親友がいなくなった悲しみではなく、山に対する恐怖でもなく、俺は大人たちに隠し事がばれないかと不安を感じていたのだ。
何を隠したか。
決まっている。
俺は親友がどこかにいったか知っていたのだ。
夕食を済ませてからもぼんやりと記憶を探っていた。
確かあの日は彼と肝試しをするはずだった。
夜にこっそり家を抜け出て少し離れた神社前で落ち合う約束だった。
その神社はとうに人も神もいなくなった崩れかけの廃墟で、危ないから近寄るなと大人達に言われていた場所だ。
あの日、俺は夜に家を抜け出しはしたのだが昼とまったく違う夜の町が怖くなって結句億家に戻って寝てしまったのだ。
次の日、彼が居なくなったと大騒ぎになった時、俺は大人に怒られるのがいやで黙っていた。
そして今まで忘れてた。
俺は神社に行くことにした。
親友を見つけるためではなく、たんに夕食後から寝るまでが退屈だったからだ。
神社は記憶よりも遠かった。
大人の足でもずいぶんかかる。
百段を登ってから神社がまだ原型をとどめていることに驚いた。
とうに壊されて更地になっていると思っていた。
ほんの少し期待していたのだが神社の周辺には子供が迷い込みそうな井戸や穴などはないようだ。
神社の中もきっとあのときの大人たちが調べたろう。
家に帰ろうと歩き出してなんとなく後ろを振り返った。
境内の真ん中で顔を両手で覆った少女が立っていた。
瞬きした。
少女の横に顔を覆った老人が立っていた。
瞬きした。
少女と老人の前に顔を覆った女性が立っていた。
瞬きした。
女性の横に古めかしい学生服を着込んだ少年が顔を覆って立っていた。
瞬きした。
皆消えた。
前を向くと小学生ぐらいの子供が鳥居の下で顔を覆って立っていた。
俺をここから逃がすまいとするように。
あの夜の約束を果たそうとするように。
2022年09月07日
自己責任3
それから裏の山に上がって、神社の社務所に行くと、中年の小さなおばさんが、白い服を着て待っていました。
めちゃめちゃ怒られたような気もしますが、それから後は逃げた安堵感でよく覚えていません。
それから、Aが学校に来なくなりました。
私の家の親が神社から呼ばれたことも数回ありましたが、詳しい話は何もしてくれませんでした。
ただ山の裏には絶対行くなとは、言われました。
私たちも、あんな恐ろしい目に遭ったので、山など行くはずもなく、学校の中でも小さくなって過ごしていました。
期末試験が終わった日、生活指導の先生から呼ばれました。
今までの積み重ねまとめて大目玉かな、殴られるなこら、と覚悟して進路室に行くと、私の他にBとDが据わっています。神主さんも来ていました。生活指導の先生などいません。
私が入ってくるなり神主さんが言いました。
「あんなぁ、Cが死んだよ」
信じられませんでした。
Cが昨日学校を休んで来ていなかったこともそのとき知りました。
「学校さぼって、こっちに括っとるAの様子を見にきよったんよ。病院の見舞いかないんとやけん危ないってわかりそうなもんやけどね。裏の格子から座敷のぞいた瞬間にものすごい声出して、倒れよった。駆けつけたときには白目むいて虫の息だった」
Cが死んだのにそんな言い方はないだろうとおもってちょっと口答えしそうになりましたが、神主さんは真剣な目で私たちの方を見ていました。
「ええか、Aはもうおらんと思え。Cのことも絶対に忘れろ。アレは目が見えんけん、自分の事を知らん奴の所には憑きには来ん。アレのことを覚えとる奴がおったら、何年かかってもアレはそいつのところに来る。来たら憑かれて死ぬんぞ。それと後ろ髪は伸ばすなよ。もしアレに会って逃げたとき、最初に髪を引っ張るけんな」
それだけ聞かされると、私たちは思い気持ちで進路室を出ました。
あのとき神主さんは私の伸ばしていた後ろ毛をハサミで切ったのです。
何かのまじない程度に思っていましたが、まじないどころではありませんでした。帰るその足で床屋に行き、丸坊主にしてもらいました。
卒業して家業を継ぐという話は、その時から諦めなければいけませんでした。
その後私たちはバラバラの県で進路につき、絶対に顔を合わせないようにしよう、もし会っても他人のふりをすることにしなければなりませんでした。
私は、1年遅れて隣県の高校に入ることができ、過去を忘れて自分の生活に没頭しました。紙は短く刈りました。
しかし、床屋で「坊主」と頼むたび、私は神主さんの話を思い出していました。
今日来るか、明日来るか、と思いながら、長い3年が過ぎました。
その後、さらに浪人して、他県の大学に入ることができました。
しかし、少し気を許して盆に帰省したのがいけませんでした。
もともと私はおじいちゃん子で、祖父はその年の正月に亡くなっていました。
急のことだったのですが、せめて初盆くらいは帰ってこんかと電話で両親も言っていました。それがいけませんでした。
駅の売店で新聞を買おうと寄ったのですが、中学時代の彼女が売り子でした。
彼女は私を見るなりボロボロと泣き出して、BとDがそれぞれ死んだことをまくし立てました。
Bは卒業後まもなく、下宿の自室に閉じこもって首をくくったそうです。部屋は雨戸とカーテンが閉められ、部屋中の扉という扉を封印し、さらに自分の髪の毛をその上から一本一本几帳面に貼り付けていたということでした。
鑞で自分の耳と瞼に封をしようとした痕があったが、最後までそれをやらず自害したという話でした。
Dは17の夏に四国まで逃げたそうですが、松山の郊外の町で、パンツ1枚でケタケタ笑いながら歩いているのを見つかったそうです。
Dの後頭部は鳥がむしったように髪の毛が抜かれていました。
Dの瞼は、閉じるのではなく、絶対閉じないようにと自らナイフで切り取ろうとした痕があったそうです。
このときほど中学時代の人間関係を呪ったことはありません。BとDの末路など、今の私にはどうでもいい話でした。
つまり、アレを覚えているのは私一人しか残っていないと、気づかされてしまったのです。
胸が強く締め付けられるような感覚で家に帰り着くと、家には誰も居ませんでした。
後で知ったことですが、私の地方は忌廻しと云って、特に強い忌み事のあった家は、本家であっても初盆を奈良の寺で行うという風習があったのです。
私は連れてこられたのでした。
それから3日、私は9度以上の熱が続き、実家で寝込まなければなりませんでした。
このとき、私は死を覚悟しました。
仏間に布団を敷き、なるだけ白い服を着て、水を飲みながら寝ていました。
3日目の夜明けの晩、夢にAが立ちました。Aは皮と骨の姿になり、黒ずんで、白目でした。
「お前ひとりやな」
「うん」
「お前もこっち来てくれよ」
「いやじゃ」
「Cが会いたがっとるぞ」
「いやじゃ」
「おまえ来んとCは毎日リンチじゃ。逆さづりで口に靴下詰めて蹴り上げられよるぞ、かわいそうやろ」
「うそつけ。地獄がそんな甘いわけないやろ」
「ははは地獄か。地獄ちゅうのはなぁ」
そこで目を覚ましました。自分の息の音で喉がヒイヒイ音を立てていました。
枕元を見ると、祖父の位牌にヒビが入っていました。
私は考えました。
アレの話を私と同じように多くの人に話せば、アレが私を探し当て、私が憑依される確率は下がるのではないか。
ここまでの長文たいへん失礼しましたが、おおざっぱな書き方では読んだ方の記憶に残らないと思ったのです。
読んだ方は、申し訳ないですが犬に噛まれたのだと思ってください。
ご自分の生存確率を上げたげればこの文章を少しでも多くの方の目に晒すことをおすすめします。
2022年09月06日
自己責任2
それでそのときの、こっそり酒を飲みたいという願望には勝てず、無理矢理窓から部屋に入りました。
部屋はカビホコリと饐えたような臭いが漂っています。雨漏りしているのかじめっとしていました。
部屋は音楽室と言えるようなものではありませんでしたが、壁に手作りで防音材のようなものが貼っており、その上から壁紙が貼ってあることはわかりました。湿気で壁紙はかピカピになっていました。
部屋の中はとりたてて調度品もなく、質素なつくりでしたが、小さな机が隅に置かれており、その上に、真っ黒に塗りつぶされた写真が、大きな枠の写真入れに入ってました。
「なんやこれ、気持ち悪い」と言って友人Aが写真入れを手に取って、持ち上げた瞬間、額裏から一枚の紙が落ち、その中から束になった髪の毛がバサバサ出て来ました。紙は御札でした。
みんな、ヤバいと思って声も出せませんでした。
顔面蒼白のAを見てBが急いで出ようと言い、逃げるように窓によじ登ったとき、そっちの壁紙全体がフワッとはがれました。
写真の裏から出てきたのと同じ御札が、壁一面に貼ってありました。「何やこれ」酒に弱いCはその場でウッと嘔吐しそうになりました。
「やばいてやばいて」
「吐いてる場合か急げ」
よじのぼるBの尻を私とDでぐいぐい押し上げました。何がなんだかわかりませんでした。
後ろではだれかが「いーーー、いーーー」と声を出しています。きっとAです。祟られたのです。恐ろしくて振り返ることもできませんでした。
無我夢中でよじのぼって、反対側の部屋に飛び降りました。
Dも出てきて、部屋側から鈍いCを引っ張り出そうとすると、「イタイタ」Cが叫びます。
「引っ張んな足」部屋の向こうではAらしき声がわんわん変な音で呻いています、
Cはよほどすごい勢いでもがいているのか、Cの足がこっちの壁を蹴る音がずんずんしました。
「B!かんぬっさん連れて来い!」後ろ向きにDが叫びました。
「なんかAに憑いとる、裏行って神社のかんぬっさん連れて来いて!」Bが縁側から裸足でダッシュしていき、私たちは窓からCを引き抜きました。
「足!足!」
「痛いか?」
「痛うはないけどなんか噛まれた」
見るとCの靴下のかかとの部分は丸ごと何かに食いつかれたように、丸く歯型がついて唾液で濡れています。
相変わらず中からはAの声がしますが、怖くて私たちは窓から中を見ることができませんでした。
「あいつ俺に祟られんかぁ」
「祟るなんてAはまだ生きとるんぞ」
「出てくるときめちゃくちゃ蹴ってきた」
「しらー!」
縁側からトレーナ姿の神主さんが真剣な顔をして入ってきました。
「ぬしら何か! 何しよるんか! 馬鹿者が!」
一緒に入って来たBはもう涙と鼻水でぐじょぐじょの顔になっていました。
「ええからお前らは帰れ、こっちから出て神社の裏から社務所入ってヨリエさんに見てもらえ、あとおい!」
といきなり私を捕まえ、後ろ手にひねり上げられました。
後ろで何かザキっと音がしました。
「よし行け」そのままドンと背中を押されて私たちは、わけのわからないまま走りました。
自己責任3へ
2022年09月05日
自己責任
自己責任とは洒落怖のひとつである。
タイトル通りに、自己責任である。
【内容】
5年前、私が中学だった頃、一人の友人を亡くしました。
表向きの原因は精神病でしたが、実際はある奴等に憑依されたからです。
私のとっては忘れてしまいたい記憶の一つですが、先日古い友人と話す機会があり、あのときのことをまざまざと思い出してしました。
ここで、文章にすることで少し客観的になり恐怖を忘れられると思いますので、綴ります。
私たち(A・B・C・D・私)は、皆か行を継ぐことになっていて、高校受験組を横目に暇を持て余していました。
学校も、私たちがサボったりするのは、受験組の邪魔にならなくていいと考えていたので、体育祭後は朝学校に出て来さえすれば後は抜け出しても滅多に怒られることはありませんでした。
ある日、友人A&Bが、近所の屋敷の話を聞いてきました。改築したばかりの家が、持ち主が首を吊って自殺して一家は解散、空き地になっているというのです。
サボった後のたまり場の確保に苦労していた私たちは、そこから酒タバコが思う存分できると考え、翌日すぐ昼から学校を抜けていきました。
外から様子のわからないような、とても立派なお座敷で、こんなところに入っていいのか、少しびびりましたが、ABは「大丈夫」を連発しながらどんどん中に入って行きます。
既に調べを付けていたのか、勝手口が空いていました。書斎のような所に入り、窓から顔を出さないようにして、こそこそ酒盛りを始めました。
でも大声が出せないのですぐに飽きてきて、5人で家捜しを始めました。すぐCが「あれ何や」と、今いる部屋の壁の上の方に気が付きました。
壁の上部に、学校の音楽室や体育館の放送室のような感じの小さな窓が二つついているのです。
「こっちも部屋か」
よく見ると壁のこちら側にはドアがあって、ドアはこちら側からは本棚で塞がれていました。
肩車をすると、左上の方の窓は手で開きました。
今思うと、その窓から若干悪臭が漂っていることにこのとき疑問を持つべきでした。
自己責任2へ
2022年09月02日
ヒッチハイク6
変態一家が去ったのを完全に確認して、俺は女子トイレに飛び込んだ。
全ての個室を開いたが、誰もいない。鍵も全て壊れていた。そんな馬鹿な…
後から女子トイレに入って来たカズヤが、俺の肩を叩いて呟いた。
「なぁ、お前も途中から薄々気がついていたんだろう?女の子なんて、最初からいなかったんだよ!」
2人して幻聴を聞いたとでも言うのだろうか。
確かに、あの変態一家の女の子に対する反応が一切無かった事を考えると、それも頷けるのではあるが…
しかし、あんなに鮮明に聞こえる幻聴などあるのだろうか…
駐車場から上りに下りに続く車道があり、そこを下れば確実に国道に出るはずだ。
しかし、再び奴らのキャンピングカーに遭遇する危険性もあるので、あえて森を突っ切る事にした。
街はそんなに遠くない程度に見えているし、周囲も明るいので。まず迷う可能性も少ない。俺達は無言のまま森を歩いた。
約2時間後、無事に国道に出る事が出来た。しかし、着替えもない、荷物もない。
頭に思い浮かんだのは、あの親切なコンビニ店員だった。
国道は都会並みではないが、朝になり交通量が増えてきている。
あんな目にあって、再びヒッチハイクするのは度胸がいったが、何とかトラックに乗せてくれた。
事情と言っても、俺達が体験した事をそのまま話してもどうか、と思ったので、キャンプ中に山の中で迷った、と言う事にしておいた。
運転手も、そのコンビニなら知ってるし、良く寄るらしかった。
約1時間後、俺達は例の店長のいるコンビニに到着した。
店長はキャンピングカーの件を知っているので、そのまま俺達が酷い目にあった事を話したのだが、話している最中に、店長は怪訝な顔をし始めた。
「え?キャンピングカー?いや、俺はさぁ、君達があの時、急に店を出て国道沿いを歩いて行くので、止めたんだよ。俺に気を使って、送ってもらうのが悪いので、歩いていったのかな、と。10mくらい追って行って、こっちが話しかけても、君らあんまり無視するもんだから、こっちも正直、気ィ悪くしちゃってさ。どうしたのさ?(笑)」
…どういう事なのか。
俺達は確かに、あのキャンピングカーがコンビニに止まり、レジで会計を済ませているのを見ている。
会計したのは店長だ。もう1人のバイトの子もいたが、あがったのか今はいない様だった。
店長もグルか??不安が胸を過ぎた。カズヤと目を合わせる。
「すみません、ちょっとトイレに」とカズヤが言い、俺をトイレに連れ込む。
「どう思う?」と俺。
「店長がウソを言っているとも思えんが、万が一あいつらの関係者としたら、って事だろ?でも、何でそんな手の込んだ事をする必要がある?みんなイカレてるとでも?まぁ、釈然としないよな。じゃあ、こうしよう。大事をとって、さっきの運ちゃんに乗せてもらわないか?」
それが1番良い方法に思えた。
俺達の意見がまとまり、トイレを出ようとしたその瞬間、個室のトイレから水を流す音と共に、あのミッキーマウスのマーチの口笛が聞こえてきた。
周囲の明るさも手伝ってか、恐怖よりもまず怒りがこみ上げて来た。それはカズヤも同じだった様だ。
「開けろオラァ!!」とガンガンドアを叩くカズヤ。ドアが開く。
「な…なんですか?」
制服を着た地元の高校生だった。
「イヤ…ごめんごめん、ははは…」と苦笑するカズヤ。幸い、この騒ぎはトイレの外まで聞こえてはいない様子だった。
男子高生に詫びを入れて、俺達は店長と談笑するドライバーの所へ戻った。
「店長さんに迷惑かけてもアレだし、お兄さん、街までお願いできませんかねっ。これで!」
と、ドライバーが吸っていた銘柄のタバコを1カートン、レジに置くカズヤ。交渉成立だった。
例の変態一家の件で、警察に行こうとはさらさら思わなかった。
あまりにも現実離れし過ぎており、俺達も早く忘れたかった。リュックに詰めた服が心残りではあったが…
ドライバーのトラックが、市街に向かうのも幸運だった。
タバコの贈り物で、始終上機嫌で運転して7くれた。いつの間にか、俺達は車内で寝ていた。
ふと目が覚めると、ドライブインにトラックが停車していた。ドライバーが焼きソバを3人分買ってきてくれて、車内で食べた。車が走り出すと、カズヤは再び眠りに落ちた。
俺は眠れずに、窓の外を見ながら、あの悪夢の様な出来事を思い返していた。
一体あいつらは何だったのか。トイレの女の子の泣き声は…
「あっ!!」
思案が吹き飛び、俺は思わず声を上げていた。
「どうした?」とドライバーのお兄さん。
「止めてください!!」
「は?」
「すみません、すぐ済みます!!」
「まさかここで降りるのか?まだ市街は先だぞ」と、しぶしぶトラックを止めてくれた。この問答でカズヤも起きたらしい。
「どうした?」
「あれ見ろ」
朽ち果てたドライブインに、あのキャンピングカーが止まっていた。
間違いない。色合い、形、フロントに描かれた十字架…しかし、何かがおかしかった。
車体が、何十年経ったい様にボロボロに朽ち果てており、全てのタイヤがパンクし、窓ガラスも全て割れていた。
「すみません、5分でもどります。5分だけ時間下さい」とドライバーに説明し、トラックを道肩に止めてもらったまま、俺達はキャンピングカーへと向かった。
「どいういう事だよ…」とカズヤ。こっちが聞きたいぐらいだった。
近づいて確認したが、間違いなくあの変態一家のキャンピングカーだった。
周囲の明るさ・車を通過する音などで安心感はあり、恐怖心よりも「なぜ?」という好奇心が勝っていた。
錆付いたドアを引き開け、酷い臭いのする車内を覗き込む。
「オイオイオイオイオイオイ、リュック!!俺らのリュックじゃねぁか!!」
カズヤが叫ぶ。
…確かに、俺達が車内に置いて逃げて来た、リュックが2つ置いてあった。しかし、車体と同様に、まるで何十年も放置されていたかの如く、ボロボロに朽ち果てていた。
中身を確認すると、服や日用雑貨品も同様に朽ち果てていた。
「どういう事だよ…」
もう1度カズヤが呟いた。
何が何だか、もはや脳は正常な思考が出来なかった。とにかく、一時も早くこの忌まわしいキャンピングカーから離れたかった。
「行こう、行こう」
カズヤも怯えている。
車内を出ようとしたその時、キャンピングカーの1番奥のドアの向こうで、「ガタッ」と音がした。
ドアは閉まっている。開ける勇気はない。
俺達は恐怖で半ばパニックになっていたので、そう聞こえたかどうかは、今となっては分からないし、もしかしたら、猫の鳴き声だったかもしれない。
が、確かに、その奥のドアの向こうで、この時はそう聞こえたのだ。
「マ ー マ !! 」
俺達は叫びながらトラックに駆け戻った。するとなぜか、ドライバーも顔は心なしか青ざめている風に見えた。
無言でトラックを発進させるドライバー。
「何かあったか?」「何かありました?」
同時にドライバーと俺が声を発した。
ドライバーは苦笑し
「いや…俺の見間違いかもしれないけどさ…あの歯医者…お前ら以外に誰もいなかったよな?いや、居るわけないんだけどさ…いや、やっぱ良いわ」
「気になります、言って下さいよ」とカズヤ。
「いやさ…見えたような気がしたんだよ。カウボーイハット?って言うのか?日本語で言ったら、ボーイスカウトが被るような。それを被った人影が見えた気が…でよ、何故かゾクッとした瞬間、俺の耳元で口笛が聞こえてよ…」
「どんな感じの…口笛ですか?」
「曲名は分からなねぇけど、こんな感じでよ(口笛を吹く)…いやいやいや、何でもねぇんだよ!俺も疲れているのかね」
運転手は笑っていたが、運転手が再現してみせた口笛は、ミッキーマウスのマーチだった。
30分ほど、無言のままトラックは走っていた。
そして市街も近くなったという事で、最後にどうしても聞いておきたい事を、俺はドライバーに聞いて見た。
「あの、最初に乗せてもらった国道の近くに、山ありますよね?」
「あぁ、それが?」
「あそこで前に、何か事件とかありました?」
「事件…?いやぁ聞かねぇなぁ…山つっても、3つくらい連なっているからなぁ、あの辺は。あ〜でも、あの辺の山で大分昔に、若い女が殺された事件があったとか…それくらいかぁ?あとは、普通にイノシシの被害だな。怖いぜ、野生のイノシシは」
「女が殺されたところって」
「トイレすか」
カズヤが俺の言葉に食い気味に入ってきた。
「あぁ、確かそう。何で知ってる?」
市街まで送ってもらった運転手に礼を言い、安心感からか、その日はホテルで爆睡した。
翌日〜翌々日には、俺達は新幹線に乗り継いで地元に帰った。
なるべく思い出したくない、悪夢の様な出来事だったが、時々思い出してしまう。
あの一家は一体何だったのか?実在の変態一家なのか?幻なのか?この世の者ではないのか?
あの山のトイレで確かに聞こえた、女の子の泣き叫ぶ声は何だったのか?
ボロボロに朽ち果てたキャンピングカー、同じように朽ちた俺達のリュックは、一体何を意味するのか?
先日の合コンが上手くいった、カズヤのテンションが上がっている。たまに遊ぶ悪友の仲は今でも変わらない。
コイツの底抜けに明るい性格に、あの悪夢の様な旅の出来事が、いくらか気持ち的に助けられた気がする。
30にも手が届こうかとしている現在、俺達は無事に就職も出来(大分前であるが)、普通に暮らしている。
カズヤは、未だにキャンピングカーを見ると駄目らしい。俺はあのミッキーマウスのマーチがトラウマになっている。
チャンンララン チャンララン チャラランララン チャララン チャラランララン♪
先日の合コンの際にも、女性陣の1人この携帯着信音の子がおり、心臓が縮みあがったモノだった。
今でもあの一家、とくに大男の口笛が夢に出てくる事がある。
2022年09月01日
ヒッチハイク5
男子トイレに誰かが入ってきた。声の様子からすると父だ。
「やぁ、気持ちが良いな。ハ〜レルヤ!!ハ〜レルヤ!!」
と、どうやら小の方をしている様子だった。
その後すぐに、個室に入る音と足音が複数聞こえた。双子のオッサンだろうか。
最早、女の子の存在は完全にバレているはずだった。女子トイレに入った母の、「紙が無い!」と言う声も聞こえた。女の子はまだ泣きじゃくっている。
やがて父も双子のオッサン(恐らく)も、トイレを出て行った様子だった。
おかしい。女の子に対しての、変態一家の対応が無い。
やがて母も出て行って、変態一家の話し声が遠くになっていった。
気づかないわけがない。現に女の子はまだ泣きじゃくっているのだ。
俺とカズヤが怪訝な顔をしていると、父の声が聞こえてきた。
「〜を待つ、もうすぐ来るから」と言っていた。何を待つのかは聞き取れなかった。どうやら双子のオッサンたちが、グズッてる様子だった。
やがて平手打ちの様な音が聞こえ。恐らく双子のオッサンの鳴き声が聞こえてきた。
悪夢だった。楽しかったはずのヒッチハイクの旅が、なぜこんな事に…
今まではあまりの突飛な展開に怯えるだけだったが、急にあの変態一家に対して怒りが込み上げて来た。
「あのキャンピングカーブンどって、山を降りる手もあるな。あのジジイどもをブン殴ってでも。大男がいない今がチャンスじゃないのか?待ってるって、大男の事じゃないのか?」
カズヤが小声で言った。
しかし、俺は向こうが俺達に気がついていない以上、このまま隠れて、奴らが通り過ぎるのを待つほうが得策に思えた。
女の子の事も気になる。奴らが去ったら、ドアを開けてでも確かめるつもりだった。
その旨をカズヤに伝えると、しぶしぶ頷いた。
それから15分程経った時。
「〜ちゃん来たよ〜!(聞き取れない)」
母の声がした。待っていた主が駐車場に到着したらしい。
何やら談笑してる声が聞こえるが、良く聞き取れない。再びトイレに向かってくる足音が聞こえてきた。
ミッキーマースのマーチの口笛。アイツだ!!
軽快に口笛を吹きながら、大男が小を足しているらしい。
女子トイレの女の子の泣き声が一段と激しくなった。何故だ?何故気づかない?
やがて泣き叫ぶ声が断末魔のような絶叫に変わり、フッと消えた。
何かされたのか?見つかったのか!?
しかし、大男は男士トイレにいるし、他の家族が女子トイレに入った形跡も無い。やがて、口笛と共に大男がトイレを出て行った。
女の子がトイレから連れ出されてはしないか、と心配になり、危険を顧みず、一瞬だけトイレの裏手から俺が顔を覗かせた。
テンガロンハットにスーツ姿の、大男の歩く背中が見える。
「ここだったよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァ!!」
ふいに大男が叫んだ。
俺は頭を引っ込めた。ついに見つかったか!?カズヤは木の棒を強く握り締めている。
「そうだそうだ!!
「罪深かったよね!!
と父と母。双子のオッサンの笑い声。
「泣き叫んでたよなァァァァァァァァ」
と大男。
「うんうん!!」
「泣いた泣いた!!悔い改めた!!ハレルヤ!!」
と父と母。双子のオッサンの笑い声。
何を言っているのか?どうやら、俺達のことではないらしいが…
やがてキャンピングカーのエンジン音が聞こえ、車は去ってった。辺りはもう完全に明るくなっていた。
ヒッチハイク6へ