水曜日、学校の怪談の日です。
学怪が終わった直後に書いた話で、学怪の最終話をしってる前提で書いてますので、知らない方には分かりにくい展開だと思うのでご承知ください。
よく知りたいと思う方は例の如くリンクの方へ。
それではコメント返し
zaru-guさん
いろいろとおかしい。そりゃ、押したほうが正解だと思っちまうわ。穏健派と思われていた氷結界がここまでクレイジーだったとは
どうしてこうなったのかよく覚えていない。とりあえず、反省はしていない。
(エリア!お前は悪くない!)
霊使いは正義!!(キリッ)
秋かなさん
先週に半月のSSを探していたらひっかっかったので読んでみたところとても良かったのでこれからも月曜配信楽しみにまってます
おいでませ。読んでいただいてありがとうございます。楽しんでいただけて幸いです。今後もどうぞよしなに。
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その4・異獣
それからまたしばらくの間、わたしと敬一郎は暗い森の中を歩き続けた。
途中、何度か得体の知れないものと出くわしたけれど、黙ってじっとしてさえいれば、そいつらがわたし達に気付く事はなかった。
(あの声・・・。)
森の中を進む間、わたしはさっき、お化け豚の群れから救ってくれた声の事を考えていた。
わたしはあの声を知っている。
数ヶ月前まで、喧嘩友達だった声。
いざという時には、なによりも助けになる言葉をくれた声。
そして・・・わたし達が、ずっと戻ってきて欲しいと思い続けていた声。
(・・・いるの・・・?)
わたしは、「そいつ」に心の中で呼びかける。
(ここに・・・居るの・・・?居るのなら、返事をして・・・。声を聞かせて・・・。姿を、見せて・・・。)
だけど、その呼びかけに返ってきたのは、望む者の声ではなかった。
おぎゃあ・・・
(!!、え!?)
わたしは思わず足を止め、耳をすます。
おぎゃあ・・おぎゃあ・・おぎゃあ・・・・
(赤・・ちゃん・・・?)
思いもがけない事態に、わたしも敬一郎も狼狽する。
(こんな所に赤ちゃん?そんな馬鹿な・・・)
否定しようとした心に、澎侯の言葉がよぎった。
(現世(うつしよ)と隠れ里(ここ)は、いわば一枚の紙の裏と表の様なもの・・・。鍵を持ちて時さえ満たさば、人間(ひと)が隠れ里(こちら)に迷い、また妖(あやかし)が現世(そちら)を彷徨う事も、往々にしてある・・・。)
もし、何かの拍子に何処かの赤ちゃんが、この世界に取り込まれてしまっていたとしたら・・・!?
赤ちゃんでは、この森に巣食うお化け達から身を守る事など、出来るはずが無い。
それどころか、あんなに泣いていたら、辺りに潜むお化け達に気付かれてしまうかもしれない。
しばしの間。
そしてわたしは、傍らの敬一郎に目を向ける。
敬一郎も同じ考えらしい。
わたし達はうなずき合うと、泣き声のする方向へと足を向けた。
おぎゃあー・・おぎゃあー・・おぎゃあー・・
泣き声が近づいてくる。
早く助けないと、いつお化け達が集まってくるか分からない。
わたし達は足を速めた。
おぎゃあー・・おぎゃあー・・おぎゃあ・・・・・・・・・
と、泣き声の聞える茂みまでもう数メートルという所まで来た時、それまで五月蝿い位に聞えていた泣き声がピタリと止んだ。
(!!)
最悪の事態が脳裏を過ぎり、思わず足がすくむ。
―と、
おぎゃあ・・・
茂みの中から再び声が洩れた。
(無事だった・・・。)
ほっとしながら、わたしと敬一郎が茂みに一歩近づいた その時ー
ガサァッ
突然その茂みが割れ、その中から異様な影が立ち上がった。
茂みの中から現れたその姿を見た時、わたしは一瞬、澎侯が追ってきてくれたのかと思った。
けれど、森の闇の中に浮かび上がったそいつの姿は、澎侯とは似ても似つかないものだった。
その姿は澎侯と同様、人面獣身。だけどその体は犬ではなく羊。がっしりとした足に、長く鋭く伸びた人の爪。けれど、一番異様だったのは、その顔。それは、確かに人間のものだったのだけれど、そう表現するのがためらわれる程、醜悪だった。
低い鼻、毛が一本も無く禿げ上がった頭。ケロイド状に引きつり、深くしわの刻まれた皮膚。犬の様に突き出した口は文字通り耳まで裂け、中からは虎の様に鋭く、太い牙と、妙に長く、ウネウネと蠢く真っ赤な舌が覗く。
ただ、何故かその顔の中心には目がなく、本来目が在るべき場所は薄く窪み、他の場所と同じ様に引きつった皮膚に覆われているだけだった。
ウゥウルルルル・・・・・
そいつは、低い唸り声を発しながら茂みから這い出ると、立ちすくむわたし達の目の前をその虎程もある大きな体で、さえぎる様に立った。
かぁはぁ・・・
牙の間から洩れる息が、血生臭い。
(何で・・・!?赤ちゃんの声を追ってきたのに・・・、何でこんな奴が出てくるの・・・!?)
訳が分からずわたし達は呆然としてしまう。
と、突然そいつの口が開き、そこから声が洩れる。
『おぎゃあ・・・』
(!!??)
わたしは思わず息を呑んだ。
そいつの口から発せられた声。それは、紛れも無くわたし達を呼んだ、あの赤ん坊の泣き声だったのだ。
(こ・・・こいつの・・声だったの・・・?)
わたしは、すっかり混乱していた。
目の前の醜い怪物と、愛らしい赤ちゃんの泣き声。似ても似つかない二つの要素の組み合わせは、結果例え様も無いおぞましさをもって、わたしの精神を麻痺させていた。
赤ちゃんの声を出す怪物・・・?
何のために・・・?
もし、こんな森の中で赤ちゃんの声がしたら・・・?
きっと、不思議に思って、心配になって、人が寄ってくる・・・。
わたし達みたいに・・・?
こいつは、それを待ってた・・・?
鋭い牙・・・爪・・・血の臭いのする息・・・。
ゾクリ・・・
悪寒が走った。
(こいつ・・・。)
身体が勝手に震えだす。
ここにいちゃいけない。
こいつのそばにいちゃいけない。
早く。
早くここから離れないと。
ここから。
こいつのそばから!!
傍らで立ちすくむ敬一郎の手を引く。
動かない。
(敬一郎・・・?)
その顔を覗き見る。目の焦点が合ってない。
恐怖のせいで、茫然自失となっていたのかもしれない。
そしてわたしも、冷静じゃなかった。
(敬一郎!!)
グイッ
思わず、敬一郎の腕をやたらと力を込めて引いてしまった。
「わぁっ!?」
「!!!」
ぼうっとしていた所で、急に腕を強く引かれた敬一郎は、反射的にその口から驚きの声を洩らしていた。
(菖蒲の護符があれば、邪な妖(もの)の目からは隠れられるが、声までは隠せぬ。不用意に声を発さば、それは己が存在を其の者どもに伝え示す事であると知るがよい・・・。)
脳裏に反響する、澎侯の言葉。
分かっていた。
分かっていたのに・・・。
敬一郎の声が響いた瞬間、目の前の怪物がぴたりと動きを止めた。
そして次の瞬間、そいつの前足の付根。丁度、腋の下にあたる辺りに刻まれていた、大きなしわがピクリと動いた。そして、それはそのままグワッと上下に大きく開く。
「ひっ!?」
「きゃあっ!?」
それを見たわたし達は、耐えられずにまた、悲鳴を上げてしまう。
腋下のしわの中から現れたもの。それは真っ赤に血走った、大きな目だった。
真っ赤に血走り、濁り、飢えと狂気をたたえた眼球が、ぎょろりと動いてわたし達の方を見つめる。
自分には見えない、わたし達の姿を求めて・・・。
そして次の瞬間―
シャアッ!!
蛇の様な呼気と共に、そいつが前足の爪を大きく凪いだ。
そいつに、わたし達の姿は見えていない。
だから、その爪は適当に、わたし達の居るであろう場所に、単なる勘みたいのもので当たりをつけて、適当に振るわれただけにすぎない筈。
だから当たらない。
当たる筈がない。
なのに!
その筈なのに!!
魔性の妖獣の持つ感覚は、そんなわたしの考えを遥かに凌駕していた。
目測もなく振るわれた筈のその爪は、寸分の狂いもなく、敬一郎の胸へと吸い込まれて行った・・・。
続く