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2012年02月21日

霊使い達の宿題その4・水霊使いの場合(中編A)(遊戯王OCG・二次創作作品)








 
 火曜日、遊戯王OCG二次創作・「霊使い達の宿題」の日です。
 前回同様、貴方の思い描くエリアとは性格が”かなり”違うと思われますので、前回拒否反応及びアレルギー反応なぞ出た方は、無理をせずリターン推奨。
 詳しく知りたい方はお約束通り、リンクのWikiへ。


【遊戯王シングルカード】 《ゴールドシリーズ 2011》 氷結界の龍 トリシューラ ノーマル gs03-jp010

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                            −5−
 
 「わお・・・!!」
 『綺麗だなぁ・・・!!』
 風水師に案内され、入った封印宮の中でエリアたちは感嘆の声を上げた。
 外からはただの氷の洞窟に見えたそれはしかし、一度中に入ればその名に相応しい荘厳な細工を施された宮殿となっていた。
 「いかがですか?これがわたし達氷結界の一族が、永の時をかけて守り続けてきた封印の宮、「氷結界の封印宮」なのです。」
 誇らしげに胸を張る風水師に、エリア達はパチパチと拍手を送る。
 「ちなみに現在、世界遺産登録めざして申請中です。」
 と、付け加えるのを忘れない風水師なのだった。
 「うう〜、それにしても寒いわね。どうにかなんないの?」
 『何かボク、冬眠したくなってきた・・・。』
 「すいませんねー。何しろこういった仕様の場ですから。なんでしたら防寒着でもお貸ししましょうか?別途料金になりますけど。」
 「・・・遠慮するわ。」
 そんなやり取りをしながら進む事数十分、それまで続いていた通路が突然途切れ、そこに大きな広間が現れた。
 「お疲れ様でした。ここが今回のツアーの終着地、「封印の間」でーす!!」
 そんな風水師の言葉も、今のエリア達の耳には届かない。
 彼女達の目は、眼前に広がる光景に釘付けになっていた。
 その視線の先には、大きく穴の穿たれた左右の氷壁。恐らくはここに、先の二頭の龍が封印されていたのだろう。そしてその二枚の氷壁の中心、彼の二頭を左右に傅かせる様な位置の氷壁の中に、“それ”はいた。
 他の二頭よりも一回り程も大きな身体。氷の結晶を思わせる外殻に覆われたそれから伸びるのは、無表情な仮面の様な頭部をそれぞれに頂いた三本の首。背から生じる巨大な翼は鋭く湾曲し、まるで鋭利な氷の刃を思わせた。
 『凄い・・・!!』
 「これが・・・」
 「はい。これが氷結界が最古にして最強の龍、「トリシューラ」です。」
 エリアとギゴバイトは、恐怖と畏怖の混じった目でそれを見る。
 「あはは、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。この子の封印は解かれていませんから。」
 「眠って、るの?」
 「そうですよ。ほら。」
 促されて見てみると、龍の足元辺りの氷壁に何かある。見ればそれは小さな赤いボタン。周りには、
 
 「Danger!!」
 「危険!!触るべからず!!」
 「押すなよ!!いいか!?絶対押すなよ!?」
 「押したら呪う。」
 
 などと書かれた紙がベタベタと貼ってある。
 ・・・何か、色々と台無しである。
 『・・・あーその・・・何で他の二頭は解放したのに、こいつだけ封印したままなの?』
 何とか気を取り直したギゴバイトが、風水師に問う。
 「あー、そこですか?それはですねー・・・」
 曰く、当初はこのトリシューラも他の二頭同様、封印を解く話が持ち上がっていたらしい。しかし、その後の調査でこの龍が他の二頭とは力の格が違ううえ、気性も比べ物にならないくらい荒いという事が発覚し、とても制御出来ないという事で計画にストップがかかったとの事である。
 「ぶっちゃけ、コイツを蘇らせるくらいならワームや魔轟神の連中を暴れさせていた方がなんぼかマシって結論になっちゃったんですよ。あはははは。」
 『・・・そ、そうなんすか・・・あは、あはははは・・・』
 ギゴバイトが顔を引きつらせながら後ずさりするのを見て、風水師が笑う。
 「大丈夫ですって。このボタンを押さない限り封印は絶対に・・・」
 

 ポチ 

  「『・・・・・・。』」
 風水師とギゴバイト。二人の間の空気が凍った。
 硬直した二人の視線の先。そこにあったのは、件のボタンを押すエリアの姿。
 「お・・・おめさ、何ばしちょっとかー!??」
 『ち、ちy、おm、エリア、何やってー!!?』 
 氷の宮内に響き渡る二人の絶叫。
 そして―
 氷の中、暗く沈んでいたトリシューラの目に光が走る。

 
 ゴ・・・ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
 
 それとともに低く響く地鳴り。
 押されたボタンを中心に、氷壁にビキビキと亀裂が走っていく。
 次の瞬間―
 
 
 ドガァアアアッ
 
 轟音とともに氷壁が砕け散る。
 もうもうと立ち込める白い冷気。
 「「『・・・・・・・・・。』」」
 
 
 ズズン
 
 息を呑む三人の前で、地を足で揺らしながら、“それ”はゆっくりとその姿を現した。
                         
                            −6−

 淡く光を放つ氷の外殻。
 揺ら揺らと長蟲の様に蠢く三本の首。
 それに掲げられた、仮面の様に無表情な顔。
 大きく広げられた翼が、ガガガッと宮の壁を削る。
 そこにあったのは、先に只ならぬ脅威と畏怖をもって見つめたものと寸分変わらぬ姿。
 ただ違うのは、今はそれと自分達とを隔てていた氷壁(壁)がないという事。
 そして、先まで深い眠りの底にあったその瞳が、今は爛々と蒼い光に満たされているという事。
 三つの首が思い思いに動き、数千年の時を埋めようとするかの様に周囲の光景をその目に収めていく。やがて、その目が自分の足元に止まった。
 そこにいる卑小な存在達を揶揄する様に、鋭い眼光がキュウと細まる。
 「あ、あわわわわ・・・」
 『ひえ、ひええええ・・・』
 先に感じたものとは比べ物にならないプレッシャーに、風水師とギゴバイトは抱き合ってへたり込む。逃げようにも、足がすくんで動かない。まさに蛇に睨まれた蛙である。
 ―と、
 「何よ何々、だらしないわね!?」
 そんな言葉とともに、氷龍と二人の間に一つの人影が割って入る。
 いつの間にか手にしたのは青く輝く水霊の杖。氷龍の羽が巻き起こす風にたなびく長い蒼髪をサラリと後ろに流し、凛と立ったその姿にギゴバイトが思わず声を上げる。
 『エリア!?』
 「あ、あ、き、危険です!!早く逃げましょう!!」
 慌てふためく二人に向かってしかし、エリアはその端麗な顔に余裕の笑みをもって答える。
 「何ビビッてんのよ?ギゴ。これからが本番よ!!」
 『え?え?何言ってんの!?』
 「宿題よ!!宿題!!見なさい!!この優美な姿に、このプレッシャー。トリシューラ(こいつ)こそ、あたしのしもべに相応しいわ!!」
 『え?えぇー!?』
 「ちょ、ちょっと、何の話ですかー!?」
 驚くギゴバイトの肩を、風水師がガクガクと揺らす。
 「話はあとあと!!今はこいつを大人しくさせなくちゃね。」
 『そんな事言ったってエリア、一体どうする気なのさ!?』
 「な、何か策でもあるんですかー!?」
 もはや悲鳴に近い声で喚きたてる二人をフフンと鼻で笑い、エリアは高々と言い放つ。
 
 「へのつっぱりは、いらんですよ!!」
 
 「『お、おお!!言葉の意味はよく分からんが、とにかく凄い自信だ!!』」
 何処かで聞いたようなやり取りをしながら、エリアは目の前の氷龍をキッと見つめる。
 それに答える様に、トリシューラの三つの首のうち真ん中の首がググーッと下がり、その青い瞳の中にエリアの姿を納める。
 睨み合う一人と一頭。
 しばしの間。
 それを見守る二人の、生唾を呑み込むゴクリという音が妙に大きく響く。
 そして―

 「ねえ、あたしのしもべになってー(はあと)。」
 エリアは科を作り、にっこりとトリシューラに笑いかけてこう言い放った。

 「『・・・・・・・・・。』」
 再び空気が凍った。
 切ないほどに。悲しいほどに。居たたまれないほどに。
 ―と、トリシューラの表情のない顔に、ピシリと一筋の亀裂が走る。その亀裂はパキパキと音を立てて広がり、その中から何重にも並んだ鋭利な牙が露になる。
 それが口なのだと分かった次の瞬間―

 
 ピシャァアアアアッ
 
 つんざく様な轟音とともに、蒼白い雷光がほとばしった。 
 
 グガガガガガガッ
 
 雷光が着弾した場所が瞬時にして凍りつき、次の瞬間爆音とともに粉々に弾け跳ぶ。
 「ウッキャー!!?」
 爆風に吹っ飛ばされ、エリアの身体が宙を舞う。
 『エ、エリアー!?』
 ギゴバイトは慌てながらも、エリアが吹っ飛ばされた地点に走り寄る。
 『ムギュ!!』
 身体全体でエリアを受け止め、ふんずけられたガマガエルみたいになったギゴバイト。その上で身を起こしたエリアが叫ぶ。
 「ちょっとアンタ!!急に何すん・・・!!?」
 しかしその罵詈雑言は再び飛んできた雷光にかき消される。
 「キャー!?」
 エリアはのびているギゴバイトの頭を引っ掴み、慌ててそこから逃げ出す。
 
 
 グガァアアアアンッ
 
 着弾、爆発。凄まじい爆風にエリア達の身体がコロコロと転がる。
 「ア、アンタはアホですかー!!?」
 転がってきたエリア達を抱き止めながら、風水師が喚きたてる。もう半泣きである。
 「ア、アホとは何よアホとは!!大体―」
 「い、言ってる場合じゃないでsまた来たー!!」
 三度、着弾、爆発―
 コロコロと転がりながら、エリアはのびているギゴバイトの頬をペシペシと叩く。
 「ちょっと、いつまで寝てんのよ!?起きなさい!!」
 『え!?あ、な、何、エリア!?』
 「何じゃない!!憑依装着よ!!憑依装着!!早くしなさい!!!」
 『わ、分かった!!』
 頬を赤く腫らして頷くギゴバイトを、エリアが抱き締める。二人を包む淡い水色の光。そして―
 
 
 キシャァアアアアッ
 
 突然に響く咆哮。
 その途端、エリア達を包んでいた光が吹き飛ばされる様に掻き消える。
 「え!?ちょ、ちょっと、何よこれ!?」
 慌てるエリア達に、風水師が悲鳴混じりの声で告げる。
 「だ、駄目ですようー!!トリシューラの咆哮は魔法の構成式やしもべの召喚を強制キャンセルしちゃうんですー!!」
 「な、何よ!!そのインチキ能力!!」
 「ち、ちなみに一度キャンセルされた魔法式やしもべは、トリシューラの前ではもう使えなくなるんであしからずー!!!」
 「え!?えぇー!?」
 エリアは慌ててギゴバイトを抱き締め直すが、なるほど。憑依装着の構成式が発動しない。
 「ど、どこまでインチキなのよ!!この化け物ー!!」
 喚き散らした所で事態が好転する筈もない。トリシューラはますます猛り狂い、冷凍雷撃を吐きまくる。まるで、封じ込められていた数千年の鬱憤を晴らすかの様である。
 「も、もう駄目―!!」
 「に、逃げましょうー!!」
 もはやこれまでと逃げ出すエリア達。しかしトリシューラも、地響きを立ててそれを追う。
 『ま、待て、話し合おう!!僕たちは、きっと、分り合える!!』
 「何馬鹿な事言ってんの!!早く逃げないと殺られるわよ!!」
 『何でまた、よりにもよってこんな奴選んだのさ!?』
 「どうせなら派手な奴の方がいいじゃない。でも、私の魅力が通じないなんて…まさかこんな朴念仁だったなんて、とんでもない計算違いだわ!!」
 (…あかん。この人、ホントのアホや…。) 
 そんなやり取りをしながらも、エリア達はなんとか封印宮の外へと飛び出した。                                                          
                                                 続く
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