水曜日、学校の怪談の日です。
学怪が終わった直後に書いた話で、学怪の最終話をしってる前提で書いてますので、知らない方には分かりにくい展開だと思うのでご承知ください。
よく知りたいと思う方は例の如くリンクの方へ。
それではコメント返し
《氷結界の封印宮》 永続罠
効果:このカードが表側表示で存在する限り、『氷結界』と名の付くシンクロモンスターをシンクロ召喚する場合、シンクロ素材に『氷結界』と名の付くモンスターが含まれていなければならない。1ターンに1度、自分・相手の墓地に存在するシンクロモンスター1体を、持ち主のエクストラデッキに戻すことができる。
ああ、これはいいですね。ブリュやトリシュの抑制になるし、デッキを「氷結界」で固める意義も出る。効果的に見て、フィールド魔法でもいいかも。
風水師ェ……
・・・気が付いたらこの娘が一番キャラ崩壊してた・・・。
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その3・マヨイガの森
「なぜって言われても・・・そもそもここが何処なのかも、わたし達には分からないんだけど・・・。」
わたしの言葉に、澎侯が答える。
『ここは時と次元の狭間にある世界・・・。人間(そなた)方が、「隠れ里」とお呼びになられる場所の一つ・・・。』
「隠れ里・・・?」
その言葉を、わたしは前にレオ君に教えてもらった事があった。
隠れ里―
それは人間(わたし)達の世界の隣にある、もう一つの世界。
お化けや妖怪、現世にあらざる者達の住まう、怪しの世界。
「なんで・・わたし達、そんな所に・・・?」
『人の世とは異なる場所とはいえ、二つの世に全く繋がりがない訳ではない・・・。』
当惑するわたし達を落ち着かせる様に、澎侯(ほうこう)は静かに言葉を紡ぐ。
『現世(うつしよ)と隠れ里(ここ)は、いわば一枚の紙の裏と表の様なもの・・・。常に二つは共にあり、それまで裏であったものも一度(ひとたび)返せば表になり、また何かの拍子に紙が捻られば、裏も表も共に交わる・・・。故に、鍵を持ちて時さえ満たさば、人間(ひと)が隠れ里(こちら)に迷い、また妖(あやかし)が現世(そちら)を彷徨う事も、往々にしてあれば・・・。』
「じゃあ、どうすれば帰れるの?」
『まずは、自身の迷いを知ること・・・。』
「迷い・・・?」
『左様・・・。隠れ里と呼ばるる場所は、実の所一つだけではあり申さぬ・・・。この場所の他にも、幾つもの場所が異なる形、異なる時を持って存在し、それぞれが先程我が申した様に、其の内に通ずる鍵定められておる・・・。』
「鍵・・・?」
『其は時には妖の者の誘いであり、星と月の巡りであり、そして人自身の想いでもある・・・。そして、今のこの地に至る鍵が、「迷い」・・・。』
「・・・。」
『この地に至り来る者は皆、己の内に何かしらの迷いを持つ者・・・。』
そう言うと、澎侯は前足を上げ、わたし達の後ろを示した。わたしと敬一郎はそれにつられ、背後を振り返る。
そこには濃い霞と静寂に包まれた深い森が、延々と途切れる事無く広がっている。
その森を示しながら、澎侯は言葉を続ける。
『彼(か)の森は、「マヨイガの森」。』
「まよいが・・・?」
『其が森の奥に、一棟の古家がある。現世への道を望むなら、己が足で森を歩き、其を見つけよ。さすれば全てはおのずと、あるべき型へと戻ろう・・・。』
「森の・・中・・・。」
わたしはもう一度、背後の森を振り返った。
霞に包まれ、深く、暗く、うっそうと茂る暗緑の海・・・。音も無く沈黙に沈むそれは、まるで迷い込む者を一飲みにしようと、息を潜めて待ち受けている様にも見えた。
(・・・怖い・・・。)
その森の放つ得体の知れない生命感に圧倒され、わたしは自分の足がすくむのを感じた。
『・・・如何される・・・?』
そんなわたしの心を見透かしたかの様に、澎侯が声をかけて来る。
正直、森に入るのはひどく怖かった。
でも・・・。
「・・・分かった・・・。行くわ・・・。」
しばしの躊躇の後、わたしは決心した。
いくら怖くても、もとの世界に戻るためには、他に道はなかった。
そして、それ以上に不思議な「予感」がわたしの決心を後押ししていた。
もっとも、その「予感」が何を示すのか、この時のわたしにはまだ分からなかった。
ただ漠然と、この森の奥で何かがわたし達を待っている様な、そんな気がしていた。
そして、同じ予感を、敬一郎も感じていたらしい。
いつもは、ひどく臆病で、暗い森の中など絶対に入りたがらない筈のこの子が、今は黙ってわたしに同意していた。
『左様か・・・。では・・・。』
わたしの意思を確認した澎侯は、そう言うと傍らの川岸に生えていた細長い草を数本引き抜き、わたしと敬一郎に一本づつ差し出した。
『懐にでも入れて、持って行くが良い・・・。』
「・・・?」
受け取ったその草は鋭く、硬く、ひどく癖のある強い匂いがした。
「あれ・・・?これって・・・。」
その匂いには、覚えがあった。
小さい頃、端午の節句におじいちゃんの家に遊びに行った時、お風呂の中に浮べられていた葉っぱ。それから、同じ匂いが香っていた。
『菖蒲(しょうぶ)の葉じゃ。邪(よこしま)なものを除ける力を持っておる。森の中には、好んで人に災いを為す妖(もの)もおるゆえ・・・。身に付けておけば、護身の札代わりにはなろう・・・。』
「分かった・・・。」
わたし達はそれを受け取ると、小さく畳んで懐にしまった。
そして、澎侯は言葉を続ける。
『森に入ったら、目の前だけを見て、まっすぐに進むがよい・・・。さすれば、自ずと目指す場所に着こう・・・。それから、例え何事が起ころうとも、決してそれに声を返さぬ事。菖蒲の護符があれば、邪な妖(もの)の目からは隠れられるが、声までは隠せぬ。不用意に声を発さば、それは己が存在を其の者どもに伝え示す事である事・・・。努々、忘れぬ様に・・・。』
そこまで言うと、澎侯は再びその身を木の根元に横たえる。
『さあ、もう時が移ろう・・・。行くがよい・・・。』
「うん・・・。」
わたし達は澎侯に促され、森へと向った。
と、森を前にして、敬一郎が足を止めた。
そして、くるりと向き直ると、澎侯に向って大きな声で叫んだ。
「ありがとー!!色々教えてくれて!!また、いつか会おうね!!」
そう言って、大きく手を振る。
わたしも、いっしょに手を振った。
木の下では、澎侯が微笑みを浮べて、そんなわたし達を見つめていた。
(寒い・・・。)
森の中に足を踏み入れた途端、ひんやりとした冷気が身体を包む。
薄暗い森の中はひっそりと静まり返り、何の物音もしない。
だけど、決して「静か」ではなかった。
遥か頭上の梢。
傍らの茂み。
足元の草むら。
地面に落ちる影。
そして身体を包む空気。
その全てに、幾つもの「存在」が満ち、幾つもの「意思」が交錯しているのが霊感のない筈のわたしにさえ、はっきりと感じられた。
ココハ人為ラザル者ノ住マウ場所。
人ガ居テハ為ラヌ場所。
わたしと敬一郎はお互いの手をしっかりと握りしめ、進む足を速めた。
澎侯に言われた通り、ただひたすら、目の前だけを見つめて歩き続けた。
そうやって、三十分も歩いた頃―
(・・・!?)
異様な気配を感じ、わたし達は足を止めた。
それは、それまで周囲から感じていた漠然とした気配とは違う、はっきりとした「形」をもった気配・・・。
その気配のする方向に、思わず目を向ける。
深い、深い森の奥の闇。
その中に、ポッと赤い灯火の様なものが見えた。
(・・・?)
それは一つ、二つと見る見るうちに数を増やしていく。
そしてー
(!!、近づいてくる!?)
わたし達に向って近づいてくる、無数の赤い光。
それが後十数メートルの距離にまで近づいた時、わたしの目に初めてその正体がはっきりと映った。
(ぶ・・・豚ぁ!!??)
森の闇の中から現れたもの・・・。
それは眼に紅い光を灯した、数え切れない程の小さな豚の群れだった。
(え!?え!?えぇ!??)
驚きの声は何とか飲み込んだものの、すっかり狼狽してしまったわたし達はその場でオタオタするばかりだった。
そんなわたし達に向って、豚の群れは見る見るうちに迫ってくる。
わたしと敬一郎が、その群れに飲み込まれ様としたその時―
〔おい!!早く足を組め!!〕
突然、頭の中に誰かの声が響いた。
(!!、え!?)
突然の事に思わずパニックになりかけたわたしに、その声はすかさず激を入れる。
〔何してやがる!!そいつらは「「片無豚(カタキラウワ)」だ!!股の下を潜られると、いっしょに魂を捕られちまうぞ!!早く足を組んで、股を潜られないようにしろ!!〕
(!!!)
その声に我に帰ったわたしは、咄嗟に足を組む。
(!!、そうだ!!敬一郎は!?)
慌てて目を向けると、敬一郎はもうすでにしっかりと両足を組んでいた。どうやら今の声は、敬一郎にも聞えていたらしい。
ブツブツブツ・・・ブツブツブツブツブツ・・・
まるで人が呟く様な声を立てながら、無数の豚がわたし達の周りを通り過ぎて行く。
足元をわらわらと通り過ぎていくそいつらは、生まれて間も無い、小さな子豚の様な姿をしている。
だけど、その体は墨を染み込ませた様に黒く、濃いクレゾールの様な、嫌な臭いを放っていた。紅い光が灯るその双眸は爛々と輝き、群れの動きに合わせて紅い軌跡を車のヘッドライトの様に残していく。見ればその豚達は皆、片耳しかない。時折一つしかない耳をピクピクと動かして、辺りの様子を探っている。
(例え何事が起ころうとも、決してそれに声を返さぬことです。菖蒲の護符があれば、邪な妖(もの)の目からは隠れられるが、声までは隠せませぬ。不用意に声を発さば、それは己が存在を其の者どもに伝え示す事であると知りなさい・・・。)
別れ際の澎侯の言葉を思い出し、わたしはぐっと唇を噛み締める。
〔よし・・・そのままじっとしてろ・・・。後は懐の菖蒲が守ってくれる・・・。〕
さっきの声が、そう語りかける。
その言葉に従い、わたし達は足を交差させたままでその場に立ち尽くす。
ブツブツ・・・ブツブツブツブツブツ・・・ブツ・・・
懐にしまった菖蒲のせいだろうか。そいつらにはわたし達の姿が見えないらしく、群れの流れの中にいるわたし達に対して何の興味も示さないまま通り過ぎていく。
ブツブツ・・・ブツ・・・・・・・・
やがて最後の一匹も通り過ぎ、豚の群れは再び森の闇の中へと消えて行った。
(ほ・・・。)
それを見届けると、わたし達は安堵の息をついた。
(!!、そういえばさっきの声!?)
慌てて辺りを見回す。
(あの声・・・まさか!!)
森の中に、声の主の姿を探す。
しかし、辺りに動くものはなく、森は再び静寂に沈んでいた。
そしてあの声も、もう聞こえる事は無かった・・・。
続く