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2012年02月07日

霊使い達の宿題その4・水霊使いの場合(前編)(遊戯王OCG・二次創作作品)








 
 火曜日、遊戯王OCG二次創作・「霊使い達の宿題」の日です。
 今回からの主役は水霊使い。
 例によって、貴方の思う霊使い達とは性格が違かったりするかもしれませんから(今回からは特にキツイ)、どうしてもあかん、という方は無理をせずリターン推奨。
 詳しく知りたい方はお約束通り、リンクのWikiへ。
 

 それではコメント返し。
 
 フッフッフ・・・楽しみだぜ。
 特に「順調に取り掛かれるかどうか」のところが・・・


 取り合えず順調です。今のところは・・・。


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       そのB 水霊使いの場合(前編)

                ―1―

 ガタン・・・ゴトン・・・

 冷たく住んだ空気の中に、重苦しい音が響き渡る。
 音の主は大きな荷台を引く鎧の男、物資調達員。
 重い荷台を引きながら、物資調達員は酷くゲンナリとしていた。
 まったくもって、今回の旅はついてない。
 せめてもの気晴らしにと横を見ると、そこには広く美しい水面が広がっている。
 ウォーターワールドと呼ばれる塩水湖で、その情景の美しさから一時は観光地としても高い人気を誇っていた。
 “一時”という事は、今はそうではないという事である。
 この湖の近くには、古(いにしえ)に凶悪なドラゴンを封印したという結界、“氷結界”があり、それを守る「氷結界の一族」が住み暮らしていた。
 正義を重んじる彼らは、彼(か)の竜達が悪しき者の手に利用されない様守りながら、長く平穏な時を過ごしていた。
 しかし、数年前に外宇宙から来たと言われる“ワーム”と呼ばれる侵略群が突如襲来。猛烈な侵略活動を始め、氷結界の一族はそれに応戦。その戦いは瞬く間に拡大し、隣接する霞の谷(ミスト・バレー)の住人やX−セイバーと呼ばれる武人集団をも巻き込んでの大混戦と化した。しかもその乱戦に乗じて、氷結界の竜達とは別に封印されていたと言う悪しき種族、「魔轟神」が復活。この争いに加わったため戦乱はさらに拡大。結果、この地域はデュエルモンスター界屈指の戦場と化していた。
 しかし、件の調達員にとってはそんな事は問題ではない。
 戦場へ物資を運ぶ事を生業とする彼にとって、戦が拡大・継続される事は不謹慎ではあるが、むしろ歓迎すべき事だった。
 彼の憂鬱の原因は、もっと別の事。彼の運ぶ荷台の中にあった。
 かつては観光地として一世を風靡したこの土地も、前記の様に戦乱の地となってからは、他の地から訪れる者は“ほとんど”ない。
 しかし、それは 逆に言えば、“まれ”には訪れる者がいるという事である。
 さらに難儀なのは、その“まれ”に含まれるという者は、“ほとんど”という一般大衆の括りに納まらない、厄介な“物好き”である場合が多いという事。
 ・・・そう。今日に限って彼の荷台にはその“物好き”が乗っていた。
 それも・・・

 「あ〜もう嫌、この潮風!!髪がベトベトじゃない!!どうしてくれんのよ!!」
 「それにガタゴト揺れ過ぎ!!何なの、この道?私の事酔わせたい訳!?」
 「大体寒いし!!この季節に何でこんなに寒いの!?風邪ひいたらどうしてくれんのよ!!」

 ・・・こんな客だったのである。
 (・・・見た目はいいんだがなぁ・・・。)
 チラッと後ろを見ると、長い水色の髪にローブを纏った美少女が不平不満を機関銃の様に撒き散らしながら足をバタバタさせている。
 見つけた時、彼女はブツブツ言いながら、トコトコ山道を歩いていた。以前乗せた少女に似た格好をしていた事もあり、旅は道連れと拾ったのが運の尽き。
 乗った端からこの調子である。恐らく、よっぽどの大人物か馬鹿のどちらかでもない限り、百人が百人、ゲンナリするであろう。
 途中で放り出さなかった理由はただ一つ。
 『すいません・・・。いつもこんな調子で・・・。本人に悪気はないんですけど・・・』
 そう声をかけてきたのは、件の少女の使い魔らしき緑色のモンスターだった。「ガガギゴ」というモンスターの子供で、世間では「ギゴバイト」と呼ばれている。モンスターとしては珍しく、人語を解する事でも有名である。
 その彼(?)がこうしてちょくちょくフォローを入れてくるため、捨てるに捨てられないのである。
 まぁ、悪気がないというのも本当ではあるのだろう。その証拠に、機銃掃射の如く吐き出される罵詈雑言はしかし、風や寒さ等、周りの環境に関するものばかりで、調達員自身に向けられたものは一つもない。
 「・・・お前さんも、苦労してるみたいだなぁ・・・。」
 『はぁ・・・orz』
 そういって口から「プシ〜〜」と溜息を漏らすギゴバイトに、調達員は苦笑いするばかりだった。


                 ―2―

 それでもそんな彼らの旅は、程なく終わりを迎えた。
 湖と草原に囲まれた風景が唐突に終わりを告げ、キラキラと光る氷柱が幾つも生えた岩場へと変わる。
 涼しかった気温もさらに下がり、白い靄が立ち込めるそこは、今や吐く息が白く染まるほど。
 「氷結界の一族」の領域に入ったのである。
 調達員は「寒い〜」と喚き散らす“それ”を無視して、首に下げた笛を吹く。

 ピィ〜〜〜〜〜〜

 甲高い音が氷柱に反響し、辺りに響き渡る。
 やがて、それに答える様にパタパタと足音が近づいてきた。
 現れたのは東洋風の衣装に身を包み、髪をツインテールに結った一人の少女。何故か手からぶら下げた鏡で顔を隠している。
 「ああ、物資の補給ですね。ご苦労様です。」
 少女はそう言うと、礼儀正しくペコリと頭を下げる。
 「お〜う。風水師の姉ちゃん、生きてたかぁ?」
 「はい。お蔭様で。これ、今回のご報酬です。」
 氷結界の風水師は、そう言って金貨の詰まった袋を調達員に渡す。
 調達員はチャリチャリと音をさせて袋の重さを確かめると、「毎度」と言ってそれを懐に入れた。
 「何時もすいません。こんな危険地帯にまで足を運んでいただいて・・・」
 「なぁに。こちとら商売でやってんだ。そう感謝されるこっちゃねぇよ。それよか・・・」
 そう言って、調達員は親指を立てて後ろを指す。
 「引き取ってもらいたい“もん”があるんだけどよ。」
 「ちょっと、“もん”とは何よ!?“もん”とは!!」
 間髪入れず飛んできたその声に首を竦めながら、調達員は風水師に“彼女”を見せる。
 「は?えー、どちら様ですか?」
 「ちょいとそこらで拾ってきたんだけどよ。どうも氷結界(あんたら)に用があるらしいのよ。ほら、あんたもこっち来て、挨拶しな。」
 水色の髪の少女は「人を猫の子みたいに言うな」とかブツブツ言いながら、それでも素直に荷台から降りる。そして、ローブの端を摘んで優雅にお辞儀。
 「エリア。水霊使いよ、よろしく。」
 すると、後をついて荷台から降りてきたギゴバイトもそれに倣ってお辞儀をする。
 『ギゴバイトの“ギゴ”です。どうぞよしなに。』
 「あ、これはご丁寧に。わたし、氷結界の風水師です。」
 「・・・・・・。」
 エリアは丁寧にお辞儀を仕返す風水師をジッと見ていたかと思うと、ツカツカと近づいてその顔を隠していた鏡をヒョイと上に反した。
 「?」
 「・・・・・・。」
 しばしの間。
 再び鏡を戻すと、エリアは屈みこんでギゴバイトに耳打ちをする。
 
 「あたしの勝ち。」
 
 「・・・何ですか?」
 『い、いえいえ。何でもないですよ?』
 ギゴバイトは顔を引きつらせながら、そう答えるだけだった。

 「じゃ、俺はこれで。」
 持って来た物資を全て下ろし、軽くなった荷台を担ぎながら調達員は少女達に別れを告げた。
 「「お気を付けて。」」
 「死なないようにね。」
 少女達の気遣い(?)を背に受けながら、氷結界の場を後にする。
 湖のほとりをカラコロと空の荷台を引きながら、調達員はふと後ろを振り返った。
 「なーんか、嫌な予感がするんだよなぁ・・・。」
 しばし立ち止まって考えた後、「まぁ、いいか。」とまたカラコロと歩を進め出す。
 長旅(とその他の事)でくたびれた。出来れば今夜は野宿ではなく宿屋にでも泊まりたいものだ。幸い、早出をしたおかげでまだ日は高い。急げば夕暮れまでには最寄の町に着けるだろう。
 そんな事を考えながら、調達員の姿は地平線の向こうへ消えていく。
 彼は知らない。自分のその予感が、さほど間を置かぬうちに現実となる事を。
 今はただ、町に着く事だけを考えて、カラコロと歩を進める。
 そして程なく、その姿は地平線の果てへと消えていった。


                                              続く
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