はい。みなさん、こんばんは。
「天使のしっぽ」の二次創作掲載の日です(何とか間に合ったw)
今回は3部に分かれていますのでご注意を。
例によってヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意。
それではコメントレス。
睦月猫八さん
遅くなりましたがセリフ減雛形ができました。おくりん坊にて送信しましたので確認お願いします。
セリフ減雛形で変更が多いページは、6・8・9・14・15・20ページに当たる箇所です。特に20ページのセリフを強制的に一ページに収めているので、どうも歯切れが悪いように感じます。
上手くセリフを圧縮できていればいいのですが、このセリフ減雛形に編集点がありましたら、返答時にお教えくださいませ。
それでは、また。
言い忘れていますしたが、ゴキブリはモザイクありとなしではどちらがいいでしょうか?
あとゴキブリの参照画像とかがありますしたら、一緒に送ってもらえると助かります。
(検索したところ分からなかったので)
ご苦労様です。委細承知しました。
確認が終わりましたら、お返事いたします。
イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。
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―降臨―
ザシュウッ
もう何度目かも知れない、裂音が響く。
パッと地面に散る、真っ赤な飛沫。
それを追う様に倒れる、ツバサの身体。
「あ・・・ぐ・・・」
全身はズタズタ。
もはや、悲鳴も出ない。
「いやらぉー!!もうやめてらぉー!!」
腕の中で泣き叫ぶルルの声が、酷く遠くに聞こえる。
そして、それに被さる様に耳朶を覆う、おぞましく耳障りな音。
カシャカシャカシャ カシャカシャカシャ
軋む節足が、嘲笑う様な声を上げる。
百足の足は玩具の様にツバサを翻弄し、いたぶり続ける。
幾十、幾百も刻みつけられる傷。
けれど、致命傷は一つもつかない。
浅くて痛い傷だけが、ジワリジワリとツバサを削っていく。
しかし、そんな傷でも増えれば増える程、出血は増えていく。
もう、足は立たない。
身体も動かない。
今のツバサに出来る事は、泣きじゃくるルルを抱き締め、百足の惨業から彼女を少しでも遠ざける事だけだった。
せめてもの救いは、ツバサが盾になったお陰で彼女が傷ついていない事だろうか。
「ツバサねえたん、もういいぉ!!ルルたんおいて、にげるらぉ!!」
「あはは、バッカ・・・。そんな事、出来る訳ないだろ・・・。」
弱々しく笑いながら、泣きじゃくるルルの頭を撫でる。
ズズ・・・ズズズ・・・
そんな二人の周りで、丸太の様な胴体が動く。
ズズズ・・・ズズ・・・
狭まっていく輪。
なけなしの逃げ場が、侵食されていく。
カシャカシャ カシャカシャ
もう動けないツバサの、それでも何処かに残るかもしれない希望を削り取る様に、無数の脚が蠢き迫る。
ズズ・・・
もたげられた鎌首が、覗き込む様に近づく。
万華鏡の様に自分達を映す複眼。
それが、語っていた。
「もう、飽いた。」、と。
カシャカシャ カシャカシャ
せわしなくなる、脚の動き。
キリキリ キリキリ
湿った軋みを上げる、朱色の顎(あぎと)。
脚で八つ裂きにするか。
顎で挟み切るか。
その様は、まるで最後の料理をどうしようか考えているかの様だった。
いよいよか・・・。
そんな思いが、霞む意識を過ぎる。
「ルル・・・ごめん・・・。助けて、あげられなくて・・・」
そう言うツバサの頬を伝う、一筋の涙。
それを、ルルの小さな手が拭う。
「そんなことないぉ。ツバサねえたん、がんばったぉ。」
「・・・ルル・・・。」
「ツバサねえたん、いっしょらぉ。ルルたん、こわくないぉ。」
そう言って、ニッパリと笑ってみせるルル。
その精一杯の笑顔に、ツバサは幾ばくかの救いを得る。
「・・・ありがとう・・・。」
今にも泣き出しそうな顔に力を込めて、ニッコリと笑い返す。
それをしてくれた幼い妹への、せめてものお礼として。
ギチリ
そんな二人のやり取りを嘲笑うかの様に、百足の顎(あぎと)が動いた。
ギチリ ギチリ
軋み擦れ合う音を立てながら、近づいてくる顎(あぎと)。
どうやら、最後の一撃は顎での両断に決めたらしい。
近づいてくる、毒に濡れた牙。
それを、ツバサは何処か諦観した様な思いで見つめていた。
死ぬのは初めてではない。
それに対する恐れは薄かった。
ただ、腕の中の小さな妹と、悟郎を守れない事が悔しかった。
自分がいなくなった後、皆は悟郎を守れるだろうか。
否、皆も無事で済むだろうか。
願わくば。
願わくば、この化物の毒牙にかかるのは、自分達だけで終わって欲しい。
百足の身体の向うから、皆の叫び声が聞こえる。
ああ、もういい。
もういいよ。
だから、皆は逃げて。
ご主人様を連れて、逃げて。
願う想いは、届くだろうか。
ギチチッ
ゆっくりと開いていく、百足の顎(あぎと)。
ほくそ笑むかの様に光る、百足の複眼。
恐らく、次の瞬間には―
「ルル・・・目をつぶってな・・・。」
「うん・・・。」
頷いて目を瞑るルルを、ギュッとその胸に抱き締める。
せめても、その恐怖が薄らぐ様に。
せめても、苦痛が和らぐ様に。
抱き締める腕に、力を込める。
そこで、ふとツバサは天を仰いだ。
その目に映り込むのは、満天の星空と紅い満月。
遥か彼方に広がるそこを見つめ、ツバサは思う。
(ああ、こんな時、空が飛べたらなぁ・・・。)
ギチ・・・
そんな淡い想いすら断ち切る様に、百足の顎(あぎと)が軋んだ。
(いよいよ・・・か・・・。)
ツバサはもう一度、強くルルを抱き締めると自分も目を閉じた。
この次、この目を開ける事が出来るとしたら。
そこに映るのはきっと、自分の中から溢れ出したもので真っ赤に染まった世界だろう。
(・・・ルルには、見せたくないな・・・。)
ポツリと、そんな事を思う。
この幼い妹が持っていく思い出は、最後まで綺麗で優しくあって欲しい。
今際の際の、ささやかな願い。
天は、叶えてくれるだろうか。
ツバサがそう考えた次の瞬間、
ゴウッ
耳に飛び込んでくる、巨大な流動音。
大気が揺れる。
迫り来る、圧倒的な気配。
(―来た―)
思わず身を竦ませるツバサ。
そして―
ガシャァアアアアッ
静寂の中に高らかに響く衝撃音。
引き裂かれる大気が上げる悲鳴も。
迫り来る気配も。
その全てが一瞬で消える。
しかし―
(・・・あれ・・・?)
同時に身体を襲うはずの痛みも、身を裂かれる感覚も、ツバサを襲う事はなかった。
訳が分からず、目を開ける。
途端、目に飛び込んできたのは赤一色の世界。
しかし、それは先に彼女が思い描いた様な鉄錆の匂いのする、濁った赤ではない。
それは気高く透麗に輝く、炎の如き朱。
「な、何・・・?」
事態が把握出来ず、茫然とするツバサ。
と、
フワリ
そっとのびて来た手が、その身体をルルごと優しく抱き締める。
「え!?えぇ!?」
突然の事態に、パニックになるツバサ。
その耳元で、澄んだ声が涼やかに語りかける。
「どうしました?ツバサさん。諦めるなんて、貴女らしくないですね?」
「――!!」
その声に、心臓が跳ね上がる。
思わず振り返ったその視線の先で、軽やかに舞うのは藤色の長髪。
「お久しぶり。ツバサさん。」
そう言って自分に微笑みかける青年に、ツバサはしばし唖然とした後、自分の置かれた状況を思い出してたちまち赤面する。
「レ、レレレレレ、レイ!!あんた、どうして!?って言うか、どさくさに紛れて何してんのさ!?」
抱き締めた腕の中、途端に暴れ出すツバサに青年―朱雀のレイは苦笑しながら言う。
「ツ、ツバサさん、言いたい事は分かりますが、今は少し時と場合と言うものを・・・」
「え?あ・・・ああ!!」
ツバサ達を包んでいた朱。
それはレイの背から伸びた一対の翼だった。
獣神具、「朱雀の翼」。
それがツバサ達を包み込み、彼女らを両断しようと迫った百足の顎(あぎと)を阻んでいた。
ギギギ・・・
せっかくの享楽を二度にわたって邪魔された百足が、苛立たしげに顎(あぎと)に力を込める。
鋭い縁が朱雀の翼との間でギシギシと軋みを上げ、溢れ出た紫色の毒汁が輝く朱を汚した。
「あ、あ!!おはね、こわれちゃうんらぉー!!」
ツバサの胸から顔を出したルルが、軋みを上げる翼を見てそう声を上げる。
「大丈夫。「朱雀の翼」はこの程度で壊れはしません。もっとも・・・」
ダラダラと翼の表面を滑る毒汁に、レイは顔をしかめる。
「“これ”は些か・・・いや、大いに不快ですが・・・」
そう言うと、レイは翼の隙間から自分達をねめつける百足の顔を見る。
百足の双眼はそれまでの様な金色ではなく、濁った赤色に染まっていた。
「・・・興を殺がれて、お怒りですか?」
そんな百足に向かって、レイは話しかける。
まるで、鼻で笑う様な口調。
しかし―
「けどね・・・」
次の瞬間には、それは一変する。
「それは、こちらも同じ事・・・」
百足に向けられる、明らかな怒りの篭った声。
「僕の花嫁をいたぶってくれた代価は、しっかりと払ってもらいますよ・・・。」
端整な顔に浮かぶ、冷たい薄笑み。
その覇気に反応する様に、百足がギギギ・・・と憎々しげな呻きを洩らす。
「・・・ふん。」
それをサラリと聞き流すと、レイは腕の中のツバサ達に視線を戻す。
「さあ、ツバサさん。こんな無粋な場所は、さっさとお暇しましょう。」
「お、お暇って、どうやって・・・ひ、ひゃああ!!」
思わず素っ頓狂な声を上げるツバサ。
レイの腕が、彼女の肩と足を持って抱き上げていた。
所謂、「お姫様抱っこ」というやつである。
「その娘の事、しっかり抱いていてあげてくださいね。」
そう言われ、テンパりながらもルルを抱く腕に力を込める。
「行きますよ!!」
途端―
バサァ!!
それまでツバサ達を守る様に閉じていた「朱雀の翼」が、それまでの鬱憤を晴らす様に一気に開いた。
バキィッ
同時に響く、鈍い音。
ギィイイイイイイイッ
百足が、悲鳴を上げてその身を反らす。
その顎(あぎと)が「朱雀の翼」に弾かれて、無残に折れて散っていた。
のたうつ百足の頭。
痛感と怒りに真っ赤に染まったその複眼に映るのは、地を這う己を睥睨する様に高く空を舞う朱雀の姿。
「うわぁー、すごいんらおー!!」
ツバサの腕の中で、下を見下ろしたルルが歓声を上げる。
(わぁ・・・)
急に近くなった天空の星々が、流れる様に過ぎていく様をツバサは息を呑んで見つめていた。
「怖いですか?ツバサさん。」
「う、うん・・・。少し・・・。」
「もう少し我慢してください。すぐに降りますから。」
レイの問いかけにそうは答えたものの、実際の所彼女は恐怖を感じてはいなかった。
本来ならそのトラウマを刺激し、恐慌をもたらしてもおかしくない程の高さ。
けれど、そこにあってツバサの心は嘘の様に穏やかだった。
それが、自分を抱き抱える青年の温もりのせいだと薄々は感じながらも、ツバサは心の中で首を振る。
(・・・ご主人様以外の男(ひと)となんて・・・)
そんな分かりやすい葛藤をする想い女(びと)を愛しげな眼差しで見つめながら、レイは穏やかに微笑んだ。
と、その時―
「あーっ!!」
ツバサとは反対に、下を見下ろしていたルルが声を上げる。
「な、何々!?」
驚いて下を見たツバサは、思わず息を呑んだ。
そこでは、頭を弾かれた衝撃で仰け反った百足が今まさに地に倒れんとしている所だった。
そして、その先には逃げ惑う皆の姿が。
「皆!!」
「たいへんなんらお!!みんなつぶされちゃうんらぉ!!」
慌てるツバサとルル。
しかし、その場を見てもレイは落ち着いたまま。
そして一言。
「大丈夫ですよ。」
と言った。
その頃、下にいた皆は恐慌の真っ只中にあった。
百足の牢獄に捕らわれたツバサとルル、そしてユキを何とかして助けようと苦難していた時、突然朱い光が百足の渦の中に差し込んだ。
何事かと思っていたら、激しい衝撃音が響いて百足の上半身が仰け反った。
そのままの勢いで倒れてくる百足。
問題はその方向。
あろう事か百足の巨体は、真っ直ぐ皆のいる方向へ倒れてきたのだ。
「ちょ、ちょっと!!やばいんじゃない!?これ!!」
「皆、逃げてー!!」
ミカとランの叫びが交錯する中、皆が蜘蛛の娘を散らす様に逃げ出す。
ところが―
「アッ!!」
唐突に上がる、短い悲鳴。
「!!」
それに気付いたのはタマミ。
彼女が振り返ると、何かに蹴つまづいたのか地面に倒れ伏すモモの姿が見えた。
「モモちゃん!!」
咄嗟に踵を返し、走り寄る。
「タマミお姉ちゃん、来ちゃ駄目―っ!!」
モモが叫ぶが、そんな事には構ってられない。
タマミがモモの元にたどり着いた時、百足の巨体はもう目の前だった。
思わず抱き合い、目をつぶる二人。
「モモちゃん!?タマミちゃん!?」
気がついたランが叫ぶが、もう間に合わない。
次の瞬間に繰り広げられるだろう惨劇に、皆が目を覆ったその時、
ビュンッ
白い影が、宙を走った。
「どぉりゃあぁあーーーっ!!」
響く雄叫び。
ドガァアアアアアンッ
大きな音とともに、強烈な蹴足が倒れる百足のどてっ腹に叩き込まれる。
その勢いで、百足の身体は進路を変更。
ズドォオオオオオオンッ
そのまま、タマミ達の向こう側へと倒れた。
「へ?あれ?」
もうもうと立ち込める土埃の中で、ポカンとするタマミ達。
その傍らに、ストンと降り立つ一つの人影。
「へ。な〜に馬鹿面下げてやがるんだよ。」
聞き覚えのあるその声に、タマミは一瞬キョトンとした後、ハッと上を振り仰ぐ。
そこに立っていたのは、中華風の白い衣装に身を包んだ金髪の少年。
ニヤリと不敵に笑うその口元で、鋭い八重歯がキラリと光った。
「ガ、ガイ!!あんた、どうして!?」
「どうしてもこうしてもあるかよ。助けに来てやったんじゃねぇか。」
そう言うと金髪の少年―白虎のガイは腰を屈め、タマミの頭をガシガシと撫でる。
「危ね〜所だったなぁ〜。感謝しろよ〜。足りないおつむにしっかり記憶しとけ〜。この俺様に助けられたって事をな〜。」
ニヤニヤと笑いながら、タマミの頭をガシガシするガイ。
そんな彼に、
「ふぅ〜〜〜〜〜!!」
タマミは一声唸ると、
「に゛ゃっ!!」
ガブリ!!
噛み付いた。
「うがーーーーっ!?」
悲鳴を上げて飛び上がるガイ。
手にぶら下がるタマミを慌てて振り放すと、歯形のついた手を涙目でフーフーしながら怒鳴る。
「このガキ!!何しやがる!?」
「ガキじゃないです!!タマミはタマミです!!」
「んなこたぁどうだっていいんだよ!!何しやがるかって訊いてんだ!!せっかく助けてやったってのに!!」
「誰も助けてなんて頼んでないです!!」
「んだとテメェ!!んな事言うなら金とるぞ!!金!!そうだ!!160円よこせ!!160円!!代価はファ〇チキ一本分だ!!」
「何せこい事言ってるですか!?神様のくせに!!大体、助けに来るならもっと早く来るです!!相変わらず使えないですねー!!」
「んだとぉー!?」
「何ですかぁー!?」
顔を突き合わせて唸り合う二人。
まるで野良猫のケンカである。
「いけませんね。ガイ。女性はもっと優しくエスコートするものですよ。」
そんな二人の傍らに、フワリと降り立つのは朱色の衣装の青年―レイ。
「うるせぇ!!そんなの俺の勝手だろ!?」
そう言って、再びタマミと顔を付き合わせるガイ。
そんな末弟に苦笑しながら、レイは抱いていたツバサとルルを地面に下ろす。
「あ痛・・・!!」
ホッとした途端、全身を痛みに襲われツバサは顔をしかめる。
「おっと。いけませんね。」
それを見たレイは、再びツバサを抱き締める。
「ちょ、ちょっと、何するのさ!!」
顔を真っ赤にして狼狽するツバサ。
「少し、我慢してください。」
そう言うと、レイは再び「朱雀の翼」で彼女の身を覆う。
ポウ・・・
淡い光を放つ翼。
優しい温もりがツバサを包み、それに溶ける様に痛みと傷が消えていく。
「あ・・・」
「どうですか?」
「あ、う、うん。アリガト・・・」
顔を背けながらそう言うツバサに、レイは「どういたしまして。」と言って微笑んだ。
「ルルちゃん!!」
「モモねぇた〜ん!!」
タマミとガイの間でオロオロしていたモモが、駆け寄ってきたルルと抱き合う。
「ツバサちゃん!!ルルちゃん!!」
「あー、四聖獣だ!!」
「ゲ、あんた達、何でこんな所に?」
「タマミちゃんとモモちゃんも無事なの!!一時はどうなるかと思ったの〜!!」
突然の事態に狼狽しながらも、集まって来た仲間達がそれぞれの無事を確かめ、喜びの声を上げる。
「ツバサちゃん・・・良かった・・・」
「心配かけてゴメン・・・ラン・・・」
涙を浮かべて抱きついてくるランに、ツバサも同じ様に涙を浮かべて応じる。
「でも、喜ぶのはまだ早いわよ・・・。」
そんな二人の気を引き締める様に、ミカが言う。
「そうなの・・・。ユキさんがまだ・・・」
「大丈夫。後は私達にまかせてください。」
背後から聞こえてきた声に、皆が振り返る。
そこにはアユミを抱き抱えた黒衣の青年―シンが立っていた。
「シンさん・・・!!」
「アユミ!!あんたそんなボロボロになって・・・!!」
慌てて駆け寄ってくるミカに、シンが申し訳なさそうに言う。
「すいません。私達が着くのが遅れてしまって・・・。些か手酷くやられてしまった様です・・・。」
「いえ。シン様は十分に間に合いました。わたくしの傷の手当てもしてくださいましたし・・・。」
そう言いながら、シンの手から降りるアユミ。
「もう。ただでさえ心配だらけだってのに、これ以上心配させないでよ。胃に穴が開いちゃうじゃない!!」
自分の傷の具合を見ながらブツブツ言うミカに、アユミは「す、すいません・・・。」と言って気恥ずかしそうに目を逸らした。
「シン。聖者殿は?」
レイに訊ねられたシンは、自分が歩いてきた方を指して答える。
「向うで結界に入っていただいています。こちらに来るよりも、その方が安全でしょう。」
「例の悪魔のガキは?」
今度の質問はガイ。
それに対しても、シンは同じ方向を指して答える。
「しばし、眠ってもらっています。何。“アレ”にはもう何の力もありません。もはや何も出来はしないでしょう。」
「・・・なるほど・・・。」
「ってぇなると、残りは・・・」
カシャカシャカシャ カシャカシャ
暗闇の中から聞こえてきた音に、振り向く三人。
ゾゾゾ・・・
耳障りな音を立てながら、大百足がその身を起こした。
「コイツだけって訳か・・・。」
舌なめずりをしながら、ガイがボキボキと拳を鳴らす。
「兄者が来るまで待ちます?」
レイの問いに、シンは首を振る。
「王とは言え、兄者も龍神。万が一と言う事もあります。もしまかり間違って兄者が喰われでもしたら、それこそ“コレ”は手がつけられなくなります。丁度、千年前の様にね。ここは、私達だけで片をつけましょう。」
その言葉に、レイは冷たい笑みを浮かべて頷く。
「それはいい。その方が、僕にとっても好都合です。何せ、“彼”には返さなくてはならない“借り”がたっぷりとあるものでね・・・。」
ギギチ・・・
レイのその言葉に反応する様に、百足が牙を鳴らす。
まるで、それはこっちの台詞だと言わんばかりに。
「ヘッ!!顎もなくなったその様で、何を吠えてやがる・・・って、お!?」
驚くガイの目の前で、百足の頭に変化が起きる。
先ほど、「朱雀の翼」によって千切り飛ばされた顎(あぎと)の痕。
ダラダラと濃緑色の体液を流していたそこが、グリュグリュと蠢いたかと思うと―
グジュリッ
汚らしい飛沫を散らし、傷跡から何かが飛び出た。
グジュグジュ・・・グジュルッ
蛹から羽化する昆虫の様に蠢きながら生えてきたもの。
それは、一対の新たな顎(あぎと)だった。
キリ・・・キリ・・・
己の体液に塗れながら生えそろったそれを、確かめる様に二度三度擦り合わせると、百足は怒りに満ちた視線を三人の聖獣に落とす。
「これはこれは・・・。また、なんともエレガントな・・・」
皮肉めいた言葉を吐き捨て、レイは苦笑する。
「・・・易い相手ではありませんよ。二人とも、気を抜かないでください。」
「それは重々、承知の上・・・。」
「へ、こんなゲテモノに後れなんざとるかよ!!」
そんな三人を映す、百足の目。
それは今、血溜まりの様な赤色に染まっている。
それは、“彼”が初めて示す“敵意”の色。
“餌”でも“玩具”でもなく、目の前の相手を排除すべき“敵”と認めた色。
ポタ・・・ポタ・・・
“彼”の顎(あぎと)から毒汁が滴る。
それに汚された地面がシュウシュウと悲鳴を上げ、微かに酸の様な匂いを漂わせた。
続く
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