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2013年01月25日

十三月の翼・31(天使のしっぽ・二次創作作品)







 はい。みなさん、こんばんは。
 2001年・2003年製作アニメ、「天使のしっぽ」の二次創作掲載の日です。
 例によってヤンデレ、厨二病、注意。



イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。


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                 ―弔夢(とみゆめ)―


 トサンッ
 宙を舞った小さな身体が、そんな音を立てて植え込みの中に落ちた。
 そして、辺りを静寂が満たす。
 皆が、息を呑んで次の事態を見守る。
 しかし、トウハが落ちた植え込みは動かない。
 「やった・・・かな?」
 満ちる静寂に耐えかねた様に、ツバサが呟く。
 「確実に当たったわ・・・。少なくとも、無事じゃ済まないと思う・・・。」
 策の成功を確信しながら、しかしランの表情は晴れない。
 その様は、他者を傷つけた事に対する自責に苛まれている様にも見えた。
 そんな彼女の肩を、ツバサが叩く。
 「気に病むんじゃないよ。仕方なかったんだから・・・。」
 「ええ・・・。」
 見れば、自分を励ます親友の顔も同じ様に曇っている。
 その事に気づいて、ランは無理やりにコクリと頷いた。
 
 
 そんな二人の横で、クルミもまたやり切れない思いに沈み込んでいた。
 「お砂糖頭さん・・・。」
 口に残る冷たい絹の様な感触と、かの時のメープルパンの甘さを思い起こしながら、ポツリと呟く。
 と、
 「だ・・・大丈夫ですか・・・?クルミ、お姉ちゃん・・・。」
 「ふえ?」
 後ろからかけられた声にふりむくと、両手にアユミとミカを抱えたタマミが、汗だくで息を切らしながら立っていた。
 どうやら、目を覚まさない二人を引きずりながら皆の元へ戻ってきた様である。
 「タ、タマちゃんこそ、大丈夫なの?」
 「は・・・はい・・・。大丈夫、です・・・。二人とも・・息は・・・」
 「そ、そうじゃなくて、タマちゃんが・・・」
 「はにゃ・・・?」
 言われているのが自分だと気がついたタマミは、我に返った様にヘニャヘニャと崩れ落ちる。
 「タ、タマちゃん!?」
 「ふにゃ〜。疲れたですぅ〜。」 
 いかにも精根尽き果てたと言った声で言うタマミ。
 「ぷふっ!!」
 その情けない顔を見たクルミが、思わず吹き出す。
 「ふにぃ〜、笑うなんてひどいです〜!!」
 抗議するタマミ。
 その顔も、やっぱり情けない。
 「アハ、アハハ、ごめんなの。でも、タマちゃんのそう言う顔、珍しいなの〜。」
 「そ・・・そうですか・・・?」
 「そうなの〜。」
 コロコロと笑うクルミ。
 その様を見たタマミが、ホッとした様に顔をほころばせた。

 
 「やっつけたの、かな・・・?」
 悟郎を運ぶ手を休め、モモがそんな事を言う。
 「おねえたんたち、すごいぉー!!」
 そう言って、ポンポン飛び跳ねてはしゃぐルル。
 そんな中、ナナだけが悲しげな瞳でトウハが落ちた植え込みを見つめていた。 
 「お姉ちゃん・・・」
 か細い声が、囁く様にそう呟いた。

 
 デロンッ
 音とともに大砲が煙に包まれ、その中からアカネとミドリの姿が現れる。
 「やったれすね。アカネさん。」
 「ああ、手応えはあった。・・・けど・・・」
 「アカネさん・・・?」
 怪訝そうな顔をするミドリの横で、アカネは険しい顔で空を見上げる。
 「・・・結界が、解けない・・・。」
 彼女がそう呟いたその時―
 ゾ ク リ
 例え様もない怖気が、皆の背筋を這い上がる。
 「ひゃん!?」
 「な、何!?」
 気付けば、皆の足元を白い霧の様なものがたゆたっていた。
 「こ、これは・・・!?」
 咄嗟に植え込みに目を向けるアカネ。その視線の先で植え込みの木々が見る見る枯れ落ちていく。
 「何・・・!!これ・・・!?」
 突然の事態に、皆が息を呑む。
 と―
 「・・・ナナ・・・。そしてその他二人・・・。」
 霧の向こうから、“その声”が響いてきた。
 「なっ!?」
 「この声!!」
 「そ・・・そんな・・・!?」
 狼狽する皆。
 しかし、そんな事にはかまう事なく、声は続ける。
 「・・・この霧、今のご主人様には毒だから・・・。さっさとご主人様つれて離れなさい・・・。」
 突然の警告。
 「え!!ええ!?」
 「た、たいへんなんらおー!!」
 「ご主人様!!」
 その声を聞き、慌てて悟郎の身体を引っ張り出す三人。
 「・・・良い子だね・・・。」
 そんな言葉と共に、揺れる氷霧。
 そして―
 ユラリ
 その中から、小さな人影が幽鬼の様に起き上がった。
 「あ・・・あ・・・!!」
 「そんな・・・まだ・・・!?」
 愕然とする皆を見返す、朱い瞳。
 「ああ、痛いなぁ・・・。」
 そんな言葉とともに、トウハが枯れ果てた植え込みから出てきた。
 氷色の肌には幾つも痣が浮かび、その足取りはふらついている。
 ダメージは、確かにその身に刻まれていた。
 しかし、それでもトウハの歩みを止めるには及ばない。
 その足が踏み出す度氷霧が舞い、踏まれた地面が黒く氷割れていく。
 「存外、やってくれるね・・・。局所結界着てなきゃ、終わりだった・・・。」
 乱れた前髪をバサリとかき上げると、六角形の欠片がキラキラと散って舞った。
 「局所結界・・・!!しまった・・・!!」
 歯噛みするアカネの前で、朱い瞳が皆を睥睨する。
 その顔に、さっきまで浮かんでいた薄笑は、もうない。
 「けど・・・もうお終い・・・。」
 そう言って、パチリと指を鳴らす。
 途端、その服にボッと黒い炎が灯る。
 ボボボボッ
 炎は、黒い燐光を散らしながらその身体を舐め上げる様に這い登る。
 やがて、身体を嘗め尽くした炎は頭の上で弾け、パッと広がったヴェールがフワリとその身を包んだ。
 炎の下から現れたのは、それまでその身を飾っていた衣装とは打って変わった、物静かな装い。
 華奢な身体をそのラインにそって包む、長袖のリトルドレス。胸で光る、銀色の逆十字。頭に乗せられたヘッドドレスからは、長いヴェールが垂れて夜風に揺れている。
 何よりも目を引くのはその色。
 黒と言うには、あまりにも濃く。
 夜と言うには、あまりにも深く。
 他にたとえ様もないそれは、正しく闇の色。
 そんな色が、彼女の身体を覆っていた。
 そう。それは喪服。
 黒よりも濃い、夜よりも深い、闇色に染められた喪服だった。
 「これ、悪魔(わたし)の正装。天使(あんた達)のメイド服みたいなもん。」
 そう言って、疼く痛みをこらえる様にトウハは大きく息をつく。
 背中の黒翅がユラリと揺れて、黒い燐光がチラチラと散った。
 「・・・この意味、分かるよね?」
 朱い目が、その意思を伝える様に一際妖しく輝く。
 辺りに満ちる、言いようもない冷感。
 たった今まで、皆を満たしていた勝利の熱気が急激に冷えていく。
 「ああ、傷がついちゃった・・・。まだ、ご主人様に触れてもらってないのに・・・。」
 白い肌に出来た痣を、白魚の様な指が撫でる。
 「この傷の代価、しっかり払ってもらうから・・・。」
 そう言って、トウハはその朱眼を憎々しげに細める。
 「・・・覚悟も、出来てるよね・・・?」
 白く長い髪が、ザワリザワリとざわめいて、甘い香りとともに氷霧を散らした。
 「ど・・・どうしましょう・・・?」
 気圧されるタマミに向かって、ツバサが言う。
 「どうもこうもないよ!!ダメージは通ってるんだ!!こうなったら、もう一度ブチかまして・・・」
 しかし― 
 ヴォンッ
 言いかけたその目の前で、突然展開する魔法陣。
 「な・・・」
 「早・・・」
 驚く皆の前、螢緑の魔法陣の向こうでトウハが言う。
 「馬鹿だね。もう、そんな暇、あげる訳ないじゃない・・・。」
 ヴォンッ
 ヴォンッ
 ヴォンッ
 喋る間にも、魔法陣はその数を増していく。
 「ちょ・・・ちょっと、何よコレッ!?」
 「お歌はどうしたですかー!?」
 慌てる皆の中で、アカネがハッとした様に声を上げる。
 「これは・・・まさか・・・“詠唱破棄”!?」
 「な、何なのそれ!?インチキなの!!」
 「あんた、さっき“出し惜しみはなし”って言ったじゃん!?」
 「・・・”切り札”は、とっとくもんでしょ?」 
 がなりたてるツバサに馬鹿にした様な調子で答えると、トウハは右手を上げる。
 ギュルルルルッ
 途端、浮かび上がっていた魔法陣が集束し、細い針へと形を変える。
 「そう!!誉めてあげる!!わたしの、”切り札”まで引っ張り出した事!!」
 ―”切り札”―
 その言葉に、ランの顔色が変わる。
 「皆!!散・・・」
 「逃がさない!!」
 ランの叫びを遮る様に響く、トウハの声。
 瞬間、螢緑の鋭針が空を裂く。
 その数、6本。
 そして―
 ズタタタタンッ
 一人一本。 
 魔性の針が、皆の胸へと突き立った。
 

 「――え・・・?」
 気が付くとランは一人、真っ暗な闇の中に立っていた。
 「ここは・・・何処・・・?」
 辺りを見回しても、それまで共にいた筈の皆の姿はない。
 「ツバサちゃん・・・?クルミちゃん・・・?アカネちゃん・・・?」
 返事はない。
 言いようもない不安にかられ、足を踏み出したその瞬間―
 ―チャプン―
 不意に足元から響いた音と感触に、ランはその身を固まらせた。
 「・・・・・・!?」
 瞳を戦慄かせながら、足元を見る。
 ・・・いつの間に溜まったのか、足が水に浸かっていた。
 「――ヒッ!?」
 思わず悲鳴を上げて後ずさる。
 しかし、
 チャプン 
 下げた足を受け止めるのも、冷たい水の感触。
 「ど・・・どうして、こんな・・・!?」
 混乱するランは、しかしさらなる事態に気が付く。
 チャプン・・・
 チャプン・・・
 水位が、上がってきていた。
 ゆっくりと。
 しかし確実に。
 足首から膝へ。
 膝から腰へ。
 チャプン・・・
 チャプン・・・
 チャプン・・・
 水が、身体を這い登る。
 「い・・・いや!!」
 ランは恐怖に息を詰まらせながら、助けになるものを求めて走り出す。
 しかし、いくら探しても。
 しかし、いくら求めても。
 這い登る場所はない。
 すがりつくものもない。
 あるのは闇。
 限りのない闇。
 そして、水。
 水が。
 ただ水だけが。
 ランの身体を慈しむように。
 上へ。
 上へと満ちてくる。
 「あ・・・ああ・・・いや・・・いやぁ・・・」
 やがて、視界が冷たいゆらぎの中へと沈む。
 チャプン・・・
 最後の瞬間、ランは誰にも届かない叫びを上げた。


 「み・・・皆・・・!?」
 「ランお姉ちゃん!?ツバサお姉ちゃん!?」
 「どうしちゃったんらぉー!?」
 モモ達が、戸惑いとも悲鳴ともつかない声を上げる。
 三人の前で、皆が地に転がっていた。
 一様に血の気の失せた顔をし、苦しげに表情を歪めている。
 中には胸を掻き毟り、涙を流してのたうつ者すらいる。
 どう見ても、尋常な様子ではない。
 「皆!!しっかりして!!」
 モモが咄嗟に走り寄ろうとしたその時―
 「行っても無駄だよ。」
 背後からかけられる声。
 振り返った視線のその先にあったのは、闇色の喪服姿。
 局所結界を張り直したのか、その身を覆っていた氷霧はもうない。
 「ありがとう。ご主人様をお護りしてくれて・・・。」
 そう言って、微笑むトウハ。
 モモは咄嗟に彼女と悟郎の間に走り込むと、両手を広げた。
 「ご主人様に、近寄らないで!!」
 すると、それに倣う様にナナとルルもトウハの前に立ち塞がる。
 それを見たトウハは、クスクスと笑うと手をピラピラと振る。
 「そんなに怖い顔しないでよ。少し、お話しよう。」
 そう言って、カツリと一歩、モモ達に近づく。
 一瞬、足に震えが走る。
 しかし、モモは唇を噛んでそれに耐えると、トウハの瞳を真っ直ぐに見返した。
 「皆に・・・何をしたんですか・・・!?」
 「別に。」
 そう言って、トウハは右手を上げる。
 ヴォンッ
 その掌の上に浮かぶ、魔法陣。
 それを見たモモ達が、ビクリと震える。
 「これはね、『黄昏の迷夢(トワイライト・イルネス)』って言うの。」
 話すトウハの手の上で、魔法陣が細い針へと形を変える。
 「この術にかかるとね、夢を見るの・・・。」
 「夢・・・?」
 「そう、怖い、怖いものの夢・・・。」
 螢緑の光を放つ切っ先が、キキキッと鳴りながらモモに向かって向けられる。
 「例えば、あなた達が心の中で、一番怖いと思っている事とか・・・」
 その言葉に、モモはハッとする。
 「まさか・・・トラウマ!?」
 その言葉に、トウハはクスリとほくそ笑む。
 「当たり。あなた、頭いいね。」
 クスクスと笑いながら、モモ達の向こうに視線を送る。
 「皆、楽しんでるよ。自分たちのトラウマの中でね。」
 その視線の先には、もがき苦しむ皆の姿。

 
 「・・・いや・・・助けて・・・水が・・・水が・・・!!」
 「やだ・・・!!怖い・・・!!来ないで!!お願い・・・!!轢かないで・・・!!」
 「だ・・・駄目・・・落ちる・・・落ちちゃうよぉ・・・!!」
 「うぅ〜、ハンバーグが〜スパゲッティが〜、ラザニアが〜、逃げちゃうの〜!!」
 「あぅ〜、キノコが〜、舞茸が、エリンギが、ブナピーが〜!!襲ってくるれす〜!!」
 

 「・・・一部、珍妙な夢を見てるのもいるみたいだけど・・・」
 「そんな・・・酷い・・・」
 モモがその身を震わせ、戦慄く様に呟く。
 トラウマ。
 それは守護天使が等しく抱える、心の傷。
 もっとも愛しい者との別れの瞬間の、忘れたくとも叶わない、悲痛の記憶。
 現世(この世)での生活の中で、それを押さえ込む術を得た者もいるが、決してそれが癒えたわけではない。
 それは今だに、皆の心に深く深く亀裂を残し、根を張っている。
 目の前の少女は、それを抉り出し、突きつけているのだという。
 それが、どんなに残酷な事か。
 どんな苦痛をもたらすものか。
 同じ傷を持つモモ達には、痛いほどに分かった。
 「そうだよ。わたしは酷いの。」
 そう言って、トウハは掌の上の針をモモに突きつける。
 「だから、あなた達にも何の躊躇いもなく“やれる”よ。」
 三人を見据える、朱い瞳。
 モモの目の前で、螢緑の光を散らしながら、鋭い針がキリキリと音を立てた。
 「――!!」
 思わず、一歩後ずさるモモ。
 「怖いよぉ?この夢は、覚めないんだから。怖い夢が、ずっと続くんだから。目覚める事なく、ずっと、ずぅっと・・・永遠に・・・。」
 その言葉に、モモの顔から目に見えて血の気が引く。
 「ね?怖いよね?嫌だよね?それなら・・・」
 その様子にほくそ笑みながら身を屈めると、トウハは立ち尽くすモモの耳元に口を寄せる。
 「ご主人様、ちょうだい・・・。」
 「・・・・・・!!」
 螢緑の針が、細い首元でキリキリと揺れる。
 「分かるでしょ?あなた、頭いいもんね。」
 氷の様な冷感が、怖気となってモモの背を這い上がる。
 「渡してくれなきゃ、あなた達も・・・」
 トウハの言葉に、けれど彼女は動かない。
 恐怖のためか、目に涙を溜め、その身を震わせながら、それでも口を真一文字に引き結び、地を掴む足に力を込める。
 その様に、トウハは溜息をつく。
 「はぁ、子供でも守護天使は守護天使かぁ・・・。」
 ヤレヤレと首を振りながら、モモの視線に合わせていた身体を起こす。
 「じゃあ、仕方ないね。」
 モモに向けられた鋭針が、不気味な光を放つ。
 「悪いけど、わたしも”余裕”がないんだ・・・。」
 そして―
 「違う!!」
 不意に響いた声が、夜闇の静寂を切り裂いた。


 「――!?」
 思わず身を引いたトウハとモモの間に、小さな身体が割り込んでくる。
 目の前で震える、藍色のツインテール。
 それを見たトウハの顔が、微かに強張る。
 その手から針が落ち、カシャンと音を立てて散った。
 「お姉ちゃん!!」
 トウハに向かって、“彼女”は叫ぶ。
 「違うよ!!こんなの、本当のお姉ちゃんじゃない!!」
 「ナナ・・・!!」
 目の前の少女の言葉に、トウハは思わず後ずさる。
 「ねぇ!!違うよね!!お姉ちゃん、ホントは優しいんだよね!!ナナ、忘れてないよ!!あの日の事!!」
 「ナナちゃん・・・」
 「ナナねえたん・・・」
 必死に訴えかけるナナの姿に、モモとルルも呆気にとられる。
 「ねえ!!お姉ちゃんも覚えてるよね!!答えてよ!!お姉ちゃん!!」
 絶句するトウハに向かって、走り寄るナナ。
 引きかけた手を、逃がさじと小さな手が掴み取る。
 途端、氷温の肌に染み込む温もり。
 それが、トウハの心臓を高鳴らせ、戦慄かせる。
 「お姉ちゃん!!あの時のお姉ちゃんに戻ってよ!!」
 目に涙を浮かべ、トウハの手を握り締めながら、詰め寄るナナ。
 「う・・・あ・・・」
 「ねえ!!お願い!!トウハ姉ちゃん!!」
 「――っ!!」
 トウハはギュッと目を瞑り、何かを振り払う様に頭を振る。
 そして―
 「――っ!!うるさいっ!!」
 バシィッ
 「キャンッ!!」
 力いっぱい払われた手に弾かれ、小さい身体が地に転がった。
 「ナナちゃん!!」
 「ナナねえたん!!」
 ナナに駆け寄る、モモとルル。
 「トウハ姉ちゃん・・・」
 モモに抱き起こされながら、潤んだ目でトウハを見つめるナナ。
 そんな彼女に向かって、トウハは叫ぶ。
 「うるさいうるさいうるさい!!気安く呼ぶな!!わたしの名前を呼んでいいのは、ご主人様だけだ!!」
 叫ぶトウハの前で、三つの魔法陣が展開する。
 思わず、息を呑む三人。
 「もういい!!あんた達も眠れ!!眠っちゃえ!!」
 魔法陣がギュルルと集束し、鋭い針へと形を変える。
 その切っ先が、三人の胸へと向けられる。
 思わず目を瞑るモモ達。
 その彼女達に向かって、針が飛ぼうとしたその瞬間―
 「待て・・・!!」
 不意に響いた声が、再びトウハの動きを止めた。


                                                
                                   続く
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