2013年01月21日
霊使い達の黄昏・11
作成絵師 ことかす@Youtuber様(渋 user/2734137 スケブ https://skeb.jp/@NNPS_KM_SONYA)
はい、皆様こんばんわ。土斑猫です。
昨日、一日のアクセス数が初めて300件を越えました♪
皆様、本当にありがとうございます。
嬉しいなーっとwww
と、言うわけで「霊使い達の黄昏」16話掲載です。
―11―
「ねえ!!どういう事!?どうして、“あの子”を召喚(呼べ)ないの!?どうして“あの子”は来てくれないの!?ありえない!!“あの子”がアタシを拒むなんて、絶対ありえない!!」
「落ち着いてくれ。エリア女史・・・。」
半狂乱のエリアを制しながら、アウスは考えていた。
しもべ契約。
それは、他者の介入を決して許さない、絶対の契り。
例えしもべの命が絶えたとしても、その契約は途絶えない。
しもべが、“しもべ”として存在する限り。
まして召喚権が奪われるなど、通常では在り得ない事である。
しかるに、その事態が現実に起きている。
これは、何を意味するのか。
アウスの思考が、あらゆる可能性を検索していく。
そして―
「―!!―」
やがて、それは一つの答えへとたどり着く。
「そうか・・・!!」
そう言いながら、アウスが立ち上がる。
「・・・?・・・」
そして、ポカンとするエリアに向かってアウスは言った。
「エリア女史、ギゴ氏は生きている!!」
その言葉に、エリアは目を見開いた。
いつしか、日は高く昇っていた。
その日の下で、ウィン達はアウスからの連絡を待っていた。
しかし―
「連絡・・・ないね・・・。」
「・・・だな・・・。」
ウィンの呟きに、ヒータが答える。
「ギゴくんのこと、まだわからないんですかね・・・?」
途方に暮れた様に空を仰ぐライナ。
その横で、崖に背もたれながらダルクが言う。
「・・・アイツの事だ。何か分かれば必ず言ってくるさ・・・。それよりも・・・」
黒い瞳が、皆を見渡す。
「僕達は、どうする?」
「どうするって・・・?」
「ここでこうやって突っ立ってても、どうにもならないだろう。何か、行動するべきじゃないのか?」
「・・・そうだな。」
その言葉に、ヒータが頷く。
「どうするですか?」
「とりあえず、ガスタの村に行こう。」
「むら、ふっとばすですか?」
「そう、面倒な事は先に済ませとこう。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
交わされる剣呑な会話に、慌てるリーズ。
「・・・冗談だよ。」
そんな彼女に向かって、ヒータは冷ややかな視線を向ける。
何処か呆れた様で、何処か疲れた様な瞳。
「んな事、する訳ねえだろ。」
ライナとダルクも、同意する様に頷く。
「あんた達・・・」
「・・・言っとくけどな、勘違いすんなよ・・・!!」
ホッとした様子のリーズに、ヒータがすかさず釘を刺す。
「ガスタ(あんた達)を許したわけじゃねぇ。“それ”をやっちまったら、命がけでガスタ(あんた達)を守ったウィンやエリアの気持ちを無駄にしちまうからだ!!」
ヒータは、あくまで厳しい声音で言う。
「村に行くのは、エリアに付けられた言いがかりをぶち壊すためだ!!」
「・・・絞める所は絞めさせてもらうからな・・・」
「かくごはしとくです〜。」
「・・・ああ、分かったよ・・・」
口々に言うヒータ達に向かって、リーズはコクリと頷いた。
「おいで!!ウィッチン!!」
キイアァアアアアアアッ
ウィンの呼びかけに応えて、ウィング・イーグルが姿を現す。
「リーズさん、乗って。」
「ああ、ありがとう。」
そう言ってウィング・イーグルの背に飛び乗るリーズ。
後ろを見れば、モイスチャー星人の上で居場所を巡って押し合いへし合いしているヒータ達の姿。
「なあ、アンタ・・・。」
「何?リーズさん。」
「良い仲間、持ってるんだな・・・。」
その言葉に、ウィンは驚いた様にリーズを見る。
リーズは、そんなウィンに向かって優しく微笑む。
「・・・うん!!」
そして、久しぶりに、本当に久しぶりに、ウィンは心からの笑みを浮かべた。
「いいかい?エリア女史・・・。」
訳が分からないといった体のエリアに、アウスは語りかける。
荒れ果て、ひび割れた彼女の心に染み入る様に。
優しく。
ゆっくりと。
静かに、語りかける。
「通常、霊使い(ボク達)のしもべ契約は、その対象(しもべ)が死んでいても変わる事なく履行される。それはさっきも言った通りだ。」
アウスの言葉に頷くエリア。
「それが、無効化されたという事は、可能性は一つしかない。」
「・・・何よ?それ・・・?」
「“彼”が一度死に、そして蘇生もしくは転生させられたということさ。」
「・・・・・・!?」
目を見開くエリアの前で、アウスは続ける。
「霊使い(ボク達)の契約証印が有効性を保ち続ける条件はただ一つ。対象となるしもべが“そのしもべという存在”である事だ。」
「・・・“そのしもべという存在”・・・?」
まだ要領を得ないといった体のエリアに向かって、頷くアウス。
―曰く、例えて言えば契約の対象が“ギゴ”という名の“存在”であるならば、それがそのまま変わる事無く“ギゴ”であり続けるという事。
“ギゴ”は、あくまで“ギゴ”であるという概念。
普通、それは不変である。
「ギゴ」という存在がその存在の過程で、「デヴィ」や「吉」に変わるという事はありえない。
例え対象たる存在が死んでいたとしても、その遺体が“ギゴ”であるという事に変わりはない。
故に、霊使い彼女達の契約証印は、その遺体を“ギゴ”と認識して効力を発揮する。
しかし・・・
「それには二つ、例外がある。」
「例外・・・?」
「ああ。“蘇生”と“転生”だ。」
「!!」
“蘇生”とは、一度死した肉体に、再びその魂を宿す事で新たな生の道へと導き直す事。
“転生”とは、死した肉体を一度分解し、その魂とともに新たな存在へと構築し直す事。
プロセスは違うが、両者に共通する事がある。
それは、事を成された対象者が、“新たな存在”として生まれ変わるという事。
一度離れた魂と肉体が、もう一度一つに結び付けられる時、それを世界は新たな“誕生”として受け入れる。
例え、それが生前の記憶を持っていたとしても、生前と変わらぬ心を持っていたとしても、その摂理は変わらない。
つまり、甦りし者は、生前の存在とは全く別の存在として、世界に認識されるのだ。
「・・・それじゃあ・・・」
エリアの呟きに、アウスは再度頷く。
「ああ。霊使い(ボク達)の契約は、そのしもべが蘇生もしくは転生した時に限り、履行をキャンセルされる。だからボクは、ギゴ氏を蘇生させた後に改めて君達にしもべ契約を行わせるつもりだった。」
「・・・でも、ギゴは呼べなかった・・・」
「そう。それはギゴ氏がすでに、蘇生もしくは転生させられているという事を意味する。」
「・・・誰が・・・そんな事・・・」
「そこだよ。ボクが悩んでいたのは。」
そして、アウスは言葉を続ける。
先刻、エリアがギゴを召喚しようとした際、起こった事象。
浮かび上がった奇妙な魔法陣が、その召喚喚起を拒絶した。
ただ契約がキャンセルされただけなら、そんな現象はおこらない。
召喚喚起が不発となって終わるだけである。
つまりそれは、すでに新たな契約が現在のギゴを束縛しているという事を意味する。
ならば、それを行ったのは何者か。
「あの時、浮かび上がった魔法陣を覚えているかい?」
「う、うん。確か、変な鏡を象った様な・・・」
「そう。“鏡”だ。そこに、思い当たる事はないかい?」
その言葉に、ハッとした様に顔を上げるエリア。
「ひょっとして・・・!!」
「そう。“リチュア”だよ・・・」
「――!!」
息を呑むエリアに向かって、アウスが言う。
「君も、薄々・・・いや、確信していたんだろう?今回の事件の裏では、彼らが糸を引いているっていう事を・・・」
「・・・・・・。」
無言で俯くエリア。
それをアウスは肯と受け取る。
「彼らがギゴ氏を使って何を企んでいるかは分からない。だけど、自分達以外の存在を“資源”としか見ていない様な連中だ。多分、ろくな事じゃないだろう。」
「・・・・・・。」
俯いたまま、何も言わないエリア。
そんな彼女に、アウスはあくまで静かに語りかける。
「エリア女史。辛いだろうが、今は事実を認識してくれ。今考えなければならないのは、ギゴ氏をどうやって取り戻すかだ。それをするためには君の力が・・・」
―と、
「・・・フ、フフ・・・」
うつむいていたエリアの口から、そんな声が漏れる。
「・・・エリア女史・・・?」
「フフ・・・ウフフフフ・・・」
怪訝そうなアウスの声には答えず、エリアは笑い続ける。
「だ、大丈夫かい?エリア女史・・・」
さすがに心配になったらしいアウスが、そう問いかける。
途端―
「ふざけんなーっ!!」
そんな叫びと共に、ガバリと立ち上がるエリア。
「何よ!!何々!!って事はつまり、あの新興宗教の引き篭もりどもが、あたしからギゴを奪ったって事!?」
「いや、君の契約がキャンセルされてた時点での契約だろうから、奪ったってのは正確では・・・」
「同じ事よ!!」
怒鳴るエリア。
甲高い声が、静かな高地でクワンクワンと木霊する。
「許さない!!リチュアだかカルチャーだか知らないけど、絶対に許さない!!ぶん殴って、踏んづけて、クシャクシャにして、あたしからギゴを奪った事とこの世に生まれた事を後悔させてやるわ!!」
さっきまでの無気力ぶりが嘘の様に、ギャンギャンと喚き散らすエリア。
そんな彼女を前に、唖然とするアウス。
実に稀有な光景である。
「アウス!!何か食べ物ない!?」
「え・・・?あ、ああ、このバックに携帯食が幾らか・・・。どうするんだい?」
「食べるに決まってるでしょ!!血が足りないの!!こんな体たらくじゃ、連中をボコる事もできゃしないじゃない!!」
そう言いながらバックをかっぱらうと、中から引っ張り出した携帯食にかぶりつく。
バクバクと頬張るその姿を眺めながら、アウスはクスリと笑う。
「・・・リチュアの諸君、とりあえず礼を言っておくよ。君らのお陰で、ボクの友人が気力を取り戻したようだ・・・。」
独り言の様にボソボソと呟く。
「近いうちにお礼をさせてもらおう。そう、たっぷりとね・・・。」
そう言って、アウスはその顔に密やかに笑みを浮かべる。
・・・見た者が怖気を誘われる様な、そんな冷たい笑みだった。
ビュウウウウウウ・・・
涼風の吹く空を、ウィン達はそれぞれウィング・イーグルとモイスチャー星人に乗って駆けていた。
「おーい。ガスタの村ってのは、まだかかんのかよ?」
「ううん。もうすぐ見えてくるよ。ホラ。」
ヒータの問いに、ウィンが眼下を指し示す。
その先には、確かに小さな村が見えてきていた。
「あれか。よーし、お前ら、準備はいいか?」
「・・・当然だろ・・・。」
「じゅんびはばんたんなのです〜。」
そう言いながら、パキポキと拳を鳴らす二人。
「はは・・・。お手柔らかに頼むよ・・・。」
そんな皆を見て、苦笑いを浮かべながらそんな事を言うリーズ。
―と、
ズガァアアアアンッ
周囲に鳴り響く轟音。
「な、何!?」
「おい!!あれ!!」
ヒータの指し示す方を見ると、眼下の村から大きな土煙が上がっていた。
「な・・・何が・・・!?」
茫然とするウィン達の前で、再び轟音が響いた。
―村に戻ったカムイは一人、物思いにふけっていた。
一人っきりの家の中で足を抱えて。
縮こまりながら。
息も潜めて。
身動ぎもせず。
ただ。
ただ。
考えていた。
(返せ!!返せ返せ返せ返せ返せ!!エーちゃんを返せぇ!!)
(カムイ・・・アンタの目は何処まで曇っちまったんだ!?)
頭の中で、交互に木霊するのはウィンとリーズの声。
(エーちゃん・・・エーちゃん・・・)
(カムイ・・・、頭を冷やして、もう一度じっくり考えな。何が正しいのか、何がまちがってるのか・・・)
瞑った目蓋の裏に浮かび上がるのは、青い髪を抱いて涙をこぼす少女の姿。
それに被さる様に響く、リーズの言葉。
(アンタがそんなんじゃあ、父さんと母さんあの人達は、安心してsophia様の所に行けないよ・・・。)
堪らず、頭を抱える。
その脳裏に浮かぶのは、過ぎ去って行った情景の数々。
見慣れない魔法陣。
術を使う、青髪の女。
村を覆う、毒の風。
父と母。
最後の、笑顔。
療養所に現れた女。
見覚えのあった、青い髪。
連れ合いの少女と、飛び出していく姿。
吹き荒れた大風。
晴れる毒風。
戻ってきた女の、疲れ切った顔。
そこに投げつけられる、罵声。
荒れ狂う憎悪。
ただ黙って、それに耐える彼女。
村を去っていく、後姿。
夕日の中で、使い魔とじゃれあっていた無邪気な顔。
突き落とした時、キラキラと散った朱い雫。
自分を見つめる、使い魔の瞳。
そして、全ては谷の底へと落ちていく。
グルグルと回る、記憶。
グルグルと巡る、思考。
・・・分からなかった。
答えが、分からなかった。
自分がした事。
自分がしたかった事。
自分がしなければならなかった事。
何もかも。
何もかもが、分からなかった。
「父さん・・・母さん・・・オレ・・・オレ・・・!!」
幼い心と脳髄にかかる、重い負荷。
それに耐え切れず、助けを求める様に呟いたその時―
ドガァアアアアアンッ
突然の爆音が、辺りに響いた。
「な、何だ!?」
慌てて外に飛び出すカムイ。
―村は、パニックに陥っていた。
逃げ惑う村人達。
見る影もなく潰され、崩れ落ちる家々。
立ち込める、土煙。
その向こうで、巨大な影が蠢いた。
同じ頃、村の上空に差し掛かったウィン達も、その様を目の当りにしていた。
「な、何!?何があったの!?」
「ヒータちゃん!!あんまりきがはやすぎるですよ!?」
「馬鹿野郎!!オレじゃねえよ!!」
「見ろ!!あそこに何かいる!!」
立ち昇る煙の元を、ダルクが示す。
そこに立つ姿を認めたとき、皆が息を呑んだ。
「サフィアさん!!サフィアさん!!」
自分を呼ぶ声に、サフィアは朦朧としていた意識を戻した。
見れば、目に涙をためたラズリーが彼の顔を覗き込んでいた。
「う・・・む・・・?ラズリー・・・小生は、いったい・・・」
そう言って、地に倒れていた身を起こそうとする。
「待って!!動いちゃ駄目です!!今、傷の手当をしますから!!」
言われて見れば、サフィアの白銀の鎧には巨大な爪痕が刻まれ、その身体は無残にひしゃげていた。
「む・・・これは些か手酷くやられたな・・・。」
「そうです!!だから、動かないで!!」
しかし、その声に抗う様に、サフィアはその身を起こそうとする。
裂けた身体が、ギギギッと軋んだ悲鳴を上げた。
「ああ、動いちゃ駄目ですってば!!」
涙混じりの声で言うラズリーを制しながら、サフィアはその視線を村の方へと巡らせる。
彼が護っていた村の入り口は無残に破壊され、その奥にある村からは白煙が上がっていた。
「いかん・・・!!」
それを見て、立ち上がろうとするサフィア。
「止めてください!!身体が持ちません!!」
「そうはいかぬ・・・。この村を守るのは、エリア嬢との約定なれば・・・」
そう言って尚も身を起こそうとするサフィアに、ラズリーが抱きつく。
「それは分かっています!!だけど・・・だけど!!」
「ラズリー・・・」
「お願いです・・・。せめて、この傷の手当が済むまでは・・・」
「・・・分かった・・・。」
根負けした様に、再び身を横たえるサフィア。
それを見たラズリーは、ホッとした様に相好を崩すと手当ての準備を始める。
「出来るだけ・・・手早く・・・頼む・・・。時が・・・惜しい・・・。」
「・・・はい。」
傷の手当てを受けながら、サフィアは先刻自分が対峙した存在の事を思い返していた。
(・・・あの姿・・・、あの声・・・。まさか・・・)
自分の考えに言い知れぬ不安を感じながら、サフィアの意識は闇の中へと堕ちて行った。
ギィガァアアアアアアアアッ!!
騒然とする村の中に、轟音の様な叫びが響き渡る。
「何だよ・・・?何なんだよ・・・!?アレ!!」
逃げ惑う村人達の中、カムイは立ち尽くし、目の前で暴威を振るう存在を茫然と見上げていた。
身の丈は数メートル。筋骨隆々とした深緑の身体を、鎧とも機械ともつかない銀色の金属パーツが覆っている。その双眼は禍々しい朱色に染まり、爛々と狂気に満ちた光を振りまいていた。
ギィガァアアアアアアアアッ!!
大きく裂けた口が、また咆哮を上げる。
と、その口中に蒼白い光が集束し―
バチュンッ
一筋の閃光となって放たれる。
ヂュンッ
その閃光が通った場所には一瞬青白い線が残り、そして―
ドキャアアアアアアアアンッ
凄まじい爆音とともに弾け飛ぶ。
家々の破片とともに降ってくる水飛沫。
それが、超圧縮された水の一閃と気づく。
振るわれる暴威はそれだけではない。
鋼鉄の爪が生えた腕が唸る度、家屋の壁は布切れの様に千切れ飛ぶ。
巨蛇の様な尾がのたうてば、それだけで地が深く抉られた。
「まずい!!これ以上暴れられたら・・・!!」
村の護り手、ダイガスタは自分を入れて五人。
そのうちの二人、賢者ウィンダールと巫女ウィンダはまだ毒の影響から回復しきっていない。
もう一人のリーズは今、村を離れている。
最後の一人、エメラルはまだ姿が見えない。そもそも一種の賭けで成されたエクシーズ体。ひょっとしたら、慣れない魂魄同調(オーバーレイ)に手間取っているのかもしれない。
それならば―
自分はダイガスタ。
ガスタの民を護る者。
ならば、すべき事はただ一つ。
「オレが・・・やらなくちゃ・・・!!」
震える足に力を込め、カムイは相棒の名を呼ぶ。
「ファルコ!!」
『ピィイイイーッ』
呼びかけに答えて、ガスタ・ファルコがカムイの元に舞い降りる。
「神霊降臨(カムイ・エク)!!『ダイガスタ・ファルコス』!!」
高らかに響く声。
突風が渦巻き、巨大化したファルコとそれに騎乗したカムイが現れる。
「行け!!」
その指示に答え、ファルコスは怪物に向かって舵を切る。
鋭い風切り音を響かせながら、怪物に肉迫するファルコス。
土煙に遮られてよく見えなかったその顔が、カムイの前に晒される。
「――!?」
それを見た瞬間、カムイの目が驚きに開かれる。
―と、
『ピィイイイイー!!』
響き渡る、警戒の声。
ハッと我に帰る。
慌ててファルコスを上昇させる。
ゴウッ
一瞬の後、彼らがいた場所を鋼の爪が轟音を立てて通り過ぎた。
「はあ・・・はあ・・・」
恐怖と緊張でカラカラになった喉を、ゴクリと唾で湿らせる。
「あの顔・・・まさか・・・!?」
奈落に落ちていく中、自分をしかと見つめていたあの使い魔の顔が思い出される。
「そんな・・・そんな、馬鹿な・・・!?」
そう。
そんな筈はない。
あの時、確かに。
確かに、突き落としたのだから。
あの女と一緒に。
この手で。
殺したのだから。
訳が、分からない。
カムイが、混乱の極みに達しようとしたその時、
「あら、アンタ、飛べるんだ?」
聞きなれない声が、頭上から響いた。
顔を上げると、その視線の先で踊る、青い髪―
一人の少女が、杖に腰掛ける様にして宙に浮かんでいた。
「ああ、ひょっとしてアンタが“ダイガスタ”ってやつ?ふ〜ん。意外と貧相なのね。」
そう言って、せせら笑う少女。
腰近くまで伸びた長い青髪。
魚の鰭の様な意匠をあしらった、黒い衣装。
その姿に、カムイは覚えがあった。
「お前・・・誰だよ・・・?」
戦慄きながら、問いかける。
「アタシ?アタシはエリアル。リチュア・エリアル。」
そう言って、エリアルは清楚な顔にもう一度冷たい笑みを浮かべた。
「――!!エリア女史!!」
しっかりと携帯食を腹に詰め、腹ごなしにと体操をしていたエリアは背後からかけられた声に振り向いた。
「どうしたの?アウス。」
声の主、アウスは右手を耳に当てて宙を睨んでいた。
「ねぇ。どうしたのよ?」
再び訊いて来るエリアに、アウスは固い表情で答える。
「ヒータ女史達と一緒に、ウィン女史の方に向かったデヴィからの通信だ。どうやら、事態は想定以上に面倒な事になっているらしい。」
「・・・どういう事・・・?」
「とにかく、ボク達もここを立とう!!話は道中でする!!めー氏、頼む!!」
アウスの言葉に、異形の天使はゆっくりと身を起こした。
カムイは愕然としていた。
目の前で冷笑を浮かべる少女の姿は、違う事なく“あの時”見たもの。
確かに、青い髪も、その顔も、自分が手にかけた“あの少女”によく似ている。
けれど、違う。
いくらその髪色が同じでも。
いくらその顔が似ていても。
その身に纏う雰囲気も。
その顔に張り付く冷笑も。
あの少女のものとは、まるで違っていた。
「そんな・・・そんな・・・!!」
「?、どうしたのぉ?まるで化け物でも見た様な顔して。」
そう言って、エリアルと名のった少女はケタケタと笑う。
「お前・・・お前なのか・・・?おれ達の・・・ガスタの村を毒に染めたのは・・・?」
その言葉に、エリアルは一瞬キョトンとし、そして直ぐに相好を崩した。
「ああー。そうそう。どうだった?アタシの猛毒の風(カンタレラ・ブリーズ)。結構、いい感じに逝けたでしょう?」
決定打。
カムイは、よろめく足を辛うじて留める。
馬鹿な。
そんな馬鹿な。
それじゃあ、自分のした事は・・・。
(カムイ・・・アンタの目は何処まで曇っちまったんだ!?)
頭の中に、リーズの言葉がクワンクワンと木霊する。
「ああ、そう言えば、アタシも訊きたい事があるんだけどぉ・・・」
「・・・・・・?」
エリアルの言葉に、カムイは顔を上げる。
「アンタ、アタシの“ギディ”に何かした?」
「・・・え?」
「何かさっきから、凄い目でアンタの事見てるんだけど?」
「・・・え?」
ゾクゥッ
途端、背筋を貫く悪寒。
思わず振り返ると、自分を見つめる紅い光と目があった。
・・・下にいた怪物が、その赤眼でカムイを見つめていた。
それは、憎しみ。
例え様もない憎悪に満ちた、光。
「あ・・・ああ・・・」
その光に縛られる様に、足が竦む。
怪物の口が、ゆっくりと開いていく。
「エ゛リ゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛・・・」
空ろに響く、虚ろの声。
開いた口の中に、蒼白い光が集束していく。
逃げなければ。
頭がそう悲鳴を上げる。
しかし、身体は動かない。
主の動揺を感じてか、ファルコスの動きにも迷いが生じる。
そして―
バチュンッ
放たれる閃光。
蒼白い光が、ダイガスタ・ファルコスを貫いた。
続く
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