いやー。遅れた遅れた(汗)隔週掲載、2001年・2003年製作アニメ、「天使のしっぽ」の二次創作復活です。
今月はもう、万事この調子ですね。師走ぱねぇorz
読んでくださってる皆様には誠に申し訳ありませんが、御了承のほどよろしくお願いします。
例によってヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意。
イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。
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―魔夢―
クルクルクル
トウハの手の中で、踊る黒刃。
それに合わせる様に、薄い唇が調べを紡ぐ。
『―♪可愛い子山羊 メエメエ子山羊 六匹 子山羊 可愛い娘 甘いミルクに 優しいお歌 暖炉の前にはふわふわ毛布 母さん呼ぶまで 良い子でおねむ 母さん呼んでも 悪い子おねむ・・・♪―』
突然響き出した場違いな“それ”に、場の全員が意表をつかれる。
「・・・な、何よ、アイツ!!急に歌なんて歌い出して・・・!?」
「綺麗な声れすね〜。」
「な・・・何だろう・・・?諦めたのかな・・・?」
口々にそんな事を言う皆に、アカネが叫ぶ。
「違う!!アレは術式起動の“呪歌”!!何かする気だ!!気をつけて!!」
「え!?ええ!?」
「にゃ、にゃんですとぅー!?」
『―♪おっきは出来ない 腹の中♪―』
その警告を嘲笑うかの様に、それが言の葉を結ぶ。
途端―
ポウッ
ポウッ
ポウッ
夜闇に堕ちていた町のあちこちに灯る、淡い光。
それは、螢緑の光を放つ無数の魔法陣。
学校に。
公園に。
道路に。
町のいたる所に灯ったそれが次の瞬間、光の炎柱となって天と地を繋ぐ。
「なっ!?」
「何よ!!これぇ!?」
町全体をグルリと取り囲む様に燃え立つそれに、皆が驚きの声を上げる。
「こ・・・こんな数の魔法陣、一体いつの間に・・・!?」
さすがにうろたえるアユミに向かって、トウハは嘲る様な笑みを浮かべる。
「アハハハ、だからあんた達はぬるいって言うのよ!!この一週間、わたしが何もしないでブラブラしてたって思ってる訳!?」
「―!!」
その言葉の意味を察したアユミが、目を見開く。
「そう。たっぷりと“仕込ませて”もらったよ。ありったけね!!」
言いながら、トウハは手にした黒刃で天をさす。
「さぁ、結べ!!」
その言葉に従う様に、魔法陣から放たれる光が互いと互いを結び出す。
それは凄まじい勢いで地を走り、一つの紋様を描き出す。
それは、複数の“陣”が結び合って作り上げる、途方もなく巨大な魔法陣。
その大きさは、優に町一つ分。
皆の視界全体が、螢緑の光に覆われる。
「な・・・なんなんらぉー!!」
「こ・・・怖い・・・!!」
ルルとモモが、怯えた様に声を上げたその瞬間―
「きゃあっ!?」
陣の中心から響いた声に、皆の視線がそちらに向く。
「ご・・・ご主人様!?」
見れば、悟郎が力なく崩れ落ち、その身体をランが必死の形相で支えている。
「ランちゃん、どうしました!?」
「わ・・・分かりません!!急にご主人様が・・・!!」
戸惑いながら答えるランを見て、アユミがハッとした様に前を向く。
そこには、冷たい笑みを浮かべながら事態を見ているトウハの姿。
「・・・何をしました・・・!?」
「別にぃ。ただちょっと、“停滞”してもらっただけ。」
「・・・!?」
怪訝そうな顔をするアユミに向かって、トウハは両手を上げる。
「今この町を覆っている“術”はね、『まどろめる病(ヒュプノス・シンドローム)』って言うの。結界術の一つでさ、この術の範囲内にいるものは皆、“停滞”しちゃうの。」
「停滞・・・?」
「そう、“停滞”。言ってみれば、深い深い眠りみたいなもん。“この”中にいる限り、絶対に目は覚めない。」
「―!!」
その言葉に、アユミの顔が強張る。
それを見たトウハは、楽しげに、酷く楽しげにカラカラと笑う。
「あはは、どうしたの?もっとヤバイ術だと思った?んな訳ないじゃん。ご主人様を傷つける様なまね、わたしがする訳ないよ。もっとも・・・」
笑い声が止まり、冷たく囁く様な声が言う。
「・・・これで、ご主人様は逃げられないけどね・・・。」
その言葉に、アユミの顔を一滴の汗が伝って落ちた。
・・・町が、その動きを止めていた。
道を歩いていた者は、その場に倒れ伏せ。
机に向かっていた者は、そのまま机に突っ伏して。
風呂に入っていた者は、湯船につかったまま。
否、人だけではない。
木にとまった小鳥は、その姿勢のまま。
庭先で餌を食べていた犬は、餌皿に鼻を突っこんだまま。
獲物を狙っていた猫は、地に伏せたまま。
夜に花開く筈の月下美人も、その蕾を閉じたまま。
車のエンジンは止まり、夜を照らしていた電灯はその光を消した。
人も。
動物も。
植物も。
そして、機械でさえも。
皆、身動ぎ一つしない。
眠っていた。
昏々と。
ただ昏々と。
皆。
深く。
深く。
眠っていた。
「ご主人様!!ご主人様!!」
「ごしゅじんたまー、おねむしちゃだめらぉー!!」
「ご主人様、起きてなの!!起きてってば!!」
ランがその身体を揺さぶり、皆が必死に呼びかけるが、悟郎の意識は戻らない。
昏々と。
ただ昏々と眠り続けるだけ。
「だーかーらー、無理だって。術を解除するか、中から出るかしなきゃ絶対に起きないってば。」
引っくり返ったベンチの足に、チョコンと乗ったトウハがケタケタと笑う。
「でも、基本現世の存在じゃない“天使(あんた達)”には効かないんだよねー。いっそ、あんた達も眠ってくれたら話は簡単だったのに。」
そう言いながらも、その様子に焦りの色はない。
「でも、あんた達じゃ術の解除は出来ないし、術は町を丸ごと覆ってるから、こっから出るのも大変だ。さあ、困ったねー。」
その言葉に、皆が一様に青ざめる。
瞬間、その動揺に呼応するかの様に護封陣がユラリと揺らいだ。
「―っ!!いけない!!」
それに気付いたアユミが、叫ぼうとしたその時―
「皆、惑わされちゃ駄目だ!!」
鋭い声が、辺りを押し包む静寂を切り裂いた。
驚いた皆の視線の先にいたのはアカネ。
「確かに、ご主人様は逃げられなくなったけど、あいつもこっちに手出し出来ないのは変わらないんだ!!弱気になっちゃ駄目!!そうしたら、あいつにつけ込む隙を与えてしまう!!」
その言葉に、皆がはっとした様に頷く。
「そ、そうよ!!護封陣(この)中にいる限り、あいつはご主人様に指一本触れられないんだから!!」
「そ、そうだったです。いや〜一時はどうなる事かと・・・。」
「よし!!こうなったらホントの持久戦だ!!みんな、気合入れよう!!」
「おーっ!!」×10
皆の気合に応える様に、再び輝きを強める護封陣。。
その様子にアユミは安堵した様に頷くと、改めて目の前のトウハに向き直る。
「わたくし達の動揺を誘う気だった様ですが、どうやらハズレみたいですね。」
「みたいだねー。」
頬杖をつき、溜息をつくトウハ。
「アカネちゃん、ホントに強くなっちゃったなぁ。少し、イジメすぎたかしら?」
「自業自得と言うやつですわね。」
心強げに微笑むアユミをジト目で睨むと、トウハはまた溜息をつく。
「ねえ?本当に護封陣(これ)、除けてくれない訳?」
「答えの分かりきった問答は、お嫌いだったのでは?」
「・・・そうか。」
三度(みたび)洩れる溜息。
そして、トウハはユラリと立ち上がる。
「しょうがないなぁ・・・」
薄い唇が、疲れた様に言葉を紡ぐ。
「ホントにしょうがない・・・」
その声のトーンが変わっていく。
今まで纏っていた稚気が消え、変わりに肌に感じる様な冷たさがその声を彩っていく。
「・・・・・・!?」
「何だかんだ言っても、あんた達を傷つけちゃあ、ご主人様が嫌がるから、“一応”気を使ってやってたのに・・・」
ベンチの足からストンと降りると、トウハは髪をかき上げながら言う。
「あんた達がそんなんじゃあ、全くもってしょうがない・・・」
底冷えのする様な声。
それが、場にいる皆の背筋を振るわせる。
「な、何よ!!そんな負け惜しみ言ったって・・・」
走る悪寒を振り払おうと、ミカが声を張り上げたその時―。
『―♪壁の上のハンプティ 輪舞(ロンド)がお好きなダンプティ♪―』
トウハの口が、素早く呪歌を紡ぎあげる。
「え・・・?」
ポゥ・・・
皆が事態を理解しない中、護封陣の中に螢緑の光が灯った。
「え!?」
驚いた皆が下を見た。
そこにあったのは、クルクルと回転しながら地面に浮かび上がる魔法陣。
「・・・え、ちょ・・・何!?これ!?」
「な、何でこんな所に!」
困惑する皆の前で、トウハがククッと笑う。
「あんた達さぁ、人の話聞いてた?」
言いながら、手にした剣でトントンと地面を叩く。
「言ったじゃない?“ありったけ”、仕込ませてもらったって。」
その言葉に、アユミの顔が強張る。
「まさか・・・」
あの大仰な術の発動式も。
護封陣に阻まれて歯噛みする様も。
その前の派手な立ち回りも。
皆をこの位置に固め、護封陣(切り札)を出させるための―
―フェイク―
アユミが理解したのを察した様に、トウハはペロリと舌を出した。
アユミは思わず、後ろの皆に向かって叫ぶ。
「皆!!離れて!!」
「遅いよ。」
その叫びを遮る、冷淡なトウハの声。
瞬間―
パキィイイイインッ
魔法陣が、ガラスが割れる様な音と共に弾け散った。
「キャァアアアアアアッ!?」
「ワァアアアアアアッ!!」
「なのぉおおおおおっ!!」
「ニャァアアアアアッ!!」
響き渡る、皆の悲鳴。
砕けた魔法陣の欠片が、護封陣の中で吹き荒れる。
しかし、それは皆の身体を傷つける事はなかった。
宙にまう欠片は、彼女達の身体に当たっても、ただその身ををすり抜けていくだけ。
「な・・・何よコレ?どうって事ないじゃない・・・!!」
「失敗・・・?驚かせないでよ・・・」
息を呑んでいた皆が、ホッと安堵の息をつく。
しかし―
「違う!!まだ終りじゃない!!」
「―へ?」
アカネの言葉に、呆気にとられる皆。
その周りで、宙に舞った破片がクルクルと回り―
カカカカカッ
内側から護封陣に突き刺さった。
「え!?」
「な、何!?」
皆が驚いた瞬間、護封陣が凍りついた様に輝きを止めた。
「あのね、亀姉さま。一つ言いたかった事があるんだけど・・・」
トウハが、愕然とするアユミに向かって声をかける。
朱い。
血の様に朱い瞳が、彼女を映す。
「わたしさぁ、20年間も待ってたんだよね・・・」
低く、冷たく響く声。
手にした黒刃が、ゆらりと揺れる。
「だからね、もう、ウンザリなの・・・」
ゆっくりと、音もなく上げられる黒刃。
その切っ先が向けられるのは、輝きを止めた護封陣。
「皆!!気をつけて!!」
「待つのなんてさぁ!!」
重なる、アユミとトウハの声。
途端、
鋭く突き出された刃が、護封陣へと突き刺さる。
そして―
バキャアアアアアアンッ
悲鳴の様な音と共に、粉々に砕け散る光の壁。
同時に巻き起こる、爆風にも似た突風。
「ワァアアアアッ!!」
「キャァアアアッ!!」
「ヒェエエエエエッ!!」
その爆風の中で、今度こそ皆が翻弄される。
「は・・・“破術”の魔法・・・!!そんなものまで・・・!!」
辛うじて地面にしがみつき、風の暴威に耐えていたアカネ。
―と、その目に“それ”は映った。
「・・・そ、そんな・・・」
視界を覆う土埃の中で、アユミは茫然としていた。
自分達の、想いを束ねた護封陣。
絶対に千切れない、絆の証。
それが、砕かれた。
いとも、簡単に。
そのショックに、アユミは一瞬。
ほんの一瞬、我を忘れていた。
―それが、隙になった。
「アユミ姉さん!!危ない!!」
「―え?」
アカネの声に、彼女が我に帰った瞬間―
ガシィッ
土煙を突き破って伸びてきた手が、アユミの首を捉える。
「―――っ!?」
声を出す間もなかった。
グゥンッ
首にかかる圧力。
宙に浮く、足。
そのまま、猛スピードで身体が後ろに向かって引きずられ―
ガシャアアアアンッ
鈍い音を立てて、華奢な身体が外灯の支柱に叩きつけられた。
「・・・あ・・・」
小さく洩れる声。
白い手が、首から離れる。
アユミの身体はそのままズルズルと支柱をすべり、力なく地面へと崩れ落ちた。
「ア・・・アユミ姉さん!!」
「アユミィイイイイイッ!!」
アカネとミカの叫びが重なる。
「フフフ・・・」
倒れ伏したアユミの傍らで、指先についた朱いものを舐めとりながら、トウハは冷たく笑う。
「これでもう、ウザイ結界は張れないね・・・。」
地に落ちたアユミのベレー帽。
それを小さな足が、ゆっくりと踏みにじった。
続く
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