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2012年05月22日

霊使い達の宿題その7・光霊使いの場合(5)

 







 火曜日、遊戯王OCG二次創作・「霊使い達の宿題」の日です。
 霊使い最後の一人、光霊使いライナの出番となっています。
 例によって作者個人のイメージによるキャラ付けとなっていますので、その所御了承願います。
 


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                           ―9―
 ベチャッ ベチャベチャッ ベチャッ
 「きゃは、きゃはははっきゃーはははははっ!!」
 子宮を破られた闇が、悲鳴の様に重い水音をたてる。
 それに重なるのは、鼓膜をつん裂く様な甲高い哄笑。
 ワシャワシャと蠢く節足を黒い水面に突き立てながら、巨大な影が深淵から這い上がってくる。
 ズルリ、ズルリと這い出たそれは、人魚と言うには余りにも醜怪な人と魚類の合成体。
 キシキシと間接が軋む音を立てながら蠢く、六本の昆虫の様な節足。それに支えられるのは、六つの単眼と翼の様なヒレを持った奇怪で巨大な魚体。そして何よりおぞましきはその頭部。そこに生えるのは、まごうことなく、エリアルと呼ばれていた彼の少女の上半身。
 異形と化したその身の上で、そこだけは変わらぬ少女の顔が酷く楽しげに叫んだ。
 「きゃはは、何シテンノ!?しゃどう、早ク出テキナサイヨ!!」
 ゴパァッ
 その声に応える様に、再び闇の水面(みなも)が弾ける。
 現れたのは、水掻きと鋭い爪を供え青黒く光る鱗に覆われた巨腕。
 その腕はグオンと曲がると地を掴み、その勢いのまま己が主の身体を引きずり出した。
 ドパァンッ
 三度弾ける水面。
 降り注ぐ水飛沫の向こうから現れたのは、身の丈数メートルはある巨大な半人半魚の怪物。
 闇の水面からその全身を現した怪物は、気だるげに首を回すと、その口を大きく開く。
 ギョオオオオオッ
 咆哮。
 周囲の木々や地面が、怯える様に震える。
 「きゃははははっ!!良イワァ、ヤッパリ、アンタソノ格好ノ方ガいかスワヨ!!しゃどう、イエ、『そうるおーが』!!」
 ソウルオーガと呼ばれた怪物は、その太い首をグキグキと鳴らしながら、微かにシャドウの面影の残る顔から低い声を放つ。
 「ソウ気楽二言ウナ。コノ姿二ナルト、ドウニモ身体ガ疼イテイカン。ヤリ過ギナケレバ良イガ。」
 そんな言葉とともに、冷たい光を灯す四つの目がライナ達を見つめる。
 「サテ、オ前達、オ陰デソウ多クモナイ“資源”ヲ消費シテシマッタ。ソノ埋メ合ワセ、存分ニシテ貰オウ。」
 「・・・・・・!!」
 笑いを含んだその声音に、尋常ではない邪悪さを感じたライナは思わず後ずさる。
 そんなライナ達の前で、エリアルだった怪物が奇声とも哄笑ともつかない叫びを上げる。
 「サァ、楽シイ楽シイ、だんすぱーてぃーノ始マリヨ!!」
 そう言って、怪物はまた楽しげな哄笑を上げた。


                        ―10―
 
 ”彼”は戸惑っていた。
 今、”彼”の目の前にはその理解を超える存在がいる。
 その数、”三体”。
 二体は怪物。それはとても恐ろしい。とてつもない強大さと邪悪さ。
 本能が、危険を告げている。逃げなければならない。今すぐに。
 それほどまでに、恐ろしい存在だった。
 しかし、それなら。それなら何故、
 “この人間は逃げないのだ?”
 そう。三体のうち最後の一体はただの”人間”だった。
 先ほどまで、別の意味で恐怖を感じていた相手ではあるが、その実体は自分よりはるかに脆弱な、ただの人間である。
 なのに、何故逃げない?
 自分と相手の力差が分からないほど、愚かなのだろうか。
 いや。それはない。その証拠に、華奢な足が震えている。
 怖いのだ。自分と同じ様に、この人間も。
 なのに、何故?
 その時、”彼”は気付いた。
 かの人間が見つめているもの。
 それは、網袋に包まれ、恐怖にもがいているこの森のモンスター達だった。

 「『まいんどおーがす』、オ主ハ小娘ヲヤレ。ワシハ、デカ物ドモヲ貰ウ。」
 ソウルオーガはそう言って、モイスチャー星人達に向かう。
 「きゃははははっ!!イイワヨ!!ドウセアタシ、最初カラソノツモリダシ!!」
 楽しげに叫ぶと、エリアル―マインドオーガスはライナに襲いかかる。
 「サァ!!踊リマショウ!!」
 「くっ!!」
 振り下ろされる、鉄杭の様な爪。
 それをすんでの所で避けたライナは、相方に向かって叫ぶ。
 「ラヴ君!!憑依装着です!!(※1)」
 『了解!!』
 降り注ぐ爪の雨をかい潜り、二人の姿が重なる。
 瞬間閃く、真っ白な光。
 そこに突き立てられる、爪の一撃。
 しかし―
 「アラ?」
 マインドオーガスが、キョトンとした声を出す。
 土煙の中から、彼女の爪を杖で受け止めるライナと戦闘形態に変化したハッピー・ラヴァーの姿が現れた。
 「ナニ?ソンナ奥ノ手持ッテタノ?キャハハ、楽シマセテクレルジャナイ!!」
 「く・・・!!」
 杖と爪が、ギシギシと軋み合う。
 「そんな・・・そんな姿になってまで、“力”が欲しいですか!!」
 ライナの叫びに、マインドオーガスはせせら笑う。
 「“力”?欲シイニ決マッテルジャナイ!!“力”ガアレバ、何ダッテ出来ルシ、何ダッテ手二入ルワ!!」
 ケタケタと笑いながら、マインドオーガスはグォンと爪を振り抜いた。
 「キャアッ!!」
 弾かれたライナが、悲鳴を上げて地に転がる。
 「ホラァ、ドオシタノ?アタシラノ事、否定シタイナラ、アンタノ“力”デ捻ジ伏セテミナ!!」
 「・・・・・・!!」
 杖にすがって辛うじて立ち上がるライナを守る様に、ハッピー・ラヴァーが額のハートマークから光線を放つが、爪の一振りで弾き飛ばされてしまう。
 「きゃはははは!!ドウヨ、コノ“力”!!モォ、最ッ高ォオオ!!」
 怪物の哄笑は、どこまでも尽きる事なく響き渡った。

 一方、ソウルオーガと対峙したモイスチャー星人達は―
 ゴガガガガッ
 凄まじい音を立てて、大地が削れる。
 突進してきたハネクリボーLV9を、ソウルオーガが受け止める。その隙に、「怒れるもけもけ」を発動したもけもけが押し潰そうと、その上から圧し掛かる。しかし―
 ルォン
 ソウルオーガの頭上の空間が、波紋の様に歪む。もけもけがそれに触れた途端―
 ガォンッ
 その身体が何かに弾かれた様に宙に舞い、地へと落ちる。
 「無駄ジャ。」
 ソウルオーガは言いながら、ハネクリボーを投げ飛ばす。
 その影からモイスチャー星人が光線銃を撃つが、
 「無駄ジャト言ウテオル。」
 「!!」
 やはり波紋の様に歪んだ空間がそれを阻み、光線を反射する。モイスチャー星人はその光線に自身を焼かれ、地に落ちる。
 それを踏みつけ、嘲笑を浴びせながらソウルオーガは言う。
 「ワシノ「反衝魂」ハ、相手ノ攻撃ヲソノママ相手二跳ネ返ス術。幾ラ主等ノ力ガ強カロウト、其レハ全テ主等二返ルノヨ。」
 『クリーッ!!』
 立ち上がったハネクリボーが再度特攻を仕掛けるが、結果は同じ。自身の力に弾き飛ばされ、そのままライナとマインドオーガスの只中に墜落する。
 ズガァアアンッ
 「マ、マロ君!!」
 ライナは兵装が解け、元の姿に戻ってしまったハネクリボーを抱き上げる。
 「チョットォ、折角人ガ楽シンデルノニ、余計ナ茶々入レナイデヨ!!」
 「スマンナ。ダカラ言ッタジャロウ。コノ身体ハ、加減ガキカンノジャ。」
 ギャアギャアと喚き散らすマインドオーガスに、ソウルオーガはしゃあしゃあと答える。
 「マァ、イイワ。ドウセモウ、終リミタイダシ。」
 そう言って見下す先には、憑依装着も解け、ボロボロになったライナの姿。
 「ドオ?コレデ良ク分カッタデショウ?ドンナ綺麗事言ッタッテ、コノ世ハ“力”ガ全テナノヨ。」
 しかし、それでもライナの瞳は揺るがない。
 「違います・・・。あなた達は・・・間違っているのです!!」
 その様子に、マインドオーガスは溜息をついて首を振る。
 「フン。全ク強情な娘ネ。マァ、イイワ。ソレナラアンタ二モ、コノ快感、教エテアゲル。」
 そして、手にした杖にはめられている儀水鏡をライナに向ける。
 「見テゴラン。」
 向けられた鏡は、ライナを映してはいなかった。
 奈落に続く穴の様に、闇が満ちた鏡面。その中で、無数の何かが蠢いている。
 オ オ オ オ オ オ オ オ オ 
 それらは闇の中で蠢きながら、口々に苦しげな呻きを上げていた。
 「怨念・・集合体・・・!?」
 呟くライナに、マインドオーガスは妖しく微笑む。
 「コイツラハネ、過去二アタシノ儀式ノ生贄二ナッタ“資源”達。儀水鏡(この)ノ中デ、未来永劫アタシノ“力”ニナリ続ケルワ。」
 オ オ オ オ オ オ オ オ オ 
 空ろな鏡の中で、虚ろな魂達が呻き続ける。
 「アンタモ、コノ仲間二入レテアゲル。」
 「な・・・!?」
 オ オ オ オ オ オ オ オ オ 
 その言葉に呼応するかの様に、呻き声が大きくなる。
 「ホラ、コイツラモ、早ク来イッテ言ッテルワ。」
 マインドオーガスが、儀水鏡をライナに突きつける。
 「サァ、オイデ!!」
 途端、鏡の中からそれらが溢れ出す。
 「マロ君、ラヴ君!!」
 ライナが、抱いていたハネクリボーと傍らに転がっていたハッピー・ラヴァーを突き飛ばすのと、それらが彼女に絡みつくのとは同時だった。
 「キャアアアアアアッ!!」
 心臓を鷲掴みにされる様なおぞましい感覚に、ライナは悲鳴を上げる。
 「きゃははははっ!!大丈夫!!苦シイノハ最初ダケ!!堕チテシマエバ良クナルカラ!!」
 耳朶を無数の呻き声が覆う。幾つもの冷たい手が精神を、魂を引き抜こうと、爪を立てる。
 「ホラホラァ!!何無理シテンノ!!来チャイナヨ!!早ク早クッ!!」
 「あ・・くぁ・・・」
 響く哄笑が、苦痛に耐える精神を容赦なく揺さぶる。
 いっそ、このまま意識を手放してしまった方が楽かもしれない。
 ライナがそう思いかけたその時―
 「きゃあっ!?」
 不意に響いた悲鳴とともに、死霊達の束縛が緩んだ。そして次の瞬間、
 グイッ
 意識の外から伸びてきた暖かい感触が、ライナの肩を掴んで死霊の渦の中から引きずり出した。
 「はっ、はぁっ!!」
 水の中から引きずりだされた魚の様に、口をパクパクしながら息を吸う。霞んだ視界の中に、心配そうに見下ろす大きな一つ目。
 「め、めー君・・・。ありがとです。」
 絶え絶えの声で礼を言うと、エンゼル・イヤーズはかぶりを振って指差した。
 その方向を見たライナの視界に入ってきたのは、マインドオーガスの前に立ちはだかる一匹の竜の姿だった。


                                                           続く 

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