火曜日、遊戯王OCG二次創作・「霊使い達の宿題」の日です。
霊使い最後の一人、光霊使いライナの出番となっています。
例によって作者個人のイメージによるキャラ付けとなっていますので、その所御了承願います。
遊戯王カード 【 イビリチュア・マインドオーガス 】 DT10-JP034-SR 《デュエルターミナル−インヴェルズの侵略》 新品価格 |
―9―
ベチャッ ベチャベチャッ ベチャッ
「きゃは、きゃはははっきゃーはははははっ!!」
子宮を破られた闇が、悲鳴の様に重い水音をたてる。
それに重なるのは、鼓膜をつん裂く様な甲高い哄笑。
ワシャワシャと蠢く節足を黒い水面に突き立てながら、巨大な影が深淵から這い上がってくる。
ズルリ、ズルリと這い出たそれは、人魚と言うには余りにも醜怪な人と魚類の合成体。
キシキシと間接が軋む音を立てながら蠢く、六本の昆虫の様な節足。それに支えられるのは、六つの単眼と翼の様なヒレを持った奇怪で巨大な魚体。そして何よりおぞましきはその頭部。そこに生えるのは、まごうことなく、エリアルと呼ばれていた彼の少女の上半身。
異形と化したその身の上で、そこだけは変わらぬ少女の顔が酷く楽しげに叫んだ。
「きゃはは、何シテンノ!?しゃどう、早ク出テキナサイヨ!!」
ゴパァッ
その声に応える様に、再び闇の水面(みなも)が弾ける。
現れたのは、水掻きと鋭い爪を供え青黒く光る鱗に覆われた巨腕。
その腕はグオンと曲がると地を掴み、その勢いのまま己が主の身体を引きずり出した。
ドパァンッ
三度弾ける水面。
降り注ぐ水飛沫の向こうから現れたのは、身の丈数メートルはある巨大な半人半魚の怪物。
闇の水面からその全身を現した怪物は、気だるげに首を回すと、その口を大きく開く。
ギョオオオオオッ
咆哮。
周囲の木々や地面が、怯える様に震える。
「きゃははははっ!!良イワァ、ヤッパリ、アンタソノ格好ノ方ガいかスワヨ!!しゃどう、イエ、『そうるおーが』!!」
ソウルオーガと呼ばれた怪物は、その太い首をグキグキと鳴らしながら、微かにシャドウの面影の残る顔から低い声を放つ。
「ソウ気楽二言ウナ。コノ姿二ナルト、ドウニモ身体ガ疼イテイカン。ヤリ過ギナケレバ良イガ。」
そんな言葉とともに、冷たい光を灯す四つの目がライナ達を見つめる。
「サテ、オ前達、オ陰デソウ多クモナイ“資源”ヲ消費シテシマッタ。ソノ埋メ合ワセ、存分ニシテ貰オウ。」
「・・・・・・!!」
笑いを含んだその声音に、尋常ではない邪悪さを感じたライナは思わず後ずさる。
そんなライナ達の前で、エリアルだった怪物が奇声とも哄笑ともつかない叫びを上げる。
「サァ、楽シイ楽シイ、だんすぱーてぃーノ始マリヨ!!」
そう言って、怪物はまた楽しげな哄笑を上げた。
―10―
”彼”は戸惑っていた。
今、”彼”の目の前にはその理解を超える存在がいる。
その数、”三体”。
二体は怪物。それはとても恐ろしい。とてつもない強大さと邪悪さ。
本能が、危険を告げている。逃げなければならない。今すぐに。
それほどまでに、恐ろしい存在だった。
しかし、それなら。それなら何故、
“この人間は逃げないのだ?”
そう。三体のうち最後の一体はただの”人間”だった。
先ほどまで、別の意味で恐怖を感じていた相手ではあるが、その実体は自分よりはるかに脆弱な、ただの人間である。
なのに、何故逃げない?
自分と相手の力差が分からないほど、愚かなのだろうか。
いや。それはない。その証拠に、華奢な足が震えている。
怖いのだ。自分と同じ様に、この人間も。
なのに、何故?
その時、”彼”は気付いた。
かの人間が見つめているもの。
それは、網袋に包まれ、恐怖にもがいているこの森のモンスター達だった。
「『まいんどおーがす』、オ主ハ小娘ヲヤレ。ワシハ、デカ物ドモヲ貰ウ。」
ソウルオーガはそう言って、モイスチャー星人達に向かう。
「きゃははははっ!!イイワヨ!!ドウセアタシ、最初カラソノツモリダシ!!」
楽しげに叫ぶと、エリアル―マインドオーガスはライナに襲いかかる。
「サァ!!踊リマショウ!!」
「くっ!!」
振り下ろされる、鉄杭の様な爪。
それをすんでの所で避けたライナは、相方に向かって叫ぶ。
「ラヴ君!!憑依装着です!!(※1)」
『了解!!』
降り注ぐ爪の雨をかい潜り、二人の姿が重なる。
瞬間閃く、真っ白な光。
そこに突き立てられる、爪の一撃。
しかし―
「アラ?」
マインドオーガスが、キョトンとした声を出す。
土煙の中から、彼女の爪を杖で受け止めるライナと戦闘形態に変化したハッピー・ラヴァーの姿が現れた。
「ナニ?ソンナ奥ノ手持ッテタノ?キャハハ、楽シマセテクレルジャナイ!!」
「く・・・!!」
杖と爪が、ギシギシと軋み合う。
「そんな・・・そんな姿になってまで、“力”が欲しいですか!!」
ライナの叫びに、マインドオーガスはせせら笑う。
「“力”?欲シイニ決マッテルジャナイ!!“力”ガアレバ、何ダッテ出来ルシ、何ダッテ手二入ルワ!!」
ケタケタと笑いながら、マインドオーガスはグォンと爪を振り抜いた。
「キャアッ!!」
弾かれたライナが、悲鳴を上げて地に転がる。
「ホラァ、ドオシタノ?アタシラノ事、否定シタイナラ、アンタノ“力”デ捻ジ伏セテミナ!!」
「・・・・・・!!」
杖にすがって辛うじて立ち上がるライナを守る様に、ハッピー・ラヴァーが額のハートマークから光線を放つが、爪の一振りで弾き飛ばされてしまう。
「きゃはははは!!ドウヨ、コノ“力”!!モォ、最ッ高ォオオ!!」
怪物の哄笑は、どこまでも尽きる事なく響き渡った。
一方、ソウルオーガと対峙したモイスチャー星人達は―
ゴガガガガッ
凄まじい音を立てて、大地が削れる。
突進してきたハネクリボーLV9を、ソウルオーガが受け止める。その隙に、「怒れるもけもけ」を発動したもけもけが押し潰そうと、その上から圧し掛かる。しかし―
ルォン
ソウルオーガの頭上の空間が、波紋の様に歪む。もけもけがそれに触れた途端―
ガォンッ
その身体が何かに弾かれた様に宙に舞い、地へと落ちる。
「無駄ジャ。」
ソウルオーガは言いながら、ハネクリボーを投げ飛ばす。
その影からモイスチャー星人が光線銃を撃つが、
「無駄ジャト言ウテオル。」
「!!」
やはり波紋の様に歪んだ空間がそれを阻み、光線を反射する。モイスチャー星人はその光線に自身を焼かれ、地に落ちる。
それを踏みつけ、嘲笑を浴びせながらソウルオーガは言う。
「ワシノ「反衝魂」ハ、相手ノ攻撃ヲソノママ相手二跳ネ返ス術。幾ラ主等ノ力ガ強カロウト、其レハ全テ主等二返ルノヨ。」
『クリーッ!!』
立ち上がったハネクリボーが再度特攻を仕掛けるが、結果は同じ。自身の力に弾き飛ばされ、そのままライナとマインドオーガスの只中に墜落する。
ズガァアアンッ
「マ、マロ君!!」
ライナは兵装が解け、元の姿に戻ってしまったハネクリボーを抱き上げる。
「チョットォ、折角人ガ楽シンデルノニ、余計ナ茶々入レナイデヨ!!」
「スマンナ。ダカラ言ッタジャロウ。コノ身体ハ、加減ガキカンノジャ。」
ギャアギャアと喚き散らすマインドオーガスに、ソウルオーガはしゃあしゃあと答える。
「マァ、イイワ。ドウセモウ、終リミタイダシ。」
そう言って見下す先には、憑依装着も解け、ボロボロになったライナの姿。
「ドオ?コレデ良ク分カッタデショウ?ドンナ綺麗事言ッタッテ、コノ世ハ“力”ガ全テナノヨ。」
しかし、それでもライナの瞳は揺るがない。
「違います・・・。あなた達は・・・間違っているのです!!」
その様子に、マインドオーガスは溜息をついて首を振る。
「フン。全ク強情な娘ネ。マァ、イイワ。ソレナラアンタ二モ、コノ快感、教エテアゲル。」
そして、手にした杖にはめられている儀水鏡をライナに向ける。
「見テゴラン。」
向けられた鏡は、ライナを映してはいなかった。
奈落に続く穴の様に、闇が満ちた鏡面。その中で、無数の何かが蠢いている。
オ オ オ オ オ オ オ オ オ
それらは闇の中で蠢きながら、口々に苦しげな呻きを上げていた。
「怨念・・集合体・・・!?」
呟くライナに、マインドオーガスは妖しく微笑む。
「コイツラハネ、過去二アタシノ儀式ノ生贄二ナッタ“資源”達。儀水鏡(この)ノ中デ、未来永劫アタシノ“力”ニナリ続ケルワ。」
オ オ オ オ オ オ オ オ オ
空ろな鏡の中で、虚ろな魂達が呻き続ける。
「アンタモ、コノ仲間二入レテアゲル。」
「な・・・!?」
オ オ オ オ オ オ オ オ オ
その言葉に呼応するかの様に、呻き声が大きくなる。
「ホラ、コイツラモ、早ク来イッテ言ッテルワ。」
マインドオーガスが、儀水鏡をライナに突きつける。
「サァ、オイデ!!」
途端、鏡の中からそれらが溢れ出す。
「マロ君、ラヴ君!!」
ライナが、抱いていたハネクリボーと傍らに転がっていたハッピー・ラヴァーを突き飛ばすのと、それらが彼女に絡みつくのとは同時だった。
「キャアアアアアアッ!!」
心臓を鷲掴みにされる様なおぞましい感覚に、ライナは悲鳴を上げる。
「きゃははははっ!!大丈夫!!苦シイノハ最初ダケ!!堕チテシマエバ良クナルカラ!!」
耳朶を無数の呻き声が覆う。幾つもの冷たい手が精神を、魂を引き抜こうと、爪を立てる。
「ホラホラァ!!何無理シテンノ!!来チャイナヨ!!早ク早クッ!!」
「あ・・くぁ・・・」
響く哄笑が、苦痛に耐える精神を容赦なく揺さぶる。
いっそ、このまま意識を手放してしまった方が楽かもしれない。
ライナがそう思いかけたその時―
「きゃあっ!?」
不意に響いた悲鳴とともに、死霊達の束縛が緩んだ。そして次の瞬間、
グイッ
意識の外から伸びてきた暖かい感触が、ライナの肩を掴んで死霊の渦の中から引きずり出した。
「はっ、はぁっ!!」
水の中から引きずりだされた魚の様に、口をパクパクしながら息を吸う。霞んだ視界の中に、心配そうに見下ろす大きな一つ目。
「め、めー君・・・。ありがとです。」
絶え絶えの声で礼を言うと、エンゼル・イヤーズはかぶりを振って指差した。
その方向を見たライナの視界に入ってきたのは、マインドオーガスの前に立ちはだかる一匹の竜の姿だった。
続く
(※1)出るよね?ね?
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