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2012年04月30日

― ハッピー バースディ ・ Your date of Birth ―(中編)(半分の月がのぼる空・二次創作作品)







 月曜日。半分の月がのぼる空二次創作の日です。
 先週はこっぱずかしい質問をしてしまって申し訳ないです。
 秋かなさん、教えていただいてありがとうございました。
 訊くは一時の恥、訊かぬは一生の恥ってか・・・。



ドラマCD 半分の月がのぼる空 Vol.4

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 ―♪直接 プレゼント 渡すのは
 何だか私 恥ずかしいから
 郵便屋さんに 頼んだけれど
 ちゃんと 着いたかナ♪―


 「・・・それでね、裕一、来たの。」
 「・・・来たって、何処にですか?」
 「あたしの病室。」
 「だって、会うの禁止されてたんでしょう?」
 「うん。だから夜に来た。」
 「いや、夜だからって・・・」
 「だから、ベランダから来たの。」
 「・・・はぁ!?」

 ―結論。
 ホントに呆れた。っていうか、驚いた。
 面白くない?とんでもない。一体どこの恋愛小説だ?

 病院での出会い。
 病院を抜け出して砲台山に行った事。
 ベッドの下にあったエッチな本をめぐるケンカ。
 周りの大人達からしかれた、面会謝絶令。
 そして、真夜中のベランダからの訪問。

 あたしから見たら、その一つ一つが、一生に一度あるかないかの大事(おおごと)だ(エッチ本の件はそうでもないか)。一瞬捏造ではないかと勘繰ったが、先輩の顔を見るとそんな考えは吹き飛んだ。
とても、真剣な顔だった。まるで繊細な花を摘む様に、大事に大事に言葉を紡いでいた。先輩にとって、それだけ大切な思い出なのだろう。
 ただ、二人の間にあった事全てを話してくれたわけではない。砲台山で何があったのかとか、真夜中の病室で二人が何を話したかとか。そして何より、どっちがどういう風に告白したのかとか。そういった事は、全然話してくれなかった。きっとそれらは、彼女たち二人の間だけの宝物なのだ。興味がないと言えば嘘になるけど、それを根掘り穴掘り訊くのは、酷く無粋で背徳的な行為の様な気がした。
 話し終わった先輩が、残っていたジュースで喉を湿らせる。
 あたしも、齧りかけのチーズバーガーを口へと押し込んだ。
 「・・・・・・。」
 「・・・・・・。」
 しばしの沈黙。
 そしてどちらともなく、あたし達は席を立った。

 外に出ると、町並みを渡って来た涼しい風があたし達を迎えた。
 先輩の長い髪がその風に嬲られて、サラサラと流れる。
 その様はとても綺麗で、隣にいたあたしはドキリとした。
 当然、周りの男達も。
 ほら、あそこでもカップルの片割れがこっちに見惚れている。あ、男が女に叩かれた。ギャイギャイ文句を言われている。気の毒に。あ〜あ、置いてかれた。あのカップル、終わっちゃうかもしんない。・・・まぁ、男も女もチャラそうだし、この程度で終わるなら、そもそもその程度の関係なんだろう。そういう事は、見ていればなんとなく分かる。そう。本当に繋がってるって言うのは・・・。
 あたしは、風で乱れた髪を鬱陶しそうに整えている先輩を見た。
 彼女の目には、きっと自分を見つめる男達の姿など、欠片程も映っていないのだろう。そしてそれは、彼女が想う“彼”も同じ筈で・・・。
 想う相手のために、命をかけてベランダから会いに来る。
 あんたも、そんな相手を見つけなよ。
 肩をいからせて去っていく女の背中に向かって、あたしはそんな事を思った。
                 
                          
                             

 ―♪あなたにいちばん 似合うもの
 何日もかけて 選んだつもり
 私のセンス よくないけれど
 許してくれる?♪―


 「この服なんか、どうですか?」
 「う〜ん・・・」
 あたしが手にした服を見て、先輩は顎に手を添えたまま首を傾げて唸っている。
 やっぱり、これもピンと来ないらしい。
 そうだろうな、とも思う。あたしも何度か戎崎裕一を見ているが、今時の服を着こなして悦に入るタイプには見えない。先輩の話を聞いた後では、なおさらだ。
 さて、困った。
 なまじ先輩の話を聞いてしまったせいで、急に責任が重くなった様に感じる。
 本当は、適当な服なりCDなりを見繕ってさっさと帰るつもりだったのだが、どうもそうは行かなくなってしまった。因果な事この上もない。
 「ごめんね。吉崎さん。」
 「いえ、気にしないでください。自分で承知した事ですし・・・」
 とは言ったものの、どうしたものか。
 もうこの辺りのめぼしいアパレルショップやミュージックショップはあらかた回ってしまった。
 こうなったら、基本に帰ろう。
 「先輩、戎崎先輩の趣味って、何ですか?」
 「裕一の趣味?」
 あたしの問いに、先輩は少し考える素振りを見せた。
 「う〜ん、プロレス、かな?」
 「プ・・・プロレス・・・?」
 完全にあたしの管轄外だ。もはや万事休すかと思われたその時、
 「ちょっと待てよ。」
 後から声がかけられた。
 振り向くと、男が立っていた。
 さっき先輩に見とれたせいで、連れ合いの女に振られたチャラ男だ。
 「おいお前、そっちの髪の長い方だ。」
 腕に着けたシルバーのブレスレットをジャラジャラ鳴らしながら近づいてくる。
 「ちょっと付き合えよ。楽しい思いさせてやるぜ。」
 そう言ってニヤつく顔は、下心が見え見えだ。
 「ほら、来いよ。」
 腕を掴もうとした男の手を、先輩が無言で振り払う。
 「おいおい、連れねえな。」
 振り払われた手を大げさにさすりながら、チャラ男が言う。
 「俺はお前さんのせいで女に振られたんだぜ。その埋め合わせをしてくれても、良いんじゃねぇか?」
 そして、今度は先輩の肩に手を回そうとする。その手つきの嫌らしさに、はたから見てても虫唾が走る。
 鬱陶しい事この上もないけれど、まさか放っておく訳にも行かない。
 「ちょっと、いい加減にしてください!!」
 あたしが割って入ると、チャラ男はこっちを見てフフンと鼻で笑った。
 「あ、何だ?お前も相手して欲しいのか?」
 そう言って、あたしを舐める様な視線でジロジロと眺めてくる。
 その視線の粘っこさに、背中がゾクゾクした。 
 「おぅ、お前も結構いけるじゃねぇか。OK。だったら、二人まとめて相手してやるよ。三人で楽しもうや。」
 ひどく居丈高な態度。完全にこっちを甘く見ている。今までも、こんな感じで女の子を引っ掛けてきたのだろう。気の弱い娘なら、このままズルズル引っ張って行かれたりするのかもしれない。
 ―だけど、今回に限っては相手が悪かった。
 「痛てっ!?」
 チャラ男が、急にそう叫んで飛び上がる。
 チャラ男はだらしない突っ掛けを履いていたのだけれど、先輩が踵でそのむき出しの小指を踏ん付けたのだ。
 「この女(あま)、何しやがる!?」                        
 怒ったチャラ男が、先輩に手を伸ばす。
 だけど、それは先輩の思う壺。
 チャラ男の手が触れる瞬間、先輩は思いっきり悲鳴を上げた。
 それが、雑踏の中に響き渡る。周囲の視線が、一斉にあたし達に向けられた。
 悲鳴とは言っても、耳障りな喚き声じゃない。綺麗な綺麗な、ソプラノの悲鳴。あたしは思わず、感心してしまった。きっとこんなの、先輩しか出せない。
 だから、余計に周りの人たちの気を引く。
 そして、一点に集中した視線の先にあったのは、怯えた様に身を竦める可憐な少女と、それに掴みかかるお世辞にもガラが良いとは言えない男。
 その光景が一般大衆にどんな印象を与えるか、言うまでもない。
 集中した視線が、一斉に冷ややかな非難のこもったものに変わる。
 慌てたのは、チャラ男の方だ。
 「い、いや、ちょっと待てよ!!オレは別に・・・」
 いくら弁解した所で、無駄に決まってる。ほら、あちこちでヒソヒソ陰口が始まっている。その一方で、人混みの中から、何人かの男の人がこっちに向かってくる。きっと、暴漢に乱暴されそうな美少女を助けようと立ち上がった、雄志の士だ。人混みの向こうでは、何処かに走っていく女の子の姿。あの方向には確か交番があった筈だ。
 全く、こんなのを見ているとこの日本、まだまだ捨てたものではないのかもしれないとか思ってしまう。
 それにしても、チャラ男の方は気の毒だ。まあ、同情する訳じゃないけれど。
 というか、この様を見ていると、何だか嫌なデジャヴが頭を過ぎるんですが。
 「じょ、冗談じゃねぇよ!!」
 チャラ男はそう言うと人混みを掻き分けて、背中に突き刺さる視線に追われる様に何処かへ逃げていってしまった。
 当の先輩は何処吹く風で、助けにきた雄志の士達やさっきの女の子に呼ばれてきたお巡りさんに「大丈夫です。」とか、「ありがとうございます。」とか言っている。 
 ・・・相変わらず、恐ろしい女(ひと)だ・・・。
                             
                  
                                

 ―♪おめでとう'
 Happy Happy Birthday
 I wish あなたが
 もっともっと 幸せになれますように
 Happy Happy Birthday
 今日の日に 乾杯 Song for You♪―


 「大丈夫だった?吉崎さん。」
 「いえ、別に。何された訳でもないですし・・・。」
 あの後、群がる人混みから先輩を引っ張り出したあたしは、落ち着いた場所まで来るとほっと一息をついていた。
 「だけど、どうしましょうか。戎崎先輩のプレゼント・・・。」
 「うん・・・。」
 「もう、日、暮れちゃいますね・・・。」
 「うん・・・。」
 あの先輩が、目に見えてしょげている。
 何だか、責任を感じてしまうが、どうにもならない。
 と、溜息をついて顔をあげた時、一軒の店が目に入った。
 途端、さっき先輩に聞いた話の一端が頭を過ぎる。
 「――!!」
 次の瞬間、あたしは先輩の肩をガシッと掴んだ。
 「先輩!!」
 「え?」
 「これです!!」
 「ええ!?」
 あたしの言葉に、先輩は目を丸くして驚いた。


                                              続く
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