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2012年04月23日

― ハッピー バースディ ・ Your date of Birth ―(前編)(半分の月がのぼる空・二次創作作品)







 月曜日。半分の月がのぼる空二次創作の日です。
 はい。まだ何とかがんばれそうです(笑)
 今回の話は岡本真夜さん作詞・作曲・唄の「ハピハピバースディ」をイメージしながら書きました。
 ・・・ところで、半月のキャラ達の誕生日って公式設定なかったですよね・・・?


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      ― ハッピー バースディ ・ Your date of Birth ―     

                               
 ―♪おめでとう
 Happy Happy Birthday♪―


 それはその日突然に起こった。
 正しく、青天の霹靂というのはこう言う事態を言うに違いない。
 あたしは目の前で起こっている事が理解出来ず、たっぷり二分五七秒、馬鹿みたいに立ち尽くした 後、ドッキリの可能性に思い至り更に三分二五秒、周囲を見回してしまった。
 だって、仕方ないだろう。
 こんな事、有り得ない。有る筈がない。
 だって。
 だって。
 先輩が。
 そう。
 あの、秋庭里香が、あたしに、吉崎多香子に向かって、頭を下げていたのだから。
 いや、確かに土下座させた事はあったけど、あの時は事情があった。
 けど、今回は違う。
 昼休みにあたしの近くに来たと思ったら、急に「お願い」と頭を下げてきたのだ。
 先輩の本性を知っている人間だったら、まず10人に10人が自分の目を疑うだろう。あたしが混乱するのも、当たり前だ。
 訳が分からず呆然としていると、何やら視線を感じた。
 気付くと、クラスの皆が怪訝そうな顔であたし達を見ている。
 マ ズ イ。
 あたしは先輩の手を掴むと、そのままズルズルと教室の外に向かって引っ張っていった。
 先輩が「何?」と訊いて来たが、とりあえず無視する。
 本当なら全速力で離脱したかったのだが、先輩の身体の関係上そうもいかない。
 何とかクラスの連中の目の届かない場所まで来ると、そこであたしはやっと先輩の手を離した。
 先輩が「何もこんな所まで来なくても良かったのに。」等と言ったが、冗談じゃない。この女(ひと)は先だってあたしに何をしたか、忘れたのだろうか。
 あんな所を見られていたら、またどんな誤解を受けるか分かったものじゃない。
 とりあえず来た場所が安全地帯である事を確認してから、あたしは改めて先輩に向き合った。
 「何なんですか?急に。」
 「あのね・・・」
 曰く、もうすぐ先輩の彼氏・・・戎崎裕一の誕生日らしい。それで、プレゼントを一緒に選んで欲しいとの事だった。
 何であたしが、と訊くと、
 「だって吉崎さん、流行とかに敏感でしょ?それなら最近の男の子が欲しがるものとかも詳しいかと思って。」
 だと。
 「先輩、上級生にも女の友達いるじゃないですか。水谷さんとか言う・・・。その人に頼んだらどうですか?」
 「みゆきちゃん?駄目。もうみんな、受験の準備で忙しい。」
 ああそうか。そう言えば上級生達にはそんなイベントがあるんだった。一年のあたしにはまだ先の話ではあるが。
 「それじゃ綾子に・・・」
 「頼んだんだけど、自分じゃあまり役に立たないから、吉崎さんに頼んだ方が良いって言われた。」
 ・・・だろうな。自分の事はよく知っているらしい。
 今日は他の子と先約があると言ったら、あたしの都合がいい日でいいと言われた。
 もう断る理由がない。
 あたしは渋々、次の日曜日にと約束をした。
                  

                              

 ―♪今日は あなたのSpecial Day
 なんだか私 うれしくなる
 あなたが 生まれた今日という日が
 違って見える♪―


 土曜日の夜、秋庭里香は机に座って、明日の為の軍資金を確認していた。
 運用可能な資金は二千円と少し。前に、お宮で売り子のバイトをした時のバイト代を残しておいたものだ。果たしてこれで、彼の喜ぶ様なものは買えるのだろうか。
 いつもは身体の事を考え、早めに就寝する習慣のついている秋庭里香だったが、その晩に限ってはいつまでも考えていた。
 いつまでも、いつまでも、考えていた。

 ―約束の場所に行くと先輩はもう来ていた。
 時間を見ると、約束の時間までまだ10分もある。
 いったい、いつから来ていたのだろう。
 あたしが訊くと、20分前にはもう来ていたらしい。聞けば、昨夜よく眠れず、今朝も早くに目が覚めてしまったとの事。
 どうやら、色々と思う所がある様だ。いつもはあたし達とは一線を画する場所にいる様に思える先輩だけど、こと恋愛関係に関しては歳相応な面もあるらしい。などと妙な所で感心してしまう。
 とりあえず、歩きながら何を買うか相談する事にする。
 資金が幾らあるのか訊くと、二千円とちょっとだと言う。どうやら、お宮でのバイト代を残しておいたらしい。ちょっと驚いた。あたしなど、コスメやら流行りのCDやらでとっくに使ってしまったというのに。
 とは言っても、所詮は高校生の小遣い程度。この金額では、思うようにモノは買えない。
 さて、どうするか。悩んでいても仕方ない。とにかく“らしいもの”がある店を片っ端から当ってみよう。
あたし達は、商店街へと足を向けた。
                     

                              
 
 ―♪揺れるキャンドルを囲んで
 眺める人が いてもいなくても
 プレゼントさせて 私 心から
 あなたに 言いたい♪―


 二人で町を歩いていると、あちこちから視線を感じる。
 原因は分かっている。
 秋庭里香だ。
 この女(ひと)の容姿は本当に他人の目を引く。
 長くて艶やかな髪。整った顔立ち。小柄な身体。
 身に纏っているのは、白いワンピースに薄手のカーディガン。
 派手な格好ではない。だけどその清潔感溢れる服装が、綺麗な容姿とすごくマッチしていて、同性のあたしでも見惚れてしまう。
 まして、異性ならなおさらだ。ほら、あそこでも、こっちでも。先輩に向かう視線が鬱陶しいほどに纏わりついてくる。ああ、だから気が進まなかったのだ。これじゃあ、あたしはいい引き立て役だ。
 だけど、当の本人にはそんな自覚はない。周囲の視線などまるで気にしない様に(実際、気付いていないのかもしれない)スタスタと歩いている。
 何か癪に触るけど、そんな事を感じる時点であたしは負けているのだろう。
 もっとも、そんな事は当の昔に分かっていた事ではあるけれど。
 あたしは絡みつく視線を振り払う様に、だけど先輩を置いていかない様に、ちょっとだけ足を速めた。
                 

                              

 ―♪おめでとう
 Happy Happy Birthday
 I wish あなたに
 もっともっと 幸せが増えますように
 Happy Happy Birthday
 どんな時も 笑顔でいてほしい♪―


 「いいの、ありませんでしたか?」
 「うん・・・。」
 商店街の中にあるマックで昼食をとりながら、あたし達はそんな事を話していた。
 あの後、アパレル関連の店やミュージックショップ等を次々とあたり、あたしの知りうる流行りの服や音楽などを片っ端から提示してみたが、先輩の琴線に触れるものは見つからなかった。
 資金が限られているのも辛い。この金額では、ちょっと気のきいた服等には到底手が出ない。
 「先輩、お金、もう少し工面出来ませんか?お母さんからお小遣い前借りするとか・・・」
 「それも、考えたんだけど・・・」
 そう言うと、そのまま口ごもってしまう。
 どうも、らしくない。
 先輩の性格からして、自分の小遣いをケチっているとも思えない。となると、何をそんなに渋っているのだろう。そんな事を考えながらふと見ると、先輩は財布の入ったバッグを見つめていた。まるで、何か大切な宝物でも入っているかの様に、ジッと見つめていた。
 それを見て、何かがストンと合点がいった。
 ああ、そうか。あのお金は、彼女が自分で稼いだお金だ。正真正銘、先輩が自分の力で稼いだものだ。だから、それだけで贈りたいのだ。大切な人へのプレゼントだからこそ、自分の力だけで贈りたいのだ。
 ・・・やっかいなものだ。あたしは気付かれない様に溜息をついた。
 正直、あたしにはよく理解出来ない。プレゼントするなら幾らかでも値の張るものを贈った方が気分が良いし、貰う身としてもそっちの方がありがたがるだろうなどと思ってしまう。だけど、この二人の関係はそんな俗物根性とは無縁の内にあるらしい。それは、一体どんな気持ちなのだろう。お互いの損得なしで、ただ純粋に繋がる気持ち。そこまで大事な友達もいなければ、そこまで本気で人を好きになった事もないあたしには、想像もつかない。
 そんな事を考えているうちに、胸の内でムラムラと好奇心が沸いてきた。
 訊いてみようか?でも、教えてくれるだろうか?いや、今日こうやって頼みを聞いてやっているのだ。それくらい、教えてくれてもいいだろう。当然の報酬だ。
 そう結論付けると、あたしは目の前でジュースなど啜っている先輩に切り出した。
 「先輩。」
 「何?」
 「先輩と戎崎先輩って、どんな馴れ初めだったんですか?」
 ケホッ
 あ、むせた。
 「な、何でそんな事・・・!?」
 「好奇心です。純粋な。」
 先輩の顔が赤く染まっている。秋庭里香のこんな顔は、なかなか見れない。ちょっと特した気分になる。
 「・・・そんなに面白くないし。」
 「それでもいいです。」
 すかさず返す。
 「呆れちゃうよ?」
 「無問題です。」
 「でも・・・」
 逃がすものか。
 「今日、付き合ってあげてるじゃないですか。」
 先輩が、ぐっと答えに詰まった。やっぱり、こういう所は義理堅いのだ。珍しく掴んだアドバンテージ。存分に使わせてもらおう。
 「う〜ん・・・」
 淡く染まった顔を捻って、唸っている。なんか、可愛い。
 それにしても、先輩を・・・秋庭里香をこうも手玉に取れる機会なんて滅多にない。何か嗜虐的な優越感を感じる。
 「誰にも言いませんし、それに・・・。」
 そしてあたしは最後のカードを切った。
 「ひょっとしたら、プレゼントを考えるヒントになるかもしれないですよ?」
 先輩が溜息をついた。
 勝った。
 あたしは心の中でガッツポーズをとった。
 「本当に、面白くないからね?」
 そう言って、先輩は話し始めた。


                                             続く
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