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2012年04月19日

十三月の翼・14(天使のしっぽ・二次創作作品)







 木曜日。2001年・2003年製作アニメ、「天使のしっぽ」の二次創作掲載の日です。(当作品の事を良く知りたい方はリンクのWikiへ)。
 ヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意


 それではコメントレス

 今更ながらですが・・・
 ジュドが労働ロボットて事は・・・
・・・
 あれ、本当に土木用だったんだ!!!


 ホントに今更だな、おいw
 ・・・と言う事はおいといて、うん・・・土木用なんだよね。あれ。
 でも明らかに戦闘用のロボの大群や巨大戦艦を圧倒する土木用ロボって・・・
 どういう事なの・・・?
 ひょっとしてあの星、下級層の労働ロボたちが本気で革命起こしたら案外簡単に上下関係引っくり返ったんじゃなかろうか?
 あんまり関係ないけど、昔ガンダムZZでキャトルっつー土木用MAがZガンダムを倒したっつーふれこみのR−ジャジャだかいうMSを一方的にボコッてるシーンを見た記憶がある。(昔すぎて記憶が定かではないけど)
 なんだろう。土木用ロボって、オーバースペックな性能を付けなきゃいかんという不文律でもあるんだろうか・・・?



イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。

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                    ―夕暮れ書室―

 
 ペラ・・ペラ・・・
 静まり返った空間に、紙を捲る乾いた音だけがやけに大きく響く。
 放課後の図書室。期末試験も近い、今日この頃。室内に人数こそ多いものの、場所が場所、時も時のため、人群れに付き物の喧騒もなく、ひっそりと静まり返っている。
規律正しく立ち並ぶ書架に囲まれた広間は、それらによって昼間でもほんのりと薄く、闇が篭っていた。
 静謐と薄闇。この二つがそろえば、今日の様な夏日でも心なしか涼気を誘う。まして、ただでさえ冷房の効いたこの場においては、時として少々肌寒くさえあった。
 アカネは少し身震いし、薄く粟立った腕をそっと撫でる。返す手が、横に積んだ書籍のページを捲った。
 「アカネ。」
 不意にかけられた声に、アカネは電子の画面と活字の書面に落としていた視線を上げる。
 上げた視線の先に立っていたのは、黒髪をポニーテールに結び、眼鏡をかけた少女と、栗色のストレートヘアを背の半ばまで伸ばした少女。
 二人は心配気な眼差しで、アカネの顔を覗き込む。
 「大丈夫なの?今日復帰したばかりなのに、そんなに根詰めて・・・?」
 「そうそう。病み上がりに無理すんのって良くないよ?休んだ間の挽回なんて、そんな焦んなくったってへーキだって。それに、たまには一緒に補習ってのも楽しいかもヨン?っつーか、むしろ付き合え!!」
 口々に労わりの言葉をかけてくる級友二人に、アカネは少々恐縮しながら、ニコリと微笑みを返す。
 「だ、大丈夫だよ。身体は、もう平気だから。心配かけて、ごめん。」
 すると、それに応じる様に今度は栗髪の少女が頭を下げる。
 「いやいや、こっちこそ。お見舞いくらい行きたかったんだけど、部活、どうしても休めなくて行きっぱぐっちゃった。正直、すまん。」
 と、そんな二人のやり取りを眺めていた眼鏡の少女の眼鏡が、キランと光った。
 「そーだ!!じゃあ、アカネの快気祝をかねて、これからみんなでマックで会食っていうのは―どう!?」
 眼鏡を妖しく光らせながら、ずずいっと身を乗り出してアカネに詰め寄る。
 「ご、ごめん。今日はもう少し、図書室(ここ)で・・・。」
 その迫力に少々たじろぎながら、アカネは申し訳なさそうにそう言って両手を合わせた。
 ガク――ン
 「はい。これで通算六連敗目、と・・・。」
 机に突っ伏す様に崩れ落ちた相棒の横で、栗髪の少女は手にした記録帖に何やら記帳しながらそう呟いた。
 「あ、あの、ホントにゴメン・・・。」
 「ア―、気にしなくていいわよ。相手の都合考えずに言い出す方が悪いんだから。」
 目の前で真っ白に燃え尽きている級友を見て、オロオロするアカネに、栗髪の少女はそんな血も涙もないフォローをかます。
 「 ・・・ムキ―ッ!!何よその言―方っ!!あんた、人の面(つら)被った鬼だ―っ!!」
 そう叫んでガバッと身を起こすと、眼鏡の少女はダ―ッと出口に向かって走り出す。
 途中で司書のお姉さんに「図書室では静かに!!」とお決まりの注意を受けて、ペコペコ謝り、再び出口に向かって走りだそうとして、クルッと振りかえる。ポカンと見ているアカネ達に向かってビシッと指を突きつけて、
 「アカネ、わたしは、わたしは諦めないからね―っ!!いつか絶対、あんたとの素敵な放課後ライフを実現して見せるんだから―っ!!」
 そう叫んで、再び飛んできた司書の叱責の声にペコペコと頭を下げてから、改めて飛び出して行く。
 「何言ってんだか・・・。」
 やれやれといった様子で頭を掻き、そして、
 「じゃ、また明日ね。」
 そう言って、栗毛の少女も相棒の後を追う。そして彼女も出口の前でクルッと振り返り、アカネに向かって「ホント、無理はすんじゃないよ―!!」と叫ぶと、パタパタ手を振る。
 「補習場で待ってるヨン―。我が同志―!!」
 そしてこれまた、三度(みたび)の叱責(と言うか、もはや怒鳴り声。)を背に飛び出して行くのだった。
 そんな級友達の姿にしばし唖然としながら、アカネはその顔に苦笑を浮べる。
 「・・・補習、か・・・。」
 確かに、今回はそうなってしまうかもしれないな、とも思う。
 何しろ、この大事な時期にこんなことをしているのだから。
 そう思いながら、再び意識を目の前の書籍に戻すと、その内の一冊を手に取った。
 オカルティックなデザインの表紙に、金字で仰々しく刻まれた「悪魔新書」の文字。
 最近発行された本で、悪魔やそれに関連する魔術や歴史について詳しく記した、いわゆるオカルト本の類。
 学校のパソコンでネット検索した際、その手のマニア達の間で最も評価の高かった資料がこれ。
 ちなみに定価、2,500円也。
 アカネ個人で自由に出来るお金で買うには少々、否、かなり無理のある値段である。
 図書室(ここ)にあったのは、ちょっとした僥倖だった。
 手元には、その他にも数冊の蔵書がある。趣味、宗教、神話、民俗、寓話、果ては都市伝説に至るまで・・・。図書室(ここ)に存在する書架の隅から隅を漁りまわって掻き集めた、「悪魔」に関する資料の数々。
 ―もっとも、今までの所、今の状況に役立つ様な情報が記されていたものは、これと言ってないのだが―
 それでも、ないよりはまし。溺れる者はなんとやら。
 どんな些細なことであれ、今は知識が欲しい。自分達は、あまりにも知らなさ過ぎる。
 彼の少女が、一体何を企んでいるのか。
 何を成そうとしているのか。
 今のままでは、それを防ぐ術を持つどころか、予察する事すらままならない。
 無知は、無力。
 既知は、力。
 刃が欲しい。目の前でほくそえむ、黒翅の災厄に抗う為の刃が。それを作り出す為の真鉄。それに成り得るものが。
 だから、足掻く。
 それがどんなに無意味に近い行為でも。
 溺れるのと大差ないもがきでも、もがき続けていれば、僅かでも岸に近づけるかもしれない。漂う流木に、すがりつく事が出来るかもしれない。
 だけど、それさえしなければ、ただ暗い水底に沈み行くだけ。
 だから、もがく。
 遠くにある未来に近づける様に。
 漂う明日にすがれる様に。
 ―それらを信じる心が、沈んでしまわぬ様に。

 「ふう・・・。」
 一息ついて、椅子の背もたれに身体を預ける。
 長時間の書見のせいで、目がショボショボする。目頭をこすり、溜まった疲れを振り払う様にアカネは頭を振った。
 霞む視線を落とすと、開いたままの本のページが視界に入った。
 そこにあるのは、多種雑多な姿をした異形の挿絵。
 ―ルキフェル、アスモデウス、ベリアル、アンドロマリウス、バルバドス、グラシャボラス―
 ゲームやファンタジー小説でよく聞く名もあれば、聞き慣れない名もまた多い。
 人と大差ない姿のもの。蛇や鳥、獣の姿をしたもの。それらを雑多に寄せ集めた、合成獣(キメラ)的な外見のもの。なんとも形容し難い形状のもの。そして―
 “天使”の姿を模したもの。
 「・・・。」
 アカネはいつしか、その挿絵の悪魔に見入っていた。
 神への侮辱。その御光に傅く者達への嘲笑。その教えに対する否定。その全てを己が身に映し、挿絵の悪魔は端整な顔に歪(いびつ)な笑みを浮かべている。
 ―やがて、その歪んだ笑みが、彼の少女の笑みと重なって―
 「――。」
 不意に脇道にそれる思考。
 浮かんだ疑念とともに、思い出されたのは、また、あの光景。
 ―無力に地に這う天使(自分)。
 ―冷やかに見下ろす、悪魔(あの娘)。
 あまりにも歴然とした、力の差。
 悟郎の前でさらされた、自分の無力さ。
 守らなきゃいけなかったのに。
 倒れちゃいけなかったのに。
 結局、守られたのは自分の方。
 『そんなんで、どうやってご主人様御守りする気なの?』
 『ざまぁないの。守護天使が守られてちゃ、世話ないねぇ?』
 もう、何度リピートしたかも分からない、あの言葉。あんまり繰り返しすぎて、心の耳朶にベットリと染み込んでいる。
 けどもう、心は揺れない。
 克服したのではない。
 ただ、揺れる気力が枯れただけ。
 悔しさも、情けなさもある。
 けれど、それ以上に心を侵しているのは、どうしようもない無力感に満ちた、諦観の思い。
 だって。
 だって確かに、あの娘には「力」がある。
 「力」があるのだ。
 この世の理を否定し、捻じ曲げてしまう「力」が。
 ―もし。
 もし、ご主人様のそばにいたのが自分ではなく、あの娘だったなら。
 こんな無力な自分でなく。
 力を持ったあの娘だったなら。
 きっとどんな災難からも、ご主人様を護ってしまうに違いない。
 振りかかるそれらさえも凌駕する、理不尽という名の力を振るって。
 ―それなら。
 それなら、いっそ―
 「――っ!!」
 我に帰り、アカネは思わず額に手を当てた。
 滲んだ汗が、じっとりと手に染みる。
 馬鹿な!!何を馬鹿な事を―!?
 心中で自分を罵倒しながら、必死に心を立て直す。
 でも。
 でも―
 一度爛れた心は、そう易々と戻りはしない。
 膝の上で握り締めた拳に、俯いた額から滴った汗がポツポツと当たる。
 酷く、冷たい。
 病んだ思考が、クルクル回る。
 ―チリン
 「――!?」
 不意に響いたその音色に、アカネはハッと我に帰った。
 音は一度きり。けれど、その澄んだ余韻は確かに耳の奥に残り、澱みに沈みかけていた意識を、フィルターにかけたかの様に澄み渡らせていく。
思わず辺りを見回すものの、周囲には鈴の類もなければ、その様な音を出す様な器具も見当たらない。
 否。そもそもあの音が聞こえたのは・・・。
 「・・・!!」
 アカネは知らず知らずの内に、己の胸元を押さえる。
 彼の鈴音が響いたであろう、その場所を。
 「・・・何・・・?」
 誰ともなしに紡がれる疑問。
 答えるものは、誰もいない。
 乱れる思考を落ちつかせようと、アカネは目の前の本の山から新しい一冊をひっぱりだすと、表題も見ずにそれを開いた。
 「・・・あれ?」
 目に入った本の内容に、アカネは思わず本の表紙を返す。
 「わたし、いつこんな本取ったんだ・・・?」
 戸惑う視線の先には、手にした本の表紙。
 「詳説・生き物の生理・生態」。
 明らかに、求めているジャンルの資料ではない。誰かが棚の分類を無視して入れたものを、隣の本を取ろうとして間違えて持ってきてしまったのだろうか。
 釈然としない思いを持ちながら、アカネはその本を本来の場所に戻そうと、席を立とうとした。
 ―と、
 チリン
 「!」
 再び、己の内に響いたその音色に、アカネはその身を止める。
 「・・・・・・?」
 しばしの逡巡。
 浮かしかけていた腰を再び椅子に戻すと、アカネは手にした本を見つめる。
 「・・・・・・。」
 やがて、アカネの指がその本のページを、1枚1枚、ゆっくりとめくり始める。
 チリン
 近くて遠いその場所で、己の意志が通じた事を喜ぶかの様に、彼の音色がかすかに鳴った。 
 
 
 学校を出ると、日はもう西の片隅にまで傾いていた。
 遠く、視界の限界まで伸びる街並みの果てで、すれすれまで傾いた太陽が、ユラユラと揺れている。
 伸びる茜の光。
 茜く染まった空。
 世界を染め上げる、一日の終りの色。
 それを、書見で疲れた瞳が見上げる。
 アカネにとって、それは特別な色。
 初めて悟郎と出会ったあの日。
 風そよぐあの夕暮れの丘で、悟郎はまだ名も無き野狐だったアカネに、その空の色からとった名をくれた。
 その時の、まだ少年だった悟郎のあどけない笑顔を、頭を撫でてくれた手の温もりを、転生した今でもつい今し方の事の様にはっきりと思い描く事が出来る。
 その全てを鮮やかに焼き染めていた、あの遠く果てしない茜の空とともに。
 この色は、アカネと悟郎の絆の色。
 例えどんなに離れていても、この茜の空が彼の人と自分を繋いでくれる。
 ―感じさせてくれる。
 瞳を焼くその色に眩しげに目を細めながら、アカネはささくれ立った心がほんの少しだけ、癒されていくのを感じた。
 ―と。
 ピーポーピーポーピーポー・・・
 不意に前方から聞こえて来たその音に、アカネはハッと視線を戻す。
 その視線の先に映るのは、猛スピードで近づいてくる白い車体と、目まぐるしく回るパトランプの朱い光。
 (救急車・・・?)
 ピーポーピーポーピーポー・・・
 何処かに災厄が訪れたことを告げる、音と光。
 それが、アカネの脇を通り過ぎる。
 くるくる、くるくる。不安を煽る様に回るパトランプ。
 周囲を満たす茜色よりなお朱い、その閃きが一瞬、アカネを照らす。
 ―その瞬間。
 「――っ!!?」
 その身をかすめた冷感に、アカネは思わずすくみ上がった。
 鋭く身を裂く様でいて、じわじわと凍てつく冷気。それは、アカネがよく知るものと同質のもの。
 けれど、たった今通り過ぎた救急車から流れていたであろうそれは、アカネが知るものよりも大分、薄い。
 ―恐らくは、残滓。
 一旦、遠ざかる白い車体を振り仰いだ後、改めて元の道に向き直る。
 ―感じ取れた。
 救急車が通ってきた道程そのままに、キラキラとたゆらう霧氷のごとく、薄くたなびく冷気の道が。
 恐らくは、この冷気の道の先に―。
 次の瞬間、アカネは駆け出していた。
 キラキラとたなびく、道の先へ。
 かの者がいるであろう、その場所へ。
 ―聞かねばならない事がある。
 あの娘に。
 確かめなければならない事が。
 走りながら、カバンを持つ手に、ギュッと力を込める。
 その中には、先ほど図書室で読み、借り出した、生物学の本。
 その中の、数ページに記されていた事。
 それが、アカネの脳内でかの者が残した言葉と絡み合い、一つのシナリオを結んでいた。
 もし、それが正しいのなら。
 それが答えなのだとしたら。
 あの娘が、あの娘が成そうとしている事は―
 恐怖は今だ、心に巣食っている。
 けれど、それを凌駕する程の焦燥と不安がアカネを走らせる。
 走りながら、アカネはチラリと茜色の空へと視線を向ける。
 願わくば。
 願わくば、どうかわたしに勇気を。
 ご主人様を、護る勇気を―
 茜い空にそう願いを飛ばし、アカネはぎゅっとその小さな拳に力を込めた。

 
 アカネは知らない。彼女が愛し、願いを託した夕焼けに、もう一つの姿があることを。

 ―曰く、「黄昏刻」。
 其は昼と夜の替わり時。
 道向こうから来る人の顔すら見え辛くなり、故にかけられる「他(た)そ誰?」の呼びかけが変じて、「黄昏(たそがれ)」。
 世を照らしていた日が役目を終え、代わりに夜が目覚めの呼気で世を染め上げる。
 光が死に行き、闇が生まれいずる虚ろの時間。

 ―曰く、「逢魔刻」。
 其は陽と陰の混じり時。
 現世と異界との境がぼやけ、霊や妖、そして魔が人の世に混じり入る。
 故に、「魔に逢う刻」。
 異界の者が人の世を覗き込み、人がこの世ならざる存在に怯える妖しの時間。

 日が暮れるということは、「昼」という世界が、「夜」という別の世界へと変わること。
 それは、「今日」という小さな世界の終り。
 ある自然信仰の中において、日没とは太陽の死せる時。
 太陽は夜明けと共に生まれ、日没と共に死ぬ。死した太陽の魂は循環し、次の夜明けと共に新たな命として再生するのだと。
 それに倣うならば、空を焼く朱光は、死に行く太陽が流す末期の涙か、はたまた断末の叫びか。

 太陽が死ぬ。
 光が消える。
 世界が終わる。

 一つの世界の、今際の姿。
 それが“黄昏”。

 その先に生まれるは、想いも願いも、神の手すら届かぬ、別の世界。

 そこに向かって、アカネは走る。

 ―ゆっくりゆっくり、闇が、落ちる―


 ―くるわが廻る
 くる くる
 くる くる
 くるわが巡る―

 ―運命の 繰輪(くるわ)が廻る
 想いも願いも 連ぐことなく
 ただ来るべき時に向け
 ただ在るべき時に向け
 くる くる
 くる くる
 繰輪(くるわ)は巡る―


                                                           
                                     続く 
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