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2012年04月11日

絆を紡ぐ想い・澎侯の霊樹とマヨイガの森(10)(アニメ学校の怪談・二次創作作品)







 水曜日、学校の怪談SSの日です。
 学怪の最終話をしってる前提で書いてますので、知らない方には分かりにくい展開だと思うのでご承知ください。
 よく知りたいと思う方は例の如くリンクの方へ。


 それではコメントレス。

 zaru-guさん
 最後の所、別にレダメが出てくるわけじゃないですよね?
 
 さぁ、どうでしょう・・・?

 ダルク・・・イケメンすぎう・・・なんて熱いハートの持ち主なんだ

 普段はネガティブで陰気ですが、やるときゃやる子です。


秋かなさん
 お疲れ様です。今回も読ませていただきました。
 確かに難しい内容ですよね、里香と裕一の母はいつ、こうやって仲良くなったなどは書かれていないので、しっかり考えないといけないですもんね。


 はい〜。今回は身の程というものを知りました。いや、ホントw

 今回は裕一の母の芯が強いことが分かる回でした、夫を亡くしながらも自分と同じような道を選んでいる裕一と里香をしっかりと支えていこうとしているのが心に響きました。

 あ、良かった。通じてた。

 後編がんばってください。

 はい。頑張りますよー!!


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                        その11・可能性

 薄暗い部屋の中で、集った異形の者達が黙ってわたし達を見つめていた。
 澎侯も、古椿の少女も、キジムナー達も、わたし達を見つめていた。
 わたし達は“そいつ”を見つめていた。
 腕の中の“そいつ”は、そんなわたし達の視線なんてまるで感じてないかの様に眠っている。
 昏々と。
 ただ昏々と眠っている。
 「・・・その方は隠れ里(ここ)に来た時・・・」
 沈黙を破る様に、古椿の少女が声をかけてきた。
 「・・・もう自分の姿すら保てない程に疲弊していました。」
 薄闇の中に、少女の鈴音の様な声が解けては消えていく。
 「だから私達はその方をこのマヨイガの中にお連れしました。マヨイガは中に入った者の望むものを与えてくれます。私達はこの方が、失った妖気を望むと思っていました。けれど・・・」
 少女の手が、天邪鬼を指し示す。
 「この方が望んだのは、この“器”でした。」
 「よほど、思い入れの強い“器”だったのであろうな。この無頼者が、ここまで執着するとは、全く大したものよ・・・。」
 その言葉を継ぐように、澎侯がそう言った。
 わたしは黙って、天邪鬼の身体を撫でる。
 敬一郎も手を伸ばし、天邪鬼の頭を撫でていた。
 頭の中を色んな思い出がかけめぐる。
 旧校舎で初めて会った時の事。
 朝のおかずを巡った喧騒。
 お化けを怖がるわたし達をからかう、小憎たらしい顔。
 うつしみや闇目に襲われた時、助けてくれた事。
 そして、逢魔からわたし達を守ってくれた時の言葉。
 「・・・そう言えばあんた、初めて会った時、言ったよね。」

 (友達になろうよ・・・。)

 ただわたし達を誘う為だけの、狂言だと思っていた。
 だけど、本当はどうだったのだろう。
 今となっては分からない。
 「あんた、天邪鬼だもんね・・・。」
 そう言って、もう一度“そいつ”の頭を撫でたとき、わたしの頭の中で、何かが閃いた。

 そう。あの時。初めて会った時、こいつは―。
 「椿さん!!」
 思わず叫んだ言葉。
 その場にいた全員が、キョトンとする。
 特に、呼ばれた本人はオドオドと左右を見渡し、その後自分を指差した。
 「あの・・・私の事でしょうか?」
 その様子を少し可愛いと思ったけど、今はそれどころじゃない。
 わたしが頷くと、椿さんは「何でしょうか?」と訊いてきた。
 「さっき、言ったよねお化け(あなた達)の中には、人の恐怖や畏怖を糧にする奴がいるって!?」
 「は、はい?」
 わたしの剣幕に多少押されながらも、椿さんは頷く。
 「なら、こいつも・・・天邪鬼もそうじゃないの!?」
 わたしの言葉に、敬一郎もはっと顔を上げる。
 「初めて会った時、わたし達が“怖い”って思う度にこいつ、大きくなっていったの!!だったら・・・だったら・・・」
 「お・・・落ち着いてください。」
 今にも掴みかかってきそうな勢いのわたしを制すると、椿さんは頷いて言った。
 「はい、確かに天邪鬼(その方)は、その様な型ですが・・・」
 やっぱり。
 その答えに、わたしの心に希望の光が灯った。
 「それなら・・・それなら、わたし達がここにいて、こいつに怖いって思いをあげ続ければ・・・」
 「如何する?」
 ほとんど叫ぶ様なわたしの声を、澎侯の言葉が遮った。
 それは、今までの穏やかな彼とは違う、鋭く、厳しい声だった。
 「何度も申した筈。隠れ里(ここ)は人間(ひと)の居るべき場所ではない。長く留まれば、その身の保障、取りかねる事になろう。」
 「・・・。」
 その言葉に押し黙るわたしに、澎侯は言い聞かせる様に言う。
 「悪い事は言わぬ。彼の世へ帰るが良い。先刻、目々連にも言われた筈。所詮、妖(我ら)と人間(そなた達)が同じ時を生きるなど、無理なのだと。」
 「・・・帰れるの?元の世界に・・・。」
 「はい。」
 わたしの言葉に、ホッとした様に椿さんが答える。
 「先にも言いましたとおり、マヨイガ(ここ)は訪れた者の望むものを一つ、与えてくれます。あなた方が彼の世への道を望むのなら、マヨイガはそれを与えてくれましょう。」
 「・・・そうなんだ。」
 わたしは、隣の敬一郎の方をポンと叩く。
 敬一郎が、何か訴える様な顔でわたしを見た。
 敬一郎が何を言いたいのかはよくわかった。
 だから、わたしは言った。
 敬一郎の顔を見て、はっきりと。
 「敬一郎。あんたは、帰りなさい。」
 「・・・お姉ちゃんは・・・?」
 「わたしは残る・・・。ここに残る!!」
 「お姉ちゃん!?」

 ザワ・・・

 周りを囲んでいた樹霊達がどよめく。
 澎侯が、その瞳をキュウと細めた。


                          その12・決意

 「・・・自分が何を言っているか、分かっておるか・・・?」
 澎侯が、低い声で尋ねてくる。
 「分かってるよ・・・。」
 「なれば・・・」
 「敬一郎は帰してあげて。ここには、わたしだけが残る。」
 わたしの答えに、澎侯がグルル・・・と低い唸り声をあげる。
 それに気付いた椿さんが焦った様に、言ってくる。
 「いけません!!隠れ里(ここ)に人間であるあなたが留まれば、満ちる陰の気で御身を害する事になります!!」
 「・・・そのくらい、覚悟してる。」
 キジムナー達も口々に喚く。
 「ココ 危ナイ 妖 モ イル!!」
 「人 食ウ 奴ラ モ 沢山 イル!!」
 「危ナイ!! 危ナイ!!」
 「ココ 残ル 危ナイ!!」
 「知ってるよ・・・。それでも、わたしは残りたいの。」
 その言葉に耐えかねた様に、敬一郎がすがり付いてきた。
 「駄目だよ、お姉ちゃん!!だったら、僕も残る!!」
 だけど、そんな敬一郎にわたしは言い聞かせる。
 「駄目。あんたは帰りなさい。でないと、パパが一人っきりになっちゃうでしょ?ハジメや桃子ちゃんにも、伝えてほしいし・・・」
 「お姉ちゃん・・・。」
 目に涙を浮かべて見上げてくる敬一郎の頭を、わたしはクシャクシャと撫でた。
 「では、あくまでも残ると申すか・・・?」
 底冷えのする声が響く。澎侯が低い唸り声を上げながら、わたしを見つめていた。
 澎侯は大きい。立ち上がると四つんばいなのにわたしと同じ高さに視線がくる。
 「申すか・・・?」
 「うん・・・。」
 さっきまでとは打って変わった様に鋭くなったその瞳を、わたしから真正面から見つめてそう言った。
 先に目を伏せたのは、澎侯の方だった。
 「・・・止むをえまい。」
 次の瞬間―

 グガァッ

 突然、澎侯がわたしに飛び掛ってきた。その巨体に突き飛ばされ、わたしは成す術なく床に転がる。
 仰向けになったわたしを押さえつけ、澎侯が牙をむいた。
 「お姉ちゃん!?」
 「御方様!!お待ちください!!」
 「澎侯!!」
 「落チ着ケ!!」
 周りの面々が慌てて間に入ろうとするけど、その誰もが澎侯を留める事は出来ない。
 「先にこの場の者達が言った様にならずとも、この場に残らばいずれ隠れ里(ここ)の瘴気で己を失う事となろう!!なればいっそ、この場でその喉笛咬み裂いてくれよう!!」
 クワッと開いた口の中に、鋭い牙がのぞく。
 怖かった。
 だけど・・・
 「澎侯・・・。」
 わたしは見下ろしてくる澎侯に向かって、静かに語りかけた。
 「言ったよね・・・。隠れ里(ここ)に来る鍵は“迷い”だって・・・」
 「・・・。」
 「わたし、ずっと迷ってたんだ・・・。天邪鬼(こいつ)の事、天邪鬼(こいつ)がいなくなった時の、自分の気持ちの事・・・。」
 澎侯は剥いていた牙を引っ込め、わたしの言葉に耳を傾けていた。
 「わたしね・・・天邪鬼(こいつ)が家に来た時、カーヤの中に入っちゃった時、ほんとに憎たらしく感じたんだ・・・。なのに、いざいなくなったら、寂しくて、毎日の風景の中に、ぽっかり穴が開いちゃったみたいで・・・まるでママが亡くなった時みたいでさ・・・。何なんだろう、わたしって、こんなに自分勝手だったのかなって・・・何でこいつは、あそこまでしてくれたんだろうって・・・ずっと迷ってた・・・。」
 「・・・。」
 「でも、隠れ里(ここ)に来て、天邪鬼(こいつ)の事知って・・・やっと分かったの。」
 肩を押さえる澎侯の力が、少し弱くなる。
 「家族なんだ・・・」
 「・・・。」
 「こいつは家族なんだよ!!パパや、ママや、敬一郎と同じ!!家族なんだ!!」
わたしは叫んだ。力の限り。精一杯の声を張り上げて
 「一緒にいたい・・・ううん、一緒じゃなきゃ、だめなんだ。」
 「・・・。」
 「なくすのは嫌・・・。亡くすのは、もう嫌なの・・・。」
 わたしはいつの間にか泣いていた。涙が後から後から溢れてきて、止まらなかった。
 「だから・・・わたし残る・・・。残って、こいつに力をあげる・・・。そして、連れて帰るんだ・・・。わたしの家に・・・わたし達の家に・・・。」
 「・・・容易ではない・・・。」
 澎侯が言う。元の、諭す様な、あやす様な、優しい声で。
 「目々連から聞いたであろう・・・。こやつは今、全くの空蝉じゃ。それこそ、100年待てど元には戻らぬ程にな。よしんばそれをそなたの心が手伝うとしても、一年や、十年の時間で収まるものではない・・・。」
 わたしを見下ろす、澎侯の目。わたしは逸らさず、真っ直ぐにそれを見返す。
 「・・・覚悟は、あろうな?」
 わたしはゆっくりと頷いた。
 ふっと身体が軽くなる。
 澎侯が、わたしの身体から離れていた。
 「全く、手に負えぬ女子じゃ・・・。」
 そう言って溜息をつくと、澎侯は元通り、ちょこんと座り直した。


                                                           続く
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