木曜日。2001年・2003年製作アニメ、「天使のしっぽ」の二次創作掲載の日です。(当作品の事を良く知りたい方はリンクのWikiへ)。
ヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意
それではまとめてコメントレス
zaru-guさん
動画制作も含めて、気長に待っているので……。まあ、楽しめる範囲でがんばってください。
日頃から思っていました。どうして毎日更新できるんだろう、と。いやー、そっちの方が不思議でなりませんな。話のストックがあるとか関係なく。たとえ、うっかり更新を忘れてたとしても私は怒らないので心配なく。
秋かなさん
ネタ切れはどうしようもないことなので更新はいつでも平気なので待ってます。
がんばってください。
お二方・・・ ありがとうごぜぇますぅううう!!!(泣)
なるべく早く公開出来る様頑張りますので、いましばらくお待ちくださいm(_ _)m
イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。
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―月の道―
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
再び二人の間に沈黙が降りていた。けれど、今度の沈黙は先のそれとは、明らかに雰囲気が違った。
「・・・あ〜〜その・・・」
案の定、今度の沈黙は長くはなかった。それも、口火を切ったのは以外にも、少女の方。
「・・・えと―ねぇ、ナナ・・・。」
「あや?なぁに?」
初めて相手の方から話しを振られたナナが、その相手を見上げる。
「睦さんは、優しい?」
その問いに、ナナの顔がそれまでにも増して、明るく輝く。
「うん!!すっごくすっごく、優しいよ!!」
「どんな風に?」
「え?えーとね、えーと・・例えばぁ・・・」
皆で行ったハイキング。してくれた肩車。見せてくれた、広く、遠い世界。
初めてした料理。まっ黒焦げのホットケーキ。美味しいと言ってくれた時の、ちょっと引きつった顔。
一緒に行った散歩。迷子になった自分。見つけてくれた時の、必死の顔。抱き締めてくれた、腕の温もり。
尽きる事を知らない言葉。
彼の人の事を話すのが、この上なく誇らしいと言わんばかりに、ナナは言葉を紡ぐ。
まるで、幸せの詩を紡ぐかの様に。
寒い雨の日。膝の上で読んでくれた絵本。作ってくれたホットチョコレートの、甘い味。
誕生日。プレゼントしてくれた、サッカーボール。でも、一番嬉しかったのは、「おめでとう」と言ってくれた、あの笑顔。
仲の良かった友達が転校した日。寂しくて泣いた夕焼けの河原。隣に座って、吹いてくれたハーモニカの音色。
「・・・ご主人様、ハーモニカ、吹けるの?」
少女が意外そうな顔をする。
「うん、そうだよ。と〜〜っても上手なんだから!!」
「どんな曲、吹くの?」
「え〜〜とね、こんなの。」
そう言って、ナナは曲の旋律を口ずさむ。
「♪〜〜♪♪♪〜〜♪〜〜〜♪♪♪〜〜・・・」
それは音程すら安定しない、稚拙な吟唱。でも、少女は黙って耳を傾ける。
夜闇に拙く、けれど優しく流れる旋律。
薄く閉じた目蓋の中に、ハーモニカを奏でる彼の人の姿が見えた様な気がした。
「・・・綺麗な曲。」
「えへへ、でしょう?」
誉められたナナが、得意気に胸を張る。
「こんな難しそうな曲、吹けるんだ。スゴイな。ご主人様。」
「そ〜〜だよ!!ご主人様、スゴイんだから!!」
言って、二人の少女はクスリと笑い合った。
ナナは気づかない。何時の間にか、自分が悟郎の事を「パパ」ではなく、いつもの「ご主人様(それ)」で呼んでしまっていることに。
ナナは気づかない。共に歩く他人の筈の少女が、何の違和感もなくその呼び名を共有していることに。
ただ、自分以外の存在が、新しい友達が、自分の大事な人を、同じ様に素敵だと言ってくれる。
ただそれだけが、嬉しくて。
そうやって連れ立ち、二十分ばかりも歩いた頃。
「・・・!?」
不意に少女が、足を止めた。
「あや?どうしたの?」
キョトンとするナナに、少女が耳を澄ましながら言う。
「誰か、あなたの事、呼んでるよ・・・?」
「あや?」
言われて、ナナも耳を澄ます。
「・・・ナナちゃ〜〜ん、何処にいるの〜〜?」
「ナナ〜〜、いるならいるって返事しな〜〜。いないなら、いないって言いなよ〜〜。」
「あやや!!ラン姉ちゃんと、ツバサ姉ちゃんだ!!」
喜びの混じった声とともに、ナナが身を乗り出す。
声の方に目をやると、二人の立つ道の先の外灯の光の中に、キョロキョロと辺りを見回す人影が二つ。
「・・・お迎えみたいだね・・・。」
少女はそう言って、ナナの方を見る。
「行きなよ。姉さま達、だいぶ心配してるみたいだ。」
「うん!!」
頷いて、ナナはラン達に向かって走り出す。
ずっとつないでいた手が、あっけなくスルリと離れる。
「・・・・・・。」
手の中にあった温もりが抜け行く感覚。
まっすぐに光の中に向かって駆けて行くナナの後ろ姿に、少女は少し、ほんの少しだけ、寂しげに瞳を揺らした。
「ラン姉ちゃん!!ツバサ姉ちゃん!!」
「あ!!ナナ!!」
「良かった・・・。心配したのよ?」
息を切らして走り寄るナナを、ランが優しく抱き止める。その傍らで、ツバサがほっと安堵の溜息をついた。
そして、
「全く、駄目じゃない!!こんな時に一人で歩き回っちゃ!!」
頭の上から降ってくる、ツバサの声。決して荒々しくはないものの、明らかな咎めの調子。
ナナは、思わず肩をすくめる。
「大変だったんだよ?ミカさんは『早く見つけないと、ナナ(あの娘)、悪魔(あいつ)に食べられちゃうわ〜〜っ!!』ってテンぱるし、それ聞いたクルミが『クルミ達のごはん邪魔しといて、自分だけナナちゃん食べようとするなんて許せないの!!邪魔してやるなの〜〜〜っ!!!』って目グルグル回しながら飛び出してくし・・・。ホント、阿鼻叫喚って言うか何て言うか・・・。」
「ごめんなさ〜〜い・・・。」
お小言を言いながら、それでも頭を撫でてくれるツバサに、ナナはランの腕の中でしゃくりあげながら謝った。
そんなナナを見て、ランも優しく微笑む。
「でも、本当に無事で良かったわ・・・。」
「さ、早く戻ろう。他に探しに出てる皆にも知らせなきゃ・・・。」
ツバサの言葉に頷きながら、そこでランがふと、不思議そうな表情を浮べる。
「そう言えばナナちゃん、よく一人でここまで帰って来れたわね?道、分かったの?」
そのランの言葉にナナはフルフルと首を振る。
「ううん。一人じゃないよ。送って来てもらったんだよ。」
「送ってって、誰に・・・?」
「あのね、あのお姉ちゃんに・・・。」
怪訝そうな顔をするランとツバサに、ナナは後ろにいる筈の少女を指差そうとして振り向き、「あれ?」と目を丸くした。
―そこにはもう、件の少女の姿はなく、ただ深い夜闇が満ちるだけ。
「・・・お姉ちゃん・・・?」
呟いて、いきなり走り出す。
「「ナナ(ちゃん)!?」」
ランとツバサが驚いて呼び止めるのにも構わず、それまで少女が立っていた筈の場所まで駆け寄ると辺りをキョロキョロと見回す。
けれど、あの夜風に揺れる純白の髪も、闇に澄み光る琥珀の瞳も、見つけることは叶わない。
「ビックリしたぁ。こらぁ、また迷子になっちゃうぞ!?」
「一体、どうしたの?」
後を追ってきたランとツバサがそう声をかけるが、ナナはただ呆然と目の前の闇を見つめている。
「・・・お姉ちゃん、消えちゃった・・・。」
「「?」」
そんなナナの呟きに、ランとツバサはただ顔を見合わせるだけ。
「・・・誰が何を食べるって・・?あのお笑い兎、一度徹底的に話し合う必要があるね・・・。」
道路わきの家の屋根に座り、眼下を見下ろしながら、少女はボソリと呟いた。
その見下ろす先には、二人の姉と連れ立ち、家路につこうとするナナの姿。
ランとツバサの間に入り、両手をそれぞれとつないで。
それでも時折、辺りをキョロキョロと見回しながら遠ざかって行くその小さな背中を、少女は黙って見送っていた。
やがて、その背中が視界の果てに消えると、少女はふと、下ろしていた右手を上げた。
夜闇に眩しい程に、白い手の平。しばし見つめた後、それをそっと自分の頬に押し当てる。
頬に張り付く、体温のない、氷の様な皮膚の感触。けれど、その冷たさの中に、かすかにほんのりとした温もりを感じる。
それは、つい今しがたまでつないでいた、小さな少女の手の温もり。
幼い、けれどそれゆえに純粋な優しさとともに、ギュッと力いっぱい握ってきた、あの小さな手の温もり。
「・・・・・・。」
少女は目を閉じ、頬に感じるその温もりに身を委ねる。
今はもう、サラサラと消え行くだけのそれを、少しでも長く感じていようとするかの様に。
―う゛ぉん―
「・・・・・・!」
と、不意に何かに気づいたかの様に少女が立ちあがる。
空を仰ぎ見る、眼差し。
その視線の先に浮かぶのは、夜色の空にポッカリと浮かぶ、赤錆色の“満月”が一つ。
深く、どんよりと濁ったその色は、まるで夜空に出来た血溜まりの様。
「・・・何、見てるのさ・・・!?」
少女はその月に向かって、不機嫌気に目をしかめると、まるで誰かに話しかけるかの様に、そう言い捨てる。
「心配しなくたって、惑わされやしないよ・・・!?今のはほんのちょっと、気が迷っただけなんだから・・・!!」
喋るその背に、黒い光が閃く。一瞬の後、黒水晶を思わせる方体が対で浮かび上がり、そこから闇色の翅がブワッと広がった。
「わたしは、迷わない・・・!!惑わない・・・!!砕けない・・・!!絶対に・・・!!」
己を戒める様なその口調に応じる様に、背に負った翅が黒い燐光を火の粉の様にチラチラと夜闇の中へ散らす。
「だから、“あんた”は黙って見てればいい!!余計なことは、しないで!!」
最後にそう言って、空の朱月から目を逸らすと、少女は夜闇に向かって身を翻す。
(・・・・・・。)
その目が、ほんの一瞬、ナナ達の去った闇の向こうを仰ぎ、見詰め―
翅が一閃。
それだけでもう、少女の姿は夜の大気の中へと掻き消えていた。
暗い空の真中で、それを見届けた濁赤の“三日月”が、ユラリユラリと揺れている。
―天使が帰るは光の宿。
悪魔が還るは闇の褥。
望む願いは共なれど
其に至る道は交じることなく―
後にはただ、真っ白い半月が、煌々と、ただ煌々と輝くだけ―
続く
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