はい。昨日の半月に続いて、霊使いSSも再開です。
こちらの方も、この話が終わるまでは大丈夫かと思われますが、これが切れたらまたしばし途切れるかもしれませんので、その時はすいm(ry
それではとりあえず、どうぞ。
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霊使い達の宿題その6・闇霊使いの場合
―1―
―その地に訪れる月夜は、いつも酷く静かだった。
月光に満たされる空気は、風一つ分の身動きすらせず、ただ淡々と虚空を漂う。
月影の中に落ちる大地は、その身に草一本生やす事無く、ただ粛々と時だけを刻む。
そこには、安らかな眠りに身をゆだねる者もなく、ただ沈黙に沈む数多の影が、累々と積み重なっているだけ。
ここは墓場(セメタリー)。
世における役目を果たしたモンスターの亡骸や、機械の残骸、魔法の残滓が彷徨う果てに辿りつく、世界の裏側。
ここでしばしの間眠り、表の世へと戻り行く道を得るものもあれば、彼の世における力の行使の糧として、永遠に消えるものもある。
有と無の狭間に在る世界。
それが、墓地(ここ)。
そんな、生者の世とは隔てられたその場所に、今夜に限っては動く人影があった。
霊使い特有の、カーキ色のローブに身を包んだ黒髪の少年。
闇霊使いのダルクである。
ダルクは、その物憂げな瞳を周囲に廻らしながらボソリと呟く。
「切ないなぁ・・・。」
気だるげなその言葉に、彼の周囲を飛び回っていた黒い翼の付いた目玉―D・ナポレオンが怪訝そうに声を返す。
『何ガデスカ?ますたー。』
「墓地(ここ)の風景さ。現世(うつしよ)で馬車馬の様に使われて、その挙句に捨てられた骸達の山。見る度に切なくなるよ。」
言いながら、ハァと溜息をつく。
「僕もいつかは誰かに捨てられて、ここに来るんだろうね・・・。」
『相変ワラズ、ねがてぃぶデスネェ。』
D・ナポレオンは呆れた様に言う。
『物事ハモウ少シ、ぽじてぃぶニ考エタ方ガイイデスヨ?』
「この世に、本当に明るい話なんてあると思うかい?」
そう言ってまた溜息をつく主に、D・ナポレオンはやれやれと首(?)を振る。
『全ク、少シハ姉上サマヲ見習ッタラドウデスカ?キット世ノ中変ワッテ見エマスヨ?』
「ライナみたいに?お前、僕にあんな電波を受信しろっていうの?ぞっとしないね。」
『・・・マァ、姉上サマハ姉上サマデ、特別ナ所ハアリマスカラネェ・・・』
「特別過ぎるんだよ・・・。あいつは・・・。」(※1)
そんな会話を交わしながら、ダルク達は夜の墓地(セメタリー)をウロウロとうろつく。
しかし、辺りに動く影はなく、相変わらず静まり返ったままである。
「いないな・・・。」
『イマセンネェ・・・。』
「ここに来れば、闇属性のドラゴンの一匹くらい、いるかと思ったんだけどなぁ・・・。」
『当テが外レマシタカネェ・・・。』
ダルクがまた溜息をついた。ここに来てからもう何度目だろうか。
「やっぱり、僕はついてないんだなぁ・・・。きっと、今回も僕だけ課題こなせなくてお仕置き食らうのさ・・・。」
『マタ、ソンナ・・・』
こちらももう、何度目かも分からないフォローをD・ナポレオンが入れようとしたその時、
ガサ・・・
ダルクの背後で、そんな音が静寂の中に微かに響く。次の瞬間―
ガバッ
積み重なったガラクタの中から何かが飛び出し、ダルクへと飛び掛った。
「・・・D(ディー)。」
『了解。』
途端、黒い光がダルク達を包む。そして―
バキィッ
その光の中から突き出された杖が一閃、飛び掛ってきた影を叩き落した。
ガシャアッ
金属音とともに地面に落ちる影。二、三度ピクつくと、そのまま動かなくなる。
「何だ。こいつか。」
そう言いながら光の中から出てきたのは、憑依装着状態へとチェンジしたダルクと禍々しく巨大化したD・ナポレオン。
地面に転がる「スクラップ・ワーム」を摘み上げると、ダルクはそれをポイと後ろに放り投げる。
「やっと何か出てきたかと思えば、こんな外道かい?全く、ついちゃいないよ。」
ぶつくさ言うダルクの横で、大きな一つ目をギョロギョロさせながらD・ナポレオンが辺りを伺う。
『墓場(ここ)ハ、すくらっぷ(こいつら)ヤあんでっとの巣デモアリマスカラネェ。努々、油断ナサラヌ様二。』
「ああ、分かってるよ。それにしても、面倒な話だなぁ。こっちは余裕がないってのに・・・。」
その後も、何度かモンスターに遭遇したものの、皆低レベルのスクラップモンスターや、アンデットモンスターばかりだった。
「ああ、もう。いい加減にして欲しいなぁ。」
ダルクはたった今叩き落したばかりの「骨ネズミ」を蹴っ飛ばすと、心底ウンザリしたと言った態でガラクタの山に腰を落としてしまう。
「もういっそ、ここに骨を埋めてしまおうかな?先生のお仕置きよりは、よほどマシなんじゃなかろか?」
『ソウ腐ラナイデ下サイヨ。マダ時間ハアルンデスカラ、頑張リマショウヨ。』
「そうは言うけどね、お前・・・」
言いかけたダルクが、その言葉を止める。
「・・・何か聞こえなかったかい?」
『確カニ・・・。』
D・ナポレオンも、相槌を打つとギョロリと辺りを見回す。
耳を澄ます。すると・・・。
ピィ・・・ピィ・・・
確かに何か聞こえる。
ピィ・・・ピィ・・・
か細い、何か小鳥の雛の様な声だ。この場には非常にそぐわない。
「確かこっちから・・・。」
声をたどり行って見ると、ガラクタ山の陰に、何やら箱が置いてあった。
それを覗いてみると・・・
「お!」
『ア!』
中にいたのは、子猫ほどの小さな生き物。ただし猫とは違い、その身は黒い甲殻に覆われ、背には小さいが羽が生えている。その生き物はダルクをルビーの様な赤眼で見上げると、小鳥の様な声で弱々しく、ピィ、と鳴いた。
「確かコイツは・・・」
『「黒竜の雛」デスネ。』
―「黒竜の雛」―
高位のドラゴン族、「真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)」の幼生とされる、下位のドラゴンである。
『何デコンナ所にイルンデショウ?』
「決まってるだろ。コイツの固有能力(パーソナル・エフェクト)を思い出してみろよ。」
『ア・・・』
モンスターの中には、その身に魔法の様な異能の力を内蔵する種類があり、それは固有能力(パーソナル・エフェクト)と呼ばれている。
文字通り魔法の様に様々な超常の現象を引き起こすが、その中には能力発動のトリガーとして己の身を引き換えにするパターンがまれに見られる。自身の身を引き換えにする事にどの様な利点があるのか、研究者達の間では様々な仮説が立てられているが、多くの場合、発動した際に起こる現象が魔法や攻撃の無効化であったり、同族及びその上位種の召喚であるため、仲間を守るための利他的行動であるという見方が有力である。
「黒竜の雛(こいつら)も、巣が襲われた時には雛の内の一匹が、自分を呼び水にして成体の真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)を呼び寄せるんだ。大方、コイツもそれをやったんだろうさ。」
『ナルホド。』
納得した様に頷いていたD・ナポレオンだが、ふと思いついた様に手(?)を叩いた。
『ソウダ。コノ子ヲシモベニシマショウ!!真紅眼ノ系統ハ闇属性デスシ、丁度イイジャナイデスカ。』
しかし、ダルクはまるで乗り気ではないと言わんばかりに、嫌な顔をする。
「コイツを?冗談じゃない。見ろよ。こんなに弱ってる。もう死にかけだよ。大体、エフェクトを使って墓地(ここ)送りになった時点で、生きてる事事態が珍しいんだ。」
確かに、件の雛は箱のそこにグッタリと横たわり、時折か細い鳴き声を上げるばかりである。
「こんな奴、しもべにしたってしょうがない。直ぐに死んじまうのがオチさ。」
『デモ、可愛ソウデスヨ。』
しかし、その場から立ち去ろうとするダルクに、D・ナポレオンが食い下がる。
『ネェ、何トカシテ上ゲマショウヨ。ますたー。』
巨大な目をウルウルさせて迫るD・ナポレオン。
その迫力に、タジタジとなるダルク。
『ま・す・た・ー!!』
「あぁ、もう、分かったよ!!」
そう言うと、ダルクは踵を返して黒竜の雛に向かう。
「全く、お前は悪魔族のくせにらしくないんだから・・・。」
ブツブツ言いながら、持っていた杖を箱の中で震えている雛に当てる。
ポゥ・・・
杖から溢れた光が、雛の身体に契約の証印を刻み付ける。
「さて、後は・・・」
ダルクは指でパパッと宙に円陣を描いた。
「ノームの戯れ ドワーフの児戯 来たれ形骸 空ろの刃」
紡がれた呪文に合わせて、宙に緑色の魔方陣が浮かび上がる。
そこから浮かび上がるのは・・・
折れた竹光。
「式絶(キャンセル)」
その言葉とともに、ダルクの指が宙を縦に切る。
瞬間、浮かび上がっていた竹光が二つに割れ、緑の粒子になって霧散する。
その粒子が消える前に、再びダルクの指が円陣を描いた。
「来たれ創世 導きの光 来たれ凰神 救いの羽風(はかぜ) 彼方の世にて迷いし御魂 彼の光に導かれ 彼の風に乗りて此方の世へ舞い戻れ」
呪文が結ばれると共に、散りかけていた緑の粒子が再び集まって別の魔法陣を作り出す。
「・・・ったく、面倒なんだよな。この術・・・」
ぶつくさ言いながらも、ダルクは術式の構築を続ける。かなり集中しているらしく、その額には汗が浮き始める。
やがて輝く魔法陣の中から翼を模した十字架(クロス)が現れ始めた。
「だいたい、僕のカラーじゃないし。」
完全に具現化した十字架(クロス)がダルクの手の中で回転を始める。
そこで一呼吸置くと、ダルクはその十字架(クロス)を箱の中の雛へと突き立てた。
「死者転生!!」
言葉が結ばれるとともに、雛の身体に突き立てられた十字架(クロス)が溶け込む様に消えていく。それと同時に雛の身体が淡い緑の光に包まれ、光の粒子へと変わっていく。
やがて、雛が変じた粒子はフワリと浮き上がると、そのままダルクの腕の中に納まった。
すると、その腕の中で光の粒子は見る間に凝縮し、その中から再び黒竜の雛が姿を現した。
「ほら、もう大丈夫だ。」
汗びっしょりになったダルクが抱き直すと、その腕の中で雛は「ピィ」と元気に鳴いた。
―「死者転生」―
しもべの召喚、もしくは他の術の式絶(キャンセル)をコストに発動する通常魔法(ノーマル・スペル)である。
効果はその名の通り、死者の蘇生や瀕死者の超回復という、通常魔法(ノーマル・スペル)の中でもかなり高位に入る術である(ただし、その効果は術者がしもべ契約をしたモンスターに限られる)。(※2)
「これで良いんだろ?」
『ダカラ、ますたー、好キデスヨ(はあと)』(※3)
「誉めても、何も出やしないよ。」
ダルクはそう言って、よっこらしょっと腰を上げる。
「用も済んだし、そろそろ帰ろうか。まぁ、雛(こいつ)じゃ精々C判定がいい所だろうけど。」
『点数ガ全テジャアリマセン。』
「相変わらず甘いなぁ、お前。」
『甘サガナケリャア、コノ世ハ真っ暗デス。』
「はいはい。」
そんなやり取りをしながら、ダルク達がその場を立ち去ろうとした時―
サァ・・・
それまで周囲を照らしていた月明かりが消え、辺りが文字通り漆黒の闇に包まれる。
そして―
ゾワァ
「『!?』」
突然に襲う悪寒。
ダルクとD・ナポレオンがいっせいに振り返る。
その視線の先で―
闇が蠢いた。
続く
(※1):このSSの設定ではライナとダルクは姉弟である。ちなみに双子。筆者の妄想。異論は認める。
(※2):ちなみに、今回そのコストとして発動、式絶(キャンセル)された装備魔法(クロス・スペル)「折れ竹光」については、説明を割愛する。
(※3):薄々感づいている方もおられるかもしれないが、このD・ナポレオン、メスである。筆者の妄想。異論は(ry
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