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2012年03月08日

十三月の翼・9(天使のしっぽ・二次創作作品)







 木曜日。2001年・2003年製作アニメ、「天使のしっぽ」の二次創作掲載の日です。(当作品の事を良く知りたい方はリンクのWikiへ)。
 ヤンデレ、厨二病、メアリー・スー注意



イラスト提供=M/Y/D/S動物のイラスト集。転載不可。

天使のしっぽ キャラクターソング(1)

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                      ―試問―


 「そう言えば、タマミさん。」
 「はい、今度は何ですか?」
 家路の最中、再び送られた問いかけの言葉に、タマミはその視線をミドリに向ける。
 「あのれすね、もう一つ、分からないことあるのれす。「悪魔」さんの事なんれすけど・・・」
 「にゃっ!?」
 ミドリの口から飛び出た言葉に、タマミは思わずギョッとする。
 「悪魔さんって、何で「悪魔」さんになったのれしょう?」
 「何でって、それは・・・。あれ???」
 思わず、呪いとか恨みなどという言葉が浮かぶ。
 しかし、それで生じるのは「魔物」や「怨霊」の類であるとついこの間、ユキから講釈を受けたばかりである。
 タマミは、頭を捻る。
 そもそも、あの悟郎が動物から恨みつらみを受けるということ自体、タマミ達には考えられない。
 「そう言えば、ユキさんもよく分からないって言ってましたっけ・・・。」
 「そうなんれす。お話聞くと、悪魔さんも、ご主人様の事、好きなんれすよね?」
 「ふむ・・・。」
 「それなら、悪魔さんも、天使になった方がお得なのれす。悪魔さんらと、ご主人様、怖がるのれす。」
 「ふむむ・・・?」
 「なのに、なんれわざわざ悪魔さんは悪魔さんになったのれしょう?」
 「ふむむむむ・・・???」
 180度位回りそうな勢いで頭を捻り続けるタマミを見ていたミドリが、はっとした様に提案する。
 「そうれす!悪魔さんご本人に聞いたら、きっと教えてくれるれす!!」
 その言葉に、タマミは顔を引きつらせる。
 「・・・い、いや、それは・・・どうでしょうか・・・?」
 「ほえ・・・。そーれすねぇ、やっぱり、初対面で急に頼むのは、失礼れすねぇ。じゃあ、お菓子の詰合せでも持って・・・」
 「いや、そうじゃなくて・・・」
 「果物のかご詰めの方がいいれすか?」
 「・・・だから・・・」
 重い内容の会話を軽い調子で交わしながら、少女達は黄昏の日差しの中、家路を急ぐ。
 その先にあるのが、例えどんなことがあっても変り得ない、優しき日常の場と信じて。
 ―その信じるものが、どんなに脆く崩れるものかも知らず―


 「・・・どういうことです・・・?」
 戸惑う様にかけられた問いに、返答の変わりに向けられたのは氷刃の様な薄笑み。
 アユミは思わず、身体を強張らせる。
 「言ったまま。「この世」の理がわたしの願いを阻むなら、わたしはその理を欺き、乱すだけ。」
 言いながら、また一さじ、砂糖を舐める。
 唇の間から覗く牙。
 細めた双眸に、燐火の様に灯る、朱。
 今やその顔に浮かぶのは、渋い茶を嫌がる子供のそれでも、謀を巡らす策士のそれでもない。
 ただただ冷たく、そして禍々しい、純然たる「悪魔」としての表情。
 前にしているだけで、背筋を幾度となく悪寒が走る。
 (・・・怖い・・・。)
 ほんの一時前のそれとは全く違う、その気配。
 アユミはアカネがあれほどにもこの少女に怯える訳を、初めて本当の意味で理解した様な気がしていた。
 目を逸らしたくなる衝動をなんとかこらえ、少女の目を真正面から見据える。
 その深い朱色に染まる瞳からは、その心中を探ることは適わない。
 ただ、その内に漂う不吉な炎の揺らめきだけが、アユミの心を不安に揺らす。
 「現世(この世)の理なんて、所詮現世の内の一面でしかない。裏をかく術なんて、幾らでもある。」
 「・・・あなた、一体、何を企んで・・・」
 「ふふ、教えてあげない。でもね、ご主人様は貰っていくよ。それだけは、絶対。」
 アユミの言葉に、それだけを返すと少女はスルリと立ち上がった。
 「「「――!!」」」
 その動きに、場の皆が思わず身構える。
 しかし、その様をせせら笑うと少女はクルリと踵を返す。
 「そんなに力まなくてもいいよ。今日は、はなから”やる”気はないんだから。」
 そう言うと、玄関に向かって歩き始めようとする。
 「紅茶、ごちそうさま。結構、美味しかった。」
 後ろを向いたまま、ピラピラと手をふる少女に向かってアユミが叫ぶ。
 「待ちなさい!!話はまだ・・・」
 「駄目。話はお終い。手の内を一から十まで、全部教える義理もなければ義務もない。」
 にべも無くその言葉を遮ると、少女は少し考える様に頬に指を当て、首を傾げた。
 「・・・でもまぁ、ヒントくらいはあげようか?お茶のお礼に。」
 そう言うとクルリと振り返り、テーブルの上のカップを取り上げる。その底には、まだ溶けかけの砂糖が残っている。
 少女はそれを左手で掲げ持つと、右手の人差し指を口に当てる。
 「・・・?」
 訳が分からない皆の前で、しばし口に当てられる指。そして、
 ツ・・・
 その指が、左手のカップの中に差し入れられる。
 その手元に注がれる、皆の視線。
 少女はほくそえむと、カップに指を入れたまま、小声でゴニョゴニョと何事かを唱えた。
 聞いたアカネが、眉を潜める。
 (・・・歌?)
 小声のため、内容までは分からなかったものの、その独特な旋律は確かにその様に聞こえた。
 途端―
 ポウッ
 カップの中から、不意に朱い光が漏れる。
 「「「?!」」」
 思わず我が目を疑う様に目をこする皆に向かってもう一度ほくそえむと、少女はカップをコトリとテーブルに置きながら、言った。
 「この中にあるもの、そしてさっきわたしが話したこと、それが全部、ヒント。」
 そしてさらにもう一度、今度はありったけの悪意と、無邪気な悪戯っ気の混じった笑みをアユミ達に向ける。
 「当ててごらん。自分達の頭で考えて。ヒントはあげたんだから。当ててごらん。当てられなきゃ、」
 細めた眼差しの奥で、朱い瞳がキラと光る。
 「あなた達は、ご主人様がわたしのものになるのを、ただ指を咥えたまま見ている事になるだけ。その代わり、」
 妙に楽しそうな口調で、
 「もし当てられたら、ご褒美をあげる。」
 そう言って、少女は再び踵を返す。
 そして、スルスルとお得意の滑る様な足取りでミカとアカネの前を通り過ぎる。
 一瞥すらしない。
 シャララと揺れる白髪が、玄関の向こうに消えるのをアユミ達はただ呆然と見送る。
 と、玄関の戸が閉まりきる直前で、ピタッと止まった。その隙間から、
 「・・・まぁ、あんまり数増えられても面倒だから、やってたんだけど・・・」
 呆れた様な声。
 「どうでもいいけどさぁ、結界張られてたことくらい、自分らで気付きなよね。」
 そんな言葉が聞こえて、戸がパタンと閉まった。
 ―途端、「音」が周囲に溢れた。
 隣の部屋、再放送のドラマのオープニング曲。
 アパート前の歩道、学校帰りの子供達の声。
 近くの国道、通りすぎる車のエンジン音。
 そして、遠くで鳴く、蝉の声。
 「「「・・・!??」」」
 唖然として時計を見れば、アユミとミカが帰ってきた時から、動いてなかった。デジタルの目覚ましも、アナログの壁掛けも。
 「「「――っ。」」」
 ミカは渋い顔で立ちつくし、アユミが無言でテーブルに突っ伏した。そしてアカネは、大きく息をついて壁にもたれながら宙を仰いだ。


                                                         
                                           続く
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