2016年05月30日
【ビットコインにまつわるあの事件】Yahoo!NEWSより。
昨年8月5日、ビットコインに関する興味深い論点が争われた裁判について、東京地裁による判決が下された。
この事件は、破産会社である株式会社MTGOX(マウントゴックス)が運営していたインターネット上のビットコイン取引所を利用していた原告が、被告である破産管財人に対し、原告所有であるビットコインを被告が占有していると主張して、破産法62条の取戻権に基づき、その引渡しを求めたものである(ビットコイン引渡等請求事件、平成27年8月5日東京地方裁判所民事第28部判決)。
■原告はビットコインを「物品(モノ)」と位置付けて主張
お金を貸していた相手会社が破産してしまった場合、貸主は、自らの債権を破産債権として届け出することにより、回収された資産から債権額の割合に応じて配当を受け取ることになる。
しかし、相手会社は破産してしまったような会社なのであるから、資産より負債のほうが多い、いわゆる債務超過の状態となっているケースがほとんどである。このため、破産債権者は債権額全額を回収することは通常期待できない。
これに対し、お金ではなく、例えば金塊のような「物品(モノ)」であれば、「物品(モノ)」を預けるという方法を採ることができる。この場合、預けているだけなのであるからその「物品(モノ)」の所有権は預け主の下にあるままなのであって、預かっていた会社の所有物となるものではない。
金塊を倉庫会社に預けたからといって、金塊の所有権が倉庫会社に移るわけではない(物理的な占有が移るだけで、法的な所有権は預け主の下にあるまま)というわけである。
このため、仮に「物品(モノ)」を預かっていた会社が破産してしまったとしても、その「物品(モノ)」は破産会社に属しない財産であることとなり、預け主は取り戻しを求めることができる(破産法62条)。
本事件で原告は、ビットコインは「物品(モノ)」であり、あくまでも自らが所有していたものであって、株式会社MTGOXに預けていたものにすぎないとの法的な考え方を主張して、破産法62条の取戻権に基づき引渡しを求めたのである。
■ビットコインの「有体性」を否定
これに対し本判決は、まず前提として、所有権の対象となる要件として、「有体物」であること(「有体性」)、すなわち、「液体、気体及び固体といった空間の一部を占めるもの」であることが必要とした。
そして、ビットコインは、
(1)「デジタル通貨(デジタル技術により創られたオルタナティブ通貨)」あるいは「暗号学的通貨」であるとされており、ビットコイン取引所の利用規約においても「インターネット上のコモディティ」とされていること
(2)その仕組みや技術は専らインターネット上のネットワークを利用したものであること
を理由に、ビットコインには空間の一部を占めるものという「有体性」がないとした。
■ビットコインの「排他的支配可能性」を否定
次に本判決は、所有権の対象となる要件として、「有体物」であること以外にも、「排他的に支配可能であること」(「排他的支配可能性」)が必要とした。
そして、ビットコインの仕組みにおいては、
(1)ビットコインネットワークに参加しようとする者は誰でも、インターネット上で公開されている電磁的記録であるブロックチェーンを、参加者各自のコンピューター等の端末に保有することができるのであって、ブロックチェーンに関するデータは多数の参加者が保有していること
(2)口座Aから口座Bへのビットコインの送付は、口座Aから口座Bに「送付されるビットコインを表象する電磁的記録」の送付により行われるのではなく、その実現には、送付の当事者以外の関与が必要であること
(3)特定の参加者が作成し、管理するビットコインアドレスにおけるビットコインの有高(残量)は、ブロックチェーン上に記録されている同アドレスと関係するビットコインの全取引を差引計算した結果算出される数量であり、ビットコインアドレスに、有高に相当するビットコイン自体を表象する電磁的記録は存在しないこと
−−を挙げ、ビットコインアドレスの秘密鍵の管理者が、自らのアドレスにおいて当該残量のビットコインを排他的に支配しているとは認められないとした。
■所有権の対象となる「物品(モノ)」ではないと位置付け
このように本判決は、
(1)ビットコインには「有体性」も「排他的支配可能性」も認められない
↓
(2)ビットコインは所有権の客体とならない
↓
(3)原告がビットコインについて所有権を有することはない
↓
(4)原告の管理するビットコインアドレスに保有するビットコインについて共有持分権を有することはないし、寄託物の所有権を前提とする寄託契約の成立も認められない
−−と論理を展開し、結論として、原告はビットコインについてその所有権を基礎とする取戻権を行使することはできないとした。本判決は、ビットコインを所有権の対象となる「物品(モノ)」ではないと位置付けているものと理解できよう。
今年5月25日成立した改正資金決済法においても、「仮想通貨」は「財産的価値」として定義されている(改正後2条5項1号・2号)。これも「仮想通貨」を「物品(モノ)」ではないと位置付けているものと理解できよう。
ビットコインなどの「仮想通貨」を、金塊などの「物品(モノ)」とは違うものと位置付けたことは、今後、「仮想通貨」をめぐる法解釈の様々な局面に影響を与えることとなろう。
この事件は、破産会社である株式会社MTGOX(マウントゴックス)が運営していたインターネット上のビットコイン取引所を利用していた原告が、被告である破産管財人に対し、原告所有であるビットコインを被告が占有していると主張して、破産法62条の取戻権に基づき、その引渡しを求めたものである(ビットコイン引渡等請求事件、平成27年8月5日東京地方裁判所民事第28部判決)。
■原告はビットコインを「物品(モノ)」と位置付けて主張
お金を貸していた相手会社が破産してしまった場合、貸主は、自らの債権を破産債権として届け出することにより、回収された資産から債権額の割合に応じて配当を受け取ることになる。
しかし、相手会社は破産してしまったような会社なのであるから、資産より負債のほうが多い、いわゆる債務超過の状態となっているケースがほとんどである。このため、破産債権者は債権額全額を回収することは通常期待できない。
これに対し、お金ではなく、例えば金塊のような「物品(モノ)」であれば、「物品(モノ)」を預けるという方法を採ることができる。この場合、預けているだけなのであるからその「物品(モノ)」の所有権は預け主の下にあるままなのであって、預かっていた会社の所有物となるものではない。
金塊を倉庫会社に預けたからといって、金塊の所有権が倉庫会社に移るわけではない(物理的な占有が移るだけで、法的な所有権は預け主の下にあるまま)というわけである。
このため、仮に「物品(モノ)」を預かっていた会社が破産してしまったとしても、その「物品(モノ)」は破産会社に属しない財産であることとなり、預け主は取り戻しを求めることができる(破産法62条)。
本事件で原告は、ビットコインは「物品(モノ)」であり、あくまでも自らが所有していたものであって、株式会社MTGOXに預けていたものにすぎないとの法的な考え方を主張して、破産法62条の取戻権に基づき引渡しを求めたのである。
■ビットコインの「有体性」を否定
これに対し本判決は、まず前提として、所有権の対象となる要件として、「有体物」であること(「有体性」)、すなわち、「液体、気体及び固体といった空間の一部を占めるもの」であることが必要とした。
そして、ビットコインは、
(1)「デジタル通貨(デジタル技術により創られたオルタナティブ通貨)」あるいは「暗号学的通貨」であるとされており、ビットコイン取引所の利用規約においても「インターネット上のコモディティ」とされていること
(2)その仕組みや技術は専らインターネット上のネットワークを利用したものであること
を理由に、ビットコインには空間の一部を占めるものという「有体性」がないとした。
■ビットコインの「排他的支配可能性」を否定
次に本判決は、所有権の対象となる要件として、「有体物」であること以外にも、「排他的に支配可能であること」(「排他的支配可能性」)が必要とした。
そして、ビットコインの仕組みにおいては、
(1)ビットコインネットワークに参加しようとする者は誰でも、インターネット上で公開されている電磁的記録であるブロックチェーンを、参加者各自のコンピューター等の端末に保有することができるのであって、ブロックチェーンに関するデータは多数の参加者が保有していること
(2)口座Aから口座Bへのビットコインの送付は、口座Aから口座Bに「送付されるビットコインを表象する電磁的記録」の送付により行われるのではなく、その実現には、送付の当事者以外の関与が必要であること
(3)特定の参加者が作成し、管理するビットコインアドレスにおけるビットコインの有高(残量)は、ブロックチェーン上に記録されている同アドレスと関係するビットコインの全取引を差引計算した結果算出される数量であり、ビットコインアドレスに、有高に相当するビットコイン自体を表象する電磁的記録は存在しないこと
−−を挙げ、ビットコインアドレスの秘密鍵の管理者が、自らのアドレスにおいて当該残量のビットコインを排他的に支配しているとは認められないとした。
■所有権の対象となる「物品(モノ)」ではないと位置付け
このように本判決は、
(1)ビットコインには「有体性」も「排他的支配可能性」も認められない
↓
(2)ビットコインは所有権の客体とならない
↓
(3)原告がビットコインについて所有権を有することはない
↓
(4)原告の管理するビットコインアドレスに保有するビットコインについて共有持分権を有することはないし、寄託物の所有権を前提とする寄託契約の成立も認められない
−−と論理を展開し、結論として、原告はビットコインについてその所有権を基礎とする取戻権を行使することはできないとした。本判決は、ビットコインを所有権の対象となる「物品(モノ)」ではないと位置付けているものと理解できよう。
今年5月25日成立した改正資金決済法においても、「仮想通貨」は「財産的価値」として定義されている(改正後2条5項1号・2号)。これも「仮想通貨」を「物品(モノ)」ではないと位置付けているものと理解できよう。
ビットコインなどの「仮想通貨」を、金塊などの「物品(モノ)」とは違うものと位置付けたことは、今後、「仮想通貨」をめぐる法解釈の様々な局面に影響を与えることとなろう。
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