私たちは、朝、目覚めると顔を洗い、歯を磨き、髪を整え、目的に応じた化粧や身なりを整えて、一日の生活をスタートさせている。また、歯を磨く、鼻をかむ、手を洗う、耳垢を取る、爪を切るなどは、幼いころから基本的な生活習慣や社会的なマナーとして、さらに健康を保持・増進するために、身に付けるように教育され、習慣化され培われた生活行動である。
しかし、加齢や障害みよってこれらの行動ができなくなったり、認知症のために忘れてしまうような状況が続くと、その人の生活行動の維持が困難となり、体の清潔が保持できず、感染症の危険性が高くなる。身体的な影響だけでなく、爽快感や満足感もすくなくなり、精神的安定の確保が困難となる。
また、朝起きると洗面し寝る前になると歯を磨くといった身だしなみの行動は、一日の生活時間の区きりをつける効果がある。この行動がなくなると生活のメリハリがなくなり、生活リズムの乱れ、さらに食欲、睡眠、排泄へ悪い影響を及ぼし、生活意欲の低下を引き起こすなど、さまざまな意味をもつ重要な生活行動である。
ここでは、「身だしなみ、化粧」の介護をすることによってもたらされる、こころとからだへの影響と効果について、利用者を取り巻く環境や、それぞれの利用者の特性における問題について学習する。
1、 環境因子
@ 物的環境
身だし波を整える行為では、その後の行動が、居室内だけで終始するものなのか、外出して目的地まで移動することが必要なものなのかを考え、移動することが必要なものかを考え、移動する場合はその手段を選択しなければならない。また、身だしなみを整えるときに使用する物品は、その人の状態に適し用具であるのか、どのような工夫をすることで、自立へ向けた支援になるのかなどについてアクセスメントする必要がある。
身だしなみや化粧をする際には、臥床状態ではなく、できれば座位の姿勢が望ましい。その場合、洗面所の広さや座ったとき物品が手の届く位置であるのか、また給水の方法は自立促進に向けた設備であるのかなど、環境を整備することが重要である。また、施設内にパーマをかけたい髪をカットできる設備の充実化を望まれる。特に、鏡を設置する効果は、自分のしている整容動作などや様子を客観的に捉えることができ、自分自身を観察できるよい機会となる。在宅の場合、住宅改修制度を利用する方法もある。
2、 人的環境
目、耳、鼻のケアや口腔ケアは、普段の生活支援では、直接皮膚、粘膜に接触したり、見ることができない部分の介護である。異常の早期発見の機会となることが多いため、観察を怠ってはならない。また、たむなくベッドがないように配慮しなければならない。
髪型や、髪留め、かんざしなどアクセサリーをつけることは、その人の印象を特徴づける大きな作用がある。“手入れがしやすい”、“手間がかからない”などの理由から髪を短くしたり、同じような髪型で整えられたり、あるいは“ケアの邪魔になる”、“利用者が口に入れる危険性がある”などの理由で髪留めやへアバンドなどのアクセサリーを身につけるチャンスを奪ってはならない。安全性を確保すると同時に、利用者の個性が引き出せるような動きかけが大切である。
3、 社会的環境
身だしなみの行動や化粧は、好感がもて爽快な印象を表出させるが、
歯肉炎や
舌苔のために、
口臭が生じると、自信の減退から人とのかかわりにためらいが生じ、消極的となる。これらのケアは、円滑で積極的な対人関係に影響することを新得ておく必要がある。また、普段の生活とは違う行事やイベントの施設は、身だしなみや化粧への行動を喚起しやすく、人々と交流する機会の確保を行うことが重要である。
施設や在宅に出向いて、理髪師がひげ剃りや散髪を利用者に奉仕したり、美容相談員が高齢者や障害のある人に簡単な化粧の方法を手ほどきし、実際に口紅をつけるなどのコスメディックセラピーを取り入れているレクエーションサークルがある。各職業の専門性を活かした活動を積極的に取り込める体制づくりの推進が重要である。
髪飾りや口紅あるいは歯磨き粉ひとつにしても、色や形、値段と用途の違いを意識しながら、自分で選び楽しむ体験をすることができ、自己決定による満足感が得られる。近隣の店舗の協力を得て施設内で買い物ができる場を設置したり、地域の店に出向いてショッピングをするなど、地域で暮らす人々とともにあること、地域の一員であるように自然に交流できる地域づくりが大切である。ただし、化粧品を購入したり、理容院や美容院を利用することは出費が伴うため、経済的な状況も貴重な要因であることに注意する。
2、個人因子
男性のひげは一日に0.3mm程度伸びる。そのため起床時に洗顔と一緒にケアをすることによって、爽快感をもたらし、一日の生活がスタートするにあたってメリハリを感じる行動である。
化粧は女性にとって表情や印象、年齢の若返りへの変化をつける効果があり、化粧品や道具を選ぶ楽しさ、女性らしさの演出、自分らしさの魅力をひきだすことの自己実現が可能となる。
小さなころから身につけていた洗面、髭剃り、歯磨きなど身だしなみの習慣は、その人の生活の中からつくり出され、自分の意思で一日の生活のスタートあるいは終わりのけじめをつけていた習慣であるが、その受け止めかたは、人それぞれに違う。たとえば、この行動をしないと自分の一日が始まらない。人前に出られないなど、必ず身だしなみを整えないと落ち着かない人もいれば、気にかけない人もいる。生活スタイルはそれぞれ違い、その人の価値観が活動に関与してくる。また、初めて口紅を買ってもらい自分で塗った日の思い出であったり、学生時代の終わりに長い髪を思いきり切って短くした日の出来事であったり、その人の人生と何らかのかかわりがあることを考慮する。