アフィリエイト広告を利用しています
ファン
検索
<< 2022年07月 >>
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
最新記事
写真ギャラリー
最新コメント
FIRST LOVE TWICE by トバ (04/14)
FIRST LOVE TWICE by せぼね (04/13)
△(三角)の月 by トバ (03/29)
△(三角)の月 by よし (03/29)
夢のつづき by トバ (03/28)
タグクラウド
カテゴリーアーカイブ
プロフィール
toba2016さんの画像
toba2016
安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。
プロフィール

2022年07月30日

田園


玉置浩二『CAFE JAPAN』三曲目、「田園」です。先行シングルで、玉置さんソロだけでなく安全地帯までも含めても最大のヒット曲です。あの「ワインレッドの心」すら凌ぐとは……いやまったくそんなことが起こるとは思っておらず、当時とても驚きました。オリコン最高二位だったそうで、一位ではなかった?じゃあ何が一位なのよ?調べてみると、どうもスピッツさんの「渚」のようです。知らんな……。でもスピッツさんは何枚かあったはず……と思ってラックを見てみますと、ああ、これか、『インディゴ地平線』の四曲目ですね。ありゃいい声だな、こんな曲初めて聴いたよ(笑)。いつだったか「チェリー」歌いたいからギター弾いてっていわれて買っただけなんで、ほかの曲は一回も聴いた記憶がありません。そんなわけで、当時人気全盛だったスピッツさんに週間売り上げで一歩及ばなかったようです(累計売上では「田園」がやや上まわります)。

さて曲はタムの細かい連打とシンセのリード、玉置さんのハミングで始まります。「ダッタカダッタカダッタカダッタカ……」アイアンメイデンか!というくらい攻めたリズムですが、玉置さんの声で雰囲気はむしろ柔らかく、それでいてひとを駆り立てるような不思議な感覚に襲われます。このソフトな急き立て感がこの時代にマッチしたのかもしれません。アコギのアルペシオが聴こえてきたかと思うと曲は急に「ダンダン!」とドラム、ギター、ベースが一気に入り「イッサーオーオーオオオー」「ウンバーアーアアアーアアアー」という謎の歌が高音コーラスとともに始まります。これがまた、魂の叫びとでもいうべきものすごい歌です。これで魅入られないほうが難しいでしょう。耳をわしづかみにされます。かつて「ワインレッドの心」でご婦人の心をとらえて離さなかったあの声が、今度は平成不況の中でもがく人々みんなの背中を押し、そして背中から入り込んだ手が冷え込んだハートを直接温めるような声となって帰って来てくれたのでした。

ベースがグイングイン!とうなり、歌が始まります。それにしてもこのベース、例によってクレジットがないんですが、ほんとに打ち込みなのか……当時まだMIDIを使っていたわたしなどが知らないやり方があったのかもしれません。「石コロけとばし……」と、いきなりリズムのとりづらい譜割!これがまた、ムリヤリことばを当てはめたのではなく、この後すべてが同じ譜割ですので、意図的であることがわかります。玉置さんの伝えたいメッセージは言葉でもあるけども、リズムでもあったのです。詞中「僕」「君」「あいつ」「あの娘」はいろいろなことをしています。この群像劇とでもいうべき描写はドラマ「コーチ」の面々がそれぞれバラバラに行っていたことを表現したようにも聴こえますが、これは玉置さんが「一番グチャグチャになっていたときのことをまとめた」(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)わけですから、もちろん「コーチ」の登場人物たちなどであるはずがありません。これは、多少ムリヤリな想像ではありますが、ぜんぶ玉置さん自身なのだと思います。あるいは、玉置さん、メンバー、スタッフをふくむチーム安全地帯みんなのことを、それぞれ明確なモデルがあったりなかったりはするでしょうけども、この四人の所作にまとめたものではないか、と思います。なにしろ「いちばんグチャグチャ」だったのは安全地帯の崩壊時とその後であるのは傍からみて明らかだからです。基本、困ってますよね。夕陽に泣いたりほおづえついたり……これは自分のこともチームのことも何もかもうまくいっていません。うまくいっていないことそのものを描くのではなく、早口でうまくいっていないときの人々の様子を速い譜割で一気に描くことで、背景にある超ダークでスーパーデンジャラスな状況はソフトに示唆することにとどめています。そうすることによって、玉置さんや安全地帯のことだけでなくて、広く誰にでも起こりうる辛いことと、それに困ってしまう私たちのことを思わせ、多くの人が共感できる曲になっているのでしょう。

かつて安全地帯が崩壊する中で、松井さんは多くのことばを玉置さんやメンバーに贈り続け、ときに励まし、鼓舞し、ときに慰め、癒していました。その思いは当時実らず、安全地帯は崩壊し、玉置さんは壊れてしまったのです。ですが、玉置さんは須藤さんと出逢い、金子さんと再会し、安藤さんと出逢い、少しずつ輝きを取り戻していきます。その中で放たれた「生きていくんだ それでいいんだ」というこの曲は、「五郎ちゃん、俺やっとわかったよ!」という玉置さんから松井さんへの、五年ごしくらいのアンサーソングであるように私には思えるのです。

スネアが重く高速で連打されベースがブインブイン高鳴り、歌はBメロ、ますます早口でおれにはなにもできない……という無念な内容が歌われます。できないことをやろうとしていた日々、できないことだから当然できません。できないことを嘆くのではなく、「やれることだけ」で頑張ればいい……これは多くの人が中学校とか高校で気づく処世法というか、ある意味開き直りなんですけど、玉置さんは天才であったがゆえにこのときまで気がつかなかったのかもしれません。少なくとも、音楽の世界ではぜんぜん限界なんて見えなかったに違いなかったことでしょう。だからこそデビュー前後には自殺を考えるほど思い詰めてしまい、安全地帯の崩壊時にはとんでもなく大きなジレンマを感じていたわけなのです。もっとできるはずなのに!実際できるんだと思います。残念なことに、そのとき日本社会はその「できること」を支えるだけの余裕をなくしていました。安全地帯はどんどん進化してゆき、『太陽』という大傑作を作り上げましたが、最悪のタイミングでリリースされたそれは、結果として安全地帯をどん底に叩き落してしまいます。バブルの崩壊も国際情勢の不安定さもあったのですが、なにより当時の人々は(わたくし含め)その進化についていけなかったのです。挫折は大きく、玉置さんは再起不能かと思える暗闇に落ちてゆきました。

きらびやかなシンセがサビをなぞります。「生きてゆくんだ それでいいんだ」……ビルに飲み込まれているのに街にははじかれている……どうしろっていうんだよ!いいんです、愛があれば!さしのべられた手があって、それを固く握っていればいいんです。街は実体のないもの、「いる」のは、僕、みんなであって街ではありません。僕たちはハイデガーのいうin-der-Welt-Sein世界内存在、すなわち「ここ」にあって「ここ」を自らと不可分のものとしてそれを了解しつつ「ある」存在、それが「いる」ということなのだ、だから僕もみんなも「いる」んだ、君はどこにでも行けるけど「ここ」からはどこにも行けず「ここ」に「いる」のだ……すみません、何言っているのかわからなくなりました(久しぶりに使ったな、このネタ)。

そういやこの頃は『エヴァンゲリオン』の影響か、ちょっとした哲学ブームでした。キルケゴールとかショーペンハウアー、ニーチェとか、その手の、いま思えばたんなる不安神経症なんじゃないのって感じの暗い哲学にたまーにスポットが当たることがあるのですが、このときは大不況の勢いを駆ってか、とくに大きいブームだったように思われます。親世代がかつて喫茶店で一杯のコーヒーで何時間もアルベール・カミュとかサルトルを知った顔して語っていたのと同じ調子で、わたしたち世代はファミレスで呑み放題のドリンクバーを駆使して生兵法のキルケゴールやショーペンハウアーを語っていたのでした。進歩ねえなあ。だってカッコつけてるだけで基本興味ないし(笑)。「DAYONE〜」とか言ってる若者たち(いまでいう陽キャ)が席巻している街の片隅にそういう陰キャもいたというだけの話なんですが、それでも「田園」のヒットがあった時代の証人として、ここに当時の若者の姿を書き残しておこうと思います。

バスドラを連打し、軽快に曲は進みます。このドラム、異様にノリがいいんですけども玉置さんが叩いているんですよね……凄いな、これはわたくし叩けません。この勢いを維持することができません。ギターもベースも歌も自分でそのノリを出せるからこその、まさに力技です。聴き惚れるというか、肩や足が動きますね、このノリを共有したい!全編にわたってこの勢いのまま突っ走り切っているのです。ライブだとどうしても他の人に演奏してもらわないといけませんから、CD以上の一体感を出すことはできないでしょう。安全地帯ならあるいは……くらいで、ノリの一体感という意味では基本的にCDがベスト音源ということになります。

さて歌は二番、「僕」「君」「あいつ」「あの娘」がまたまたもがいています。平成不況の中苦しむ人々が目に見えるようです。実はそれがミュージカルファーマーズと安全地帯の皆さんのことだったとしても、そのように聴こえますし、それでいいのです。誰もがもっていた苦しみ、悲しみ、戸惑い、そういったものを想起させて、わたしたちはショーペンハウアーのいう共苦Mitleidenの境地に至る……ああいかんいかん、素人のダラしゃべりはいい加減にせねば(笑)。

Bメロ、玉置さんは苦しい胸中をまたまた早口で一気に表現します。何も奪わない、誰も傷つけないというのは何もしないということかもしれない、わたしたちは結局奪い合いをしているのにすぎないのかもしれない、そんなことしているうちに結局幸せも逃してしまって、何をしているんだ……と悩むかもしれない、でも、それはいわゆる現代病であって、急がずにいられない、あせらずにいられない私たちが被害妄想に陥っているだけなんじゃないのか?急がなくていいんだあせらなくていいんだ、だって僕も君も、みんなここにいるんだから。愛は消えはしない、だから人を傷つけるとか奪い合うとかはもうよして、自分のできることをこつこつと頑張っていこうよ……これは泣けます。あの時代を生きた人だから泣けるのかもしれません。ですが、これは令和の現代でも通じる、生きることの美しさなのではないでしょうか……なにせ早口で叩き込まれますから、あとからわかるんですけども……。

曲は最後のサビ、生きていくだけでいいんだ、生きているだけで他人を傷つけているなんてウソだ、他人を蹴落としているなんてウソだ、大波が来ても大風が来ても、よく目を見開いて周りを見るんだ、ほら僕も君もみんなもいるだろう?愛を信じていいんだよ!僕たちは身近な愛で結ばれ、そして身近な愛のために生きるんだ、ほかに何ができるというのさ……何でもできる気になっていたがために陥った闇から復活した玉置さんは、とうとうこの真理にたどり着き、力強く歌います。そして一番のサビを繰り返し、イントロとほぼ同じアウトロを奏で、そして唐突に終わります。……これはヒットせざるをえません。約四半世紀も前の曲をこうして振り返り、当時の世相を思いだし、玉置浩二という歌手がこの時代にいたことの奇蹟を噛みしめる、そんな曲です。

須藤さんが一般論として「ほとんど不可能」という復活劇を成し遂げた玉置さんも、この曲に関して「まさにやりたかったこと、歌いかたったこと」が大ヒットして「うれしかった、うれしかった」と語っています(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)。いやいや!あの時代にいてくれてありがとうございます、あの時代にこの曲を送り出してくれてありがとうございます、あなたがいることは、希望そのものなのです、願わくば、この希望がいつでも神の祝福とともにありますように……という感謝と祈りを捧げたくなるほどの見事な曲です。

ショーペンハウアーと同時代にヘーゲルという哲学者がいます。ヘーゲルは、簡単にいえば歴史のロマンチストです。ショーペンハウアーが「駄法螺」(西尾幹二訳)と呼ぶそのヘーゲルはどこまでも歴史の必然性を信じて、いつか最高のハッピーエンドが来ると説くのです。当然、90年代のダークでシリアスぶりたい不安神経症気味の若者に人気があったわけがないのですが(笑)、玉置さんの見事な復活劇を目撃したわたしは、ちょ、ちょっとだけヘーゲルの本を読んであげてもいいんだからね!べ、別に興味があるわけじゃないんだからね!という気分になります(笑)。

玉置浩二 / CAFE JAPAN(完全生産限定盤/Blu-specCD2) [CD]

価格:2,088円
(2022/7/25 16:47時点)
感想(0件)



Listen on Apple Music
posted by toba2016 at 15:45| Comment(10) | TrackBack(0) | CAFE JAPAN

2022年07月24日

CAFE JAPAN


玉置浩二『CAFE JAPAN』二曲目、「CAFE JAPAN」です。シングル曲ではありませんが、タイトルナンバーですね。

クレジットをみてみますと打ち込みが藤井さん、キーボードが安藤さんのほかはパーカッション、ドラム、アコギにエレキは玉置さん……カズ―?カズ―という楽器を玉置さんが演奏しています。音を聴く限り、最後のサビあたりでアオリに入っている「ビイイ〜」という笛の音がそれでしょう。また、ベースのクレジットがないですね……書き忘れでなければ打ち込みなんでしょうけど、なんか打ち込みって感じのしないベースです(打ち込みと生楽器の区別がつかないポンコツ耳)。

ベースがポーン……ギターがポロンポロン……その裏でシャシャシャシャ……とハイハットをハーフオープンで細かくたたくような音、エフェクトシンバルがカシャン!と響き、「ドゥンドゥーン……ドゥン」玉置さんのスキャットが始まります。「ヘイヘーイ」と声を重ねて、その二声が絡まりながらひとつのメロディーを紡いでいきます。バスドラがドスドスとはじまり期待感を徐々に高めたところで、スネアが「パアン!」と鳴り、エイトビートのドラミングとブンブン唸るベースが始まってボーカルも「パラパ−ラパーラパッパー」と無意味な声リフ、曲はいきなり最高潮に達します。なんだこりゃ、1950年代のアメリカか!なんという懐かしい感じと楽しげな雰囲気!玉置さんからこのような世界が提供されるとは、ほんの数年前のわたくしは予想すらしていませんでした。もちろん安全地帯時代からこのような曲がなかったわけでありませんでしたし、あのぶっ飛んだ『All I Do』、そして前作『LOVE SONG BLUE』を知っていますからまったく準備ができていなかったわけではありませんが、それにしても一皮むけたようなぶっ飛びぶりに少なからず驚きました。これが「碧い瞳のエリス」とか「Friend」とかのイメージしかなかった人が聴いたらそれこそオーディオの前でひっくり返るレベルの変貌ぶりでしょう。

楽器隊の音はズシズシと重く、それでいて華やかで、不思議な疾走感があります。テクニカルでは全然ありません。無骨です。安全地帯感は完全に払拭されています。玉置さんがメインボーカルもコーラスも掛け声もみんな、これライブでどうやってやるのってくらいモロに玉置さんの声でアオリのコーラスを入れます。自分の声で自分の声を盛り上げあうという多重録音の機能を活かしたやりたい放題です。ディズニーランドでいえばミッキーもドナルドもプルートも全部自分が入っているという無茶苦茶ぶりです。すみませんディズニーランド行ったことないのでよく知りませんけど(笑)。

さて歌詞のある歌が始まります。ジャーン!と全音符で伸ばした伴奏に、「〜しょう?」と、歌詞は確かにあるのですが……いまひとつ意味が分かりません……夢のつづきを話すことで闇を明るくする?ささやかな暮らしと未来をつなぐ?頑張って考えてみますと、面白いこともない日常に、ぱあっと光がさすような明るい夢の話、将来のビジョンを語るような前向きな会合、パーティーを開こう、という趣向なのでしょう。

スネアの連打が響き、ベースがブンブンいって有無を言わせぬ展開で曲が進みます。「なじみの顔ぶれ」と「ひいきのみなさん」って同じような意味なんじゃないかと思いますが……そんなことを考える暇もなく「星でも見ましょう」!って声も気分も高揚させてきます。ああそりゃ楽しいじゃん!

「お茶でもいれましょうか」ってカフェなら当たり前……ってここで気づくのです。こ、ここはカフェではない!これは傷ついた者たちが集い心を癒す場所……それを玉置さんと須藤さんがカフェになぞらえたのだ……!だからわざわざ「お茶でもいれましょうか」なのでしょう。

『幸せになるために生まれてきたんだから』にはアルバム『CAFE JAPAN』のコンセプトを玉置さんが語った箇所があります。こんな貴重な話を!志田さんあなた最高!歌詞カードに掲載されたいろいろな格好の人(ぜんぶ玉置さん)はカフェ・ジャパンのオーナーだったりマネージャーだったりお客だったりするんです。くわしくは本を読んでほしいのでここからはわたくしの推測が主になりますが……このカフェ・ジャパンとは人生に迷って苦しんで倒れた玉置さん本人がたどり着いた場所、つまり旭川なんですが、そこで玉置さんは一日中空を見て、旧友と語らって、傷ついた心を回復させてゆきます。そしてこわれた心のまま、欠けた心のまま作られていった大傑作が『カリント工場の煙突の上に』なわけですが、玉置さんはそのときのことを振り返ってこの曲「CAFE JAPAN」、このアルバム『CAFE JAPAN』をお作りになったのだと思います。事実、「田園」はいちばんグチャグチャになっていたときのことをそのまま歌にしたもの、と玉置さんはおっしゃっていますので、この推測はほぼ間違っていないでしょう。ですからカフェ・ジャパンとは玉置さんにとっては旭川の、家族・仲間との集う場のことを指すのでしょう。仮面をとって虹色の空を眺める男(玉置さん)は、新しい人生に踏み出す勇気を得てカフェ・ジャパンを後にします。そして作られたアルバムが『LOVE SONG BLUE』、そしてこの『CAFE JAPAN』、そして次作の『JUNK LAND』なのだ、というのがわたくしの現時点での考えです。ですから、この三枚のアルバムは、安全地帯で無理をしたことの音楽的な「落とし前」なのであり、わたしたちはその復活劇を音楽を通して垣間見て、魅せられてきたのだろう……と。む、むう、な、泣けるじゃないですか!(勝手に妄想して勝手に泣く芸風)

曲はドラムだけを残してブレイク、ギターともベースともつかぬナチュラルハーモニクスのフレーズを入れてすぐさま二番に入ります。

大きな(いちょうの)樹の下で君と出逢っていたなら……きっと東京で活動していたおれの運命も少しは違っていたのかもしれない……「つつましい言葉」やあせない「想い出」を共有しているんだから、いろんな意思決定のタイミングや方向が少しずつ変わっていて、運命はもしかして大きく違っていたのかもしれない……

なんだか玉置さんの辿ってきた足跡を悔やむとも肯定するともとれる歌詞なんですが、「いいんだい」「いいんだい」と全体の調子としては肯定に傾いてゆきます。それはそうです、事実そうなったのですから。

ちなみにこのBメロですが、わたくし初聴時から頭にこびりついて離れませんでした。なんというか、リズムと、言葉選びと描かれる世界、歌唱がすべてドンピシャで、新生玉置浩二節の完成系ともいえる見事な出来です。これはほかにどんな歌手がカバーしてもこの魅力は出せないでしょう。事実この時期の玉置さんの歌を誰もカバーしてません。みなさん自分の力量ってものを自覚しているのでしょう。これは玉置さん本人にしか歌えない!と聴いた瞬間にわかります。しかも演奏もほとんど玉置さんですから、もう一体感がハンパじゃありません。ノリノリです。

そして曲は間奏というか、不思議なアナウンスの箇所に入ります。ベースがポワーンと全音符、控えめな音量ながら手数の多いドラム、キラキラキラ……とシンセ、玉置さんの高音コーラスをバックに、玉置さんが「カフェジャパン……カフェジャパン……駆け込み乗車は危険ですけどご遠慮なさらずにどうぞ、ここはカフェジャパン」と、どこかから怒られそうなアナウンスを入れます。カフェジャパンは駅であって、ここで降りて傷を癒す人もいれば、癒し終わって「ご乗車」する人もいるのでしょう、中には「駆け込み乗車」するような人もいますが、この電車は傷の癒えた人を送り出すのがその使命ですから、駆け込み乗車させてでも送り出したい、そんなのこっちが対応してやるから心配せず飛び込んで来い!というフトコロの深さを感じさせます。

そしてドラムとボーカルだけでサビが歌われます。「恋して泣く」「しあわせ」がわからなくて悩む、「お金」が心配になる、「平和」の役に立てるか悩む……と、玉置さん自身が安全地帯時代に散々悩まされたヘビーな課題たちがここで提示されます。

そしてカズ―が響き、フル構成の演奏に合わせて最後のサビが始まります。恋がなんだ、お金がなんだ、いろいろあるだろうけども、それは置いといて、汗、涙、ともだち、笑い、そうした目の前にあるたしかなもののために音楽をやればいい、カフェがお茶を提供するように自然に、音楽を生めばいい、そうして愛されていればいいんだい……これは悟りです。菩提樹の下で仏陀が悟りを得て感じた法悦の心境に似た、音楽をしていく喜び、生きていく喜びを、玉置さんは知ったのでしょう。平和とかお金とか、そういう方面の課題を解決するという方面に真実はない……苦しい苦しい旅の末に、玉置さんはその心境に至ったのではないかとわたくし愚考いたします。

ボーカルだけの「いつでもそばにミュージック〜イエイ」で曲は唐突に終わり、次曲「田園」が間髪入れずにスタートします。これは、わたしたちに教えを説く気がないのかもしれません(笑)。釈迦の場合は悟りのあと水辺でスジャータが乳粥を布施して、梵天が釈迦に教えを説くように諭します、そんな穏やかな時間があったのだろうと思われますけども、玉置さんはそんな様子は全然見せません。これは先が読めません。ぜひ注視してまいりたいと思います。

玉置浩二 / CAFE JAPAN(完全生産限定盤/Blu-specCD2) [CD]

価格:2,088円
(2022/7/24 08:51時点)
感想(0件)



Listen on Apple Music
posted by toba2016 at 08:50| Comment(0) | TrackBack(0) | CAFE JAPAN

2022年07月16日

ファミリー


玉置浩二『CAFE JAPAN』一曲目、「ファミリー」です。

この三年前、玉置さんは「家族」という超ウルトラヘビー級チャンピオンな曲を放っています。それが心の弱っているときにうっかり聴くと寝込みかねないハードパンチを連続でぶち込んでくるものですから、この曲も(家族=ファミリー)ちょっと身構えて聴き始めますと……

なにやらカフェかバーでちょっと控えめに話している人たちが演奏が始まるのを待つような雰囲気、そしてはじまるピアノによるメインテーマ、そして絡められてゆくオカリナのような音……そんなクレジットはありませんから、例によってわたくしの耳がポンコツなだけでこれはギターなのでしょう。パーカッションがストト……と鳴りつつ「Thank you Everybody……KOJI! TAMAKI!」とアナウンスする玉置さんの声、これはもうショーの始まりです!アルバム『ソルトモデラートショー』やTV番組「玉置浩二ショー」で後年鮮明になりますが、玉置さんはこういうショー仕立ての演出を好む方のようで、とてもハマっています。

クレジットに「フランキー堺に捧ぐ」とありますので、これは96年夏にお亡くなりになったフランキー堺さんに、おそらくはもう曲が出来上がってから訃報に接してクレジットを入れたのだと思います。わたくしフランキー堺さんのことはよく存じ上げないのですが、こんな感じのショーをおやりになっていて、それをTVで観るのが玉置さんはお好きだった、そしてフランキー堺さんのことを思い浮かべながらこの曲を作ってレコーディングしたら、リリース直前期、もう歌詞カードの最終編集くらいしかできない時期になってお亡くなりになったから……なのかもしれません。

つまり、これは「家族」の世界とは全然違います!(遅い)

この曲……ほんとうに最初からフランキー堺さんみたいなショーマンのことを描いたんじゃないのって感じがします。夜汽車に乗って津々浦々でショーを行ってきたけども、帰るところは家族のところ……、いや、家族みんなで旅をしている一座みたいな感覚すらありますね。家に帰ったらゆっくり話そう、いろいろあったツアー中のことも、出会った人たちとのことも、満天の星のことも。この時期の玉置さんはすっかり調子を回復しており精力的にツアーを行っていましたから、一緒にツアーをしている矢萩さんや田中さん六土さんはもちろん、カルロスさんたち、そして安藤さんのことを「ファミリー」と認識するようになったんじゃないか、と思うのです。さあみんなお疲れさま、そろそろ家(東京)に帰ろうか……そして東京で打ち上げやって、ゆっくりいろいろ話そうよ!「家族」のときは自分を生み育ててくれた血族だけがこの世の頼りって感じでしたが、この「ファミリー」ではすっかり一緒に仕事をしてゆく仲間を心の支えとして生きて行ける状態を取り戻しているとわかります。

ホーンの音が鳴って曲を盛り上げていきますが。例によってクレジットがありません。こんなときはシンセで音を出していると考えるほうが普通なんですが……この曲は藤井さんもマニピュレーターに入ってないし……安藤さんがキーボードでやったんですかねえ……ちょっと謎です。わたくし鍵盤あまり弾きませんもので、ペダル使って抑揚をつけたのか、あとからミックスでどうにかしたのか……なんともわかりません。

さて曲は「ふたりの愛のこととか!」と非常に意味深なセリフで間奏に入ります。間奏は玉置さんのソロですね。歌詞カードに大きく写真の乗っているフェンダーのストラト、エリック・クラプトンモデル、これのフロントを使ったトーンだと思います。わたくしこの写真を見て、そしてこの音を聴いてクラプトンモデルを買いに行ったことは言うまでもありません(笑)。18万円もしたので見ただけで帰ってきましたが。なにせつい一年半前に『LOVE SONG BLUE』のために激寒の年末年始を過ごしたわたくしにそんな金があるわけないのでした。ふ、ふん!あんな電池の必要なオモチャギターなんかほしいもんか!(とれないブドウは酸っぱい理論)。ちなみに、いまでも持ってません。クラプトンモデル。ちょっとムリしてでも買っておけばよかった!結局違うハイエンドメーカーのストラトで同じ配色のギターを買ったのですが、それはそれでとても満足度が高いギターで、いまでも秘蔵のギターとしてここ一番に使っている一方で、どうしても玉置さんのあれじゃない、という気持ちがずっと引っかかって残っているのです。

そして「遠慮なくやろう これからは」とまた歌が始まるのです。これは、「ファミリー」のみんなに向けた言葉であるいっぽうで、自分に向けた言葉でもあるんじゃないでしょうか。なにせ安全地帯の頃はバンド運営にわがまま言い放題の玉置さんでしたが、音楽的には不本意な曲を作り続けてとうとう倒れてしまったのです。これからは、自分の好きな音楽を、自分の好きなようにやるんだ!須藤さんと金子さんがくれたもう一回の音楽人生、心ゆくまま思いのままにやらないと罰が当たるわ!その途中でいろんな出逢いも別れもあるだろうけども、それも含めてみんな精一杯楽しむんだ、それでいいんだ!とふっきれた玉置さん自身の宣言であるように聴こえたのです。ですからわたくし、一曲目のこの時点で、玉置さんの完全復活を確信したのでした。そう、あれだけの力作であった『LOVE SONG BLUE』ですら、わたくしにはまだひっかるものがあったのです。第15ラウンドまで倒れずにリングに立っていたボクサーを見るような気分で、明らかに実力は十分なのにどこかKOパンチを撃つのを怖がっているんじゃないのか……?かつては後先など一切考えずにバシバシと打ちまくっていたKOパンチでわたしたちを浅いラウンドで幾度も感動と涙のマットに沈めてきた超ハードパンチャーなのに、ある時とんだカウンターをくらってしまったばっかりにカムバックに時間を要したあげくに強打がすっかりなりを潜めた……ような感覚を味わっていたのです。「ファミリー」の曲名から「家族」を思いだしてビビっていたわたくし、もう大丈夫だ、「ありがとう さよならって」の歌い回しが「ふたりの愛のこととか」と自信たっぷりに変わっているところ、「明日からもLOVE」の凄まじい歌いっぷりを聴いて、そう確信したのでした。

もちろんこの曲はCAFE JAPANショーの序曲、まだまだ第一ラウンドにすぎません。次曲以降、怒涛のハードパンチがバシバシ決まりますので、わたくしのノックアウトされっぷりをどうぞお楽しみに!

玉置浩二 / CAFE JAPAN(完全生産限定盤/Blu-specCD2) [CD]

価格:2,088円
(2022/7/16 10:28時点)
感想(0件)



Listen on Apple Music
posted by toba2016 at 10:25| Comment(4) | TrackBack(0) | CAFE JAPAN

2022年07月10日

『CAFE JAPAN』


玉置浩二5thアルバム、『CAFE JAPAN』です。40万枚以上を売り上げた玉置浩二ソロ最大のヒット作となっています。

40万枚という数は、『安全地帯VI 月に濡れたふたり』『安全地帯BEST I LOVE YOUからはじめよう』クラスの数字であり、『安全地帯V』に迫るものです。そんな安全地帯全盛期以来の『CAFE JAPAN』がいかに大ヒット作であったか、想像がつこうというものです。

前作『LOVE SONG BLUE』は寂しい年末に寒い部屋で聴いたあげくに、音楽の変化についていけず二回目以降の聴き込みを必要としたわけですが、このアルバムは初聴時にすぐ「これは名盤だ」とわかりました。どこかでもらったCDウォークマンを使って飛行機の中で聴いたのですが、札幌千歳空港に着陸するころに聴き終わり(いまはわかりませんが、当時は飛行機の中でCDを聴いてよかったのか、逆に当時はダメでカセットに録音したものを聴いたのか……はっきり覚えていません)、これは久々の一発お気に入りだ!と興奮気味に空港内を歩き、市内への電車に乗り換えたところでもう一度聴こうとしたら涙の電池切れ!悶々としながら実家最寄り駅までほぼ立ちっぱなしの帰省ロード!フッいつだってJRエアポートは混みすぎだぜ(ギュウ)……。

珍しいことに95年は玉置さんのアルバム発表がなく(ライブアルバム『T』はあった)、玉置さんどうなってるのかな?と少し心配になっていたタイミングでもあります。わたしの知る限り、安全地帯も玉置さんソロも新作アルバムを出さなかった年というのはこれまで89年だけでしたので、さみしい一年でした。その間玉置さんはといえば、コンサートはもちろん、俳優業を頑張っていらしたようで、まったく音沙汰がなかったわけではなかったのですが、わたくしなにしろ当時からあまりドラマに興味がなく、足利義昭も見ませんでしたし、『コーチ』も何回か偶然観たに過ぎませんでした。いま思えば意地でも観るべきだった……。

ですから、「STAR」もいっぺん聴いたかどうかですし、「田園」の大ヒットも知ってはいましたがよその世界のことでした。ある夜中、筑紫哲也のニュース番組のエンディング「メロディー」がとつぜん部屋に流れました。クレジットを確認するまでもなく、それは玉置さんの曲でした。こ!これは!『カリント工場の煙突の上に』の世界だ!「田園」で快進撃している時期に、玉置さんはあの辛かった『カリント工場』の時代をもう一度振り返ったのです。

おそらく同じ時期にNHKで放映された『玉置浩二37歳のメロディー』で、この当時の玉置さんの状況を垣間見ることができました。お父さんと稚内まで歩いたこと、石川鷹彦さんとアコースティックツアーをやったこと、「元気な町」でお兄さんがドラムを叩き、仲間たちとステージに立ったこと……え!石川鷹彦?千春とか拓郎のギター弾いてる?それはまた……ずいぶん上世代の人と一緒にやるんだなあ……と驚いたものです。
志田さんの『幸せになるために生まれてきたんだから』は当時まだありませんでしたし、インターネット時代も始まったばかりでしたから、ほとんどのことをその番組で初めて知りました。2000年代以降とそれ以前とでは情報流通の絶対量が全然違います。その情報を知りたいか知りたくないか、知ったほうが豊かな音楽ライフが送れるのか送れなくなるのかはともかく、当時はアルバム自体が語ること以外の情報はほんとに少なかったのです。「安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ」なんて一曲ずつぜんぶ語ろうとしちゃうあげくに公開しようなんてするバカ(あちき)も当時いませんでしたし。

そんなわけで、前情報ほとんどなしに空の上で聴いた大ヒットアルバム『CAFE JAPAN』、一曲ずつ短いご紹介をいたします。

1.「ファミリー」カフェで行われているミニコンサートのような雰囲気で奏でられるジャズ的ナンバーです。
2.「CAFE JAPAN」前曲から一転、ズシズシと低音が響くロックナンバーです。
3.「田園」前曲に続くズシズシロック、ドラマ『コーチ』のテーマでほぼミリオンの大ヒットソングです。
4.「ヘイ!ヘイ!」音のすき間が効果的なリズムをもつロックナンバーです。
5.「STAR」一番最初の先行シングルで、東京電力のCMソングでした。アコギのバラードです。
6.「SPECIAL」前々曲と並ぶノリのよいロックナンバーです。お祭りに行きたくなります。
7.「フラッグ」アコースティックなロックです。工場労働者の日々を思わせます。
8.「Honeybee」このアルバム随一のエロティック・ロックです。『JUNK LAND』先取りの佳曲でしょう。
9.「愛を伝えて」アコギ主体のバラードです。私事ですがわたくしこれが本アルバム中一番好きです。
10.「あの時代に…」青春を振り返る悶絶ものの切ない歌詞とメロディーをもつバラードです。
11.「メロディー」筑紫哲也NEWS23エンディングのバラードで、玉置ソロで三本の指に入る有名曲でしょう。

一流ミュージシャンを多数起用した『LOVE SONG BLUE』から一転、このアルバムは『カリント工場の煙突の上に』のようにほとんどの演奏を玉置さん本人が行っています。プログラミングやキーボードに安藤さん藤井さんを起用したほかはギターもドラムもほとんどです。ただ一曲、最後の「メロディー」は田中さん六土さん矢萩さんが参加されていて、安全地帯復活の兆しを感じられました。わたくし呑気で、武沢さんが参加されてない理由など思いもよりませんでしたが……いずれ安全地帯は復活すると信じることができました。実際にはこれから五年ほど後になったわけですが……それでも、信じられたのです。

歌詞は須藤さんと玉置さんで、須藤さんの力にすっかりおそれいっていたわたくし、もちろん気分はウェルカム!こうして、秋の気配が濃くなってきた九月に発売された玉置さんの一年半ぶりのニューアルバムは、わたくしにとってひどく苦しかった90年代後半〜2000年ころを明るく生きてゆく勇気を与えてくれたのです。その当時はもちろんそんな予感すらありませんでしたが、「田園」や「フラッグ」はこれからつらい時代を生きてゆかなければならなかったひとりの氷河期世代の若者(わたくし)を長く救う歌になったのでした。

では次回以降、一曲ずつ語ってまいります!

玉置浩二 / CAFE JAPAN(完全生産限定盤/Blu-specCD2) [CD]

価格:2,088円
(2022/7/10 13:21時点)
感想(0件)



Listen on Apple Music

2022年07月02日

星になりたい


玉置浩二『LOVE SONG BLUE』十曲目、「星になりたい」です。

玉置さんのガットギターがつまびかれ、エレピがメインテーマを柔らかく奏でる裏で、玉置ソロ史上最高と思われる美麗なストリングスが入ってきます。Hiroyuki Yamaguchi……N響コンサートマスターの山口さんでしょうかね?どうやって録音したんでしょう、いくら山口さんといえどひとりではこの音は出せませんので、クレジットされていないプレイヤーがたくさんいるか、根性で重ね録りしたか、あるいはBON JOVIとかVAN HALENみたいにチーム名として自分の名前を使っていたか……このクレジットはちょっと謎が残ります。

ともあれ、このガットギター+ストリングスという編成は『あこがれ』『カリント工場の煙突の上に』を思わせるものであって、この後も玉置さんソロの折々に泣かせるバラードを聴かせてくれるナイスコンビネーションです。

そしてこの曲は、安全地帯を復活させるきっかけとなった涙のエピソードある曲でもあるのです。玉置さんが安全地帯をやりたくなったときにいつも最初に電話がかかってくる田中さんのところに贈られてきたデモテープ、その中に入っていたこの曲を車の中で聴いた田中さんが、玉置さんソロのコンサートに参加することを決意したことが、のちに安全地帯を復活させる第一歩となったのです(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)。もちろんこれは結果としてそうなったということで、玉置さんに安全地帯を復活させたいという明確な希望があったかどうかはわかりません。でもファンとしてはそうであってほしいと思わせるエピソードです。ギランがまだ喋っているのにギターを弾き始めるとか、ギランの奥さんが「ブラックモアにステージからバケツで水をかけられた」と苦情を言ったとかいう不仲エピソードがすでに芸風になっているようなバンドならともかく、たいていの場合バンドのファンというのは、バンドが末永く仲良く活動していてくれること、解散しても固い絆によってまた復活してくれることを願うものです。

さて、小節の頭にジャンとコード弾きするエレピのほかはガットギターのみをバックに玉置さんが語りかけるように歌います。「約束だったよね」と「約束してたよね」と。普通に聴けばちょっと仲がヤバくなった恋人同士が昔の話を思いだして絆を確かめあう歌です。ですが、田中さんの心をゆさぶってメンバーに入れてしまうんだからとんでもない威力をもっています。きっと、約束だったのでしょう。言葉はシンプル、だけども意味は莫大、これは長く苦楽を共にした者同士でなければ到底わからないものです。

そして少しずつ少しずつ、ストリングスの音が織り込まれて、Bメロ?サビ?に入ってゆきます。いつ「だっ」てどこ「だっ」てふたり「だっ」たよね……抱き「あっ」て抱き「あっ」てね「むっ」たよね……と、促音でリズムを取りつつその意味で泣かせにくるという高度なテクニックを駆使しています。もちろん歌詞ってみんなそうであるべきなんですが、物語を描くことに夢中になりすぎてこういう基本をスコッと無視している歌が当時の街には溢れすぎていましたし、今でも溢れています。「君の名前を呼びすぎ問題」です。「J-POPは工業製品」は実に言い得て妙です。そんな粗製乱造の量産ポップスの海にあって、職人による手作りの伝統工芸品のような輝きを放つ玉置さんの歌は、不景気不景気と大騒ぎしながらも現代に比べればまだまだ元気だったギラギラの時代の中で、次の「田園」の大ヒットまでの雌伏のときを過ごしていたのでした。

そして間奏、玉置さんがガットギターでソロを弾きます。このギターソロはぜひ音の強弱に注目してお聴きください!おそらく奏法とかあまり意識せずに指が動くまま、歌うように強弱緩急を表現したのでしょう。エレキギターよりも生々しく、精神の状態、その波動を表すもの凄いソロです。そして大きくストリングスが混ぜられてゆき、曲は最後の……いや、演奏時間でいえばまだ半ばですね。でもここでクライマックスに向かって一直線という感覚が強く感じられます。

僕は何ひとつ変われなかったけども、僕の周りが、世界が、何もかも変わってゆく、その背景・文脈の変化によって僕もまた違った意味をもつんだ、僕自身は何ひとつ変わってないんだけどね……

70年代の本格派ロックを演奏していた安全地帯は、80年代に路線変更、都会的なポップ・ロックで一世を風靡したものの我慢ならなくなってロック志向に回帰したところでバブルが崩壊し、世の中に思い切り翻弄されてしまいました。玉置さんも傷つき、倒れ、静養を経てやっと復活、音楽も激変したように私たちには思われました。たしかにCDとしてリリースされた音楽の音像はかなり変わっていましたし、この後も変わり続けているのです。ですが、田中さんにはわかったのでしょう。「浩二は変わっていないな」「約束してたよな」って。

ポール・ラングランが1965年に提唱した「生涯教育」(現代の生涯学習)には二つの意義がありました。ひとつは社会の変化に対応するために学ぶことです。そしてもう一つは、学ぶことによって本来の自分を発見し、磨いてゆくことだったのです。まるで岩の中に埋もれていた彫像を、一つひとつノミを入れて彫り出してゆくような、気の遠くなる作業です。玉置さんの中にあった彫像はその全体像を顕わしていませんでしたが、社会の変化と自分自身の音楽を作ってゆく過程によって、少しずつ少しずつ岩が削り取られ、その全貌が見えてきます。田中さんからすれば、まだ見たことないけどその彫像、玉置さんそのもの、はよく知っているのですから、変わっていない、これが浩二の音楽だ、とおわかりになったのだとわたくし愚考いたします。この時以降、もちろん現在この瞬間にだって玉置さんの彫塑作業、陶冶は続いているのですから、その過程を現代に生きるわたしたちはリアルタイムで観ることができる、もとい聴くことができるという僥倖に恵まれたといわなくてはなりません。

「君だけの星になるって」

その日はきっと来ないんです。来てしまったら、終わってしまうから。だから、「約束した」という事実だけが輝いて、わたしたちの将来に希望を与えます。わたしたちも、玉置さんや田中さんがくれた希望を胸に、自分たちを磨いて自分の人生を輝かせて、いつか誰か大事な人の星になるって約束して、永遠に来ない完成の日まで大事な人のために生きなくっちゃならないなと思わされる、そんな人生の喜びや哀しさまでをも感じさせてくれる曲なのです。

アウトロ、玉置さんの唸り、口笛に挟まれたこれまた美麗なストリングスのメロディーが流れる間に、若き日のわたくしは毛布をかぶってカップ焼きそばを食いながら、そんなことを考えたのでした。でも先立つモノがねえ……かねがねカネがねえ……とりあえずアルバイト情報誌でも読んでいよう……バイクのガソリンも何とかして入れないと面接にもいけないな……ガソリンスタンドってデシリットル単位でも売ってくれるかな?1994年末、きたるべき新年はもう少しマシな一年にしないと誰かの星になる前にお空の星になってしまうわ!
新たな決意を胸に人生を歩もうと強く思ったのでした。

さて、このアルバムも終わりました。感染症騒ぎが始まったころに更新を再開した弊ブログなのですが、まさかまだ騒ぎが終わっていないうちにこのアルバムまで終えるなんて予想もしておりませんでした。ある意味感無量です(ここまで来られたのはうれしいけど、世情はうれしくない)。この次はすこし間が開きまして翌々年96年の『CAFE JAPAN』になります。はやく皆様が不安なく音楽を楽しめる日が来ますように!

[枚数限定][限定盤]LOVE SONG BLUE/玉置浩二[Blu-specCD2][紙ジャケット]【返品種別A】

価格:2,481円
(2022/7/2 10:03時点)
感想(0件)



Listen on Apple Music