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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。
プロフィール

2022年10月10日

キ・ツ・イ


玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』三曲目、「キ・ツ・イ」です。このシングル「キ・ツ・イ」と次のシングル「I'm Dandy」では、玉置さんは「玉置"流れ星"浩二」、松井さんは「松井"お月様"五郎」という名前を用いています、これはすでに言及しましたが、「このゆびとまれ」のモチーフでしょう。「このゆびとまれ」の記事を書いているときは「I'm Dandy」のことしか思いついておらず、この「キ・ツ・イ」が同様の名前を用いていることは気づいていなかったか忘れていました。うーむ。

当ブログでも何度か言及したことがあるのですが、ドラマ「キツい奴ら」テーマ曲で、あのドタバタコメディにはとても似つかわしい明るい雰囲気の曲でした。チェンジャー声の「O-A-OH-A」とか女声の「キ・ツ・イ」とか、玉置さんの歌に女声が混じると艶やかさ華やかさのほかに色気が爆上がりでいけません。

ドラマの話をちょっとしてしまうと、ヒモ暮らしとかサギとかヤクザとか金庫破りとか、まあろくなもんじゃないんです。およそ健全とはほど遠い連中なのに、決してお気楽ではなく邪気もなく「キツいなあ」と言いながら暮らしているんです。そんな連中が、とある施設を救おうと躍起になって努力するんですね。もちろん女がらみなんですけど(笑)、それがまた一途で健気なんです、犯罪ですけど。全編にちりばめられた玉置さんや小林さんの歌のよさに彩られて、無茶苦茶に犯罪がらみなのになぜか一種の美しい物語を見せられたような錯覚に陥ります。これが久世マジック?

さて、曲は「ビョワッ!」といきなりなんだかわからない音色からはじまり、ギターのアルペジオ、ドラムのバスドラと……リムのような音、なにやら管楽器(わたくし相変わらず疎い)、玉置さんの唸りで始まります。おお、これは『安全地帯V』で胎動を始め「じれったい」で爆誕、そして『All I Do』でその新境地を切り開いた玉置さんのリズム!こういうメロディーと並ぶほどの存在感を放つリズム、しかもブラックな感じのリズムを強調してくる曲は当時の日本では本当に珍しく、玉置さんがいかに異端だったかがいまから思えばよくわかります。玉置さんはシーンのど真ん中にいましたから異端だとは気づかなかっただけで、教父アウグスティヌスがじつはマニ教信徒だったくらいの衝撃なのです。

そして強烈なドラムで歌に入ります。玉置さんしょっぱなからトップギアで歌い始めます。Dancin' Shoesで男と女が走り出し、のちに涙も見せあう関係に……うん、順調じゃないですか(笑)。「O-A-OH-A」とか、ノリノリです。玉置さんファンの方でしたら玉置さんがダンスシューズを決して華やかな意味だけで使っていないことをご存知でしょう。『GRAND LOVE』収録の「Dance with Moon」におけるダンシングシューズは虚飾をすべて剥ぎ取り自分を丸裸にするくらいの意味があります。それに対しこの「キ・ツ・イ」におけるDancin' Shoesは虚栄そのものを意味するシンボルとして描かれていたのではないでしょうか。虚栄を張り続けて「いつまでだって踊りつづけ」る……華やかに、美しく、そして情熱的に……これは当時の玉置さんと女性たちのイメージでもあります。玉置さんは実際グレートな実力とサービス精神がありますから、体力さえあれば無限に人々を喜ばせようとしますし、それがムリして作っている姿だとは一見思えないんですね。でも松井さんはもちろん気づいています。「キツいなあ」「キツいよなあ」と。これは玉置さんに向けた、「このゆびとまれ」における「ともだち」であるお月様からの、いたわりソングだったとわたくしには思えるのです。

二度目の「O-A-OH-A」を経て、曲には管楽器が入り、いきなりサビに突入します。邪魔さ↑れたって、苦し↑くたってと、まあ辛そうな節回しと音程です。どうしてこんなに苦しそうなのにキャッチーで覚えやすいんでしょうねえ。これが天才ってやつなんでしょう。

二番もアレンジは基本的に変わりません。虚栄を張りまくってヘロヘロだけど走りまくって踊りまくる玉置さん、幼い感じ、いや小山内完次が歌いまくって人々を楽しませながら、迷いながら奔走する姿にも重なります。小山内完次は有名人でなく、金持ちでもなく狭く古いアパートで兄貴分の大曾根吾郎と共同生活を営むお調子者の青年です。でもあれが玉置さんの真実の姿なんじゃないか、ほんとに酒場でビリーバンバンとか歌って人々を酔わせているんじゃないか……と思わされる強烈な魅力がありました。で、「ぎりぎりで純情」なんですよ。鷲尾いさ子さんと肩を寄せ合って陽水さんの「いっそセレナーデ」を歌うシーンは、屈指の名場面といってもいいでしょう。チンピラにあの歌は歌えない……!純情で、おセンチで、実は義理堅くてと、虚栄を廃した青年玉置浩二その人そのものが、こういう人であってほしいという私たちの願いをドンピシャに反映していました。だからやるときゃやるよ、邪魔されようが苦しかろうがいつまでも踊るよ!でもキツいから、きみのそばでだけは休ませてね、というこの歌には登場しない裏の姿が暗示されるところまでを「キ・ツ・イ」で表現しているといえるでしょう。ちょっと冴えすぎです松井さん!ドラマのプロットをご存じだったかは知りませんが(「ヤバい奴ら」だったのを「キツい奴ら」に変えたというエピソードは知っていますが、それが松井さんがドラマの内容を知らなかったという根拠にはならないな、と判断しています)、現実の玉置さんとドラマの玉置さんとを行き来する見事な切り取り方のように思えます。

変拍子を挟み曲はサビ、今度は二回繰り返しですね。玉置さんの唸りが多めに入って実にソウルフルです。そしてテンションを上げたまま間奏に入ります……とさらっと流そうとしましたが、ここにも松井さんの仕掛けが!ここでは「燃えつきそうさ」「魅せられそうさ」と、まだ燃えつきてない、魅せられてない状態が歌われています。これを覚えていないとわたくしのようにあとから歌詞カードを見て「うっ!」と気づくハメになります(笑)。

間奏は……Aメロの伴奏になにやら高音の……なんでしょうね、相変わらず楽器の音に詳しくなくていけません。笛的な音です。あまりメロディーで泣かせに来る気はないようであっさり終わってサビを繰り返す終盤に突入します。

「キ・ツ・イ」のブレイクがないまま繰り返されるサビ、つまり本音を漏らすゆとりもないまま踊り続けるのです。「アオー!」とか「イエーイ!」とか、ノリノリだけとキツそうなシャウトがしばしば入ります。一回だけ武沢トーン的なギターが「ギャイーン!」と入ってブレイクがあります。「うーYEAH」「うーYEAH」「YEAHYEAH」「YEAHYEAH」と玉置さんと女声が掛け合いで胸の内を探り合いしているかのような場面があります。「俺は大丈夫だけどきみは疲れたから休みたいだろ?」なんですかね。もちろん続行になります、キツいですねえ(笑)。そして最後のサビ、歌詞が「燃えつきちゃって」「魅せられちゃって」に変化します。陥落です。体力的にも参っちゃってますが、精神的にもシビレちゃってます。この二人はそうなっても踊り続けるんですね。フェイドアウトで曲は終わらないままに遠くなってゆきます。

安全地帯を休止させたあと、怒涛のソロ活動を始めた玉置さん、これは松井さんからみてそうとう心配になるほどのハードワークだったことでしょう。休めばいいのに休まないんですから。本マグロみたいに止まると死ぬんじゃないかってくらいの勢いで数人分の仕事に全力投球です。ただ、この年か次の年に予定されていたアルバムが出なかったことが、この活動に無理があることを象徴していたのだと思います。『夢の都』があったことは、『太陽』で崩壊する安全地帯と不可分に連結する事実ですが、『夢の都』がなければ玉置さんはあのまま突っ走り続けてもっと早い時期に倒れてしまったのではないかと思われるほどに「キ・ツ・イ」のがこのときの玉置さんの姿だったのでしょう。

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posted by toba2016 at 00:00| Comment(6) | TrackBack(0) | EARLY TIMES

2022年10月08日

『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』

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玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』です。1997年4月25日発売、玉置浩二初期シングル集ですね。アルバムに収録のないままだったあの曲やこの曲が収録されていまして、当時はおお懐かしいな!って感じでした。レコード会社も変わり路線も変更され「田園」の大ヒットにたどり着いた96年の翌年、なんだかひっそりと蔵出し的に発売された感じです。ひっそりですが、CD店の「た」のコーナーは欠かさずチェックしていたわたくし、もちろんすぐに手に入れましたとも。

1987年の「All I Do」から93年の「コール」まで六枚のシングルを、ほんとにただ何の工夫もなくAB面並べただけです。シングルコレクションってそういうものですけども、まあ、なんの編集意図も感じられません。これが色々順番を変えられると、時代の流れを曲とともに思い出すということができなくなりますので、これでいいのだと思います。

1.All I Do:
 ファーストシングル、シンセロックです。
2.Only You
 「All I Do」カップリング(B面)、安全地帯を思わせる美しいバラードです。
3.キ・ツ・イ
 セカンドシングル、リズムの強烈なハジけたロックで、ドラマ『キツい奴ら』テーマ曲です。
4.“Hen”
 「キ・ツ・イ」カップリング(B面)、意欲作の小品ともいえる実際ヘンな曲です(笑)。
5.氷点
 サードシングル、美しい三拍子のバラードです。「行かないで」のように後年大評価されるかも?
6.Will…
 「氷点」カップリング(B面)、わたくしこれが「STAR」などの系譜の最初だと思っております。
7.I'm Dandy
 4thシングル、安全地帯を思わせる一見なんてことないゴージャスなロックなんですが、後から『JUNK LAND』や『ニセモノ』が出たとき、ああ、こういうことがやりたかったのか!と重大な転機だと気づかされた気分になりました。90年代後半〜00年代玉置ソロの起点になる曲だとわたくし思っております。
8.Sendenfor
 「I'm Dandy」カップリング(B面)、これも当時はわたし的にはただの変な曲でしたが(笑)、のちの玉置ソロでそのリズムや言葉遣いにハッとさせられました。時を越えた宣伝法だったのか!
9.行かないで
 5thシングル、近年大評価されている号泣バラードです。『All I Do』収録の「Time」と並んで『あこがれ』の起点となった曲だとわたくし思っております。
10.スケジュール
 「行かないで」カップリング(B面)、A面「行かないで」が壮絶すぎたのでその雰囲気の違いにわたくしひっくり返りました。そう、玉置ソロシングルB面名物の変な曲です。これは後継となる曲が見当たりませんね。しいて言えば「不思議な夜」あたりの末裔にあたる曲でしょう。
11.コール
 6thシングル、またまた号泣バラードでまさに「行かないで」の後継でしょう。斉藤由貴さんと南野陽子さんのような関係です(わかる人にしかわからない)。
12.大切な時間
 「コール」カップリング(B面)の美しい、玉置さん作詞のかわいらしい、いじらしいバラードです。

イケイケだった87年の「All I Do」、そして安全地帯『月に濡れたふたり』を経て安全地帯活動休止のあった88年、そして日本では昭和が終わり平成になって、ホントに二、三か月おきにシングルリリースのあった89年(「キ・ツ・イ」、「氷点」、「I'm Dandy」、「行かないで」はすべてこの89年に出たのです)、わたくし玉置さん頑張ってんな―と思いつつも安全地帯の活動のないことになんともいえないさみしさを感じていました。89-90年冬のどこかで安全地帯活動再開の知らせがあり、『夢の都』のあった90年、『太陽』のあった91年、アコースティックツアーのあった92年、安全地帯の崩壊したこの時期を経て、「コール」を擁する『あこがれ』が出た93年……こうした時代の流れを、まさに曲によって時系列的に思い出すことのできるシングル集になっています。89年から突然93年にジャンプした感は否めませんけども(笑)。

あの頃

あの頃、90年近辺、世の中はアナログレコードがすっかり廃れてゆき、いちおうリリースはされているけれどもって感じで、メインはもうCDだったような記憶があります。当時のナウなヤングの音楽発信ステーションたるレンタルCD屋ではもうアナログレコードははじめから取り扱いませんって感じでした。レンタルレコード屋っていうのがまだ街にはあったのですが、CDの取り扱いを増やしてゆき、アナログレコードはどんどん捨て値で処分販売していました。そりゃそうです、数少なくなったアナログ派を相手に商売が成り立つわけがありませんから。アナログ盤をすっかり処分してからCDだけに切り替えようとしていたのだと思いますが、そのうちなぜかCDも処分しはじめ(笑)、わたしのようなハイエナに狩られつつひっそりと閉店していきました。TSUTAYAをはじめとする大量のCDとビデオのみに特化したチェーン業態には到底かなわなかったのでしょう。まさに栄枯盛衰、令和の現代ではそれらチェーン店もサブスクリプションサービスなどのまえに倒れてゆきましたが、当時はそんなことになるなどと思いもよりませんでした……。そんな時代の、アナログが消えてゆきデジタルに置き換わったあの時代の、そしてそれに伴い小売業界の業態、街の風景、若者たちの部屋の調度さえをも変えていったあの時代の流れを、しんみりと思い出させるシングル集になっています。

なお、この『EARLY TIMES』はどうも廃盤のようで、現在では「田園」ほかをつけ足した『アーリー・タイムズ・プラス』という企画の趣旨がぐちゃぐちゃになった(アーリーじゃなくなるじゃん!)アルバムが出ています。

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2022年10月02日

『安全地帯LIVE』

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安全地帯ライブアルバム『安全地帯LIVE』です。DVDは『To me 安全地帯LIVE』というタイトルでリリースされています。1987年4月20・21日武道館公演のライブを録音編集したDVDです、とユニヴァーサルの公式サイトには書いてあるのですが、CDブックレットのクレジットには21、24&25と書いてありましてすでに混乱が起こっています。さらにDVDには21&24と……なんだかわかんないですね。当時のことはわからないのですが、まとめると武道館で20&21の2days、さらに24&25の2daysのコンサートを行ったということなのでしょう。そして、DVDにある曲はすべて(CDにない「夢になれ」を含む)21日と24日に収録を行っている、CDにしか収録のない「シルエット」「海と少年」のうち少なくとも一方は25日に収録を行っている、これでいちおうブックレットにあるクレジットには矛盾がないことになりますが、ユニヴァーサル公式サイトが誤っているということになります。ユニヴァーサル公式サイトが正しいとすれば、実は20日のLIVE映像は用いられていないという……?ああ、なんだかわかんなくなってきました(笑)。たぶんですが、記録がそもそも混乱しているとか、SEの「パーティー」とかエンディングの「ゆびきり」に用いられた映像だけが20日で、これらはLIVEの映像ではないという解釈でそう言っているとか、どうにかこうにか……いや破綻してますよ。どこかでミスってるでしょ!(笑)。演奏が毎日ほぼ同じだったから何日の音源使っていても違いが判らない(ブックレットに記載されている内容は正しいと仮定した場合の話)、という可能性もあります。いろいろ編集しているうちにわかんなくなったというのが一番ありそうな話ではあります。が、まあ、べつに何日の映像や音でも構いません。安全地帯は演奏がほぼパーフェクトですから、衣装の違いとかそういう細かい点でしか違いがないんでしょうね。そんな記録や記憶のゴタゴタが起こるほどの完璧ライブだったわけです。

小音量の「パーティー」、これはSEでしょう、が流れ、DVDではサウンドチェックの様子や武道館外の様子などが映し出され、今夜は楽しみパーティーナイトだぜという趣向でこのアルバムははじまります。そして「ふたりで踊ろう」からが安全地帯登場、照明が全開、生演奏のテンションで大歓声、会場は一気に暖まります。ホーンセクションを率いた、これぞ大編成時代の安全地帯!と思い知らされる豪華な演奏です。たて続けに「銀色のピストル」「好きさ」と人気曲が演奏され、場内の空気は序盤からトゥーホット、そこへ「シルエット」「海と少年」「あのとき…」でしんみりと、緩急寒暖つけた流れはこれまでのライブアルバムと共通した流れです。

最新シングル「じれったい」で会場をわかせたあと、このライブ一番の聴きどころ、メドレー「こしゃくなTEL〜眠れない隣人〜熱視線」へとなだれ込みます。映像をみるとフロントマンみんなニコニコ、初期のおすましさんはどこへやら、大盛り上がりの武道館に笑顔の安全地帯に心が躍ります(武沢さんだけなぜかおすましさんのままですが、体調でも悪かったのではないかと心配になります)。そして「どーだい」、わたくしこのライブ音源を聴いて「どーだい」にハマったといっても過言ではありません。安全地帯はどの曲もそうなんですが、ライブのほうがいいということがしばしばあります。さらにいうと、いくつかある「どーだい」のライブ音源の中でもこれは最高だとわたくし思っております。ギターの音が好み過ぎます。わたくしメタル野郎なのに、いつでもこのオーバードライブを再現したくて何十年もギターをとっかえひっかえ、アンプやエフェクターをいじくりまわしているといってもいいくらいです。

終始ノリノリのBAnaNAの、ここはクールダウンのシンセ演奏で会場は急激にしんみりして、「Friend」のイントロが始まります。わき立つ会場、でもすぐに玉置さんの歌をしんみり聴こうと待ち構える客席、これは見事です。「日本のファンは違うんだ、アメリカのファンみたいにクレイジーに騒いでくれないから喜んでないと最初は思ってたんだよ、でも気づいたんだ、日本のファンは僕たちの演奏を聴こうとしてくれているんだ、ぼくたちをリスペクトしてくれているんだよ」と洋楽バンドの来日公演インタビュー記事でしばしば80−90年代にはみかけたのですが、あったりまえです。日本には安全地帯があるんです。安全地帯だけのおかげではさすがにないでしょうけども(笑)、日本には日本のアーティストが豊富にいて、中にはクジラかイルカしか内容を聴き取れないんじゃないかというくらいクレイジー高音の嬌声のみが響き渡るおバカなコンサートもないではないですが、きちんとコンサート文化ってものがあるんです。80年代にシーンを駆け抜けた絶頂期安全地帯の、この記録を見よ!という気分になります。

そして「Friend」パート2たる「ほゝえみ」、平原さんのアウトロの中盛装の玉置さんは一礼してステージを去るという演出があるのですが、それはCDではわかりません。いったんここで区切りです。ホーンセクション勢ぞろい、お着替えを済ませた玉置さんが「いくよー!」と声を上げ観客はふたたび大盛り上がり、「今夜はYES」が強烈に響き渡ります。DVDですと次に「夢になれ」が入ってノリがいい曲二連発なんですが、CDだと次がいきなり「To me」で超しんみりになります。玉置さんの「いくよー!」が何だったのか、こんなに早く行って帰ってきたのか!とちょっと趣向がよくわかりません(笑)。

そして「To me」、DVDだとタイトルナンバーですね。トレメンダスな演奏で、ほれぼれするような武沢さんのギターとコーラスに支えられて玉置さんが歌い切ります。ライブでこの演奏はまずいでしょう、スタジオアルバム売れなくなっちゃいますよと心配になるくらいの迫力です。すでにコンサートは最終盤、「悲しみにさよなら」で大合唱、アウトロに玉置さんが「ありがとー!気をつけて!さよなら!」と呼びかけ、大興奮の中でコンサートは終わります。

ピンスポットを浴びた玉置さんが「ゆびきり」を歌います。演奏はおそらく中西さんだと思うのですが、エレピだけです。メンバーは「ラーラララーラー」とコーラスを入れ、玉置さんが「さよなら さよなら またあえる」と歌を終え、SEの「ゆびきり」に切り替わります。「ありがとう!また会おうね!」と挨拶をして本当にこのコンサートは終わってゆきます。

1.パーティー
2.ふたりで踊ろう
3.銀色のピストル
4.好きさ
5.シルエット
6.海と少年
7.あのとき…
8.じれったい
9.こしゃくなTEL - 眠れない隣人 - 熱視線
10.どーだい
11.Friend
12.ほゝえみ
13.今夜はYES
14.To me
15.悲しみにさよなら
16.ゆびきり

DVDですと、「ゆびきり」にあわせて武道館を退場するお客さんたちの映像が流れるんですが、その中に階段をぴょんぴょん降りてゆく少女の映像があります。そして母娘で手を振るのですが、これがなんと「ゆびきり」のイメージに合うことか……なぜ手を振っていたのかは不明ですが、おそらく、スタッフの通路にあるドアを少し開けて玉置さんとカメラマンが手を振ったのではないかと思うのです。スタッフやカメラマンだけだとこの笑顔は少し考えにくいです。偶然録れた映像だったのだと思いますが、あの少女の笑顔は安全地帯が生んだちょっとした奇跡だといえるかもしれません。

大編成の安全地帯ライブアルバムは、もうひとつMIASSツアーのものがあるのですが、MIASSツアーのDVDは安全地帯が終わってゆくさみしさが不可避ですし(活動休止前のドキュメントですから)、CDは2005年にリリースされてまだわたくしそんなに馴染んでおりません(それでも17年もたったのか……それでもといまビックリしております)もので、絶頂時の明るい派手な安全地帯ライブという点ではこれが唯一無二のものとなっています。

DVD / 安全地帯 / To me 安全地帯LIVE / UMBK-1004

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2022年10月01日

『スターダスト・ランデヴー 井上陽水・安全地帯 LIVE at 神宮』

スターダスト・ランデヴー 井上陽水・安全地帯 LIVE at 神宮スタジアム [ 井上陽水・安全地帯 ]

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井上陽水・安全地帯『スターダスト・ランデヴー 井上陽水・安全地帯 LIVE at 神宮』です。これもライブアルバムで、1986年8月、神宮球場で行われたジョイントライブです。NHKで放送されたそうですから、テレビでご覧になった方もあるかもしれません。

仕掛け人たる金子氏、「感動にむせいでいた」そうです(志田歩『幸せになるために生まれてきたんだから』より)。安全地帯を世に送り出すきっかけとなったバックバンド起用、そして「ワインレッドの心」「真夜中すぎの恋」「恋の予感」三部作の作詞と、陽水はお膳立てをパーフェクトにして安全地帯のブレイクを引き起こしたのです。その後安全地帯は押しも押されぬトップバンドの地位を手に入れて、いままた陽水とともにめぐり逢った……まさにランデヴー!スターダスト(星屑)に込められた意味は……曲たち、めぐり逢った人たち(星さんとか)、そしてファンの人たち、どれもこれもこのドラマを彩るキラ星のような存在なのでしょう。さらに感動的なことに、「夏の終りのハーモニー」はこのコンサートのために作られ、お披露目されたそうなのです。超人的な作曲能力、作詞能力、そして演奏力歌唱力をもつこのジョイントでなければ成し得ないほどの奇跡的な曲だといえるでしょう。玉置さん陽水さんがツインボーカルでレコーディングした曲は後にも先にも、この「夏の終りのハーモニー」と「俺はシャウト!」だけなのです(玉置さんがコーラスをやった曲はほかにも存在しますが、ツインボーカルという点で)。

まあ……感動的でしょうね。よくある笑っちゃうような「コラボ」じゃないんですよこの陽水と安全地帯というのは……わたくし的にはボンゾの息子がプラント、ペイジ、ジョンポールジョーンズの前でドラムを叩いた「天国への階段」に匹敵するかそれ以上の出来事です。なに?ボンゾって誰って?それはえーとえーと……ほかに適切な喩えがなくて説明できないくらいの衝撃だと思ってくだされば……と思います(笑)。

1.青空
2.デリカシー
3.エクスタシー
4.プルシアンブルーの肖像
5.帰れない二人
6.夕立
7.リバーサイドホテル
8.ジェニーMy Love
9.夏星屑
10.夢の中へ
11.飾りじゃないのよ涙は
12.夏の終りのハーモニー

DVDではオープニングSE的に「冬花」が流れ、北海道の大地的な背景をクロマキーして、映画で短くした髪が長くなりましたが髭面はそのままの玉置さんが「青空」を歌うという、なんか現代の感覚でいうと非常にイマイチな(笑)趣向になっています。音は、まあいいんじゃないですかって感じですかね……『安全地帯ライヴ ENDLESS』の出来を期待するとちょっと戸惑う音でしょう。スタジアムライブで音が抜けてしまっている感じはありますが、まあまあ音はちゃんと拾ってますねってところです。かえって開放的な感じがしてこっちのほうが好きってひとはいるでしょう。

「青空」でしんみり始まり、「デリカシー」「エクスタシー」の不穏すぎる曲コンビで淫靡な雰囲気バリバリ、そして最新シングル「プルシアンブルーの肖像」で一気に盛り上げたところで、CDだとすっぽり抜けていますが(理由は後述)陽水さんに交代です。陽水さんが「ワインレッドの心」の歌詞を間違うというオモシロミスをかましますが、大した問題ではなく陽水バンドはしっとりどっしりと「ワインレッドの心」「ミスキャスト」の二曲を演奏します。

そして「帰れない二人」、これはもともと清志郎さんと陽水さんの共作で、もうどっちがどこを作ったのかわからないというくらいのケミストリーが炸裂した超名曲です。日本初のミリオンセラーアルバム『氷の世界』に収められているシングル曲(「心もよう」のカップリング)です。わたくし『氷の世界』よりも先にこの『スターダスト・ランデヴー』を聴きましたもので、もう玉置さん陽水さんバージョン以外は違和感あると感じるくらいになってますが、もともとはこの二人の曲ではないわけです。なんだろこの曲メチャクチャいいな、と思っていたわたくし、現代のようにすぐ調べるツールがあるわけじゃなかったですし、金もそんなにありませんでしたから(笑)、『氷の世界』にたどり着くまでしばらく間があきました。このアルバムいちばんの聴きどころといってもいいかもしれません。

そんなわけで「夕立」、「リバーサイド・ホテル」、「ジェニーMy Love」、「夏星屑」と、「リバーサイド・ホテル」以外はとりたてて有名曲ってわけでもない渋い選曲が続きます(「夕立」はシングル曲ですけども)。「ジェニーMy Love」「夏星屑」は玉置さんがツインボーカルに入る感じですが、基本的に陽水さんがメインですね。演奏は当然安全地帯ですが、矢萩さんのソロがとりわけ目立って大きく録音されているんです。凄く目立ちます。ですが……違和感ぜんぜんないですね。全員もとバックバンドですから、もしかして当時はこういうサウンドバランスでやっていたのかもしれません。それに中西さんも川島さんももともと陽水チームに属していたんですから当然といや当然ですが、これほど違和感ないものか……陽水さんの声ってのはとんでもない声で、容易なことではバックはつとまらないと思うんですが、バシッとハマっています。これはこのアルバムのウリだと思います。

そして大ヒット曲「夢の中へ」、明菜ちゃんへの提供曲「飾りじゃないのよ涙は」、どちらも有名曲で会場の興奮も最高潮に達します。玉置さんもノリノリすぎて間奏の後ステージに戻るのが遅れるという大チョンボをかまします。陽水さんがビックリしつつも大笑いしている様子、玉置さんが大慌てで戻ってくる様子、何事もなかったようにド安定の演奏を続けるメンバー、とんでもないユニットです。バックバンド時代だったら終演後に呼び出しくらって大目玉ですが、もう一人前と認めてもらったであろう安全地帯、きっと打ち上げでいじられるくらいで済んだものと思います。ミスに厳しい玉置さんのことですから、きっと自分でじゅうぶん反省したことでしょう。そしてこのコンサートで初お披露目の共作「夏の終りのハーモニー」、もちろんお客さんは初めて聴く曲ですから、またあの二人が一緒に曲を作ったんだ!しかも一緒に歌っている!感動おおおお!とかそんなことはなく、いい曲だったな、あの曲なんだったんだろう?と思いながら帰宅して、あとから経緯を知って感動おおおおおになったのだと思います。

【追記】いろいろな情報筋によりますと、歌う前に陽水さんと玉置さんで「今日のためにふたりで作りました」的なことをアナウンスしていますね。そりゃそうだ。CDやDVDでそのMCがカットされてるだけです。失礼しました。

さて今回、クレジットをみますと、「演奏者」に陽水と安全地帯、そして中西さん川島さん(BAnaNA)しか書いていませんで。あり?と思いました。だって「ワインレッドの心」とか陽水バンドじゃん、パーカッションの人、これ斎藤ノブさんじゃないの(違ってたらすみません)?なんで名前載ってないの?と一瞬混乱しました。そしてちょっと考えて、ああそうか、だからCDには「ワインレッドの心」と「ミスキャスト」が収録されてないんだ!と納得しました。なお、「デリカシー」「リバーサイドホテル」「夏星屑」はCDのみです。あれ、こんなに違ったっけ……もう記憶がこんがらがって一体のものとなっています。なお、「デリカシー」のように『安全地帯IV』収録曲はライブ音源少ない印象ありますから、その意味ではCDは貴重なものであるように思われます。また、『安全地帯ライヴ ENDLESS』に収録のなかった「エクスタシー」もこのライヴアルバムでは聴くことができます。

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2022年09月30日

小さい秋みつけた

ENDLESS [ 安全地帯 ]

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安全地帯『安全地帯ライブ ENDLESS』十四曲目(Disc2一曲目)、「小さい秋みつけた」です。

いわずと知れた有名童謡、サトウハチロー作詞、中田喜直作曲「ちいさい秋みつけた」で、最初の発表は1955(昭和30年)のようです。玉置さんも生まれてませんね。ただ、玉置さんが生まれたのは1958年ですので、そんなに前のことでもありません。玉置さんの幼少の頃はまだ10年やそこら前の曲って感じだったでしょう。そうですね……いまの若い人(20代中盤くらい)からみた「だんご三兄弟」(1999年)くらいの古さだといえばその感覚が想像できるでしょうか。わたしら氷河期世代からみたら「おもちゃのチャチャチャ」(1963年)や「ピンポンパン体操」(1971年)、「およげたいやきくん」(1975年)くらいですね。子どもの頃にはぜんぜん古い曲なんて思った記憶がないですね。玉置さんにとっても「ちいさい秋みつけた」はそれくらい新しい曲だったのです。

大先輩のN.Noguchiさんのサイトによりますと、「ワインレッドの心」は玉置さんがこの曲のイメージをもとに作ったとのことです。さもありなん!「ワインレッドの心」は、当時あまりに売れない安全地帯が陽水さんから曲提供を受けることを玉置さんが断り、悩んで悩んで作り上げた曲なのです。こういうときに自分が信じるいい曲、好きな曲にイメージを求めることは人間の心理として起こりそうなことでしょう。

また、さまざまな音源販売サイト(もちろんAmazonとかでも)に転載されているCDジャーナルによれば、「童謡の「小さい秋みつけた」が収録。ボーカルの玉置浩二は当時`この曲を超えたい`と言っていたらしい」と記されています。あの「ワインレッドの心」をしても超えたという感覚がなかったのでしょう。その後、玉置さんは「ゆびきり」「夢のポケット」「氷点」「大きな"いちょう"の木の下で」など童謡チックな歌をリリースしていますが、「超えた」感覚はあったのでしょうか。なんとなく、まだ超えられないと思って、さらにいい曲を作りたいと思っている玉置さんであってほしいと思わされますね。

さて、そんな目標とする「ちいさい秋みつけた」を、玉置さんはアコギをもって弾き語りします(映像があるわけじゃないので、もしかしたらギタリストが横で弾いているなんてこともなきにしもあらずですが……当時会場にいた人でないとわかりませんね)。ポロン……「ぬふっ」「キャハハ(観客の笑い声)」ポロヒラリ〜(ハーモニクス)「玉置さーん」「いくよっ!」という不思議なやり取りがかわされます。

うーんこれはですね……いままで持っていたエレキギターからアコギに持ち替えてちょっと弾いてみたら、ほんの若干チューニングがズレていたんじゃないかと思います。「ありゃ」とか「まあしょうがねえな」くらいの気持ちで「ぬふっ」という声が漏れたか(あとのハーモニクスはチューニングを確かめるもの)、もしくはたんなる咳払い程度の「ぬふっ」だったのでしょう。

そして玉置さんが朗々と切々と歌い始めます。いつしか観客も一緒に……いやたぶんほかの曲も一緒に歌っているんだと思うんですが、なにせバンドサウンドだとかき消されて聴こえないのです。この曲は玉置さんのボーカルとアコギだけですので観客の歌もよく拾っています。当時の観客の皆さん、お上手ですね。

めかくし鬼さん手の鳴るほうへ……「めー」の大きさ、「ほう」の持ち上げ方、こういう一つひとつが、なんでこう歌おうと思ったんだろうと不思議なんですが、でもこう歌われるとその説得力に息をのみます。こういう誰もが知っている歌だと比較ができますからその巧さが際立ちますね。いっそ童謡メドレーを10分くらいやってほしいのですが、あっさり終わります。

このアルバムを手に取ったとき、曲目リストに「小さい秋みつけた」を発見して、え?と思いました。そういう名前の曲は知っているけども……これはほんとうにあの「ちいさい秋みつけた」なのだろうか?それともアルバムに収録されていないだけで安全地帯に「小さい秋みつけた」という曲があってこのライブアルバムに収録されているのだろうか?それは中身を聴くまでわからなかったのです。当時試聴なんてありませんでしたしね。あったのかもしれませんが、少なくともわたし個人の経験内では見たことはありませんでした。

なんと札幌にはタワーレコード日本上陸の前に、なぜかタワーレコードというレコード屋さんがすでにありました。どうも個人の方がやっていたようなのですが、その後本家タワーレコードに買収されて、めでたくタワーレコード日本一号店となったそうなのです。そうなのか!全然知らなかった!わたくし当時はちょっと幼少すぎました。わたしがタワーレコードに出入りするようになったころには、小さなビルの四階とかにあったのですが、それがある日移転してドカンと大きなフロアの、私たちがよく知るタワーレコードらしいレコード屋さんになったのです。その頃にはもちろん試聴コーナーはあったと思うのですが、移転前にはなかった気がするなあ……。ここはオサリバンの「クレア」とかを求めて買いに行ったなつかしいタワーレコードなのです。いや、もちろんメタリカのブラックアルバムとかも求めに行っているのですが、ここは雰囲気的にオサリバンだろう、などと考え、メタリカとか日本版発売前のハロウィン『ピンクバブルズ・ゴー・エイプ』などをうひょーとかいって買った事実を意図的に隠しておりました!(笑)。事実の編集失礼いたしました。

さて試聴もなしにトライ、再生開始数十分後に「ちいさい秋みつけた」だとわかったのですが、その後玉置さんとこの曲の関係を知りその後の童謡チックないくつかの作品にその面影をみて……ということは何年もかけて行ってきたのでした。情報時代というか、口コミ大公開大放言時代である現代では考えられないゆっくりした過程です。逆にいうとこれ以外の知り方吸収の仕方を知らないのでこれらをその気になれば二時間以内に経ることのできる現代には驚きです。人間の頭のほうがついていかないんじゃないのか……?だからメガデスのムステインがメタリカ時代に練習に犬を連れて行ったとかジェイムズを殴ったとか、そういうどうでもいい記事は普段からあんまり読まないことにしております。今回は特別くだらない情報を探したらまんまと目に入ったのがこれです(笑)。

わたくしこの『ENDLESS』はメタルテープTDK MA110に録音して持ちあるっていました。KENWOODのウオーキングステレオと、部屋にあったバブルコンポを行ったり来たり、一日に何周したのか……カセットテープってタフですね。CDと違って一枚目二枚目をぶっ通しで流しておけるので重宝していました。「」が終わってしばらくしてからガシャンとオートリバースがかかりこの「小さい秋みつけた」が流れるのです。何度も何度も玉置さんの「小さい秋みつけた」を聴き、冬でも春でも夏でもすっかり秋の気分、玉置さんの表現力にかかればオールシーズン秋です。すましたお耳に口笛とモズの声がかすかにしみてくるのです。いま気づきましたが、この「すました」って耳を澄ます、つまり注意力を高くして耳に入ってくる音を漏れなく聴こうとすることですね。わたくしいままで「おすましさん」とかの冷静な様子のことかと思っていました。耳が冷静ってなんだよ。ずっとずっと勘違いしたままでした。これでは「目隠しおじさん」とか危ない歌を歌っている人を笑えません。

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2022年09月24日

『安全地帯ライヴ ENDLESS』

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今回はライブアルバム、安全地帯『安全地帯ライヴ ENDLESS』です。1985年2月12・13日(武道館)、17・18日(大阪城ホール)での録音から編集した二枚組で(どの曲がどっちで録音されたものかはわからないです)、『安全地帯II』『安全地帯III 抱きしめたい』の収録曲はほとんど収められた、初期安全地帯全曲集に近い大作になっています。発売は1985年4月、アルバム発表順に記事を書いてゆくという弊ブログの方針とは異なり、わたくしこんなに遅くなってからの上梓となってしまいました。方針を守ったなら『安全地帯III 抱きしめたい』と『安全地帯IV』の間に記事があったはずですが……。当時からライブアルバムの扱いをどうするべきか決めかねておりまして……だって収録曲はもう書いちゃったしなあ、などと悩んだ末にやっぱり書いておこう、ベストアルバムと同じ体裁で書けばいいやと決めたのがつい最近だったわけです。

さてこのライブアルバム、とんでもない出来上がりで、なにより演奏がマーベラスです。玉置さんが歌詞を間違った箇所(「ブルーに泣いてる」)はありますが、ミスらしいミスがほぼないのです。何十年も聴いていますが演奏が乱れた箇所を発見出来たためしがありません。これを聴いてしまうとスタジオアルバムが面白げに欠けるように思われてくるくらいです。なんなんだこのバケモノバンドは!と今なら思えますが、なによりわたくしライブアルバムというものをほぼ聴いたことがなかったので、どのミュージシャンもこれくらいはできると思ってしまったというある意味恐ろしいライブアルバムです。録音も素晴らしく、全員の音がハッキリ聴こえてきます。そりゃ現代のライブアルバムに比べたら音圧がどうとか明瞭度がどうとかいろいろ言えなくもありませんが、40年近く前の音源にそれはムリってもんです。

ところでこのENDLESSライブのわずか三年前にオフコースが10日間連続ライブを行っており、今年40周年でCDやDVDが大売り出し、これもいいライブです。鈴木康博ファンのわたくしとしては個人的にお気に入りです。さらにその10年前にはDEEP PURPLEが『LIVE IN JAPAN』、さらにその六年前にはビートルズが公演を行っておりまして、武道館が大動員のライブ会場として用いられるようになってから安全地帯がこのENDLESSライブを行うまで20年くらいたっていたのです。大動員といってもキャパは一万チョイですから、現代の感覚でいうとそんなに大きな会場でもないんですが、当時はさいたまスーパーアリーナとか東京ドームとかはなかったですから、武道館公演を行うことが大成功の象徴みたいなものだったのです。現代では音響機器が進化したというのか、ツマミさえひねればどれだけ大きな音でも出せるようになっていますから(エンジニアのきみたち全員南朝だろ、いや難聴だろと思うくらい)、数万人規模のライブもそんなに難しくないのかもわかりませんが、当時はこのENDLESSライブが技術的にはほぼ最高の動員と音だったといってもいいんじゃないでしょうか。

さてこのENDLESSライブアルバム、『REMEMBER TO REMEMBER』からは四曲、『安全地帯II』からは全十曲、『安全地帯III 抱きしめたい』からは「エクスタシー」を除く九曲、シングル関連から二曲、その他一曲の全26曲となっております。LPやカセットでは数曲省かれたり三枚組になっていたりと事情がやや異なりますが、ここではCD二枚組としてご紹介いたします。

Disc.1
1.Endless
2.マスカレード
3.真夏のマリア
4.Happiness
5.Kissから
6.ブルーに泣いてる
7.Big Joke
8.エイジ
9.つり下がったハート
10.あなたに
11.…ふたり…
12.アトリエ
13.

Disc.2
1.小さい秋みつけた
2.恋の予感
3.yのテンション
4.Lazy Daisy
5.ダンサー
6.真夜中すぎの恋
7.熱視線
8.ラスベガス・タイフーン
9.ワインレッドの心
10.La-La-La
11.眠れない隣人
12.We′re alive
13.瞳を閉じて

Disc 1は「Endless」のゆるやかな感じ(これはSEでしょう)から、大音量の「マスカレード」で一気に盛り上がり、つづけてミディアムテンポの「真夏のマリア」「Happiness」「Kissから」でノリを持続させます。「ブルーに泣いてる」でちょっと泣きを入れてから「Big Joke」の軽快なリズムを挟んで「エイジ」でまた泣かせます。ここからしんみりモードで「つり下がったハート」でちょっと不穏に気持ちにさせてから、大人気バラード「あなたに」で観客の狂喜!この耳をつんざく黄色い声はただごとではありません。本気で失禁・失神した人が出たんじゃないかというくらい興奮しています。ここからはアコギ路線で「…ふたり…」「アトリエ」「風」と、これもさぞや興奮と落ち着きが同居した不思議な幸福感を味わったものと思われます。

Disc 2に入りまして玉置さんの、おそらくは弾き語り「小さい秋みつけた」のほんわかしんみりから、大ヒット曲「恋の予感」で一気に盛り上げます。この歓声は「あなたに」を越える大きさ!なにせ当時最新シングル「熱視線」のわずか一枚前ですからまだまだ新曲、観客が大喜びするのもさもありなんです。そこからは「yのテンション」「Lazy Daisy」とニューアルバムから一曲目二曲目を繰り出し興奮を持続させます。ここで何やら効果音的なものがだんだん大音量になり途切れたかと思うと「ダンサー」が始まります。このあと「真夜中すぎの恋」ですからセカンドアルバムからの選曲になる気分モード転換に効果音を使ったのかもわかりません。そして最新シングル「熱視線」とシングル曲が続きます。このあたりで観客も喜びすぎて疲れたでしょうから次は「ラスベガス・タイフーン」、これもシングルなんですがおそらくは知名度の相対的に低かった曲で一休みという感じでしょう。ですがこの曲、かつてはメインの曲だっただけあってかなり強力な魅力を持っています。矢萩さんの超絶ロングアドリブソロが炸裂し、知らない曲だけどすごいねこれって感じで会場はいやがうえにも盛り上がっていきます。そして暖まりきった会場に「ワインレッドの心」が投下され、コンサートはクライマックスを迎えます。このあと「La-La-La」でメンバー紹介をしていったんコンサートは終わります。鳴りやまない拍手、終わらないアンコールを求める声、そして大歓声とともにメンバーが再登場し「眠れない隣人」でドカンと盛り上げます。そしてアンコールの定番「We're alive」で「みんなの顔を忘れはしない〜今日はほんとにどうもありがとう〜」と別れを告げ、コンサートは終わりになります。ふたたびアンコールを求める声が収録されており、それにこたえた形という体でラスト、エレピだけの伴奏で「瞳を閉じて」が歌われ、このライブアルバムは終わります。

うーこうして書いてみてもいいライブアルバムです。演奏はパーフェクトなのはもちろん、キッチリ流れがあります。わたくしがこれを聴きまくりすぎたせいで流れがあるように見えるだけかもわかりませんが(笑)。それを差し引いてもボリューム満点、いやーライブ聴いた!という気分になりますよ。安全地帯のライブアルバムで一番のおススメといってもいいくらいです。快進撃真っただ中の安全地帯がどれくらい凄かったか、よーくわかるライブアルバムです。

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2022年09月19日

メロディー


玉置浩二『CAFE JAPAN』十一曲目「メロディー」です。先行シングルで……このアルバムからはぜんぶ先行なんですけども(「STAR」「メロディー」「田園」の順)、アルバムより数か月前に発表されていました。筑紫哲也のニュース番組でエンディングに使われていたことはすでに何度か言及しましたが、この翌年キョンキョンと小林薫さんと共演した「メロディー」なるドラマにも挿入歌として使われたようです。なおカップリングは「愛を伝えて」でした。

この曲は、おそらくですが玉置ソロで「田園」の次に有名曲なんじゃないかなと思います。ちょうど玉置ソロが注目を集めていた時期ですし、それ以前の郷愁ソングの流れがちょうど大きな実を結ぶタイミングでしたし、昔からのリスナーが郷愁を感じるくらいの年齢に差し掛かっていましたし、それなのに社会は激変して地方のふるさとがギタギタにされていく時代でしたし……この曲が多くの人の涙を誘うにピタッとうまくハマった感じです。

とまあ、こんなふうにこの曲が有名である原因らしきものを説明することはできるわけですが、それらはしょせん外的な条件であって、それ以上に曲そのものが持つパワーが大きいのだと思うのです。

その日、わたくしはシンガーの後ろでギターを弾いていました。オーバードライブを踏み込み、この「メロディー」のソロを弾きあげ、そのあとフロントピックアップからハーフトーンに切り替えてジャガーンとサビの伴奏を入れていたのです。なるべく矢萩さんが弾いた通りに弾こうと正確さを心がけていたところでした。

ふと、歌が途切れ始めました。ん?と思ってシンガーをみると横を向き目をこすっていました。ゴミでも入ったのかと思いましたがそうではありません、みると聴衆がみんな涙涙……泣いているのです。「く、く、く……」とマイクが嗚咽を拾います。そうです、シンガーは泣けて歌えなくなっていたのでした。その日はシンガーが皆に別れを告げる日で、「メロディー」はステージの最後にセッティングされた曲でした。誰もが感極まってはいたのだと思います。これはえらい場に紛れ込んでしまった……せめてこのまま正確に弾き上げなければ!でも指にはそれ以上の力がこもります。ピックをもつ右手もすこしオーバーになっていきました。この場をもっとドラマチックに盛り上げたいという誘惑が手つきをおかしくしていきました。そうやってどんどんテンションが上がる中なんとか歌い切ったシンガー、たった五分弱の曲で背中から湯気を噴き出すわたくし、終演後はぐったりです。片づけを終え椅子に座って足をだらんと延ばし、この曲「メロディー」は、こんなに大きな力を持つ曲だったのか!と放心していました。玉置さんの曲を聴き込んで弾き込んで何十年も経ちなお知らなかったこの力、とうてい弾き切れるもんじゃない……と痛感し、もうこの曲を軽い気持ちで引き受けるのはよそう、やるなら数か月前から万全の準備をしようと決心したのでした。

閑話休題。かようにこの曲は多くの人たちを泣かせてきたこと間違いなしの超傑作郷愁全開バラードなのであります。そしてわたくしのような安全地帯バカにとっても、クレジットに矢萩さん六土さん田中さんの名を見つけて大号泣の安全地帯復活の兆しを感じた曲ナンバーワンの思い出ソングでもあるのです。このギターソロを聴いたとき、あれこれ矢萩さんじゃ?と思いました。それでクレジットを確認してギターだけでなくベースもドラムも安全地帯!と知ったときの興奮たるや!武沢さんがいないことにももちろん気がついてやや悲しくなりましたけども、事情を知るよしもなかったわたくし、近いうちの安全地帯復活を信じることができたのでした。

「あんなにも〜」と静かな暖かいボーカルに続きボロボロン……とアコギのアルペジオが始まります。始まったばかりなのにもう名バラード確定の雰囲気です。きみがいたこの町にあの歌がまだ聞こえている、大好きだったきみが歌う大好きな歌が。玉置さんワールドにありがちなのですが、この「きみ」は恋人的な存在のようにも描かれるし、友達的な存在にも描かれます。おそらくなのですが、玉置さんにとってはどっちも大切だし同じように仲良くするのでしょう。家庭と家庭の境目がいまよりも薄かった(と語られることの多い)昭和中期、大切な家族も、大切な友達も、そして大切な恋人も、みんなみんな「この町」にあって混然一体としており、そのなかでみんな同じように楽しませて愛する玉置さんならではの表現なのだとわたくしには思えるのです。ですから「あの歌」は友達の歌であり恋人の歌であり、そして家族の歌でもあるのでしょう。

短いBメロ、ベースが加わってさらにセンチメンタルな雰囲気の中歌われる遠い昔のこと、いつもやさしい、少しさみしい、それはふるさとである「この町」であり、ふるさとの人々のことなのでしょう。とすれば、やさしいのはともかくさみしいって何でしょうね?この歌から醸し出される何ともいえないさみしさは、これは誰もがふるさとを振り返って感じるさみしさのことだと考えてその内容を求めると見つけられないものなんじゃないかな、と思われます。つまり、わたしたちがそれぞれ抱くふるさとでの「さみしさ」をそれぞれに感じるような、共通の意味がないもの、「さみしい」という共通の言葉だけがそこにあり、それによって共感が生まれるんだけど実はみんな違うことを思い浮かべている……人間は全部が全部そうなんだといえばそうなんですけども。わたしが食べているチョコアイスの味わいは、相手にとってのバニラアイスの味わいであるとしても何の矛盾も生じない……このような中途半端な懐疑論にうっかり陥ると夜も眠れなくなりますので、若い人は特にネットワークゲームでもして仲間とメッセージを交わし合うなどして自己の存在と共感の成立とを信じ続けていられるよう精神を落ち着ける工夫をするなど、注意が必要です(笑)。

あくまでわたくしの場合ですけども、北海道ってみんなせいぜい四代前から住んでいますから先祖代々の土地ってものがないんですよ。だからか、わりとあっさり移住します。札幌のような大きい街は特に流動性が高く、かくいうわたくしも北海道におりません。地元に残っている友人はもう数人しか浮かばないし、その友人だって今でもいるのか……。うん、さみしい、さみしいです。べつに一堂に会したいわけでも何でもありませんけども、失われたという感覚が強くあります。埋めることはできないしその必要もとくにはないんですけども、玉置さんの歌は容赦なくほじくりだしてきますね、埋めようのない隙間を。このアルバム全体でしばしば想起させられてきたふるさと、家族、いま送っている日々の大変さ、それを生きていくんだという決意、いつかもっと素晴らしい未来が来るんだという希望、それらを一気に包み込む少年の頃の「この町」での「きみ」との日々の思い出を歌うこの曲をラストにアルバムは終わる……うーむ完璧だ!この曲単体しか知らない人はもったいないことをしています!この曲はアルバム全体を聴くことなしにその真価を味わうことはできません。これを余計なお世話だと思う人には全く無駄で野暮な話をしているわけですが。

さて歌はサビ、田中さんのドラムも加わり、怒涛のさみしさの中歌われる「あの頃」、なにもなかったあの頃、いやもちろん何かはあったんですよ、でも思えば何もなかった……やさしいとかさみしいとかの感触だけの思い出だけが残り、実際にあったモノやコトは「あった」と同時に終わっていて「なにもない」に変わってゆくのです。そんな思惟を巡らせるまでもなく伝え聞く昭和中期は「たいしたもの」はなかったのです。いま思えば物質的には貧しかったのですがそれは現代からみればそうであるだけで、貧しいなんて感覚はありませんでした。だから「楽しくやった」し希望に満ち溢れていました。べつに昭和後期や平成初期のような経済的繁栄を願っていたわけじゃないんです。このままの日々が続けばそれでいいと思っていました。「なにもなく」、つまり無事に平穏に、みんなと、きみと、この日々を続けて行けるものと思っていたのです。それが幸せってものなんですけども、人間ですから、今が幸せなんだという実感はありません。幸せというものはこれから来るものだと思っています。「泣きながら〜…(中略)…(実はいまがそうだからバリバリに直視しているんだけどこれから起こると思っている)幸せを(遠い目して実は目の前にあるものを)みつめてた」わけなのです。

思うところ色々あってさすがに長くなりましたが実はまだ歌は一番でした(笑)。ちょっと急ぎ足で「あの頃」の姿を追っていきたいと思います。

「この店」に寄せ書きなんてあったでしょうか。これはわたくしありませんでした。旅先で見かけることがあったくらいです。その店に足しげく通いすっかり常連になった仲間たちが町を離れることになり、記念に残した寄せ書き的なものでしょう。ラーメン屋に芸能人やスポーツ選手が書いたものが掲げられているのとは趣が違います。芸能的な意味でいうと無名の少年少女たちの寄せ書きです。もちろんその隅のほうに「たまきこうじ」とか「たけざわゆたか」とか書かれていたら無名でも何でもありませんが(笑)、書かれた当時は無名だったのです。そんな、思い出を凝縮して残したような寄せ書きがだんだんと隅に置かれてゆく……時の流れを感じずにはいられません。この仲間たちは部活とか……ありえますね。でも当時部活の帰りに集まって飲食するほどの小遣いをみんな持っていたわけではありません。わたくしもパスします(笑)。『タッチ』の南風みたいな店があってそこでスパゲティとか食ってると黒づくめの男がバイクに乗って紙袋抱えた看板娘を送ってきてみんなジェラシーなんて展開はまったく起こりませんでした。起こっていたのかもしれませんが知りません、パスしてたから(笑)。これはある程度お金が自由に使えるようになってからでしょうから、玉置さんでいうとバンドを始めて以降の若者時代なんじゃないかなと思います(「ピースマーク」は交通標識でいうと安全地帯じゃないですか!)ギターを取り出してみんなで歌って、泣いたり笑ったりしたんだと思います。なぜ泣いたのかは他からはうかがい知れませんが……これは若い人には驚きだと思いますが、ギターを取り出して歌うというのは案外起こっていたのです。ギターや歌本を置いてある店もありました。ステージのある店すらあったのです。そういう店もだんだんカラオケマシンを入れるようになってギタリストの出番はなくなっていったのですが、私が若者だった平成初期頃にはまだ街のそこここにそういう店が残っていたものです。

「あの頃」はカラオケマシンも店になくて、それだって「楽しくやっ」たのです。というかカラオケマシンないほうがいいじゃないですか。自分がギタリストで楽しいからそう思うのはもちろん私の勝手で、ギタリストが来るか来ないかわからない店の人からすればそりゃカラオケマシン入れますよ(笑)。こうして「大切なもの」は失われていったのです。

エレキギターが高らかに鳴り、間奏に入ります。Gのペンタトニックで……と書いてちょっと違和感あったので弾いてみたら半音低くてF♯でした。相変わらずテキトー!おかしいなGで弾いた記憶があったんだけど……たぶんほかの楽器が半音下げ面倒だからGにしたとかそんな事情でしょう。そんなわけで矢萩さんの得意技ペンタトニックの泣きギター(F♯)が炸裂し、曲は最後のサビ(二回)に突入します。

あの頃は何もなくて……と描かれる世界は同じなのですが、矢萩さんのギターが加わってアオリをビシビシ入れてきますから泣きの効果がひときわ高い箇所です。そして歌詞に一か所だけ変化があります。「遠い空流されても」ですね。何が流されるのか……

そして最後のサビ(二回目)です。「きみのこと忘れないよ」……忘れないのは「メロディー」が心に残っているからでしょう。「きみ」が歌った「あの歌」の「メロディー」、その記憶が残っているから、あるいは、「きみ」や「みんな」と過ごした日々の軌跡を旋律、つまり「メロディー」に喩えたのではないかと思うのです。日常があってライフイベントがあって「きみ」や「みんな」と盛り上がったり沈んだりした日々の軌跡「メロディー」、それに「きみ」が歌った実際に存在した「あの歌」の旋律「メロディー」が重なって、セピア色に変色しつつも鮮やかに思い出せるあの歌、あの日々が一体となって僕の心の中でいつでも鮮やかに再生される……「泣かないで」、震えないで、止まらないで、泣くのはメロディーのほうなのか、再生装置であるぼくの「心」のほうなのか……美しい日々にもある日大ショックが起こって(それこそ移住をともなう進学就職レベル)きみの歌もぼくの思い出も震えて、遠くの街にあって空に流れて(折にふれて思いだして)、そしてまた再生するんです。

こう書いてみると、昭和とか平成とかに限らず、誰の胸にもあるやさしさやさみしさを歌っていますね。だから、若い人でも高齢の方でも、それぞれの年代に応じていくつかの歌詞の謎を残しつつも、自分の身に起こったこととして胸に迫ってくる歌なのではないでしょうか。だからこそ売れたし、多くの人が知る名曲となりえたのでしょう。わたしのようなマニアがアルバムの頭から聴け!とか言いまくるかもわかりませんが(笑)、冒頭に書きましたように曲単体でももの凄いパワーがあることをわたくし痛感しておりますもので、曲単体の楽しみ方があってもいいのかもしれませんね(超上から目線)。

さて、このアルバムも終わりました……おおお、今年のうちに『JUNK LAND』に入れるという話をどこかで書いたものですから、達成できそうでちょっとホッとしております。ですが次は安全地帯のライブ盤『ENDLESS』をご紹介しようと思います。収録曲はすでに扱っていますのでアルバム紹介と、曲紹介はせいぜい「小さい秋みつけた」だけですが。では、またお目にかかります!

CAFE JAPAN [ 玉置浩二 ]

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posted by toba2016 at 09:29| Comment(6) | TrackBack(0) | CAFE JAPAN

2022年09月10日

あの時代に…


玉置浩二『CAFE JAPAN』十曲目、「あの時代に…」です。

このアルバムは多くの人がおそらく感じたことでしょうが、華やかで賑やかで、それでいて悲しいのです。その悲しさを担うのが「田園」に滲み出る苦労であったり「フラッグ」が醸し出す希望の切実さだったりする一方で、どストレートにこの「あの時代に…」や次曲「メロディー」が描く郷愁だったりもするのです。

スネアの音が小さくバシッ……バシッ……と遠くから聴こえてきて、次々と音が重ねられていきます。アコギのアルペジオ、ピアノ、シンバル、ベースとストリングス、そしてエレキギター……玉置さんの「……ン……ア〜……」とともに音がどんどん近くなってゆき、バシン!と一点音を揃え、歌が始まります。

伴奏の主力はピアノで、それを彩るようにギターが重ねられています。アコギの弦を鳴らす「ヴィ!ヴィ!ヴィーン!」というもはやパーカッションとして使っているんじゃないかという出音が効いています。ドラムは細かく、そして小さく入れられていて、リズムの主力はドラムではありません。リズムも旋律も伴奏も、歌とすべての楽器が一体となってともに進められてゆくような感覚です。ふつうのバンドサウンドのようにみんなドラムに合わせようぜという感じではありません。歌が先にあって、それにすべての楽器が合わせてゆくような作り方をしているようです。これは『カリント工場の煙突の上に』で玉置さんが試みた手法ですが、おそらくこの曲でも同じように作っていたんだと思われます。安藤さん以外はすべて自分が演奏するからこそできることであって、逆にいうと安藤さんにはこの域に入ることができたのだということです、これは相当シンクロしています。

詞は切々と、昔と今の思いを描きます。昔は夢いっぱいだったのに今の現実はどうだい、すっかり毎日に疲れ切ってしまってさ……と現在を嘆く歌にも聴こえなくもないのですが、全体のイメージはそんな悲愴じゃないんですよね。不思議な詞です。今からできることもいっぱいあるじゃないか、愛だってなくなったわけじゃない、それを越える想いだってまだあるんだ、泣いている君はきっとまだまだ夢があって情熱があって、だから泣くんだ、だから僕もそれを越える想いでもっとやさしくなれるんだ……ぜんぜんまとまっていない思考の流れがそのままに書かれたようなことばなんですが、だからこそリアルにわたしたちの胸を打ちます。いまあるものを、いまいてくれる人を、いまできることで大切にするんだ、という心がけを感じずにはいられません。その心がけはわたくしぜんぜん持っておりませんもので(笑)、ことさら尊く感じられます。そういうふうに生きないとなあ、と。

歌はBメロに入りまして、教えてほしい、きかせてほしい君の思いを、たぶん僕たちは同じことをずっとくりかえしてきたし、これからもくりかえすだろう。何度だって同じ話をするだろう、そして何度だって同じように笑ったり泣いたりするだろう。そして何度だって同じように心を通わせあい、確かめあうんだろう。それが一緒に生きるということだから。志村けんが「ワンパターンになれるということは素晴らしい」と生前に語っていたのを読んだ記憶があるのですが、それはお笑いに限らず、共同生活にも言えるのではないかと思うのです。心地よいパターンが何度も繰り返される、それが熟成され完成に近づいた安心というものだろう。わたしたちは年齢を重ね経験を積み、性格や行動があまり激変しなくなります。感情も安定し、あまり違った反応をしなくなっていきます。それを確かめ合えるのが人生を長くともにしてゆく伴侶だったり仲間だったりするのでしょう。「ずっと同じこと」をくりかえすふたり、というのはこのような過程を経て形成されてゆく現象なのです。

若いとピンときませんよね。それってロボットになってゆくってことじゃないの?と思うでしょう。うーん、ちょっと違うんですよね。挙動が安定しないロボットから挙動が安定したロボットに変わってゆくこと……やっぱロボットじゃん(笑)。いやまあ、成長するというか老化するというか、大人として年月を重ねるということは予想のつかないことや不安定なことを少しずつ排除してゆく過程なのです。それは若さゆえのダイナミックな変化を失ってゆくことでもあるのですが、経験してみると別にさみしくもないですし、それでいいんだと思わされます。だってそんなに変化してたら疲れるじゃん!中学校とか高校とかなんて三年間で生活環境が激変してたんですから、今となってはとてもとても、ついていけません。え?もう次のところ行くの?ってくらいです。自分の子どもがそういう激しい変化をしている間は、自分はどっしりと子どもの目からはほとんど変わらずにそこにいて支える側なんだと思わずにいられません。

でも、細かい変化はしてるんですよ、ロボットじゃないですから(笑)。だから、「涙がこぼれてくるんだ」なんです。とかなんとか話はもうサビに入ってますけども。「ふたりは」でジャイーン!と一瞬転調したかと思わせるほどのダイナミックなコード進行で曲は一気にサビに入ります。涙がこぼれてくるのはもちろん悲しいことがあった場合もそうなんですが、時間的にも空間的にも遠くなったふるさとの、まだまだ変化が激しかったころの、安定していなかった自分の記憶がどうにも泣けてくる、ということが起こる、ような気がします(笑)。やや、すみません!けして茶化しているわけじゃないんですが、なにせ自分がそういう瞬間を迎える前にこの曲に出会ってしまったもので(1996年はまだわたくしバリバリのヤング!)、この曲にそういう感情の動きを教えてもらったからそう感じるんじゃないかという疑惑が抜けきらないのです。こればかりはどうしようもありません。若いときにこの曲に出会ってしまったがゆえに、そういう思いを抱えて生きざるをえなくなっているのです。もちろん、きっと将来、こんな気持ちだったことを思いだして泣けてくることもあるんだろうなとは思いました。そしてまんまと泣きそうになることもあります。それ以上がわからないのがほんの少し残念ではあります。

「特別じゃない夢」と、いまとなっては言えます。当時は自分が特別だと信じて疑ってなかったですから、自分の夢は特別に決まってたんです。でもいま思えば、まあふつうにある夢、ありがちな夢だよな、なんですね。ミュージシャンになりたいというのも何百万もの若者が毎年思うことですし、累計だと数千万人いるでしょう。玉置さんもその一人だったわけですが、たんに天才すぎてそう見えないだけで夢自体は「特別じゃない」ものだったのです。人によってその夢は身に合わぬものだったり合うものだったりしたでしょうし、叶ったり叶わなかったりもしたことでしょう。そして「特別」なものだと思っていたものが、「特別じゃない」ものだとわかっていく過程をみな生きているのです。

「とくべつ〜じゃない〜ゆめをみてた〜」と高音から低音へなめらかに旋律を描くボーカル、ダーン、ダーン、ダーン、ダーンとコードを変えながら刻まれるリズム、ここに「あれは特別だったんだ!でもいまは特別じゃないとわかってしまったんだ」という、人生を一気に振り返り抜ける一抹の寂しさ、そして安心感を叩き込んでくる玉置さんの凄まじい表現力が凝縮されています。そして「あの時代に……」とタイトルを歌い上げてサビは終わります。気分はすっかりふるさとへ……あの時代、わたくしですと昭和末期から平成初期の北海道が強烈に思いだされるのです。

曲は間奏、Aメロと同じメロディーを……なんでしょうねこの音色?安藤さんがキーボードで出したんだと思うんですけど、オルガンっぽい、なんだかわからない、なんともいえない郷愁を誘う音色です。二番のサビの裏にも聴こえますね。エレキギターが絡んで粘っこく漂います。

歌は二番、春は渚の風、冬は枯葉の歌、これは北海道ではありません(笑)。渚はともかく雪に埋もれて冬に枯葉などありませんから。そんなことを生活感覚で知っている人は北海道人と豪雪地帯に住む人だけでしょうから、ここは本州の人にもわかる言葉で郷愁を表現したものと思われます。もちろん都会でも、大人になっても、渚には風が吹きますし冬は枯葉がカサカサいってるんですが、そんなものにあまり心動かされなくなっているのがオトナです。もちろん中高生の頃だって心動かされないフリしてましたけども(笑)、いまよりはずっと季節の情緒ってものを受信していたのは確かなのです。

倒れても、つまり失敗しても気にせずに好き勝手やってましたし、できたのです。当時は当時なりの制約を感じていて大人はわかってくれない的なことを思ってた気もしないではないのですが、いやいやいや何をおっしゃるうさぎさん、大人はさまざまな制約を課されていますし自分でも自分に課していますので、好き勝手などできたものではありません。少年時代は自由だったのです。これも大人になってからわかることで、「笑い転げた青春」が完璧に消え去ってからその意味を知るのです。ですから若い人は、笑い転げられるうちに笑い転げておくべきなのです。

さてBメロ、今度は「ずっとちがうこと」です。ですからこれはAメロに引き続き青春時代のことでしょう。同じことを繰り返していても感受性豊かでいろいろに感じることのできた時代です。だから、刺激に満ち溢れています。あれやりたいこれやりたいと、いろいろなことに興味が向きます。じっとなんかしていません。だから愛着を感じたり飽きたりする暇なんかないんですが、それでも、ふたりは別れが辛くなるほどに一緒にいてしまったのでしょう。これも尊いことです。友情、愛情、いろんな呼び方をしますが、なぜか人は一緒に行動する人を絞っていきます。当時はフィーリングが合うとか居心地がいいとか、そんな風にしか思いませんでしたが……きっと変わりゆくものごとのなかで、変わらない「その人」の何かを受信してしまったのでしょう。

歌は最後のサビ、サヨナラの日に、涙があふれて、手を振ります。花に埋もれていたふるさとで、南へと向かう列車に乗ったり空港へ行くバスに乗ったりします。少年は特別だった夢を叶えに旅立ち、そしてその夢は特別じゃない夢だったと気づいてゆく長い長い過程を経てゆきます。そう、特別じゃなかったんです、僕の夢も、僕の人生も……だからこそ「あの時代」は記憶の中で輝き続けています。もうすっかりその特別感を思いだすことは難しくなっていて、「特別だったんだ」と形容するしかほかに表現方法がわからないくらい、あの特別感は遠いものになっています。でも、それでいいんでしょう。わたしがいまだに特別感をバリバリ感じていて、「いつまで夢を見てるのいいかげん現実を見て」と子どもたちに言われるようになったら子どもたちがかわいそうです。特別感のバトンはとっくに若い人に渡したし、いまはそれが子どもたちに回ってこなくてはならないものなんですから……。でもたまに、子どもたちの見ていないところで、花に埋もれていたふるさとを思いだしてギターをつま弾くことくらいは許してもらってもいいと思います(笑)。もちろん思いだせはしないんですが、ふっと記憶をかすめる何かが蘇りそうになるのを感じて、そこでギターを置きます。そうして少しだけ気持ちを震わせて遊んでいるんです。

曲はアウトロ、ふたたびオルガン似の浮遊音、そしてオルゴールの音色に主旋律は引き継がれ、ギターのハーモニクスと一緒に曲は終わります。

このアルバムを最初に聴き終えたとき、この曲をもう一度聴きたくて仕方なくなりました。飛行機だったからか、カセットに録音したものだったからかは忘れましたが、この曲だけを聴き直すようなことはしませんでした。この感動は、アルバムの最初から物語が続いていたからこそあったのだと思ったからです。シングルとして輝く曲ではなく、アルバムのクライマックスだからこそ、このとんでもない感動があったのだとわたくし直感したのでした。だからいまでもこの曲だけ単体で聴くようなことはあまりしませんが、この曲は玉置ソロで三本の指に入る好きな曲なのです。

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2022年09月03日

愛を伝えて


玉置浩二『CAFE JAPAN』九曲目「愛を伝えて」です。シングル「メロディー」のカップリングでした。NHKの「バラエティーざっくばらん」1995年五月のテーマソングだったそうです。ということは、アルバムが出る一年以上前からこの曲はすでに聴かれていたことになります。うーむ全然知りませんでした。

さて曲は何やら鈴の音で始まります……あっ!Cat Bellsってこれか?猫鈴!じゃあ、"CAFE"&"JAPAN"って猫の名前なんじゃないのか?即席チームとかどこかの記事で書きましたけど、即席も即席、下手すると猫のチームです。これはまいった!玉置さん猫好きですから、チャチ、フラッグみたいな猫がたくさんいて、このときはCAFEとJAPANがいたのかもしれません。メロディーももともと猫の名前だという話があるくらいですし、ありそうな話です。

猫鈴に続けてストリングスがフェードイン、シンバルが鳴り響き、すぐにアコギのアルペジオ、ボーカルが入ります。ほぼギターのみの伴奏でAメロを一回、そして繰り返しのAメロにベースとストリングスを重ねます。さらにシンバルのシュワアアアアン!という音……これは『カリント工場の煙突の上に』でもしばしば聴くことができますね。同じシンバルじゃないでしょうか。玉置さんはシンバルにもかなりこだわりがあるようですから、選び抜いたものを愛用なさっているんでしょう。わたくしなどスタジオにあったシンバルを全部叩いてみて(たいがい数枚しかありません)、ああこれでいいやってくらい適当に音を録ります。玉置さんは音色へのこだわりがまるでレベル違い、いちボーカリストを完全に超えた領域まで自分の音を作りこんでいることがわかります。

壮麗なストリングスをバックに玉置さんがサビを切々と歌います。この箇所、ポクポクポク……と何かリズム楽器が鳴っている……パーカッションだろうか?と思うんですけど、よくよく聞いたらこれは玉置さんのアコギによるアルペジオであることがわかります。いままでもこうしたことは何度かあったのですがわたしが確信したのはこの箇所です。アコギのアルペジオがリズム楽器のような役割を果たしていたのでした。むう!こんな手法は思いもよらなかった!もしかしてアルペジオと一緒に同じタイミングで音色のよく似た打楽器を鳴らしているのかもしれませんが、わざわざそんなことをする意味がよくわかりませんので、さしあたり名前を付けておいて、いずれ他の曲でも検証をする際のために書きやすくしておきたいと思います。「パーカッシブ・アルペジオ!」どうだ!(プロレスの必殺技を命名するアナウンサーの気分)。そのパーカッシブ・アルペジオとベースによるリズムキープ、壮麗でスローなストリングスをバックに、「おやすみ」「おはよう」という日常の会話にあるようなことばが歌われていきます。「花のように」「風のように」……これは!「Honeybee」の記事でわたくしが書いて完全にハズした妄想の世界じゃないですか。蜂さんと花が邪念なくただただ自然に自分の役割を果たすという尊い世界!というか玉置さん!ほんとはこの曲がHoneybeeだったんでしょ!蜂と花の夜と朝を歌う尊い歌だったんでしょ!ところが途中で「Yes!Honebee!」とか歌いだしちゃって、いつのまにか入れ替わったんでしょ!いやこれ、もちろん何のソースもなくわたくしが思い込んでいるだけなんですけど、わりと自信ありますよ!真相は玉置さんとごくごく限られた人しか知らないから好きなこと言ってます(笑)。たんに当時この歌を聴いてその歌詞の世界に感銘をうけたわたくし、朝になったら風のように自然に会う……蜂と花のようだなあ……なんて妄想をしていて、その前曲がたまたま「Honeybee」だったから、むう!これは曲名を取られてしまったに違いない!なんて思っただけのような気がします。でもまあ、この「愛を伝えて」が一年以上前から存在していたんですから、この曲のモチーフが蜂と花なのは当たっていたとして、それをもとにあとから蜂の歌を作ったということなのかもしれません。もちろんそうでないのかもしれませんねえ。さてストリングスが途切れシャアアアアアン……とシンバルが鳴り、アコギのアルペジオのみでゆっくりと玉置さんが「君だけを愛してる」と歌います。Cat Bellsもチリチリと……蜂とか花とかでなく猫のことだったのかもしれない……(笑)。

アルペジオがひときわ目立ち……ああいい音だ……と思っているうちにストリングスとベースが再開、歌は最後のパート、Aメロに入ります。ストリングスとベース、パーカッシブアルペジオ、ときおり「ガタン!」と響く低音のパーカッション、フル構成で歌の最終局面を盛り上げます。最後の「愛を伝えて」あたりからCat Bellsも聴こえてきます。Cat Bellsが大きめに響き続けるなか、玉置さんのソロが入ります。ポロロポロロと、これまたいい音です……ガットギターを指で強めにはじきながら一音一音丁寧に弾いたのでしょう、ストリングスにベース、キラキラキラ……とこの曲で何度も用いられてきた(のにいままで言及していなかった)ウインドチャイムにも似たシンセの音……そしてシャアアアアンというシンバルが遠くで響きCat Bellsだけを残して曲は終わってゆきます。

この当時はまだ『カリント工場の煙突の上に』における玉置さんの詞の世界をあまり理解していませんでしたので、実はこの「愛を伝えて」の歌詞がはじめてわたくしがハマりこんだ玉置さんの歌詞になります。それこそ松井さんの「La-La-La」とか「」のように、何度も書いてでも覚えようとしたのは、玉置さんの歌詞では初めてです。書くだけでなく、コピーして歌おうとしていました、歌ヘタなのに(笑)。もちろん酷い弾き語りで悦に入っていたんですけども、いまでもガットギターを抱えるとこの曲をポロポロと自動書記的に弾いてしまうことがあります。それだけ、当時のわたくしに染みたのでした。人はなぜわざわざ争ってまで仕事をするのか?人はなぜ駆け引きしてまで異性を求めるのか?そこまでして何が得られるというのか?それで得られたとしてそれがなんだというのか?……こうした今となっては青臭い青年の悩みに苦しめられていたのだと思います。青臭いなどと上から目線で書いておきながら、実はいまだに答えはわからないんですが。わからないままにしておくことにガマンできるようになっただけです。そういう、子どもなんだか大人なんだかよくわからない精神状態と、玉置さんの猫への思いと(笑)、世の中の行き詰まり感が絶妙にマッチングすることによってこの曲にハマりこんだのだと思います。玉置さんは相変わらず猫がお好きでしょうし、悲しいことに世の中も26年前と同じように行き詰っていますから、この曲はいまでも同じ輝きを放っているものとわたくし確信しております。あとは青年期の悩みだけ!(笑)

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2022年08月31日

Honeybee


玉置浩二『CAFE JAPAN』八曲目「Honeybee」です。

LOVE SONG BLUE』『CAFE JAPAN』『JUNK LAND』の復活三部作(わたしが勝手にそう呼んでいるだけです。「ベルリン三部作」みたいなファンならみんな分かるような用語ではないのでお気をつけください)にはこういうきわどい、暗示的にか明示的にか性行為を表現した楽曲が散見されます。特にこの曲は明示的で、コメントに困っていけません(笑)。『LOVE SONG BLUE』だと「ダイヤモンドの気分」とか言ってもうちょっとオブラートに包んでいましたよね玉置さん!

さて曲はアコギと思しき澄んだ音がポロンポロンと右左から聴こえてきて、一瞬バラードなんじゃないのかと思わされます。ああ、題名がハニービーだから、花から花へ飛び、花粉を与えたり蜜をもらったりというそういう働き者の蜂さんの話なのかもしれない、そうだ、わたしたちは蜂のように生きるべきなのだ、蜜をもらう蜂は花に許可をもらったり申し訳ないという気持ちになどなったりしない、かわりに花粉を運んであげるのだから感謝せよとか恩着せがましい気持ちにもならない、交渉もしない……本来社会で働くとはそういうことなのだ、あるがままに自然に、各自の役割を果たし、それが何のためかとか死んだらパーとかそういう共同体主義とか個人主義とは無縁なものなのだ……ただあるがままに自然で尊い、ただひたすらに尊い、そういうものなのだ……「大きな"いちょう"の木の下に」「フラッグ」とは違った方面で働き蜂であるのに蜂のように自然に生きられないわたしたちの悲哀を攻めてきたか……さすが玉置さん……などと勝手に感心していたら、「イーアーパーストミニッ!イーアーパーストミニッ!」などと意味不明な悩ましい声で玉置さんが囁きだしたかと思えばズットン!ズットン!と艶めかしいリズムが打たれはじめ、おや何か様子が違うぞ?と困惑している間に「Yes! Honeybee!」の掛け声とともにアコギのカッティングに不穏なシンセが流れ始めます。「満月」だからためす?窓全開でとばす?な、何を?こ、これは、ぜんぜん違う歌でした(笑)。

蜂はふつう夜には活動しませんから、もう本当にノリで「Honeybee」って決めたんだと思います。なんとなく性行為を暗示させるよな、いろいろな点で!という感覚の問題でしょう。「ロケット」が男性器のイメージをもつとか「蜜」が分泌液のイメージをもつとか、いろんな意味でいちいち細かい解説を入れるのがためらわれる歌といえるでしょう。そういうものとしてこの文章もお読みいただけると幸いです。い、いや、わたくしここまでわかりやすいと逆に書けなくなるんです。松井さんの比喩はもうちょっと遠かったですから書く隙間があったような気がしたんですが、玉置さんと須藤さんはモロにその隙間をドカンと埋めてきました。

さてロケットがGOしまして曲は急展開、これまで元声ひとつとオクターブ上の声しか入っていなかったボーカルが、普通のハモリ音程になります。これが急に切迫した感じを演出していけません。ああ、始まったか……(笑)。途中でバカげた乱舞とかしてますけど、それもすべて基本行為中です。「別れた女のフリして」は正直意味がよくわかんないですけども、玉置さんほどの遍歴を重ねた情熱家ならばわたくしなどの想像が及ばないいろんな思いが去来するものと思われます、行為中に。

さて曲は間奏、ソロのない間奏で、アコギのカッティングがよく聴こえます。パラパラパラ〜と広がる安藤さんのキーボードもよく聴こえます。この曲はお二人だけで演奏しているのですが、ここからの三曲はほぼこのお二人だけなのです(「愛を伝えて」だけCat Bellsに違うクレジットが入っていますが)。よほど相性がいいと見えます。こんなに玉置さんが一人のミュージシャンと一対一で曲を作り上げたのはBAnaNAさん時代以来ではないでしょうか。こんな感じのキーボード入れたいなあって玉置さんが思うところを安藤さんが勝手に受信して的確に入れることができるくらいでなければ、こういう関係は築きにくいでしょう。「さっちゃんは音楽を作れる仲間だと思った。そういうやつが欲しかった」(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)とまで玉置さんに評価されている安藤さんの存在は、この復活三部作の中でどんどんと大きくなってゆくのでした。

二番に入りまして、もちろん話は全然進んでおらず同じような濡れ場が描かれるんですが(笑)、これは二晩のことを歌っているのでなくて、同じ一晩のことを違う角度から描いたってところでしょう。一番ではまだ描写が客観的でしたが、この二番はもはや副詞だけというか、何やってるんだかさっぱりわかりません、「イライラ」はまだわかるとしても、「ブラブラ」「ブルブル」「グルグル」はもはやなんだかわからないし、あまり想像したくもないです(笑)。さほどに強烈かつ直接的でピンポイントすぎて、完全に脳内だけで起こっていることを身体が行っていることから切り離して表現したんじゃないかってくらい、傍からはわかりにくいものです。長嶋監督がバッティング指導するとき「ピャッときてバッと打つ」とか言ってほとんどの選手にはさっぱり伝わらなかったのと同じく(松井選手だけわかった)、天才の感覚的な表現というのは往々にして凡人にはわからないものなのでしょう。榎本喜八選手も現役時代にバッティングのアドバイスを求められ「体が生きて間が合えば必ずヒットになる」などといっていたせいか、あれほどの大打者でありながらコーチや監督を一度も経験せずに亡くなったのでした。玉置さんの天才ぶりは、長嶋榎本レベルか、あるいはそれ以上なのだと思い知らされる歌だといえるでしょう。

そしてサビのあと「Yes, Honeybee」のフレーズを二回繰り返します。「どうしたんだい 元気出して 一緒にいこう」?元気ないんですかね?夜じゅう頑張りすぎたのか、あるいはもう夜は明けていて別の誰かに言っているのか……いやいや!そんなふしだらなことは!(笑)

これも、時系列で考えるべきでなく、相手は同じ、シチュエーションが違っているのに一曲の中で重なる、時間や空間をすっ飛ばした(一人の相手への)強烈な愛情を表現しているものと思われます。あるいは、愛欲とか蜜蜂の労働とかそういう文脈の次元すらも吹っ飛ばして、玉置さんが多くの人たちに「元気出せよ!一緒に楽しもうぜ!」というメッセージなのかもしれません。わたしたちは文脈の中に生きていてあまりそこから離脱しませんので、ちょっと意識を飛ばさないと「そうだ!クヨクヨしてないで楽しまないと!」とは思えないわけですが(あんたいま行為中じゃん!)。

さて曲はいったんブレイクしまして玉置さんのシャウト、そしてギターソロに入ります。一分弱の長いソロです。あまり音程を大きく動かさずチョーキングを多用したエモーショナルなソロです。以前にも書きましたが、ギタリストだとここまで思い切ったソロはなかなか……あちこちのポジションを使って華麗に弾こうなんて思っちゃいますから、これは逆に難しいといえます。そしてアルペジオ、一瞬復活したドラムとベース、またアルペジオに玉置さんの囁き……これは次作『JUNK LAND』にもしばしばみられるのですが、こういう余韻というか、感情の流れ・動きをストレートに奔放に表現した箇所といえるでしょう。

この曲、玉置さんには大きな手ごたえがあったのでしょう。おそらくはお気に入りナンバーとして『安全地帯XIII JUNK』にも安全地帯で再録されています。

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