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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。
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2022年12月02日

太陽さん


玉置浩二『JUNK LAND』一曲目、「太陽さん」です。このオープニングナンバーで一気にハートはわしづかみ、歌詞カードの基調たる黒の雰囲気、皆既日食の闇に太陽光を求めて叫ぶかのような張り詰めた境地へと一気にダイブインです。

カッカカ!ンカッカカ!(バアン!)……と玉置さん自ら叩くパーカッション、そこへ玉置さんの「たいよう〜さ〜ん」と歪んだ声、ガットギターの低音弦アルペジオ、エレキギター、そしてベース……これはすべて玉置さんが自ら演奏しています。自分で全部これを思いついて演奏しちゃうからすごいですよねえ……このアルバムでは、半分の曲でベースを須藤さん、キーボード全部を安藤さん、基本的にはこの三人だけでほとんど演奏していまして、この「太陽さん」では玉置さんと安藤さんだけです。「まったくデモ・テープのまま」(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)と玉置さんは語っていますが、プレスしてリリースしたんだからそれデモテープって言わないんじゃないかと思います。

ちょっとうんちくを言いますと、まず曲を作る人がデモを作るんですよ。こんな感じの曲ねってメンバーに聴かせるやつです。自分の得意な楽器はそこそこちゃんと弾いて録音しますけど、そうでない楽器は超テキトー、ドラムはしばしば打ち込み(ドラム録音するの超ダルいんです)、ひどいときはキーボード弾けなくてギターで代わりをさせたりします(あちき)。ですから、通常はデモなんて恥ずかしくてメンバーにさえ聴かせたくないレベルのものであることがしばしばなのです。玉置さんは「テープ」って言っていますけど、それはおそらくカセットテープで作る時代の名残か、もしくはいきなりオープンリールテープで録音できる施設設備を使い放題だったかのどちらかでしょう。あるいは、当時はA-DATといってVHSテープを用いた簡易的なデジタルレコーディング機器が流行っていましたからそれかもしれません。レコーディングは信濃町スタジオで行ったそうですから、この「デモ・テープ」がそもそも信濃町スタジオで作られた、そこの施設設備を使用していたということなのでしょう。つまり玉置さんは平素からこのような形でデモを作るわけです。わたしからみるといきなり本番、専門ミュージシャンに頼む意味がないくらいの演奏をして重ねていくということです。もうこれでいいじゃん!というレベルのデモをこれまでも作っていたのでしょう。さすがに安全地帯の時代はメンバーに渡すカセットテープに生ギター弾き語りのようなデモが多かったと推測されますが(松井さんが作詞用に初めて受け取ったのもそのようなカセットテープ)、この時代にはへたすればちょっとしたアマチュアなら持っているくらいデジタルレコーディング機器(MDとかA⁻DATとか)は一般的になっていましたし、玉置さんはスタジオを自由に使える環境にあったわけですから、これはソロの自由さと技術の進化となにより玉置さんの勝ち得た立場によってこうした環境が成立し、奇跡のアルバムが生まれる土壌が整備されたといえるでしょう。

さて曲は半音階でババババ〜と下がって唐突に歌が始まります。「あなたが常に大事に思っているもの」……うん、愛だろ(笑)。でも「愛はどこかたよりなく」って否定的にわざわざ歌っているしなあ、などと考えているとなんだかよくわからないのでしょう。玉置さん的には「音楽」なのかもしれませんし、わたくしのような卑しい小市民には「金」とかしか思いつかないかもしれませんし、みなさまにはみなさまのさまざまな「常に大事に思っているもの」があるのでしょう。しつこいようですがわたくし、影になっても毎日けして絶えてほしくないです、金は。ここで玉置さんはディレイ(ヤマビコ)をかけて暗闇の広い空間をイメージさせる歌声で歌います。きっと眉間にシワ寄せて歌っているであろう、絶好調の玉置さんです。安全地帯のときと比べると高音域の倍音がやや減ったかな……くらいの、まだまだ絶頂時というか、玉置さんソロといえばこの声でしょ!安全地帯の玉置さんとは違ったもうひとつ確立されたスタンダードともいえるイメージ通りの声です。

歌はBメロに入りますが、伴奏は相変わらず、低音弦のアルペジオ……これ効いてますよね、同じことずっとやってるのがまた。当時はガットギターが家になかったのでフォークギターでずっと一緒に弾いてました。途中で我慢できなくなるんですよ。うわもう限界!って。現代だったらDAW上でコピペすりゃいいんですけど、当時はホントに全部弾かないといけませんでしたから、玉置さんの指と忍耐力どうなってんの!と訝しく思ったものです。

「とりとめのない今日」は今日なんですが、とくに言及すべきことのない今日、いつも通りの今日、日記のネタがない今日です。聞くがよい現代っ子よ!当時は日記を書く人がたまにいたんだぞ!twitterとかじゃないぞ!紙だぞ!どうしてそんなもん書くのって不思議に思うかもわからないかもしれないけど、人間がものを書く動機には承認欲求だけでない何かがあるんだ!魔太郎日記みたいにひどい目に遭わされたとか殺したいとかそういうことを書く人もいないわけじゃなかったけども!(若い人にわかってもらう気があるんだかないんだかわからないメッセージ)ともあれ、SNSなど影も形もなかった時代、他人が何をしているかは電話とかで断片的にしかわからなかったし、そもそもそんなに関心もなかったのです。だから愛しい人と「二人でいれるように」なのです。この人がいなければほかの人でいいやとか、そういう向きもなかったわけじゃないですが、現代よりはかなりそういう感覚は薄かったのです。

トゥットゥットゥルッ!トゥットゥットゥルッ!……とハモリの入った鮮やかなボーカルリフで「ジャイーン!」と武沢さんのようなギターを合図に一気に曲は急展開、サビに入ります。ベースはズイーン!ズイーン!と重くこの急展開をせわしなく聴かせない安定感をもって曲を支えます。うーん、たしかにこりゃ玉置さん自分でベース弾いたほうがいいですね。呼ばれたベーシストにこれはできない気がします。

輝く星の夜なのにあの娘に逢えない、あの娘にさみしい、せつないと伝えておくれ太陽さんよ……いやLINEすればいいじゃんと思う人にはわかりません。いや現代でもわたくしLINEできないっすね、昭和の男ですから。若い人にはしばしば露骨に何言ってんのバカじゃないのって顔をされるんですが、できないんですよ。そもそもLINE仕方なく連絡に使うことがあるだけであんまり語りたくないし。西部警察で事件解決後に裕次郎と渡哲也が「いやボス!じつはあそこでホシがわかっていたんでしょうさすがです」「まあな」みたいなLINEしてたらコケちゃうじゃないですか。直接顔を見て酒を酌み交わすだけで語らない、それだけで伝わる、そういう呼吸を失ったら人間の尊厳は終わりです。甘ったれた一部の若者に合わせろといわんばかりに「昭和モデルから脱却しよう〜令和型のコミュニケーションとは」みたいな下劣極まりないヤング提灯記事を書くライターがウジャウジャいる時代にはすでに終わっているのかもしれませんが……。でも「太〜陽〜さ〜ん〜」のこの歌声、まさに太陽神ヘリオス、大日如来に祈りを捧げるかのようなすさまじいボーカル、これはもう神秘の域にすら達しているんじゃないかと思えてくるほどですが、これを聴くとまだ人間を信じられる気がするのです。

ドラムが入り、ベースも短く刻まれ始めて二番に入ります。展開は同じ、ですが今度は男の生きざま的な話になります。思ったまま、まっすぐに信じてきたように生きて、誠実であろうとする。「人を困らせるような強い正義はなく」と心がけて生きる。なんということだ、イメージの玉置さんそのままだ!傷つき倒れて、復活して、大きく成長した玉置さんだ!だからこんなに胸をうつ生き様を描き、そして歌えるんだ……わたくしここを聴くだけでいまだに涙が出てきそうになります。あ、いえ、令和型のコミュニケーションとかわけのわからないことに大迷惑を受けて憤慨している毎日に疲れているわけではなく(笑)。若い人に挨拶や労いのLINEなんか送れねえよ!そもそも若いころ女の子にそんなに電話したか?若いころにオバサン世代の上役から頻繁に電話きてたか?それと同じことだぞ!おはようからお休みまで暮らしをみつめる感じでLINEなんかしてられるか!ああ、やはり疲れているようです(笑)。

Bメロ、「年老いたオヤジのほこりになれるような」にも胸が締め付けられます。いや、うちのオヤジももう人生の半分近くは平成〜令和なんですが、昭和の男の見本はオヤジなのです。オヤジに顔向けできるできないは昭和の男として大問題です。もはや道徳規範です。太陽さんは何も語りませんが、オヤジはたまに語ります。たまにしか語らないから言葉を選ぶんでしょうけども、短く、説得力のあるセリフを吐きます。ちくしょういつまでも敵わねえな、ぜんぶ見通してるぜ、と思わせられるのです。実際はたぶんよくわかってないんだと思いますが(笑)、だからこそ口数は少ないのが吉なのだと教えてくれるのです。おれはオヤジの誇りになれているんだろうか……自分が子のオヤジになったいまでも思うのです。

そしてボーカルリフ、サビへと入ります。今度は星も見えない真っ暗な夜です。さっきと逆ですが、だからこそ逢いたくなるあの娘に、さみしくなっている、せつなくなっているあの娘にキスしてやってほしいんだ、たのむよ太陽さん!自分がキスしたいんじゃない、太陽さん、あなたの恵みを与えてやってくれ、祝福してくれ、God save, God bless, の境地です。玉置さんがビブラートでのばす「太陽さん」の心境はひたすらに敬虔なのです。 鑽仰なのです。自分が自分の利益のために祈るのではありません。星が見えない日に切なくなっているあの娘に届けたい恵みがあって、それを施すことのできる唯一の存在である太陽さんにただ祈るのです。

そして教会の鐘のように、パイプオルガンのように鳴り響く、安藤さんのピアノが、この神聖な祈りに光を与えんばかりに響き渡ります。ギター、ベース、ドラムはいきおい不規則さを増してゆき、混濁してゆく祈りの意識を支え続けるかのように鮮やかに曲を最後までリードします。ギターがハーモニクスをまじえて壊れ、つづいてピアノも砕けてゆきます……。

一曲目からとんでもない曲が来てしまった!と大当たりを確信したわたくし、もうここからラストまで完全に虜です。この曲があんまりよかったので、しばらく『GRAND LOVE』の意味が分からなかったくらいです(笑)。そんなわけで、この曲は一気にワープさせてくる曲ですので、それなりの覚悟をもって臨んでください!

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posted by toba2016 at 15:40| Comment(4) | TrackBack(0) | JUNK LAND

2022年11月27日

『JUNK LAND』


玉置浩二6thアルバム『JUNK LAND』です。1997年9月、もう肌寒かった記憶がありますがまだ9月だったのですね……8月に「MR. LONELY」が先行シングルで出ていましたから、アルバムももうすぐかな、それとももう一枚くらいシングル出してくるかなと思っていたころの発売でした。

前作『CAFE JAPAN』で大成功を収めた玉置さん、二匹目のドジョウをわざわざねらうような人ではないので(それはとっくに懲りてるはず)、どんな方向に行くのだろう?とわたくしまるで予想がつかずにおりました。新星堂で買ってきたこのアルバムを、さっそく部屋のCDプレイヤーにインサートしまして、呼吸を整えてから再生ボタンを押しますと……何やらリズムを刻む音、「たいようさ〜ん」と歪ませた玉置さんの声、嫌な予感!この手の歪ませたボーカルでマトモな曲を聴いた記憶がないのです。アコギの低音弦アルペジオが響き、イヤな予感は増大していきます。ともかく、二匹目の『CAFE JAPAN』でないことだけはわかりました(笑)。歌が始まり、歪んでいないことにちょっとホッとしつつ、歌詞カードをみて……「太陽さん」の間奏で安藤さんのピアノを聴いたあたりでイヤな予感は外れたことを確信します、見事に。そのあとはむさぼるように、一気に聴きとおしました。なんだこりゃ!信じがたい大傑作だぞ!まさかと思ってましたが『CAFE JAPAN』を超えてきたのです。

本ブログでつい先日まで『EARLY TIMES』を扱っておりまして、とくにカップリングの曲を変だ変だといいまくってきたのですが、このアルバムではその「変さ」が変なまま名曲に昇華されている印象なのです。変さが、『LOVE SONG BLUE』『CAFE JAPAN』のノリ方法論とポップセンスに揉み直されて、問答無用にこちらの脳髄をズンズンと刺激してくるようになった、別の言いかたをすると、こちらから受け取りに行かなくても直接届くようになったような感覚があります。ですから、極端にいえばここまでの玉置ソロはすべてこの『JUNK LAND』へと流れ込むように作られており、これ以降の玉置ソロもすべてこの『JUNK LAND』にその源泉を見いだすことができる……いやそれは言い過ぎか(笑)。でも、ここですべての伏線が回収されたような感覚を覚えたものです。

ただ売り上げは十万枚強程度、『CAFE JAPAN』の三分の一にも届きませんでした。やはり「田園」と「メロディー」は強い……当時はタイアップだとかシングルチャートだとかがとにかく影響力強くて、みんなどんだけドラマ観てシングル買ってカラオケ行ってんのよと思わせられる時代でした。そして、シングル売れてんのにそれを収録したアルバムも売れるという謎現象も起こります。アルバム買ってんならアルバム曲も聴くつもりがあるんじゃん、どうして次のアルバム買おうと思わないの?アルバムを優先して買い、シングルにしかない曲があった場合にシングルを買うことの多い(「田園」とか「惑星」とか)わたくしには正直よくわかりません。

このアルバムもべつにプロモーション的なことが弱かったわけではなく、先行シングル「MR.LONELY」があり、そしてしばらくのちにリメイクされシングル化した「しあわせのランプ」があり、そしてこれはわたしの記憶にあるだけで(YouTUBEでも発見できず)断定できないんですが、「CHU CHU」が缶コーヒーのCMタイアップだったと思うのです。さらには紅白歌合戦で「MR.LONELY」で瞬間視聴率最高(当時?)を叩き出したわけですから、もう少し売れてもいいのにな、とは思います。

1.「太陽さん」強烈な印象を残すオープニングナンバー、これがシングルでもいいのに!
2.「闇をロマンスにして」ミドルテンポのポップスです。これもシングル級です。
3.「NO GAME」なんていうんでしょう?リズムでグイグイ押してくるポップスです。
4.「さよならにGOOD BYE」これも前曲同様、遊び心たっぷりのリズムポップスです。
5.「JUNK LAND」タイトルナンバー、シングル向きではありませんが、これが最高の感動を生む壮大なスケールのポップスです。
6.「ラストショー」一転して静かなバラード、玉置さんが誰か老歌手に捧げたんじゃないかと勝手に思っています。
7.「スイスイ」この曲はおれのことを歌っているでしょ!とおそらく多くの人が思わされたことと思います。わたくしもそうです(笑)。共感しまくりポップスです。
8.「我が愛しのフラッグ (Instrumental)」ギターとピアノのインスト、愛猫に捧げられています。
9.「風にさらわれて」『CAFE JAPAN』の「あの時代に」や「フラッグ」に似た望郷ポップスです。
10.「CHU CHU」缶コーヒーのCMに使われてた……と思うんだけどなあ(しつこく)……ノリのいいロックです。
11.「金持ちさんちの貧乏人」これも軽快!「JUNK LAND」と同系統のポップスです。
12.「MR.LONELY」シングル曲で、「メロディー」の後継ともいうべきアコギの郷愁ソングです。
13.「おやすみチャチ (Instrumental)」「太陽さん」のテーマがギターとストリングスで奏でられる、これまた愛猫に捧げられたインストです。
14.「しあわせのランプ」のちのシングル曲で、これも「メロディー」の後継といえるでしょう。圧巻のアコギ応援ラブソングです。

なお、いまはなきソニー信濃町スタジオで録音されています。須藤さんと自宅で風呂入ってスタジオ戻ってまた自宅で風呂入って……と須藤さんと二人三脚で作ったそうですが、須藤さんもさすがに限界を感じたのか、これが須藤さんと最後のアルバムになりました。時を同じくしてというかだいたい同時期にツアー中に病気をしたことに端を発し、玉置さんはこのアルバムのあと東京を離れ軽井沢に移住します。JUNK LAND、ガラクタだらけの街東京、バブル崩壊から六年、東京だけは繁栄を維持しようとガラクタがガラクタを生み、ガラクタでないふりをしています。CAFE JAPANを入り口に迷い込んだ若者は、ガラクタをガラクタとわからず疲弊していきます。ひび割れた大地に一本だけ生える名もなき草だけがガラクタでない本当の生き物で、それにようやく気がついたときにはすでに中年、もう身ぐるみはがされていて、愛おしむように草を握りしめ倒れるのです。「生き方を変えないともう無理」(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)だと感じた玉置さんは東京を離れ、ここから数年、安藤さんとの軽井沢時代へと突入してゆきます。

ともあれ、今年中に『JUNK LAND』に入ることには成功しました……今年の年始か昨年末に、2022年中に、ええと……あと『カリント工場の煙突の上に』が少し、『安全地帯アナザー・コレクション』、そのあと『LOVE SONG BLUE』『CAFE JAPAN』『JUNK LAND』の四枚で全部合わせても50曲くらいだから、まあ行けるでしょ!くらいに思っておりましたもので『JUNK LAND』までいくと宣言したのですが、いろいろ忘れておりまして、結局こんな年の瀬でようやく入れることになりました。いやいやいや、軽口叩くもんでないんですが、軽口叩いてあとからなんとか辻褄を合わせるくらいのことをしないとわたくし平気でさぼりますので、このくらいがちょうどいいのかもしれません。でも、さすがに今年はキツかったな……今年もあと一か月くらいですが、できる限りでこの『JUNK LAND』の解説をしてまいります。皆様どうぞよろしくお願いいたします!

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2022年11月25日

『T』


玉置浩二初のライブアルバム『T』です。
安全地帯六曲、『あこがれ』から二曲、『カリント工場の煙突の上に』から一曲、『LOVE SONG BLUE』から四曲、アルバム収録のなかったシングルから一曲、全十四曲です。1995年7月17、18日、いまはなき東京厚生年金会館収録、前アルバム時のツアーからの音源です。

なお、同18日の様子はDVD『玉置浩二"LIVE"最高でしょ?』として映像化されています。曲目はだいたい重複していますが、DVDのみの収録が「いい顔で」「I'm Dandy」「プルシアンブルーの肖像」「最高でしょ?」「愛してるよ」「どーだい」「夏の終りのハーモニー」の七曲、CDのみの曲が「コール」一曲になります。

『LOVE SONG BLUE』のときにだいぶ語ってしまいましたが、一部重複を覚悟でメンバーに言及しますと、ベース六土さん、ドラムに田中さんが参加、そしてのちのパートナー安藤さんがキーボード、しばしば安全地帯や玉置さんのソロ作品に参加される飛鳥ストリングス(金子飛鳥グループ)、ギターに鈴木茂さん、コーラスに奥土居美可(美香名義)さん、ピアノに倉田信夫さん、サックスに古村敏比古さんが参加されています。

わたしの馴染みのある楽器がどうしても耳に入りやすいもので、彼らの素晴らしいプレイもちゃんとは味わえてないんだとは思いますが、非常にいいライブです。鈴木さんのスーパーナイスなギター(こんな音でライブやってみたい!やればいいじゃんと思うかもわからないですが、この音はダメなんですよ、ヘボがやるとただの丸い音です)、古村さんの恐ろしくよく通るソウルフルなサックス、そしてわたくしイチオシ!奥土居さんのコーラス、彼女の歌が聴けるのはわたしがもっている音源ではこれだけなのですが、おもにジャズをお歌いになっておられるようですので、何枚か買ってみようかなと思うくらいお気に入りの声です。倉田さんのピアノ、六土さん田中さんのリズム隊は安全地帯時代を彷彿とさせる職人ワザ、前に出てくる人たちの音を引き立ててくれます。そしてもちろん安藤さん……玉置さんの音楽をもっともよく理解し、全体のバランスをとることに腐心されていたように思われます。さすが後の……としかいいようのないキーボードワークです。玉置さんと奥土居さんというスーパーボーカリスト二人に古村さんという異様に音の目立つフロントマン陣、六土さん田中さんという玉置さんのもはやソウルメイトリズム隊、そして異様にナイスな孤高の存在感を放つ鈴木さん倉田さん、こんなメンバーの間で隙間を埋めつつ安全地帯・玉置浩二の音楽を演出するキーボードを弾け、なんてふつうムリですよ。全国の高級和牛肉が乗っているバーベキューコンロの上にあと一つ何かを乗せろ、飯をマズくしたらタダじゃおかないぞ!といわれているようなものです。しかし、よくこんな人たち揃えましたね……この後玉置さんは可能な限り自分自身で音を出して録音してゆく路線を爆走してゆきましたから、こんな豪華なメンバーは後にも先にも……といいつつ、ツアーというツアーで新たに驚くような人を連れてゆくのも玉置さんではあるのですが。

そしてもちろん玉置さん、絶望の時期を乗り越え、ゴキゲンなアルバム『LOVE SONG BLUE』をひっさげてツアー、テレビ出演など積極的にこなしていた時期の、絶好調の玉置さんです。玉置さんのボーカリストとしてのフィジカルが全盛期だったのはこの時期だったのではないかと、わたくし思っております。ハリのある、フェイクの少ない、なめらかでダイナミックな節回しとそれを支える肉体、こればかりはどうしたって若い時のほうが元気です。この時期に安全地帯が活動不能になっていたとはなんという運命のめぐりあわせか……後年の玉置ソロや安全地帯の復活を知っている私たちからみればこれは偶然でも不運でも何でもなく、必然だったのだとわかりますけども、当時は誰も、もちろん玉置さん本人でさえ、そんなこと知らなかったのです。このメンバーで、安全地帯時代からすれば人数は半分くらいですし、この東京厚生年金会館も2000人クラスのホールですけども、それだからこそこのライブ音源は光っています。一万人が息づく武道館とは音の響き、通りが全く違うことが一聴してハッキリわかります。

鈴木さんのギターサウンドで始まるこのライブアルバム、一曲目が終わったあとに大瀧が出てきて「はっぴいえんどです」って言うんじゃないかと一瞬ヒヤッとしますが(笑)、玉置さんのシャウトではっぴいえんどの影は吹っ飛び、鈴木さんのギターもアンサンブルに溶けてゆきます。サビで奥土居さんの透き通った「ガンバッテ」がなんと凛としていることか!この「正義の味方」でこのコンサートは成功を約束されたも同然のサウンドです。

そして「情熱」「キ・ツ・イ」「じれったい」と古めの曲が入ります。安全地帯と違ってギターは鈴木さんだけですしコーラスも奥土居さんだけ(いや六土さんも)ですが、それを感じさせない、いや感じるんですが(笑)。新しい形の演奏を聴かせてくれます。

新曲「ふたりなら」がほぼ安藤さん倉田さんの鍵盤組と玉置さんのアコギ演奏でしっとりと奏でられます。後半でフルバンドになるんですが、アルバムとは明らかに違うこのしっとりアレンジ、いや、これアルバムよりいいと思いますよ!惚れ惚れする倉田さんのピアノがそのまま「あの頃へ」と流れてゆきます。『LOVE SONG BLUE』が寒い冬にリリースされたアルバムだからでしょうか、「あの頃へ」と妙にマッチングしています。安藤さんのシンセ、そして鈴木さんのアルペジオが泣かせに来ます。イヤちょっと待て、安全地帯を越えるな!(笑)と言いたくなるくらい見事な演奏です。安全地帯のアンプラグドツアーを経て、玉置さんもかなりアルバム通りに演奏することへの志向を改めたんじゃないのってくらい、この二曲は卑怯なメンバーで卑怯なアレンジです。

そして「カリント工場の煙突の上に」、田中さんの細かいロール、大音量の鈴木さんギター、六土さんのボッキボキのベース、これもアルバムとは違ったプレイヤーの個性を反映したサウンドに仕上がっています。「レコード通りに」と言ってBAnaNAを怒らせていたほんの数年前の玉置さんはどこへ行ったのか、すっかりクラブチーム型のバンドマネジメント(理想像が先でそれに人が合わせる形でなく、いまいる人が先でその人たちのできることのなかに最適解を求める形)になっています。

つづきまして「ROOTS」「ワインレッドの心」、わたくしこのライブアルバムの中でこれらが一番の聴きものだと思っています。ここまでの曲でわかってきたメンバーのプレイが、いちばん遺憾なく発揮されているように思われるからです。

「悲しみにさよなら」「I Love Youからはじめよう」は安全地帯のヒット曲を連発したものですが、いまいるメンバーでこれらの曲をやってみるとしたらこんな感じかな?という予想にたがわぬ見事な演奏です。これは安全地帯でなく玉置ソロなんだ……と演奏がものがたっていてすこし切なくもなりますが……六土さんのコーラスがあたりまえに安全地帯のときそのものですので、寂しさもひとしおです(笑)。かつての代表曲を演奏するのは、いってみればファンサービスだとは思うのですが、会場にいた多くの人は、これを待っていたんだと思います。期待を裏切らないくらいには安全地帯の演奏を再現していて(というか安全地帯五人中三人がいるんですから当たり前ですが)、コンサートはクライマックスを迎えます。

つづいて「ロマン」、倉田さんのピアノに、飛鳥ストリングスが絡んでゆく、この美しい演奏、玉置さんの歌もなんと激しく切ないことか。つづいて「コール」も玉置さんのアコギのほかはピアノとストリングスです。『あこがれ』のときはリバーブがガンガンかかっていましたけども、これは生の玉置さんに近い歌が聴けます。玉置さんもリバーブお嫌いになっていた時期ありますが、そのとおりリバーブ薄いほうがいいじゃん!と気づかされますね。そしてラスト「世界中の人が仲良く暮らせるように」と歌い始める「星になりたい」、これら三曲は聴くタイミングを間違えると号泣ものの切なさ爆発演奏です。飛鳥ストリングスが大音量でアウトロを奏で、玉置さんの異様に上手な口笛で、このコンサートは終わります。

さて、セットリストというか収録曲は以下の通りです。上に語った通りではありますが、当ブログ記事へのリンクと一緒に掲載いたします。
1.「正義の味方
2.「情熱
3.「キ・ツ・イ
4.「じれったい
5.「ふたりなら
6.「あの頃へ
7.「カリント工場の煙突の上に
8.「ROOTS
9.「ワインレッドの心
10.「悲しみにさよなら
11.「I Love Youからはじめよう
12.「ロマン
13.「コール
14.「星になりたい

安全地帯・玉置さんのCD発表がほとんどなかった1995年(『玉置浩二ベスト・ソングス・フォー・ユー』という企画モノと「STAR」だけ)、ポンとこのライブアルバムが出てきました。いままでこんなことはあまりなかったので当時は心配していました。まあ、昨年末にアルバムが出ていたし……でもいつもならそろそろニューアルバム出てもいいよなと思っていたころではあったので、ライブアルバムだけというのはファンとして心配ではあったのです。ですが、聴いてビックリのゴキゲンサウンドでしたし、六土さん田中さんの参加も知ることができましたから、わたしの希望をつなぎとめるには十分の内容でした。

ところで、まったく安全地帯や玉置さんに関係がなく、私事なのですが、この記事を書く直前(2022年11月21日)、Dr.Feelgoodギタリストのウィルコ・ジョンソンが亡くなりました。モトリークルーのアルバム名から知ったDr.Feelgoodでしたが、そのプレイは凄まじく、ある時期のわたしに確実に光を与えてくれました。もし彼がいなければこのブログもなかったことでしょう。ほんとうにありがとうウィルコ、R.I.P.,Wilko……。

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2022年11月23日

スケジュール


玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』、十曲目「スケジュール」です。「行かないで」カップリングで、当ブログ指定変な曲三部作のラストを飾る変な曲です。「ホヘホヘホヘホヘ〜ヒホヒホヒホヒホ〜」と、およそシリアスとは縁遠い不思議なノリで、一週間、いや二週間ですかね、思惟の移り変わりというか、命令調の言葉で何者かが迫ってくる様子が淡々と歌われるという奇妙極まりない歌です。

オリジナルサウンドトラック プルシアンブルーの肖像』でよく聴いたようなシンセの音でホヘホヘと裏をなぞられながら玉置さんが美しくも弱々しいファルセットで歌い始めます。花を植えるのは日曜日〜からはじまり、月曜火曜と続いていくのです。これだけきくとロシア民謡の「一週間」みたいです。ですが、この歌は曜日によってかなり重要度というか歌詞の分量が違います。

花を植えた翌日、月曜日はかなり陰鬱な様子がつづられます。コントラバス的なベースが「ボン・ボ・ボンボン・ボイヨ〜ン」と短い音でリズムを取ります。カツカツとパーカッションもアクセントを入れてきます。ホワンホワンとした鍵盤が薄くバックに流れています。総じて憂鬱です。仕事で人の心を捨てて笑顔で嘘をつく(セールストーク)ように命じてきます。イヤな命令だな!でも仕方ありません。わたしたちはこの命令にあらがうには立場が弱すぎるのです。思わず空をみあげて星になりたいと願ってしまうような月曜日でした。

ズチャ・チャチャチャ・ズチャッチャーとあまり三度とか五度とかのキレイ系でないジャジーな和音をピアノが奏でます。火曜日もまた長いです。まだ憂鬱なのです。夢とか恋なんかやめてしまって金だけに集中しなさいと命じてきます。この命令にもわたしたちは逆らうことができません。夢とか恋とかのことを考えていてはまだまだこの先長い一週間を乗り切るにはわたしたちの心は弱すぎるのです。勢いつけて「仕事だ!金だ!」と気合を入れる必要があります。その気合のおかげでKissの感触も忘れ仕事に全力投球できそうです。

ここから先、サビというかホヘホヘというか、怒涛の水曜木曜を一気に短く通過していきます。水曜日は忙しくて疲れて電話どころじゃなく、電話しそびれていると見ようと話していた映画も終わったことを木曜日に気づいてしまいます。ふんだりけったりですが、金とか仕事の前には大したことじゃありません。まだ週の半ばなのです。

木曜のことか金曜のことか……いよいよ気分は限界に近づきます。もうすぐ週末だガンバレ!悪魔になる、野蛮になる、自分は苦労を避けて相手にショックをプレゼントする……もう玉置さんのボーカルも苦しそうに叫んでいます。ほぼバブル全開のこの時期、職業生活ってこんなに苦しかったのか?もっとこう、植木等の映画みたいに歌ったり踊ったりしているうちにぜんぶうまくいくような感じじゃなかったの?(ちなみに高度成長期の映画で、バブル期ではありません)いやいや、当時中学生だったわたくしが言うのもなんですが、そこまで底抜けにお気楽な感じではなかった気がしますよ。高度成長期のことは知りませんがきっと高度成長期だって楽ではなかったと思います。いつだって仕事そのものは大変でそれは変わりがなく、ただ給料が増えるとか増えないとかの部分が違ったのだと思われます。

ここにピョー!ピョピョー!というハープシコードをムリヤリ伸ばしたような奇妙な音で間奏が入ります。なんか、いかにも無秩序!といった旋律で、心が疲弊し千々に乱れていることがしのばれます。

そしてここからホヘホヘで金曜土曜、そして日月火水木金土さらにまた日と、一週間強が一気に流れていきます。なぜかというと、これはおそらくフラれたのでしょう(笑)。フラれたのは、よくよく考えると最初の花を植えた日曜日だったんじゃないかと思われます。フラれたからきみに花をあげる当てがなかった、そして月曜火曜が陰鬱にスローに過ぎてゆき……水曜はもしかしていつもは電話のできる日だったのにフラれたから「電話もできない」だったのかもしれません。そんなわけで花金(花の金曜日、バブル用語)ですが踊りに行けません。半ドンの楽しい土曜日も遊びに行かずテレビなんか見ています。そして日曜には、忙殺されていた間に枯れていた花を見つけてしまいます。

「軒下にでも置いとけば吹き込んだ雨で勝手に育つよ!」と薬屋のオヤジにいわれてパンジーの苗をいくつか買ったことがありまして、言われた通り軒下(アパート窓の、落下防止手すり枠)に置いておいたのですが、忙しくて気にしないでいるうちに雨が全然降らない日々が続き、すっかり枯らしてしまいました。男の一人暮らしと花の相性は悪い……というか単にわたくしがずぼらなんですけども。お花の可愛らしい姿で癒してもらおうとか恋人に喜んでもらおうなどと、図々しいにもほどがあったのです。

そんなわけで恋人のためにと一種の願掛けを兼ねていた花は枯れてゆき、手紙をみて涙やら想いやらがあふれ、火曜日は思い出しては泣き、水曜日はとうとう心がダウン。ちなみに当時、太田裕美さんのアルバムにそういうタイトルもありましたけども、うつのことを「心の風邪」と呼ぶ言いかたはまだありませんでした。そして寝込んでしまい、木曜日はひたすら寝ます。金曜日は金魚と遊ぶという、ダジャレかほんとうに寝床から金魚鉢を眺めてエサをやるくらいが限界だったのか、よくわからないともかく非活動的な一日を過ごします。土曜日もサボテンと話すという、まだ寝込んでいるんじゃないかという描写が続きます。サボテンなんておいてあるんですねえ。たしかに80年代はよくサボテンとかアロエとか鉢植えでおいている家が結構あった気がします。そのサボテンの花なのか、二週間前に植えて枯れかけた花なのか、ともかく日曜になっても花は咲きません。曲はフェードアウトしていきます……。

言ってみれば、フラれたあとに仕事してて寝込んじゃった、というだけの歌なんですが、それを「スケジュール」と命名するセンスが一種残酷で、おそろしく鋭いです。フラれても仕事には行かなくてはならない、それはたしかにスケジュールです。ですが、そのあと恋人の感触を恋しがる、喪失感に苦しむといったことをスケジュール帳に入れる人はいません。いたら危ない人です。ですが、その苦しみは必ずやってきます。まるでスケジュールのように……スケジュールなのに曜日ごとに濃淡があったり過ぎるのが早い遅いがあったりと、人間の営みが時計の進み通りにいかないことすらもスケジュールされていたことのように起こる……現代社会の営みと個人の心的営みをリンクさせて生きなくてはならないわたしたちの悲しき運命を「スケジュール」という問答無用の定めに喩えるという、松井さんの洞察力にもう脱帽するしかありません……。

ですが、いうまでもありませんがこれはとても変な曲なので、わたくし「またか……」と、「行かないで」との落差にがっかりしたものです。なんで玉置さんはB面こんなに変なの!と、憤りにも近い感覚を覚えていました。ですが、この曲は強烈にわたしの心に残りました。ここまで変、というかこれまでにないフックで心を打たれまくると、この曲でなければ感じることのできない何かがあることに気がつきます。ですから、「行かないで」のシングルを再生するときはいつでもこの「スケジュール」まで再生しました。変なのに猛烈にさみしいこの曲を、何度も聴きました。このとき、玉置さんの精神状態がこの歌のように追い詰められつつあったということは当時気がつきませんでした。この数年後、『LOVE SONG BLUE』中「最高でしょ?」でウッキウキの一週間を描く歌が出て、ようやく玉置さんの一週間がまた始まったんだな、思い至り、この曲のことは忘れていったのです。忘れるなんて不届きな!と思わなくもないのですが、もしかしてそれがきっとこの曲の正しい位置づけだったんじゃないのか……と思われるくらい、玉置さん復活ストーリーの狭間にうまくハマっているように思われます。

さて!ようやくこのアルバムも語るべき曲はこれでおしまいです!思ったより長かった……いよいよ『JUNK LAND』だ!と思っていたのですが、よくよく考えたらその前にライブアルバムの『T』が先ですね。なかなか入れないな『JUNK LAND』……でも、ホントにもうすぐです。

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2022年11月19日

行かないで


玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』九曲目、「行かないで」です。5thシングルで、カップリングは「スケジュール」でした。

最近とみに人気があるというか、一度は完全に忘れられていたのに大復活を遂げた曲です。へたするとなかったことにされてるんじゃないかってくらい存在感の薄い曲だったんですが、YouTUBEによって発掘された時期と、玉置さんがオーケストレーションコンサートで歌う時期がたまたま一致したのか、多くの人の胸をうちまくり、今日では玉置ソロ随一の大号泣必至超壮絶バラードとして知られます。

89年の、ちょうど今頃(記事執筆は2022年11/18)の晩秋に発売されました。事前情報なしに日課のレコード屋巡りをしている最中に発見し、「おっ!出てんじゃん!」と喜んだわたくし、速攻で買い求め家までダッシュ、光の速さでコンポに挿入、再生ゴー!なにやら寂しげで憂鬱なコードを重ねてゆくホワホワ系のシンセ、堅めの音でアルペジオを奏でるピアノをバックに「パーララー」と流れるオーボエ、むむ!これは久しぶりの大バラードの予感がするぞ!と喜んだわたくし、歌詞カードとジャケットが一緒になったケースを眺めて期待感に胸を躍らせます。

いかにも玉置さんらしいことにAメロとかBメロとかそういうセオリーなどどこ吹く風、早々にいきなりサビに突入します。行かないで……行かないで……ちょっと待て!卑怯すぎるぞなんだその切ないファルセットは!ピアノもストリングスも装飾音のシンセもぜんぶ切ないパラメータに全振りだ!「悲しいんじゃない」「あなたにふれたのがうれしくて」って喜んでるじゃん!なんでこんなに切ないんだよ!わかってるよ、会えたってことはいつか別れるってことだなんて。ふれたってことは、いつか離れるんだ。当たり前じゃんか当たり前だよ……だからわかっているのに願うんだ、行かないで、はなさないでって、切実に。切ないトルネードにすっかり巻き込まれはるか遠くに吹っ飛ばされたわたくし、何が起こったのかわからずしばらく呆然でした。

思考を取り戻したわたくし、「好きさ」「じれったい」と同じく一つの感情のみを切々と繰り返す曲だと気がつきます。同時に、威力はそれらの曲を上回っていることにも気がつきます。「あなたの肌に夜が訪れる」とか「やっかいな目が揺れてる」とか、視点や視座があちこちに移動していた(だからこそリアルで鮮やかだった)安全地帯時代の曲とは違い、あなたがそばにいる、くっついているこの瞬間、はなれたくない!いま、これがおれの本拠地であり、いま以外ここ以外はすべてウソなんだ!とでも思わされるあの幸福感と、その幸福感を失わなくてはならない運命にたいする絶望感とだけを切々と繰り返すという、前代未聞のとんでもない曲を、玉置・松井・星・BAnaNAチームは作り上げて叩き込んできました。この渾身の一球は糸をひくようにキャッチャーミットに吸い込まれ、スパアン!と軽やかかつ力強い音を立てた切れ味最高の、誰も打てないストレートだったのです。これはさすがの打撃の天才川上哲治も打てなかったものと思われます。塀の穴から突如飛び出してきた剛速球が電柱にあたり、また出てきた穴に吸い込まれてゆくのを呆然と眺めるだけだったことでしょう(現代ではわかる人少なそうなネタ)。

で、当時中学生だったわたくし、当然そんな「行かないで」という幸福感・絶望感などわかるはずがありません(笑)。いや、わかっているつもりなんですよ?クラス替えや席替えで知り合ったかわいいあの娘といろいろ可愛らしい交流を重ね始めるようなお年頃ですから!もう名前も忘れたけど!貸してくれたカルロストシキ&オメガトライブのアルバムを(あんま興味ないのに)一生懸命聴いて君は1000%!ほしいよ〜とか音楽室のギターで弾き語りして喜んでもらおうなどとよこしまなことを企むなど、順調に大人の階段を上っておりましたから!授業中は隣の席にいてはなれないで!掃除当番に行かないで!うん、やっぱわかってないですね。

つまり、その真価は当時わかってたつもりで呆然としつつも、まるで分かりようがなかったのです。そんなことを言ったら安全地帯時代から真価がわかっていた曲なんてひとつもないですが、この「行かないで」はとりわけワンスポット感が高かった、結局この曲が収録されたオリジナルアルバムは出ずにこのときだけポンとこの路線で出てきたものですから、そのうちになんとなく忘れていたのです。『夢の都』『太陽』を経て三年強経って『あこがれ』を聴いてようやくハッと気がついたような体たらくでした。この経緯は「コール」の記事に書いておきましたが、ああ、こういう路線をやろうとしていたんだ!と気がつかされました。最初に佐渡ヶ島が出てきて、美しい島だけどなんだこれなんのつもり?と思っていたところにしばらくたって水平線の向こうに新潟県が現れたので、なるほどこうだったのか!と……意味が分からなさすぎるたとえですが、欠かせないワンピースが先に出ていたんだ!と、あとから玉置アコースティック・シンセ超怒涛切ない悲しい愛しいバラード群の全体像が見えたわけです。それから何年も経って『あこがれ』が「長年録りためていたバラード集」(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)だと知り、この「行かないで」の位置づけを確信するに至りました。つまり、というか結果的に、この「行かないで」はそのバラード群の中で松井さんが参加している唯一の曲なのだということです。

玉置さんが松井さんの詞を歌います。あたたかいあなたにやっと触れることができ、うれしさに泣く、でもこのうれしさもいずれは過去になり、思い出になってしまう、それがわかってしまっていて辛い、悲しい、そんなこと知らなくてよかった……歌は信じられないほどのあたたかさ、愛しさ、悲しさ……用いられる言葉の種類が絞られているぶん、シン!と澄み切った切なさが何度も胸に迫り、貫いてきます。これは須藤さんにはできない、安全地帯の世界をともに作り上げたこの二人だからこそできた唯一無二の曲だと言えるでしょう。だからこそ、ポツンとひとつだけ、その輝きを保って現代によみがえった、いや生き続けていたのではないでしょうか。

すでに中学生どころか学生でなく、独身でなく、若者でもなくなったわたくし、玉置さんのこの歌が再び脚光を浴びているこの時代にあって、別の意味を読み取るようになってきました。当たり前ですけども、べつに抱きあってなくてもいいというか、抱きあいなんかしたら暑苦しいし動きづらいですからそれは是非とも遠慮したいのですが(笑)、嫁さん子どもたちとの日々はいつまでもは続かないということを受け入れたくない気持ちを投影するようになってきました。こんな切ない歌声やアレンジの似つかわしくない気持ちではあるのですが。子どもたちはいずれ自分の足で立って私のもとを去ります。順当な順番でいうと親は先に死ぬんですからそうでないと困りますが、でも寂しいですね。嫁さんとは、たぶんわたしとどっちかが先に死にますから、どっちにしてもいずれお別れです。その前に別の原因でお別れにならなければですが。そう考えると、いまは大変だけど愛おしむべき楽しき日々なんじゃないか、行かないで、行かないで、この日々よどこかへ行ってしまわないで、と思えてきます。

当時はまだ30やそこらだった玉置さん松井さんにはきっとそのような気持ちはなかったことでしょう。ですから、完全な曲解であるわけなんですが、名曲はこのようにして長く生き残るものであるのかもしれません。

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2022年11月12日

Sendenfor


玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』八曲目、「Sendenfor」です。「I'm Dandy」カップリングで、弊ブログ指定変な曲三部作の二作目にあたります。

この曲は、まあ曲もたいがい変なんですが、詞が特に変です。歌詞カードを最初に目にしたわたくし、なにこれ何語?英単語がちりばめられてますが文法も単語もメチャクチャ、何を言っているのか全然わからないのです。曲を聴いてみて、ああなんだ日本語か、とようやっとわかった次第でした。前年にリリースされた聖飢魔U『The Outer Mission』内「不思議な第三惑星」と類似のネタでした。松井さん遊びすぎ!ちなみに「不思議な第三惑星」は英語としてどうにか意味が通じる詞なのに対して、この「Sendenfor」はまったく通じません。さらには歌詞中「night mare need more」が「悪夢にも」と歌われるのは聴かないとわからないなど、「不思議な第三惑星」に比べて読解に労力を要する仕掛けになっています。

迫られ拒まずYes I Do 俺流宣伝法
至れり尽くせりI Love You 完璧宣伝法

こんな調子で聴きながら読んでいかないとまったく予想がつきません。正直、なんのつもりでこんな遊びをしようなどと思ったのか傍からはまるで見当がつきません。聖飢魔Uに対抗意識を燃やしたというのはありそうもないですので、もしかして疲れていただけなんじゃないでしょうかという疑いすら抱かせます。世の中には一定のポーズで座り続けて無心になるよう心がけるという修行を行う宗派がありますが、あれは続けているとフッと自分が自然と一体化した感覚を得られることがあるのだそうです。自分は細胞の一つ、いや素粒子の一つのレベルまでが自然の一部であって、それは自分の周囲にあるものとなんら区別するべきものではない、だから自分と周囲を隔てる壁のようなものが崩れてゆく、別の言い方をすれば境界は意味のないものであって、わたしという幻想の意識がそういう意味を作り出しているだけだ……などと感じられる瞬間があるそうなのです。茶化すつもりはないのですが、それアタマが疲れてるだけなんじゃないのと傍からはみえても仕方ないように思われるわけです。もしかして松井さん玉置さんもヘビーな日々の中でそのような境地に至ったのかもわかりません。

そんなわけで、全曲いい曲である思想を堅持している弊ブログ、大ピンチです。「Hen」のときに半ばムリヤリ記事を書いたわたくし、この曲でもかなりの苦戦が予想されます。思い切りいい曲いい曲と書きまくったあとで、松井さんが「あの曲?ちょっと浩二と遊んだだけだけだよ捨て曲だよあんなの」と言ったらすべてが崩壊するという超極大爆弾を抱えながらの執筆になってしまいます。政府と軍がどんなにダメダメでもマスコミが超忖度しまくって威勢のいい記事を書くまくるも、あっさりポツダム宣言受託でその報道姿勢をひっくり返す醜態をさらすという、歴史的クソネタと同様の構図を抱えてしまいます。そんなわけでなるべく厳正中立に、かつこの曲の面白い点優れている点をつとめて客観的に記してゆきたいと思うわけであります上等兵殿!

えーと、まずは、詞の面白さです。「Send Den For宣伝法」と「St. Rent Hoom洗練法」の二種類があります。何が宣伝されているのか、どうして洗練されているのか、それはもちろんナニのためなんですが(笑)、それが一見しただけで読めてしまってはあまりにも生々しすぎます。それで、かなり読みにくい表記法であるこのような書き方を採用したのではないかと思われるのです。「ハッとわりかし攻めても」「きっとそれなり濡れてそう」なんて、いくらきわどい歌をこれまでさんざん作ってきた玉置松井コンビといえど、そのまんま書かれていたらちょっとどギツ過ぎるように思えます。むしろ最初は普通に書かれていたけど、これはいくら何でもヤバいんじゃないのという判断が、会社サイドか玉置松井コンビサイドかの間に起こって、じゃあこういうふうに書こうか、歌は変わってないんだけどね、これなら何か新しい感覚が生まれる感じがしない?いいね五郎ちゃんこれでいこうか!なんて会話の一つもあったかもしれないのです。つまり、この歌は玉置松井コンビ史上ナンバーワンのドエロソングであるという、唯一無二の称号が与えられる可能性があるわけです。もちろんエロいだけでなくてそこには言葉選びやリズムの妙などの芸術性があってこその、この演出であったわけですから、これは高度なエロさの技量を要するわけです。

曲に関しましては、BAnaNA的ギミックにあふれた聴きこみ甲斐のあるアレンジです。ベースの音がボッキボキ、これもシンセベースな気がしますが、ずいぶんゴキゲンです。ドラムの音はずいぶん生音感がありますが、マシーンのような正確さですので、生ドラムかどうかまではわかりません。右チャンネルに細かく仕組まれたパーカッション、左チャンネルから聴こえてくるアオリ、当時の聴衆が当時の家庭用機材でどれだけ聴きとれるのか非常に疑問に思えるほどの変態的凝り方をしていまして、ああBAnaNAだな、BAnaNAでなくてもBAnaNA的な凝り方をするアレンジャーだな、と思わされます。BAnaNAファンはもちろん聴き逃せません。メインリフを刻む鍵盤はやや右より、ギターがやや左の奥から聴こえてきます。こういうふうに位置をハッキリさせるのもまあ基本といえば基本ですが、バンドでのライブだとふつうこういう立ち位置にはなっていませんので、そういうことにあまり囚われない柔軟な思考の持ち主がアレンジ・ミックスしたのでしょう。ちなみにギター、これいい音ですねえ。正確すぎてこれもシンセなんじゃないのと思わせられる箇所もあるんですが、間奏のソロはさすがに弾いたでしょう。「I'm Dandy」のギタリストがそのまま弾いたか、もしくは玉置さんがお弾きになったのだと思います。まるきり根拠がないこともなくて、『CAFE JAPAN』以降の玉置さんと音階の使い方が似ているように聴こえる……まあ聴こえるだけで、根拠ないんですが(笑)。

とまあ、変な曲ですから、こんな感じにあまりストーリーとか感じさせないようなご紹介になる……いやエロいんでそれはご勘弁くださいって感じではあります(笑)。A面「I'm Dandy」が主題歌になった『右曲がりのダンディー』の映画は観たことがないのですが、原作のマンガは当時パラパラと読んだことがあります。いわゆるいい男であることを自他ともに認めていて、自分がいい男であることをちらと疑いもしない、自分磨きなどする必要のないモテモテの男の話です。あたりまえのように恋はみんなゆきずりで、回転すしのように次から次へと女性が現れます。あのねえ……そんなのいくらバブルで浮ついていたからって、当時だって許されるわけないじゃん、刺されて終わりだよ、と現代からみれば思えます。でも玉置さんならあり得たんじゃないか?と思わせる感じが当時はあったのです。当たり前に玉置さんはそんなんじゃないと思うんですが、なにせほんの数年前に離婚と石原さんとの浮名が報道されまくっていた玉置さん、安全地帯の超ロマンチックな楽曲群のイメージを一身にまとう玉置さんですから、生身の「右曲がりのダンディー」がありうるとしたらこのくらいの男ぶりでないと……という、製作者サイドの判断があっての起用だったのでしょう。軽薄短小の世情ここに極まれりです。性行為のことを「プレイ」とか呼ぶ時代ですから、どんだけバカなんだよと思わせられます。ですがこんなクルクルパーの時代でも、少年少女の性と理不尽な暴力がエンターテイメントの主役になった90年代よりは明るかっただけなんぼかマシだった気がしなくもありません。そんなウルトラスーパー軽薄な時代、おそらくは玉置さん本人も大喜びでやった仕事ではなかったんじゃないかと思われる映画とその主題歌、さらにはそのカップリングであるこの曲が、一見アソビで作ったんじゃないのと思われるような出来であるのは必然でもあったのだと思います。いや、ホントにアソビだった可能性もなくはないのですが(笑)、それにしちゃ妙に凝ってるんだよな、と不思議な輝きを持つ曲でもあるわけです。

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2022年11月06日

I'm Dandy


玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』七曲目、「I'm Dandy」です。MIASSのCM、映画『右曲がりのダンディー』(玉置さん主演)に採用されています。作詞は松井さん、松井"お月様"五郎名義です。当然玉置さんも玉置"流れ星"浩二名義です。

ノリのいいロック的ポップスですね。アレンジの雰囲気はゴージャス時代の安全地帯や『All I Do』時の玉置さんに似ています。シンセ、ブラス、そして気の利いたギター、これはサウンド的には回帰です。歌詞は英語を使いまくりの玉置ソロですから『All I Do』に一番近いですかね。さらにこの曲は「キ・ツ・イ」以来のオリコンベスト10入りしてますから、安全地帯休止前の人気を維持していたわけです。玉置さんしか目に入っていなかった人には、安全地帯が動いていようがいまいがどうでもよかったことでしょう。ですが、安全地帯の看板を一人で背負うかのようなこの活躍劇は、玉置さんにとって負担があまりに大きかったといわなくてはならないでしょう。『All I Do』は好きなようにやれて楽しかったという玉置さんですが、この「I'm Dandy」からは、玉置さんのフウフウハアハアゼイゼイいう声が聴こえてくるかのようにわたしには思われるのです。同じようにやっていかなくてはならない!そんな辛さが、リバウンドとしてB面の変な曲(これは本人的には楽しい)オンパレードにこそ現れているんじゃないかとさえ思えてきます。B面があんまり変な曲だらけなので、これは玉置さんの精神衛生がかなりマズいことになっていると星さんなり金子さんなりが判断してこの時期のアルバムが出なかった……というのは考えすぎかもしれませんが。

さて、曲はなにやらパーカッションにあわせて、終始ピコピコ鳴り響くシンセで始まります。そしてドラムが入り、ブラス系の音で賑やかにリード、これもシンセなんじゃないかと思いますが……さらに、もの凄い低音がブリーブリーいってますよね。ベースをかなりの緩々セッティングで音程を下げ、さらにディストーションかけてつぶしたような音です。正体はよくわかりませんがカッコいいのでアリでしょう!ちなみにわたくし、コンサート用にベースを打ち込むとき、あんまり低い音ですと音源のほうが対応しておらず、やむなくシンセベースにすることがたまにあるのですが、そんな感じの音ですからシンセベースかもしれません。玉置さんのシャウトをサンプリングして鍵盤叩きまくったあげくにディレイかけたような効果音も入っており、当時らしい最新の電子処理が満載です。

そしてバスドラ踏みっぱなしのドラム、鳴りっぱなしのピコピコシンセ、ブーリーブリのベースをバックに玉置さんが歌います。なぜ哀しいなぜ寂しい……うっ!これは久々の『安全地帯IV』とか『安全地帯V』的な、女心を見透かしたような松井節です。哀しがってる(フリ)、寂しがってる(フリ)で涙を流したりとり乱したり、すべてを振り払うように羽目をはずしてみたりと、かまってちゃん全開で非常に傍迷惑なロンリーガールです。でもまあ、こういう芝居に乗っちゃうのが男ってものでして、ましてやダンディさんならば「ふっ、だからガールは可愛いのさ」とか言ってタバコ(MIASS)を捨ててシャワーを浴び、コロンを振ってトレンチコートを羽織り、ロンリーなハートを包み込みにBMWとかに乗り込んで迎えに行こうとするものなのかもしれません。ダンディーさんだった経験が全くありませんのでわたくしまったくわかりませんけども!

Bメロから安全地帯を彷彿とさせるクリーントーンのギターが入って来てますね。サビ前の「パララパラララ」は安全地帯的でたまりません。そうそう、こういう感じで合わせてほしいんだよって思います。一気にサビ、これまで英語のフレーズばかりいっしょに歌っていた女性コーラスが一緒にサビを歌います。これが玉置さんの色気をムンムンに演出するということは『All I Do』時代にすでに実証されていましたから改めていうようなことでもないんですが、玉置さんの声は一発で聴きとれますね。どの声ともかぶらないんで、男性コーラスでも女性コーラスでも決して埋もれません。こういう歌手に出会えたらどれだけこれまでの音楽人生ラクだったかと思わされると同時に、こんな歌手がわたくしと一緒で満足するはずがないのであっというまにヨソに行かれるであろうこともわかってしまいます(笑)。さて、このサビ、耳を澄ませると高音ストリングスが混ざってきていることと……なにやら左チャンネルが特に大きいのですが、「ドビュードヒュー」という音が入ってきていますね。なんなんでしょう?カッコいいんですけども、正体不明だとちょっと気分がよろしくないです(笑)。キメでキレイなクリーントーンのギターが「シャシャーン!」となると同時に消えて、また大きくなっていき、を繰り返すような感覚です。こういうところも『All I Do』的、もっというとBAnaNA的ですね。小技が抜群にセンス良くて、曲を作る人演奏する人の気分を盛り上げてくれることが容易に予想できます。こういう人にスタジオにいてほしいものですが、もちろんこういう人だったらわたくしなんぞとは(以下略)。

悲しいDanceはやめて、きみは自分の可能性を追うべきだよ!とでも言っているかのような歌詞、これはただのスケコマシではない……あしながおじさん的なナイスおじさんです。スケコマシには自分の奴隷になれというタイプと、そのほかに育てて伸ばそうとするタイプ、育てはしないけど応援して見守るタイプがあるのです、いやあるかもしれない!(急に弱気)まあ、ぜんぶコマしてるんですけども(笑)。これはもう戦略とか攻略とかでなく、性格でしょう。応援して見守りたいのに攻略法としては奴隷戦法が正しいからワイルドに迫るとかそんなことはありませんというか、あったとしてもそんなの心が追い付きませんので、みなさんご自分の性格に最もフィットしたコマしかたをなさっているのだと推察されます。まあ、スケコマシだった経験はわたくし全くございませんので(以下略)。

曲は前奏とほぼ同じ演奏を繰り返し二番に入りますが、相変わらずロンリーガールは煮え切りません。ムリヤリ過去の心の嵐を思い出して泣くなど、ロンリーガールっぷり全開です。松井さんにもハッキリ「わずらわしい」と言われちゃってます。現代的にいうと「そういうのいいから、もう」ですよね。令和時代だとこういうロンリーガールはSNSなどで自爆を重ねることが大いに予想されますので、こういうダンディーさんがウロウロしている場に出てくる前に何かに引っかかっている感じがしますが、当時はもちろんSNSなどなく、人づきあいにおおらかな時代だったといえるでしょう。というか、SNSなどで気をつかいまくりの現代人が平成初期の若者からすると気の毒すぎです。既読がついたとかつかないとか、気の利いたことを言わなくてはならないとか、どんな脅迫ですかって気分になります。気の毒に思いつつなぜか自分も息苦しくていけません。しまった平成初期の若者だったおれもリアルで令和時代に生きてた!

「半端な夢」とか、松井さんも口が悪いなあ(笑)。でも、松井さんの歌詞で玉置さんが歌うと許せるというか、なにかもっと大きな夢を与えてくれそうで、悩みがささいなことに思えてくる効果が抜群です。これは非常に不思議です。人徳とか歌の力とかとしかいいようがありません。わたしが「そんな半端な夢捨てちゃいなよ」なんてSNSで言おうものならその日のうちにかなり周囲の重力をきつくされたり酸素を足りなくされたりしそうです(笑)。現代では思いやりあるセリフがデフォルトに設定されていて、そんな思いやりなんて少しも持っていないわたくし、メッセージは極力事務的に発信するしかありません。現代人のやりとりはOfficialナントカさんの歌みたいにオーグメントとかsus4とか、そんなの曲に一か所か二か所でいいんだよっていう泣かせどころを曲全体に惜しみなくぶちまけまくりなんです。これが現代人の感覚なんだとは思いますが、ラーメンでいうと焦がしバター味噌コーンラーメン背脂チャッチャニンニク野菜マシマシトロトロチャーシュー白髪ネギ入りみたいなもんで、ふつうに味噌だけでいいんだよ!とか思っているおじさんが食べると胸焼けがネバーエンディングです。こういう時代にこそ松井玉置メソッドを取り入れて、あっさりだけどコクがあって飽きない、くらいの中華そば的SNSメッセージを発信したいものです(笑)。

さて曲は間奏、サックスらしき音が最高にファンキーなアドリブっぽいソロを奏でます。その間なにやら「バー!ボー!バー!ボー!」とよくわからない音が上下しており(80年代のシンセポップではよくある音だったように思われます)、一気にブレイク、そしてパララパラララとギターが鳴り、曲は最後のサビに突入します。このブレイクを挟んだ展開はむやみにかっこいいです。ラーメンでいうと札幌ラーメンのようにコーンが乗り薄く脂が浮いている……おじさんもやっぱちょっとは泣かせどころがほしいのかも!(笑)

悲しいDanceはやめて、綺麗なDressにふれて、ホンキで奇跡と戯れるんだ、ここで悲しい女性を演じて駆け引きしているだけで終わるつもりかい?そうじゃないだろう?確固たる愛を築き上げて、新しい人生のステージに向かうんだ。きみはきっと何かができる。何かになれる。ぼくはここできみの礎となるから……ここまでの覚悟があるかどうかはともかく、玉置さんの歌はこう信じさせるくらいの説得力にあふれています。言質はとらせてないけども(笑)、「愛はどこへもいかない」という熱い宣言で心の底から安心させるのです。おお、そういや「愛はどこへもいかない」は後年「田園」でもラストの歌詞に使われましたね。これがのちにダンディーさんとしてでなく、泥臭く畑を耕す玉置さんとして同じセリフを歌うとは、この当時はまったく予想できなかったのです。

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2022年11月03日

Will…


玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』六曲目、「Will...」です。

感覚としては「地平線を見て育ちました。」に近いです。つまり、ふつうにいい歌です。以上。

うーん、うーむ、むむむむ……さすがの弊ブログでもこれ以上の言葉がなかなか思い浮かばない曲ではあります。ですがそのぶんといいますかなんといいますか、アレンジは気合が入っています。フェードインでスリーフィンガーと思しきギターのアルペジオ、バスドラとほぼ完全にリズムを一緒にしたベース、そしてハイハット、ストリングスとが聴こえてきます。淡々です。淡々としすぎていて、かなりメカニックです。それだけに、ベースのうねりや、なにやら低音太鼓の「ドウン……ウウン……」という音が不定期に耳に響くのですが、それがとてもオーガニックに聴こえます。なんでしょうねこれ?ジャンベのテンション低いやつ?いわゆるロックバンドで日常に使うようなものでない太鼓であるように思われます。そしてアオリに高い音の「キキキキココココ」が入ってますね。マリンバですかね……もうわからん楽器だらけでめげそうになります。BanaNAが鍵盤ガシガシ叩いて作ったんじゃないでしょうかね。

さて曲は玉置さんが「Will」とささやいて歌が始まります。意味のよくわからない歌詞です。とりわけ一番の歌詞は中身のないバブル期日本歌謡曲そのもののような、ストーリーや情景の感じられない歌詞です。東村山音頭の「ちょいとちょっくらちょいと」なみです。う、むむむむ、「氷点」の美しさを考えますと並河さんの力量を疑うのは失礼な話なのですが、ここまで意味がないと超適当に作ったか、もしくは玉置さんの曲に詞をつける難しさに手を焼いてなんとか言葉をくっつけたんじゃないかと想定せざるを得ません。ちなみに「Will you......?」は意向を訊ねる表現であるかのように中学校とかでは習いますけど、実はほとんど命令なんですよ。”Will you go home now?”「お前はとっとと家にお帰りになるんだよな?」くらいの慇懃無礼な命令です。これをムリヤリ生かしたとしたら、うわあなんて素敵な雰囲気なんだ、風のささやきがメロディーになって聴こえるよね、聴こえるだろ、なあ聴こえるんだよな!よしそうだワンダフルだ、だからお前は〇〇することになさったんだよな?してくれるんだよな?早くしろよとかそういう恐怖の世界になってしまいます。たぶんですが、玉置さんのデモテープで、ここにあたる箇所がwillに近い発音で歌われていて、それがすごくしっくり来たんで並河さんもWillとそのままに近い形で採用したんじゃないか……歌い出しがいきなり助動詞なんて普通に考えたら思いつくわけがないので、おそらくそんな事情があったんじゃないかと愚考いたします。

曲は間奏、なにやら笛の音が……リコーダーじゃないですかね?当時リコーダーを首に下げて、間奏を自分で吹くというビックリアイドルがいていまでもその映像を覚えているんですが(名前は忘れた)、当時中学生くらいだったわたくし、テレビとかに出てくるミュージシャンはみんな学校の音楽室にはない楽器を使うものだと思っていましたから、リコーダーの音には驚いたものです。歌メロとはぜんぜん違う旋律を描き、曲はふたたびBメロに流れていきます。

消えない夢のときめき、これは、かなり穿った見方をすれば並河さんからみた玉置さんなのかもしれません。安全地帯が休止し、シングル連発、俳優活動ガツガツの玉置さんは、まるでわざと全力で空回りしているようにさえ見えます。松井さんもいます。星さんもいます。BAnaNAもいます。実際この三人だけいればできる音楽も安全地帯時代からやっていました。でも同時に安全地帯でなければ、あのメンバーたちと一緒でなければダメなんだ!とどこかで分かっていたんじゃないかと思えてきます。奔放すぎて嫁さん子どもから愛想をつかされた旦那さんが、それでも嫁さん子どものいる家庭がなければ心の底から安心して遊べず、「子供のような笑顔」を取り戻したい一心で全力で遊びまわろうとしているかのような暴走ぶりです。これは家族からすればたまったものじゃありません。だから安全地帯だって身動きが取れなくなったんじゃないかとさえ思われてくるのです。この時期の玉置さんはギラギラでした。曲も出すしドラマも出ます。でもどの現場に行ってもメンバーはいません。だから一人で五人分輝こうとしているんじゃないかってくらい光っています。押しも押されぬ大スターです。でも後にわかることですが、玉置さんはべつにテレビのスター歌手になりたかったわけじゃないんです。ですから、ひとことでいえば迷走していたんです。

そんなどこに向かって走っているのかわからない玉置さん、傍から見ればまあ落ち着けよって感じです。まさか並河さん、ここまで見抜いていてWill youなどというほとんど命令文(しかも中身を省略してぼかしてますが、メンバーに頭を下げて安全地帯にお戻りになるんだよな?が示唆されるという)の歌詞を書いたのでは……それだと中身がないだとといって失礼しましたあああ!……などと、ありそうもない妄想を抜きにしますと、歌詞カードに印刷されている、少年が草原を駆け回る情景を思い浮かべさせられる歌です。これは玉置さん・松井さんの作品(「…ふたり…」「パレードがやってくる」など)以外にあまり例がないテーマかもしれません。これを玉置さんが色っぽさを廃したさわやかボイスで歌うんですから、玉置ソングとしてのアイデンティティは保たれているともいえなくもありません。

ですがまあ、客観的にはけっして超名曲ってわけではないし、有名曲でもありません。言いかたが悪ければあっさりしていてホッとする曲、にすぎないのです。ただ、この「Will......」、Badfingerの"I Miss You"や"Day After Day"を不思議に思いだす曲です。構成とかアレンジの考え方が似ているのかもしれません。うっかりそれだけで名曲だと思えて来てしまうんですが、よくよく考えたらそれはBadfingerの力であるような気もします(笑)。Badfingerの悲劇を知り、そして安全地帯の歩みを知るわたくし、この時期の玉置ソロは、安全地帯を休まざるを得なかった玉置さんによる『涙の旅路』であるように思えてならないのです。

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『涙の旅路 BADFINGER』はアップルレコードを(かなりのゴタゴタの末に)傷つき離れ、ワーナーに移籍したBadfingerが1974年に送り出したアルバムである。バンド名をタイトルにするという心機一転を図った渾身の作品であったが、英米チャートの反応は冷ややかなものであった。皮肉なことに当時バンドは音楽的に円熟期・絶頂期に達しており、本ブログ管理人のような偏執狂的なファンによって最高傑作もしくはそれに並ぶ作品として評価されている。なおこの後バンドは坂を転げ落ちるように崩壊・分裂してゆく。2022年現在、安全地帯がそうならなさそうで本当によかったと本ブログ管理人は胸をなでおろしている。ただしBadfingerは2022年現在も唯一の生存メンバーであるジョーイ・モーランドが活動を続けているため、あのストーンズ(1962-)をも上回るビックリの長寿バンドである(1961-)ともいえよう。60年以上もバンドやってるって一体……

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2022年10月29日

氷点


玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』五曲目、「氷点」です。玉置ソロ3rdシングルです。じつはシングルA面初のバラードですね。作詞は並河祥太さん、この曲で初めて知った名前ですが、それはわたしが無知なだけでいろいろ作詞されてますね。なおカップリング「Will...」も並河さん作詞です。そして安全地帯・玉置浩二通してシングル曲初の三拍子だと思います。

さて曲は遠くからストリングス系のシンセが響いてきて、エレピ系の音でメインフレーズ、コード弾きとアルペジオ、このほかはデジタルパーカッションのガス!カシャーン!ガス!カシャーン!と、もうシンセ全開の音で奏でられます。当時のシンセ事情はよくわかりませんが、現代でこの曲を再現するんだったら迷わずすべての音をシンセだけで作るでしょうし、この音源でも生音感はかなり乏しいのでやはり当時でもシンセを使ったものと思われます。これは『All I Do』のころに試行されたスタイルで、この後ピアノ、生ストリングスを交えた「行かないで」、さらに生ギターを加えた『あこがれ』のスタイルへと発展してゆくその過程上にある曲だと位置づけることができるでしょう。さらにいうとそこからピアノやシンセを大幅に省いてかわりに生ギターを主体にし、ベース、ドラムを入れてゆくと『カリント工場の煙突の上に』のスタイルへと発展してゆきますので、この曲と「行かないで」は玉置アレンジ思想史を語るうえで欠かすことはできない貴重なワンピースであるということができます。

これ、よくわかる気がするんです。というか若いころから安全地帯・玉置浩二の音楽に首まで浸かっていますから自然に影響を受けただけなんだとは思うのですが。わたくしもいっときシンセに夢中になったんですよ(いっときなのでよくわかってませんが)。やりたいこと全部できちゃいますから。でも生音が恋しくなっていくんです。思ったようにいかないのが生音なのに、それでも生音で思ったように音を出したいですし、かりに思った音が出なくても生音のほうがいいんです。そして最近も、現代のソフトシンセは安いしかつてよりも大幅に自由度が高く音もいいですからここ一年二年ばかりまたいじってもみましたが、やっぱ自分でギターなりベースなり弾いたほうがいいやとMTRやオーディオインターフェイスにマイクつっこんでシコシコ録音するようになりました。アレンジ思想史なのか音色嗜好史なのかよくわかりませんが、キッパリ分けられないんですよこの二つは。これに演奏技術や楽器の知識などもろもろが連動して、大きな流れが形成されてゆくのです。あ、いや、わたくしなんぞはよくて沢のチョロチョロか悪いと排水溝でして、玉置さんですと長江や黄河もかくやの大河となるわけです。参考までに昔本で読んだ話を記してきますと、中国からいらした観光客が瀬戸内海を見て「日本にもこんな大きな川があったのですね」と言ったそうなのです。まっことスケールが違うのが玉置さんだという喩え話になっていますでしょうか!

リバーブたっぷりの玉置さんのボーカルが、「ガスッ!カシャーン!」というパーカッションをアクセントに、冬から春への移り変わりを歌います。「冬のこころ」、この時点でもうよくわかりませんが、こういう場合には詞の中に根拠を求めなくてはなりません。ええ、これは大学受験の現代文読解における基本中の基本です。回答はすべて本文の中にある!ですから、「あなた」のもつ「こおらせてほしい」という欲求こそがこの「こころ」なわけです。つまりまだ凍っていないのでしょう。「氷点」に達すると凍り始めるわけですが、まだまだ「白い花びら」すなわち雪がパラパラと舞い降りる程度ですから、そこまでは気温低下していないのです。すべてを白く包み込み、けっして氷点以下には下がらないよう保温をする雪、その雪に降られ「こおらせてほしい」と願う心身、その願いに応えて氷点に向けてじわじわと命の流れは止まってゆきます。雪の中では氷点周辺で気温低下は止まりますが、人間は余裕で死ぬので注意が必要です。ここで酒など飲むとほんとうにあの世行きですので酔ってるときに外を歩かないことを強くお勧めします。わたくし飲み会の帰りに雪の中にゲロをぶちまけ、その奥に倒れ込み、あやうくそのまま眠ってしまいそうになった経験がございます。札幌市内であっても住宅地の夜は静かで、しんしんと降り積もる雪にあっというまにゲロもわたしも包み込まれて行方不明になります。ああ……雪気持ちいいな……こおらせてほしい……と思ったところではっと我に返り、命拾いをいたしました。雪に埋もれたまま春になって、今度は「あたためてほしい」……と願うことは不可能だ!やさしい鼓動はストップしてネバースタートだし!とギリギリ動いていた脳細胞が判断しました。イヤあぶない!皆様どうかお気をつけください!

曲はまたメインテーマを奏でる間奏から二番へと向かいます。二番もよくわかりません。春が「ひかりあふれる」のはわかるのですが、それが「遠い悲しみ」を愛する……?ちょっと頑張って想像してみましょう。こういうとき大学受験の現代文読解など屁の役にも立たないことを痛感し、想像の翼を自由に広げるべきなのです。なにせ出題された作品の作者本人がその入試問題を解いてみたら満点じゃなかったという逸話があるくらいですから、現代文読解法なんてアテにはならないものなのです!いや、それは作者のほうが自分の書いたことをよくわかっておらず勘違いしているんじゃないかとは思うんですが……それは言ってはならないという雰囲気をビシビシと叩き込んでくるような人が嬉々として紹介するエピソードですので、ここは目いっぱい想像力を駆使することにしたいと思います。「遠い」には物理的に遠いことと時間的に遠いこと、そして心理的に遠いことの三通りがあります。実際にはこれらの要素が順序を変えて絡み合うことがありますからまず三つの組み合わせ順列で3‣2‣1の六通り、そして三つのうち二つの組み合わせで、3‣2/2の三通り、その逆パターンもアリで三通り、そして単独で三通り、合計で十五通りあります。この時点でもう想像力を駆使するのはムリだと気がつくわけなんですけども(笑)。想像力というのがいかに根拠の薄い思い込みであるかがよくわかります。ランダムで1/15の正答率しかありません。もしここに受験生の方がいらっしゃったら、想像力を働かせろ!という現代文講師の話はつとめて聞き流すようにしましょう!(笑)

そんなわけでやっぱり詞の中に根拠を探していきますと、冬の間にこおった心のことだとわかります、ああ、ゲロのことじゃないですよ(笑)。季節をまたいでいますから時間的に遠いのです。ざっと三か月前です。そして、悲しいことが起こった場所からフラフラと彷徨いたどりついた凍り場までの距離もそこそこはあるのかもしれません。これは不確定ですね。そして、これが恋愛沙汰であったとしたら、心が遠く離れてしまった、あるいはもともと遠かったのを確認してしまったという心理的な遠さが加わります。これもまあ、不確定でしょう。うん、普通に考えてこれしかないですね。想像の翼など無用です。

冬の間に凍ってしまった心は、春の訪れを迎え、僅かに残していた鼓動を再び活性化させます。すなわち、あらたな恋愛沙汰受け入れ状態スタンバイ!あ、恋愛沙汰とは限りませんね。これが想像力のよろしくないところです。勝手に好きなほう好きなほうに話をもっていきがちになります(笑)。まあ、何やら心がざわめき始めるわけですね。寒さが悲しみを凍らせ、時間がそれを癒すのです。そしてあたたかい春のひかりが癒えた心を解凍(解答)してゆくのです。これが自然の営みというもので、人間の心も大自然の一部ですから、このように季節によって変わりゆくものなのです。そのもっとも劇的な変化を「冬」「春」とその間にある「氷点」という言葉で表現したものと思われます。

さて、いつもどおり屁理屈でいろいろ説明してきたわけですが……この曲はいろいろな意味でターニングポイントになった曲ですので、いつもどおりの説明ではなんだか文章を終えてはいけない気がしてならず、まだ少しだけ語ろうと思います。あれはたぶんこの曲が出て一年くらい後のことでした。

「氷点」って歌があったよね、あれが好きかな……

これがわたくしが今までに他人から聞いたことのある唯一の「氷点」評なのですが、わたくしそのときちょっと驚きました。えっ「氷点」かい?もっといっぱいいろんな歌あるのに「氷点」を選ぶとは?意外!でした。ですが、この曲には他の曲にはないいろいろな要素が絡まりあっていますので、他の曲でなくて「氷点」を選ぶ理由はたくさんあったのです。作詞ですとか、拍子ですとか、オールシンセアレンジですとか……ですから、「氷点」が好きで他の曲はあまり耳に入らないということは当然起こるものと思われますし、その逆も然りなのでした。

そう思って聴きますと、玉置さんの歌もこれまでにないものであるような気がしてきてなりません。ウイスパーもビブラートもブレスも玉置さんそのものなのですが、どこかのちの『あこがれ』へと続いてゆく階段の一歩目であるように聴こえてきます。そして歌詞の大自然の移り変わりを思わせるスケールがこれまでの松井さんの詞とは大いに異なるものでしたから、玉置さんの声が生きる新しいフィールドを見せられたように思ったものです。松井さんでなく並河さんだったのにはドラマの都合とかいろいろ事情があったんだと思いますが、ここで90年代後期以降の玉置さんや2000年代の安全地帯の世界を拓く可能性がほの見えたといえるかもしれません。

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2022年10月15日

“Hen”


玉置浩二『EARLY TIMES〜KOJI TAMAKI IN KITTY RECORDS』四曲目「"Hen"」です。

パーカッションと鋭い口笛、なにやら管楽器でポコポコピュウピュウ、バンブーバンブーと、なんだか呑気な雰囲気で曲ははじまります。よくこんな曲思いつきますね!口笛なんてそもそも唇が追い付きませんよこんなの!人間、フィジカルでできないことはそもそも思いつきません。現代のようにAIとかサンプル音源とかを使いながらアレンジをPCで組み立てて行ける時代でないですから、技量が追い付かないことを表現するのはぜんぜんムリだったのです。そんなわけで呑気な感じなのに口笛が超絶技巧でいきなり驚かされます。

「〜のは変」という内容をポコポコピュウピュウと十三回も繰り返す歌です。身もふたもないですが本当にそうなんです。しかも変だといっているその内容はあまり変じゃないのです。

いちおうわたくし、"Hen"が「変」以外の言葉である可能性も考えました。ええ、「Love ”セッカン” Do It」と同じパターンですよ。また大辞典中辞典駆使して手掛かりを探ってみます。すると一発目の英和大辞典で「hen」がめんどりの意味以外に鳥類の一部のメスの意味、またエビカニ等、そしてなぜか鮭のメス、転じて女性、とりわけ口やかましい中年女性、スコットランドではお嬢さん、彼女を意味することが分かりました。聞いたことないな、「ラッシー」が「お嬢さん」の意味だって知ってたくらいですよ、英語はヨーロッパじゅうから様々な語源が渦巻いていますから奥深いですねえ。でも少なくとも独仏ルーツではないようで、それらの辞書には何も見つけることができませんでした。しかしまあ、どう考えても「プロポーズは口やかましい中年女性」「抱きあうのは鮭のメス」とかはありえないので、このセンはないですね。スペイン語にhender割るという単語がありますが……この意味である場合「プロポーズは割ってしまえ……」ちょっと意味が通らなくもないのですが、スペイン語のhenderはhを発音しませんのでヘンでなくエンになるはずです。世界中にはもっとたくさん言語がありますが、もうふつうに日本語の「変」だと考えるのが自然でしょう、意味通るし(笑)。

「どーなんだろーね」のあとに「ヘ…ヘ…ヘ…ヘ…アーイアイ!」と女声と絡めて歌う変な箇所があります、って変な箇所を指摘していたらキリがないくらいどこもかしこも変な歌です。どうしろというんだ……

と、まあ、ぜんぜんいい歌だと思えなかったのですが、当ブログを開設したとき、いずれこの曲を解説する日も来るものだと覚悟しておりました。わたくし、以下のように宣言しております

そういう曲もきっとその魅力がわかる時が来る!
それまではその曲について語らない!

つまり、安全地帯・玉置浩二の曲は全曲いい曲である!

いずれは全曲を語る!


うーん、鼻息荒ーい!(笑)いや笑いごとでないですね。この「"Hen"」を語る日なんてだいぶ後だろうからと、いずれ魅力がわかるだろうくらいに思っておりましたが、困ったことにまだよくわかりません。激烈な変さです。こういうときは発想を変えるべきでしょう。つまり、この変さこそがこの曲の魅力であると!

わたくしこう見えても、というかブログですから見えないんですが(笑)、ともあれわたくし若いときに音楽をやっておりましたから、こういう遊び心たっぷりでわざと変な曲を作って楽しむこともございました。普通に歌っているところをとつぜん叫ぶとか、ギターは終始ロングディレイでわけがわからなくなっているとか、とんでもない変拍子の連続で曲の流れがよくわからないとか、仲間と悪ノリでどんどん変な要素を付け加えてゆきムチャクチャな曲を作ることがあったのです。変であれば変であるほど価値がありますから、これは世間の「ふつう」「まともな」という価値が確立していてこそ成立する逆価値になります。わたし個人からみると変とかではなく、世間からみて変なのです。これは思ったよりも難しいことなのです。なにせ世間の「ふつう」に逆らって生きよう、出し抜いてやろうと思っているわけですから。若いですねえ。ともあれ、世間で「ふつう」だと思っていることを知らなければ世間からみて「ふつうでない」ことはできないものなのです。わたくしが「ふつう」だと思って行ったことが「ふつうでない」ことも、その逆のこともままあるわけですから、世間に対するアジャストが必要となるわけなのです。

で、わたくしのような凡人だとそのような過程になるわけなのですが、玉置さんの場合はこれが案外素なのではないか、という合理的な疑いが生ずるわけです(笑)。いやいや、玉置さんだってこれが売れる曲ではないというのはよくよくご存知でしょう。でも天才が凡才と違うところは、変なことを変だと思っていないところなのです。ゴッホにはひまわりがあのように見えていたんじゃないかと疑われるのと同じで、玉置さんにはこれがいい曲だと感じられている、少なくとも「悲しみにさよなら」みたいなタイプの曲でないこと、そしてウケそうな曲でないことはわかっているけども、いい曲だと思っているからリリースしたのではないかと思われるのです。レコード会社は嫌がる可能性がありますけども(笑)、当時は天下無敵の玉置さんの意向です。キティレコードもへたに逆らえません。そして玉置さんもこれは世間では変だと感じられることはわかっていたのでしょう。だから「変」だろうから「"Hen"」って言葉を使った、あるいは松井さんと話して「"Hen"」にしようか、と申し合わせたのではないかと思われるのです。

そう思ってこの曲をよくよく聴いてみますと……うーんやっぱり変!(笑)。でも、一発で口ずさんでしまうレベルで覚えやすいメロディーに、HenHen言ってるだけなのにメロディーが数通りあって飽きさせないフックの効いた展開、サビで玉置さんのボーカルがハーモナイザーでムリヤリ作ったような美しくないハモリになっていてインパクト大になっている点、間奏の流麗なピアノとのギャップなど気絶しそうなくらいショックです。おもに裏のリズムを取っている管楽器のマヌケな感じ、これらはすべてこの変さを最大値に引き上げるために計算された演出なのでしょう。この曲、いつものようにガットギターで弾き語りでお作りになったのだと思われますが、ガットギターで弾き語りしている音像を想像すると、玉置さんの優しい声に、この覚えやすいメロディー、そして素朴なギターの音色……うん、こりゃ玉置さんの曲だ、いい曲だと思えてこないこともありません、いやまだ無理してますかね(笑)。でも、この後90年代の玉置さんソロの音楽を彷彿とさせる曲であることは確かでしょう。当時は当時までの、主に安全地帯の作品しか知らなかったから大ショックだったわけで、逆に玉置さんソロからさかのぼっていくと、そこまで違和感はないのではないかと思われるのです。もちろん「うわ変な曲!」とは思うと思います。だって変に作ってあるんですからそれは当然です。でもそれは玉置さん松井さんの術中です。そこで立ち止まってしまいあんまり聴かないようにしていると、この曲は変な曲のままです。ですが何度も聴き込むことでだんだんハマっていく、そんな曲であるといえるでしょう。

珍しいことに今回わたくし歌詞にぜんぜん言及してません。よくわからないからですが(笑)。でもまあ、うん、これはバブル期特有の、とある若者の生活ですかね。恋人が泣いたタイミングでプロポーズするのもなあ……ちょっと意地悪して心を揺さぶるのもなあ……なんかわざとらしいんだよなあ……トレンディードラマじゃないんだからさ!気まずい場を笑ってごまかそうとか、ごまかせるわけないじゃんね、ドラマならそこで場面切り替わるけどドラマじゃないし。毎日仕事、毎日食事、こんな当たり前のことすらわざとらしい感覚さえしてきます。朝八時はちょっと早いですが(笑)。なあ、そこで彼女が泣いたんだよ、夜もまあそこそこなんだけど……朝早いからって気になっちゃうのも芝居がかっていて変だよな、こんなことおまえに電話して相談しているのもドラマのワンシーンにされてるんじゃないかって気になっちゃうよ、変だよなおれ。電話の相手がやたらやさしくてこっちが悪いみたいな気がするのも筋書き、パターン通りってわけなのかな、という疑いが晴れないんだよ、頭がフワフワしちゃってさ……。と、こんな心境なのかもしれません。バブル期はマンガとかドラマとかビデオとかがヒーローものとか熱血高校球児ものとかそういう70年代にありがちなものでなく、ぐっと「ふつう」の若者を描くようになっていました。ほんとに「ふつう」だったら作品として面白くないですから、よくよく考えるとぜんぜん「ふつう」じゃないんですけども。「アパッチ野球軍」みたいに人間離れした話でなく「タッチ」みたいな現実味がそこそこある作品がウケるようになっていたのです。ですから、マスコミが垂れ流す「ふつう」がホントの「ふつう」を侵食するような感覚すらありました。「これだけ毎週来てると渋谷も」「私たちの庭ね」みたいなキャラクターがいて、こっちは「中学生くらいになると毎週渋谷にいくものなんだ!おれも行かないと!しまったここ札幌だ!かわりに大通のオーロラタウンに行くぜ!」とかうっかり思わされる、といった具合です。マンガみたいなことは何も起こらず自転車で帰ってくるんですけども(笑)。虚構はどこまでも虚構で、現実はどこまでも現実でした。東京に行けば事情は違うかといえばもちろんそんなことはないわけでして。

そこかしこにわざとらしさ、演出のニオイ、芝居がかった何かを感じると、だんだんイヤになってきます。ギターを弾いて歌うのもマンガの一コマに影響されたみたいでイヤ、という感覚です。それを歌にしてしまった!これは革命的です。あげくに最後に「こんな歌を歌ってうれしいのはHen」と、さらに客観視する自分もいる、というとんでもない仕掛けになっています。

さて、ここ数週間急ピッチで記事を書いてまいりましたが、少しの間スローダウンいたします。いや、『CAFE JAPAN』の終わりで今年中に『JUNK LAND』に入ると宣言したのですが、宣言した後に、しまったその前に『EARLY TIMES』あるじゃん!安全地帯のライブアルバムも扱うってどこかで宣言したし!ヒイ!余裕こいてる場合じゃなかった!アルバム終わるたびにちょっと感無量になって余計なこという悪い癖は六年経ってもぜんぜん治ってねえ!と気づいてしまい、慌てたわけです。慌てた結果、まあ大丈夫だろってくらいの進捗具合にはなりましたので、弊ブログの通常くらいのペースにさせていただきたいと思います。それでは、また!

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