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2019年12月21日

鉄道大混乱(十二月十八日)



 日曜日から鉄道のダイヤが新しくなり、一部の路線ではチェコ鉄道の代わりに別な会社が運行を担当することになった。いくつかの地方が助成金を出して走らせている各駅停車の運行に関して、ダイヤ作成や運賃設定に関して主導権を握っために、運行の担当にチェコ鉄道が選ばれた場合でも、料金体系が合わないために、チェコ鉄道のネットショップでは切符を買えない路線があるなんて話はすでに書いた。

 ダイヤが変わった日は、日曜日だったので平日に比べると走る本数も、利用客の数も少ないため、それほど大きな混乱は起こらなかったようだ。それでも走るはずの列車が影も形もなかったとか、線路の改修工事が長引き、代替バスを走らせたはいいものの、時間が余計にかかることが新しいダイヤには反映されていなかったために、本来であれば乗り継げるはずの電車に乗れなかったなんて話も聞こえてきた。
 そして、月曜日になるとダイヤ改正による混乱ははるかに大きなものになった。通勤や通学、出張などで電車を使う人は多いのだから当然といえば当然である。ニュースによると最悪の状況だったのは、ズリーン地方のローカル線のうちフセティーンからウヘルスケー・フラディシュテを越えてスタレー・ムニェストに向かう路線。日曜日の時点ではまともに運行できていなかったらしいが、月曜日は運行はしたものの、分単位ではなく、時間単位での遅れを連発して、スタレー・ムニェストの駅でオロモウツ行きに乗り換え損ねた人たちがぼろくそに文句を言っていた。

 この路線の運行を担当することになった会社は、チェコ鉄道ではなく、アリバという私鉄で、ドイツ鉄道の子会社である。どうも、ドイツで新型車両を導入した後不要になった旧型の引き受け先として買収したんじゃないかという印象を持ってしまうのは、車両の行き先などの表示がドイツで使われていたころのままで、チェコの地名はA4の紙に印刷して窓に貼られていたからである。
 さらに、主要駅に設置された切符売り場が、システムの不備とかで全く機能せず、すべて閉鎖。車内で車掌から購入することになったようだ。これは月曜日だけでなく火曜日も継続し、フセティーンの駅では、アリバの切符をチェコ鉄道の窓口で購入させるなんてこともやっていたらしい。アリバでは、サプライヤーが納入した販売システムに問題があったと他人のせいにしているが、車両の行き先表示といい、事前のチェックとかしていないだろうとい言いたくなる。

 理解できないのは、なんでこんな会社を選定したのかということで、親会社のドイツ鉄道なんて本国のドイツでも、運行システムや機材はともかく、サービスや運行業務に関しては10年以上前のチェコ鉄道レベル、下手すればそれ以下の会社である。日本だとドイツの鉄道というだけですごいというイメージがあるだろうけど、ドイツ在住経験者の話によるととんでもないらしい。プライドだけは無駄に高いという評判も聞いたことがある。
 そんな会社が、二流国として見下しているチェコのの子会社に十分な配慮をするわけもなく、行き先表示の変更が間に合わなかったのも、車両の払い下げの時期がドイツ鉄道側の事情で遅くなったからに違いあるまい。これまではアリバは一日に一往復か二往復、スロバキアとプラハを結ぶ便を運行していただけだから、問題が発生しても、利用者はチェコ鉄道や他の私鉄を利用することで、回避することができていた。今回のダイヤ改正に当たって、地方のローカル線の各駅停車を運行する会社として選ばれたということは、その線で問題が発生したら、利用客にはどうしようもないということである。これは確か別の路線の話だけど、代替バスの手配に何時間もかかったなんて話もある。

 他の私鉄でも問題が全くなかったというわけではないようだが、大半は線路や駅の改修工事による遅れだった。全く問題を起こさず、一番高く評価されていたのは、プラハの近くのローカル線を走らせることになった小さな会社で、ニュースのインタビューには社長兼運転士という肩書の人が登場していた。ダイヤの変更で運行を引き継ぐ前から、線路や駅の改修工事などにもかかわって準備を進めてきたのがよかったのだろうと語っていた。

 ローカル線の各駅停車ではなく、ブルノ−オストラバ−ボフミーンを結ぶ長距離の急行の運行を担当することになったレギオジェットは、自社の責任ではない混乱を抑えるために協力を申し出ている。乗客の中には、運行業者が代わったということを知らない人たちがいて、チェコ鉄道の切符でレギオジェットの急行に乗ろうとする人たちがいるらしいのだが、今年いっぱいはそんな人たちも乗車させるという発表をしている。
 この路線、各駅停車は今まで通りチェコ鉄道が運行し、レギオジェットが運行するのは急行だけなので、乗る電車によって買うべき切符も変わってしまうのである。オロモウツ行きの急行も途中までは同じ線路を走っているし、ややこしいとしか言いようがない。この辺もEU主導の競争を増やして云々ということなのだろうけど、今回のは現時点では不便になったとしか言いようがない。

 何でもかんでも競争をあおって、入札で決めればいいというものではないことは、わかっていると思うんだけどなあ。プラハの中央駅の改修工事とか、却って高くついた例なんていくらでもありそうだし。次に鉄道を利用するのは1月のプラハ行きで、それ以外はしばらく利用する予定がないのが救いか。でも来年の夏あたりに鉄道でチェコ国内をあちこち回ろうとしている人は注意しないと大変かもしれない。
2019年12月19日22時。










2019年12月20日

中国のプロパガンダ(十二月十七日)



 ホームクレジットという会社がある。銀行ではない金融業者だというから、日本で言うところのサラ金みたいな会社と考えていいのだろうか。サラ金じゃなくて消費者金融というのが正しいんだったかな。とまれ、日本の野村證券や、アメリカのGEの金融部門が展開していたGEマネーバンクまで、銀行扱いするチェコで、非合法な高利貸しを除いて、銀行扱いされない金融機関があるというのは意外だった。
 この金融機関は、1997年にチェコで設立された後、順調に業績を伸ばし、スロバキアをかわぎりに東方へと進出し、ロシアやカザフスタンを経て、現在ではインドやベトナムなどのアジアにまで活動範囲を広げているらしい。当然世界最大の人口を誇る中国には早々に進出し、現在では重要な拠点となっている。中国でこの手の商売をするということは、共産党政権との良好な関係を築かなければならないと言うわけで……。

 以前カレル大学の学長が、中国と関係の深い企業からの寄付を受け入れようとして批判されているという話を書いた記憶があるが、その会社がこのホームクレジット社だったのである。あのときは、カレル大学に資金を投入することで、現在の中国政府に都合の悪い研究結果の発表をさせないように圧力をかけるとか、逆に都合のいい研究をさせようとしているとか、憶測が飛んでいた。
 ニュースに登場して中国政府のやり口の危険性を説明していたカレル大学の中国研究者も、実はあれこれ評判の宜しくない人物で、どこまで信じていいのか悩ましいところではある。それに大学に資金を提供することで研究の内容を左右しようとしていると非難するということは、逆に言えばチェコでは、いやカレル大学ではそれが可能だということを示してはいまいかなんて皮肉なことを考えてしまった。

 カレル大学の件は、批判が強まったことでホームクレジット社が寄付をやめることを決めて一件落着だったのだが、海賊党がホームクレジット社が、チェコ国内で中国のイメージを高めるためのプロパガンダを行なっている、もしくはプロパガンダに協力しているのではないかとして、国会の場で調査することを主張し始めた。具体的なプロパガンダにつながるイベントなんかも挙げられているのかもしれないが、そこまでは確認していない。
 中国政府なら、中国での営業を認めたり、営業に便宜を図ったりするのと引き換えに、自国で中国のイメージを高めるのに協力するように求めるなんてことをしても全く不思議はない、というか当然やっているだろうと思うのだけど、それがチェコの法律上何かの問題になるのだろうか。共産党の宣伝をしてはいけないなんて法律があったかなあ。あれば共産党は選挙活動もできないはずだよなあ。

 しかし、チェコで中国のイメージを一番高めているといえば、中国資本に買収されて以来、好成績を挙げ続けているスラビア・プラハが一番である。最初は胡散臭そうにしていたファン達も完全に中国傘下であることを受けいているようだし、それを中国のプロパガンダだと批判する人はいるまい。アラブの王族にスラビアを売却するなんて話も出ているけど、スラビアを使った中国のイメージ向上作戦はすでに成功したということかもしれない。
 それに中国のプロパガンダといえば、ゼマン大統領以上に貢献している人も、組織も存在しない。バビシュ内閣も、その前のソボトカ内閣も中国との関係を過度に重視して、中国に対してものすごく配慮してきたけれども、ゼマン大統領の親中ぶりにはかなわない。ゼマン大統領とバビシュ首相には反発する人たちも多いので、この二人が親中派であることで、逆に中国のイメージが悪化している面もあるかもしれない。

 今でこそ中国との関係を見直すことを主張している市民民主党も、TOP09も、政権与党だったときには、中国からの投資に惹かれて、ゼマン大統領や社会民主党ほどではないにしても、中国に対してあれこれ配慮したり譲歩したりしていたわけだから、今回の提案は海賊党にしかできなかったわけだ。国会での調査の結果をうけてチェコが反中に舵を切るとは思えないけど。
 ちなみにホームクレジット社は、チェコ最大の富豪であるケルネル氏の率いるPPFという投資会社の傘下に入っている。PPF社は、90年代の国営企業の民営化をうまく利用して成長した会社のようだ。つまりは、市民民主党と社会民主党が主導したクライアント主義の恩恵を受けて大企業に成長したのである。今でも既存の政党との結びつきは消えていないはずだから、これもまた海賊党にしかできない理由となっている。ANOもやろうと思えば、やれるだろうけど、中国との関係を損ないかねない政策は、政権与党のANOにはできそうもない。

 中国があれこれお金を使って、他所の国の世論を操作しようとしているのは事実だろう。中国だけでなく、アメリカやロシアなど、ほかの国もやっているだろうし。問題は操作されている国がそれを認識しているかどうかである。そうなるとチェコより日本の方が心配だな。
2019年12月17日24時。










タグ:中国

2019年12月19日

ブルマン発見(十二月十六日)



 80年代から90年代はじめの日本には、日本ではコーヒー文化がいびつな発展の仕方を遂げていて、他の国ではありえないようなものが存在しているなんてことを主張する人たちがいた。当時はまだ今ほど気軽に海外に行くような時代ではなかったから、その主張を信じるしかなかったのだが、日本独特であることがいいことなのか、悪いことなのかは判断できなかった。
 そんな「外国通り」の人々が主張していたことの中に、「ブレンド」なんてコーヒーは日本の喫茶店にしかないと言うものがあったと記憶する。他の国のことは知らないが、2000年ごろにチェコにきたとき、確かにブレンドは存在しなかった。当時はまだ共産党独裁時代の名残で、コーヒーといえば、お湯をかけるだけのチェコ風トルココーヒーで、ネッスルのインスタントコーヒーがネスカフェとして堂々とメニューに載っていた時代だから、喫茶店らしい喫茶店がなかったのも事実だ。

 その後EU加盟などで、チェコの西ヨーロッパ化が進み、さすがにネスカフェをメニューに載せているような喫茶店はなくなったが、トルココーヒーは今でも一定の人気を誇っているようで、メニューに残している店が多い。西ヨーロッパー風の小じゃれた喫茶店は増えているが、確かにブレンドをメニューに載せている店はない。しかし、ないのはブレンドだけではない。コーヒー豆の産地や銘柄を指定したコーヒーもないのだ。あるのはエスプレッソ(ただしチェコ風が多い)、カプチーノ、ラテなどの淹れ方、飲み方の区別であって、豆の区別ではない。
 考えてみれば最近のチェコの喫茶店は、飲み屋がビール会社によって囲い込まれているのと同じで、コーヒー会社によって囲い込まれているところが多い。自分の店で豆を選ぶのではなく、コーヒー会社が提供する豆をそのまま使っている。ということは、チェコの喫茶店にはブレンドがないのではなく、ブレンドしかないのである。そのブレンドを使って、いろいろな淹れ方のコーヒーを提供しているのがチェコの、そして恐らくヨーロッパの喫茶店だと言えそうである。

 では、ブレンドや、銘柄指定のコーヒーがまったくないかというとそんなことはなく、オロモウツにも何軒かあるコーヒー豆を焙煎して販売するお店では、ブレンドも含めていろいろな種類の豆を買うことができる。そしてこの手のお店には、喫茶店や立ち飲みのできるスペースが併設されていることが多いので、同じエスプレッソでも豆を指定して注文することができる。
 うちで行きつけにしているコドーでは、お店で飲めるコーヒーは毎日二種類提供しており、注文するときには、まず豆を選んでから淹れ方を指定することになる。二種類のうちの一つはコドーブレンドで、もう一つは販売している豆の中から選ばれることが多いのだが、普段は店の豆の販売リストに載っていないような特別な豆が提供されることもある。その場合には淹れたコーヒーだけでなく、豆も買えるのがありがたい。時間帯によっては残りが少なくて買えないこともあるけど。
 ちなみにコドーでは、以前よりは減ったけれども、常に10種類以上の豆が買えるし、ブレンドも一種類だけではなく三種類提供している。今は二種類に減ったのかな。でもパラツキー大学のアンテナショップに特別なブレンドを提供しているから三種類買える点では変わらない。自分でも自宅ではいろいろな豆を代わる代わる飲んでいるけど、職場ではコドーブレンドを愛飲している。

 日本で最高級のコーヒーというと、名前が上がるのがブルーマウンテンである。喫茶店で飲んでも他のよりもはるかに高かったし、豆を買う場合にも倍の値段ではきかななかったと記憶する。日本で行きつけにしていた豆屋では、他の豆と比べると分量が半分以下で値段は倍以上だったかな。入れてくれる袋もブルーマウンテン専用の金色の見た目が豪華な奴だったし。
 このブルーマウンテンについても、ありがたがるのは日本人だけだなんて話が昔はまことしやかに流れていた。こちらについてはコドーが開店してからも見かけなかったし、他の豆を焙煎しているお店でも見かけたことがなかった。コドーで期間限定で提供する豆の中に、何とかマウンテンというのを見かけたときには、これかとも思ったのだが、全然別のものだった。それで、ブルーマウンテンというのは、日本で販売するためのブランドなのかなと納得していた。

 それが、今日なくなりかけた自宅の豆を補給するためにコドーに寄ったらカウンターの前に行列ができていた。並びたくはなかったので、出直そうと一度店を出たのだが、その時に、日替わりコーヒーの銘柄がブルーマウンテンになっているのに気づいた。一杯なんと68コルナ。プラハでなら普通のエスプレッソでもこのぐらいして不思議はないが、オロモウツでは見かけたことのない値段である。コドーでは普通のコーヒーなら20コルナちょっとで飲めるわけだから3倍の値段である。
 ブルマン好きの日本人の端くれとしては、これは買わずばなるまいと店内に引き返して行列に並んだ。豆が買えなかったら店内で飲んでもいい。幸い買うことはできたのだが、値段が……。100グラムで500コルナ。300ぐらいかなと予測していたのだけど驚きの高さである。普通に売られている豆で一番高いのが70コルナちょっとだから、約7倍である。

 店の人の話では世界で二番目に高いコーヒーで、そんなに量がたくさん入ったわけではないので、一人当たりの販売量を200グラムに制限しているのだとか。コーヒーに一度に1000コルナも出す人はなかなかいないだろうなあ。自分でもひよって100グラムしか買わなかったし。銘柄は忘れたけど、前回買った特別に高いのは、100グラムで100コルナちょっとだったかなあ。
 まあ、せっかく高い金を出して買ったのだから、週末辺り時間をかけていろいろな方法で飲んでみようか。ちょっと危険なのは、ドリップ専用の注ぎ口が細いポットがほしいなんてことを考えてしまっていることである。日本にいるときには、そこまで細かい味の違いなんてわからないのに、勢いで買ってしまったからなあ。

 日本のコーヒー文化に関する伝説は、伝説でしかなかったのである。冒頭の「外国通り」というのは誤記ではなく、漢学者の宮崎市定氏の著作に出てくる表現をもじったものである。
2019年12月17日9時。












2019年12月18日

鉄道の新ダイヤ施行(十二月十五日)



 チェコ鉄道のダイヤは、毎年12月の初めに大改定が行なわれる。今年はブルノの中央駅の改修工事の終了にあわせたのか、中旬にまでずれ込んだ。以前はひんぱんに鉄道で移動していたので、ダイヤ改正前に新しい時刻表を手に入れて、便利になったとか不便になったとか感じていたものだが、最近は電車で出かけるのが、年に一回のブルノと、一回か二回のプラハぐらいになったので、あまり気にかけないようになっていた。
 特にプラハ−オロモウツ間を、チェコ鉄道だけでなく、私鉄のレギオジェットやレオエキスプレスなども走るようになってからは、チェコ鉄道の時刻表があってもすべてを調べ切れないので、ネット上の「idos」をそれまで以上に重宝するようになっていた。今年は、ブルノ−オストラバ間の特急、急行を走らせるのがレギオジェットに変わるなど大きな変更があるようで、ニュースでも二、三日前から大きく取り上げられている。

 例えば、オロモウツからブルノに行くのに、これまではプロスチェヨフを経由する直行便がない場合には、プシェロフで乗り換えてオストラバからブルノに向かう急行に乗り換えることができた。時間帯によっては直行便の同じ値段で乗れることもあったのだが、今日からは不可能になった。チェコ鉄道のHPで検索しても、プシェロフ経由の接続はでてこない。その代わりにチェスカー・トシェボバー経由が紹介されるようになっている。
 このチェスカー・トシェボバー乗換えでオロモウツに向かうという接続は、ウィーンからオロモウツを目指す人が、時間帯によっては乗せられて追加料金を取られるという困ったものなのだが、ウィーンからブルノを経てプラハに向かう特急に乗ってチェスカー・トシェボバーで、プラハからオロモウツに向かう特急に乗り換えたほうが、ブジェツラフで乗り換える距離的には最短の接続よりも早く到着する場合があるのは確かなようだ。ブジェツラフで一時間以上待たなければならないことが多いようだし。

 それでも、ブルノとオロモウツの間を移動するのに、一度チェスカー・トシェボバーまで北上するのはバカらしいと考えるのが普通である。南回りのブジェツラフ経由の場合はなぜか直行便なので考慮に値するから、オロモウツ−トシェボバー−ブルノという直行便があれば話の種に乗ってしまいそうだけど。ブジェツラフ周りブルノ行きも値段が意外なほど高かったので、一度話の種に乗った以外は敬遠することが多かった。
 今回のダイヤ改正後の接続の検索で驚いたのは、ブジェツラフ周りブルノ行きの値段が下がって、プロスチェヨフ経由の倍ぐらいに収まっていたことだ。以前のブジェツラフ周りと同じぐらいの値段設定がされているのが、トシェボバー乗り換えの接続である。これならブルノにいく必要があって、時間に余裕があるときは、ブジェツラフ周りを選んでもいいかもしれない。こちらの方が車両が新しくて快適だし、ゆれも少ないのでPC持ち込んで文章を書くのにもいい。

 来月行く予定のあるプラハへは、ほとんど変化がないようである。ただ、レギオジェットなどの私鉄の運賃が上がったような印象は受ける。チェコ鉄道も少し高くなっているかな。ただし、これは今回の時刻表改訂によるものではなく、政府が学生と年金生活者に対しては、鉄道、バスの運賃を最大で75パーセント(違うかも)補助するというスロバキアを真似した制度を導入した際に、値上げを敢行したのだと言われている。販売した切符の割り引いた分はあとから政府が補填してくれるわけだから、定価は高い方がいいわけである。
 政府の計画では、便を選んで割引の割合を変えることで、利用者の分散を図るという意味合いもあったようだが、鉄道会社では一律どの便でも最大の割引を導入しているため、公共交通機関の利用の促進という目的しか果たしていない。もともと私鉄では時間帯によって料金を変えていたわけだから、さらに割引の率を変える必要はなかったのである。スロバキアでは学生、年金生活者向けは無料で電車に乗れるのだが、便ごとに無料で乗せられる数が決められているようで、いつでもどこでも無料というわけではないらしい。

 ニュースによれば、例えばズリーン地方では、地方が主体となってローカル線の運行をすることになったらしく、実際の運行はチェコ鉄道に任せるようだけど、チェコ鉄道のEショップでは切符が買えなくなっている。その代わり、地方の予算で補助記ることで運賃を下げることにしたらしい。このような地方は他にもあって、以前はほぼどこに行く場合でも、チェコ鉄道の切符を買えば問題なかったのが、行き先によっては切符の買い方から調べなければいけなくなってしまった。
 これが利用者にとって不便だというのはチェコ鉄道でもわかっていて、一時は業者を越えて利用できる切符の販売も検討されていたようだが、準備期間が足りなかったのか実現はしていない。ローカル線の場合駅で切符を買えない場合も多いので、ネットで買えないのは大きな問題である。チェコ鉄道では車内で切符を買う場合に、クレジットカードで支払いができるようにすることで、多少なりとも不便を解消しようとしている。

 これだけ大きな変更があると、夏の期間限定乗り放題切符がどこまで有効か不安になる。来年の夏は大人しくしておこうかなあ。またチェコ語のサマースクールに出るという手もあるか。ただ、授業のレベルがCじゃないとあまり意味がないんだよなあ。
2019年12月16日20時。










2019年12月17日

パベル・ブルバ退任?(十二月十四日)



 ここ二、三日チェコのネット上のスポーツ関係のサイトをにぎわしているのが、プルゼニュのパベル・ブルバ監督が明日の試合を最後に、つまり今シーズンの秋の部が終わった時点で、プルゼニュの監督を辞めるのではないかというニュースである。以前から、スパルタ行きとか、オストラバ行き、果てはモスクワのどこかのチーム行きの噂は流れては消えてを繰り返していたが、今回はかなり信憑性が高いらしい。
 報道によると、プルゼニュの監督を退任した後は、ブルガリアのルドゴレツ・ラズグラドの監督に就任することが決まっているらしい。ブルガリアリーグとチェコリーグを比べると、チェコの方が上のような気もするけど、予算規模はブルガリアのトップチームであるルドゴレツの方が上かもしれない。引き抜かれるわけだから監督としての報酬も上がるだろうし。心配はロシアのマハチカラに引き抜かれたときに期待されたほどの結果を残せなかったことか。

 ブルバ監督が最初に率いた一部リーグのチームは、バニーク・オストラバである。そのときは解任された監督の後をコーチだったブルバが引き継いでシーズンを終了させ、翌シーズンはまたコーチに戻り、監督のコムニャツキーを支えてバニークのリーグ優勝に貢献したのだった。それが2004年のことで、シーズン終了後にスロバキアのプーホフの監督に就任している。
 スロバキアでは、プーホフの後に、ジリナでも監督を務めチームを優勝に導いている。それを評価されてプルゼニュの監督に就任したのが2008年のことだった。チェコ人の監督が、スロバキアで監督を務めてからチェコに戻ってくるという例は意外に多く、スパルタの監督を務めて今はスロバキア代表の監督になっているハパルもそうだし、コムニャツキーも一時スロバキアで監督を務めていた。シグマの監督のラータルもスロバキアにいたかな。この人の場合にはポーランドやベラルーシの印象のほうが強いけど。

 それはともかく、プルゼニュの監督となったブルバは、金持ちクラブのスパルタやスラビアと違って高額で有望選手を買ってくることのできないプルゼニュで、もう終わったと思われていた選手や、期待されてスパルタに移籍しながら成功できずに放出された選手たちを、再生することで強いチームを作り上げることに成功した。前者の代表が日本に移籍したこともあるパベル・ホルバートで、後者はコラーシュやリンベルスキーなどで、プルゼニュでの活躍がきっかけで代表に選ばれるのである。
 ブルバのプルゼニュが最初に優勝を果たしたのは3シーズン目の2010/11のことだった。その後、2013年の秋に、チェコのサッカー協会がプルゼニュに契約解除金を支払って代表の監督に引き抜くまでの間にプルゼニュをチェコ最強のチームに育て上げた。特筆すべきはチャンピオンズリーグの予選での圧倒的な勝ち抜け率だろう。コペンハーゲンやローゼンボリなど当時は格上だと思われていたチームを押しのけて、リーグで優勝して予選の出場権を獲得したとしは、二回とも本選まで勝ち進んでいる。本選ではさすがにそこまでの強さは発揮できなかったが、グループ3位を確保して、春のヨーロッパリーグの出場権は二回とも確保している。

 代表では、こちらも予選では強さを発揮し、強豪と見られていたオランダを破るなどして2016年のヨーロッパ選手権出場を決めた。予選の結果から本選も期待されたのだけど、いいところなくグループステージ敗退。特に硬直したメンバー選考などで強く批判を受けた。もともと時間をかけてチームを作るタイプの監督で、一度チームが出来上がると、なかなかメンバーを変えないところがあった。プルゼニュでは活躍した選手がドイツに買われていったおかげで、強制的にメンバーの入れ代わりが怒っていたけど、代表ではそんなこともなく、いつものメンバーが出ることが多かった。若手、若手と言っても伸び悩んでいる選手が多かったのも確かなんだけど。
 批判の高まりに耐えかねてということもないのだろうけれども、ヨーロッパ選手権のあと、突然ロシアのマハチカラの監督に就任した。これも代表の監督として契約を延長していたこともあって、批判の対象になった。マハチカラでは、オーナーが約束したほど選手獲得などで協力的ではなく、期待された成績を残せず解任されたので、ブルバの時代は終わったなんて評価もあった。もちろん、高く評価するチームは多く、スパルタは何度もオファーを出したようだが、タイミングが合わなかったのか一度も合意に達することはなかった。

 2017年のシーズン開幕からプルゼニュに復帰したブルバはすぐにチームを優勝に導くなど、手腕が衰えていないことを証明した。ただ、昨シーズンも今シーズンも、中国の資金で優秀な選手を集め、それを監督の力でまとめることに成功したスラビアの後塵を拝し続けており、ブルバのというより、プルゼニュの、チェコ、スロバキアのそこそこ優秀な選手の中からチームのコンセプトにあった選手を取ってくるというやり方では太刀打ちできなくなってきている。
 しかも、今年はチャンピオンズリーグの予選の出場権を獲得したのに、あっさり敗退し、ヨーロッパリーグの予選でも負けてしまった。ブルバの予選につよい神通力も消えたのかと思わせる事態に、そろそろ潮時かも知れないという感想を持った人は多いようだ。その後チームをある程度建て直し、現在リーグでは2位につけている。とはいえ首位のスラビアには圧倒的な勝ち点のさをつけられているだけでなく、内容でも大きく劣っている。監督にとっても、チームにとっても何かを変える必要があったのだろう。

 現在ではスラビアのトルピショフスキーにお株を奪われている感はあるが、ブルバがチェコ最高の監督の一人であることは疑いを得ない。ブルガリアでその実力を発揮して、ドイツ辺りに監督として招かれるなんてことがないかなんてことを期待してしまう。プルゼニュにはホジャバ、フブニーク、ホリー、カルバフと4人もオロモウツ育ちの選手がいるから、スパルタやスラビアよりも応援してしまうのだけど、ブルバが実はオロモウツの近くのプシェロフ出身だというのも応援する理由になっている。
2019年12月15日14時。




スラビアの監督の名前修正。






2019年12月16日

コウノトリの巣事件終わらず(十二月十三日)



 イギリスの臨時総選挙で、ブレグジットを実行することを主張する保守党が大勝した。その理由として、イギリス人たちのブレグジット疲れと言うものを挙げている記事があったが、わかる気がする。EUの反対側のチェコに住んでいても、いい加減どっちかに決めてくれという雰囲気がEU側にもあるのを感じる。これで現在のEUにおける最大の問題の一つが片付くことを期待しよう。イギリスの国会で議論が紛糾する可能性はまだ残っているのだろうけど、今回の有権者が示したとっととけりをつけろという意志は無視できまい。
 ブレグジット問題で夏時間の問題が先送りされたことに対する不満はすでにぶちまけたわけだけれども、チェコでもそろそろどっちでもいいからけりをつけてほしいと思われている問題がある。それが、バビシュ首相がEUの助成金を詐取したとされるコウノトリの巣事件である。バビシュ首相も、EUの助成金のルールである5年を過ぎたところで、急いでアグロフェルト社のものにしないで、コウノトリの巣社を維持しておけばここまで問題にされることもなかったのだろうけど、俺のものだと自慢する自己顕示欲にか勝てなかったのかねえ。

 それはともかく、この問題は検察の担当者が、関係する書類を精査した上で起訴手続きを停止するという、予想外の決定をしたことで、少なくともチェコの法律上は一件落着になったものと思っていた。その後、検察の長官が再度チェックした上で最終的な決定なるという話は聞いていたが、部下の決定を簡単にはひっくり返すまいと予想していたのだ。
 しかし、予想に反して、もしくは野党やマスコミの予想通りゼマン長官は、部下の決定を分析が不十分だとして差し戻す決定をした。これでバビシュ氏が起訴されるということではなく、コウノトリの巣事件が起訴に値するかどうかを再度検討することになるようだ。つまりこれからまたしばらくは、この問題でああでもないこうでもないと言う議論というか、喚き合いが続くことになる。正直、起訴でも不起訴でもどっちでもいいからとっとと決めてくれと思っているチェコ人は多いはずだ。

 今のバビシュ首相の支持者が、起訴されたからと言って支持をやめるとは思えないから、起訴となっても、デモの数や辞任を求める声は高まるかもしれないけど、選挙の結果にはあまり影響はなさそうである。今年の夏辺りから、ビロード革命以来30年ぶりという規模で反政府デモが繰り返されているけれども、そのデモの高まりが、バビシュ氏のANOの支持率の低下にはほとんどつながっていないというのが現実である。
 日本も有権者が、野党とマスコミが延々と繰り広げる安部批判劇場にうんざりしているようだけど、チェコの場合にも同じような傾向が見える。この手の疑惑というのは、表面にでたときが一番のたたき時なのだから、そこで辞任に追い込めなかった以上、同じ疑惑を執拗に追及しても、よほどの真実でも出てこない限り、目的を達成するのはなかなか難しいだろう。むしろ有権者に瑣末なことにこだわりすぎているという印象を与えかねない。

 ところで、チェコの検察の組織というのは、いまいちよくわからない。ゼマン氏が検察の長、いわば検察庁長官なのは間違いないのだが、それとは別に、プラハとオロモウツに高等検察のようなものがあって、その長である二人も重要な役割を果たしているようで、しばしばニュースに登場するような決定を下している。検察に三人の長がいて、それぞれがバラバラに仕事をしているような印象を与える。

 これまで何度か繰り返されてきた反政府デモの理由のひとつが、政府による検察人事への介入を防ぐというもので、バビシュ首相が法務大臣を通じてゼマン氏を解任するのを防ごうとしているようだ。ベネショバー氏を法務大臣に任命したこと自体も批判の対象になっているのだが、現時点ではバビシュ政権は、検察の人事への介入はしていない。むしろ現在のゼマン長官が就任したときに、政治的な理由による長官の交代だと批判されていたはずだ。あれは誰が首相のときだったか。
 ベネショバー氏は、政治家による検察の長の首のすげ替えができないように、長官たちの任期を決めてその期間は原則として解任できないという法律を準備しているようだ。それによってゼマン氏を解任する気はないことを証明しようとしているのだろうが、反対派を説得することはできていない。こういうのは、坊主憎けりゃ袈裟までにくいになりやすいからなあ。

 検察だけの話ではないのだが、チェコの最大の問題の一つは、政と官が密接に結びつきすぎていることにある。日本の場合には官僚が結びつくのは原則として自民党で、出世争いに負けたりスキャンダルで解任されたりした連中が野党につくというのが基本的な構図だけど、チェコの場合には、各政党が党員を官僚として省庁に送り込んだり、官僚が政党に入党したりしている。特に社会民主党や市民民主党の既存の政党に多い話だが、公務員の不党不偏なんてのは存在しないのである。
 警察や検察でも、いくつかの政党と結びつく勢力があって、それぞれに手柄争いをしているのが、チェコで政治家の汚職がひんぱんに摘発される理由のひとつになっているらしい。火のないところに煙は立たずで、でっちあげでの摘発はないようだが、味方の問題は見逃して敵対勢力の汚職は機を見て摘発しているのだとか。警察組織の改組がしばしば行なわれるのも、政党との結びつきを断ち切ることを目的にしているという話もある。

 それはともかく、この件についてもとっととけりをつけて、刑事裁判の被告兼首相という前代未聞の存在を作り出してほしいと思う。今の状態には心底うんざりなので、せめて笑い話になる結末を求めたい。EUの議長国の首相が刑事裁判の被告、もしくは檻の中というのも乙な話じゃないかい?
2019年12月14日21時。











2019年12月15日

初雪?(十二月十二日)



 ブルノに行かなければならなかった十二月朔日あたりから冷え込みが強まり、冬が本格的にやってきて寒さに震えていたのだが、その後、また気温が上がりほっと一安心していた。今週の火曜日までは比較的暖かかったのだ。それで、水曜日も天気予報を確認することなく、そんなに寒くなることはあるまいと、比較的薄着で、とはいえ下着から上着まで4枚重ねたけど、出かけた。
 家を出た瞬間に失敗したかなと思ったのだが、わざわざ引き返して一枚余計に重ねるのも面倒だと、そのまま職場に向かった。歩いている間は体を動かすので、そんなに寒いとも思わなかったのだが、職場について、自分の身体が冷え切っていることに気づいて、頭を抱えた。熱いお茶を飲んでも、コーヒーを飲んでもどうにもならず、久しぶりに寒さで頭が痛くなるという体験をした。

 これまでは、寒さで頭が痛くなるのは、気温がマイナス二ケタまで下がるような寒波に襲われたときだけだったのだが、今回は完全に自分の油断のせいである。厚着をして歩き回ると汗をかきそうになるのがいやで、寒すぎもせず汗もかかない、ぎりぎりの服装を狙うのだけど、成功よりも失敗のほうが多い気がする。服装だけでなく、帽子が薄めのものだったとか、マフラーを巻かなかったというのも失敗の原因になっている。

 だから、今日は同じ失敗を繰り返さないように、シャツの下の下着から暖かいものに替え、ズボンの下にもチェコ風の股引を履き、靴もごつい冬靴で出発した。毛糸の帽子は被ったけど、マフラーは忘れた。去年おっちゃんの店で買った新しいハーフコートは、マフラーを巻きにくいのでついつい省いてしまう。それでも、職場に出かけるときは問題なかった。今日は完璧な選択だったと思わず自画自賛してしまったぐらいである。
 昨日のように冷え切った体で調子が上がらないということもなく、6時過ぎまで仕事をして職場を出ると、冷たいものがそらから落ちて来ていた。一つ一つは手のひらの上で融けてしまうようなものだったが、雪、もしくは雪のなりかけで道路の表面はシャーベット状のものに覆われて気を付けないと滑りそうだった。

 これまでも、雪っぽいものがちらついたことはあったが、地面に積もりそうなレベルでの雪は今日が最初じゃないだろうか。昨日も窓に白っぽいものがあったような気もしなくはないけど、寝ぼけていたので、なかったことにする。とまれ十二月中旬に初雪、今年はかなり遅い方である。初雪が遅いからといって冬が寒くならないとは限らないのが困ったものだけど、水不足にならないように雪はたくさん降ってもいいけど、気温は−5度ぐらいまででおさまってくれないかなあ。
 徐々に気温が下がるのなら、体を慣らしていくこともできるのだけど、チェコの気温の変動は急激だから、体が悲鳴を上げることになる。水曜日も前日から一気に十度ぐらい下がったわけだし、またまた耐えるべき寒さがやってくる。以前は、冬になると厚着をしたままお店などに入って暖房の強さに汗をかいて、そのまま外に出て汗が冷えてしまって風邪をひくというのを繰り返していた。近年はそんなことがなくなった分だけ、チェコの冬になれたということなのだろう。

 今年は十月の始めに「冬来たり」なんて文章を書いているけれども、そこから再び気温が上がって二か月近く、割と過ごしやすい冬の始めだったのだ。天気予報によると来週はまた気温が上がるという話だから、完全に凍り付くような冬がやってくるのはもう少し先なのかもしれない。そんな厳しい寒さが来るのが一日でも遅く、寒い日が一日でも少ないことを例年通り祈っておく。水不足はいやだから雪はたくさん降ってもいいことにしておこう。
 昨日は、すでにトラムの路線の改修も終わってうちの近くまでトラムが走るようになっていることもあって、久しぶりにトラムに乗ろうと思って切符を買った。それなのに、停留所まで行くと、うちのほうまで行くやつが出たばかりで、次のが来るまで10分以上もあったので、この寒さの中で待ってはいられず、いつも通り歩いて帰ることになった。そして今日もまた時間の関係でトラムに乗らずに歩いて帰った。冬休みの始まる来週の末まで、寒さに負けないでいられるだろうか。いや、もうほとんど負けてはいるのだけどさ。
2019年12月13日11時。










タグ:愚痴 日記的

2019年12月14日

病院の受難続く(十二月十一日)



 昨日のオストラバの大学病院での悲劇に続いて、今日も病院で問題が起こったというニュースが流れた。舞台になったのは、中欧ボヘミアのベネショフの町の病院だった。幸いにして直接犠牲者がでるような事件ではなかったが、これがチェコ中に拡大すると、チェコの医療体制が完全に崩壊しかねない大きな事件だった。
 病院内のネットワークにハッカーが侵入してウィルスを植えつけた結果、ネットワークに接続された機器はほぼすべて使用不能になりパソコンも電源すら入れられなくなったらしい。その結果、四手されていた手術はすべて延期、緊急性の高いものは、中欧ボヘミア地方の他の病院に移送していた。当然診察も薬の販売も停止となり病院まで来た人が、検診ために仕事休んだんだけどなんて愚痴をこぼしている人もいた。

 病院側ではハッカーの侵入を防ぐために三重の対策をしていたというけれども、あっさりと侵入を許しチェコでも初めて聞くような事態が発生したのである。問題はネットワークの利便性を重視するあまり、そのリスクを軽視し過ぎたことにあるなんて、言ってみたくなるけど、診察や処方箋の出ている薬の販売まで停止しなければならないほどに、ネットワークに依存した病院の在り方自体にありそうである。
 さすがに入院患者は他の病院に引き受けてもらうというわけにも、ケアを停止するというわけにもいかなかったようで、昔ながらのやり方で面倒を見たらしい。ならば、診察だって薬の販売だってやってやれないことはなかろう。記録を紙の上に残しておけばいいのだし、病院のネットワークにつながっていないパソコンの一台ぐらいはあってもおかしくないと思うのだけど。苦情の受付や問い合わせには、昔ながらの電話で対応して、必要事項は紙に書き込んで処理していたのだから、診察もやれよと思った人もいそうである。

 病院の関係者の話では、診察用の機械の中には、単独で診察に使うだけだったら使える状態だったものもあるという。ただそれで獲得できたデータを病院内のネットワークでコンピューターに送ったり、他の病院に送ることができなくなっていたのだとか。他の病院にデータを送るとウィルスまで一緒について行って、そっちでもシステムがダウンする恐れがあるからできてもやらないとも付け加えていた。
 近年のIT技術の進歩であれこれ便利になったのだろうけれども、その便利さが脆弱なものであることもまた確かである。病院などの大きなものではなく、個人のことを考えても、スマホ一台あれば何でもできるということは、それが駄目になったら何もできなくなるということである。古いタイプ人間なので、一つのものに頼り切るのは不安で保険をかけたくなる。だから財布を落としても問題ないように、持ち歩く財布には最低限必要な額しか入れてないし、カード類も入れないようにしている。落としたことないから、その用心が役に立ったことはないのだけど。

 チェコの公立の病院って、最近もどこかの地方の病院で、患者をたらいまわしにしたというので非難されて、院長が解任されたところがあったし、何年か前の急患でやってきた患者を放置して治療しなかったという事件が発覚して非難を浴びているところもある。プラハの大病院では機材や消耗品の購入に関して業者からわいろを受け取っていたというので関係者が逮捕されている。社会民主党のソボトカ内閣で厚生大臣を務めていた人物も、オストラバの病院に院長時代の高額の機械の購入を決定した際に必要上の高額で契約したということで疑惑をもたれていたなあ。
 医師会なんかは、医者の給料が安すぎるのがよくないというのだろうけど、一面の真実ではある。チェコを離れてドイツやオーストリアで就業する医師の多くが、報酬の低さを理由として挙げている。優秀な医者たちが国を出て行ったことで空洞化が起こっていると考えてもよさそうだ。その結果、機材やシステムを納入する業者と癒着する医師が増えて、ハッカーに侵入されるようなシステムで病院が運営されることになったわけだ。

 ところで、以前日本の雑誌だったか、本だったか、ネット上の記事だったか忘れたけれども、ハッカーなんて古い言葉はもう使わないんだなんてのを読んだことがある。じゃあ何と呼ぶのかというのは覚えていないし、気に入らなかったのは覚えているけど、チェコ語では今でもハッカー、音的には「ヘックル」に近いかな、と呼んでいるので、ここでもハッカーという言葉を使った。
 佐藤史生の『ワン・ゼロ』で、主人公のうちの一人が学校のコンピューターに侵入して出席簿の改ざんをしているのを読んだときには、ちょっとあこがれたけど、そのときも今もどうすればそんなことができるのか全く理解できない。コンピューターはある程度はつかえているけど、使いこなすというところまでは来ていないのだよなあ。スマホ? そんなもん要らん。
2019年12月12日24時。












タグ:病院
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2019年12月13日

悲劇のオストラバ(十二月十日)



 オストラバとその周囲を中心に起こった悲劇的な事件というと、数年前のメタノール事件や、炭鉱での火災、ストゥデーンカでの鉄道事故なんかが思い浮かぶのだが、今回はオストラバの大学病院で、銃を持った男が待合室に侵入し無差別に銃撃するという事件が起こった。犠牲になった方は6人、犯人も逃走の末に自殺して事件に幕が引かれた。

 朝、と言っても、8時は過ぎていたと思うのだが、チェコのスポーツ新聞のHPを見ていたら、一番上に緊急速報みたいな形で、オストラバの病院で銃撃事件が起こったことが書かれていた。普通は広告のある部分なので、気づくのに時間がかかったが、すぐにセズナムを開いて確認すると、犯人は逃走中で、テキスト速報みたいな形で事件の推移を伝えていた。
 チェコテレビのニュースによると、事件の発生を伝える連絡が入ったのは朝の7時19分のことで、最初の警察の部隊が現場に駆けつけたのは、7時24分のことだったという。事件が起こった外科の待合室は病院の建物の4階にあったというから、病院の中に入ってからも、警戒しながら階段を上っていくことで多少時間がかかったのかもしれない。警察の発表では通報後3分で到着したということになっていた。

 警察の部隊が到着したときには、すでに犯人の姿は待合室になく、病院の周辺に動員された警察官達によって警戒網がしかれた。犯人の体格や服装などの得られた情報を許に、何人かの同じような格好をした人物が警戒網に引っかかり、尋問の対象になったらしい。特に隣接するオストラバ鉱山大学の大学院生に関しては容疑者扱いしたようで、夜のニュースで警察関係者だけでなく、内務大臣のハマーチェク氏も謝罪の言葉を述べていた。
 ただ、同時の事件の大きさを考えると、姿形が犯人の特徴に似ている人物を放置することは警察としてはできなかったと付け加えていた。日本だったら野党が人権侵害だとか言って大騒ぎするのだろうなあ。日本でいちゃもんがつきそうと言えば、結果的には必要にならなかったとはいえ狙撃部隊の投入も決定された。銃を持った犯人が街中をうろつき、どれだけの犠牲者がでるかわからないという状況に、射殺してでも次の犠牲者を出さないという方針だったようだ。
 実際には狙撃部隊がオストラバの病院のヘリポートに到着した時点で、警察のヘリによって犯人が乗った車が発見され、追跡中に犯人が自殺したことで実践への投入ということにはならなかったようである。犯人の死亡が確認されたのが、11時過ぎ、事件発生からほぼ4時間のことだった。犯人が自殺したのはオストラバからオパバ方面に6キロほど行ったところらしい。警察の発表では逃走の途中で実家に立ち寄り、母親に犯行について話したのだとか。

 現時点でわかっているのは、犯人は40台の男性で、使用した銃は不法に所持していたものだという。銃の入手経路や犯行の動機などについては現在も捜査が進められているようだ。動機に関しては、オストラバの大学病院で満足な治療を受けられなかったことを怨んでのことだという説も出されていたが、確証はないという。銃撃を行なった待合室のある外科の外来は、犯人が受診したところだともいうけれども、一階から順番に待合室を見て回って、一番人の数が多かったこの待合室を選んだだけだという説もある。
 亡くなった方々については、日本と違って取材が抑制的なため、それほど多くの情報が報道されているわけではないが、2人が刑務所の監督官として勤務している人だったらしい。そのうちの一人は、娘とともに病院に来ていて、娘の命を守るために自らの体を盾にしたという話が伝わっている。同僚達の悲しみの声は報道されたが、遺族に対する無神経な取材は行なわれていないようだ。ほっと一安心である。

 銃を所持した個人が、ある日突然、人を殺すことを決意して実行した場合、警察にできるのは最初の事件が発生した後、次の犠牲者を出さないようにすることぐらいだろう。今回の対応に関しては、肯定的に評価されているようだが、警察の話では、これは数年前にウヘルスキー・ブロトのレストランで起こった銃の乱射事件の際の対応を教訓に改善に取り組んだ結果だという。あのときは今回よりも多い8人の人が亡くなったのだった。
 このような事件が起こるたびに、民間人の銃の所持を禁止したほうがいいという声が上がるのだが、チェコもアメリカと同様に反対する意見が強い。不法所持の銃が使われたということは所持の禁止よりも生産に規制をかけたほうがいいような気もする。ただ銃の生産大国であるチェコでは難しいだろう。それよりは、環境保護団体に花火なども含めた火薬の生産の規制を訴えてもらいたいところだ。二酸化炭素の排出量も減るし一石二鳥だと思うけど。

 最後に、犠牲になった方々の御冥福とこのような事件が二度と起こらないことを願っておきたい。
2019年12月11日23時。









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2019年12月12日

またまた納得できないこと(十二月九日)



 アフガニスタンで中村哲医師が亡くなれて数日、氏の業績を讃える記事や、追悼のための記事などをむさぼるように読んできた。ものによってはヤフー・ニュースのコメントまで目を通したのだけど、どうにも釈然としない気分になることが多かった。その業績の大きさに比べて、無名に過ぎはしないだろうか。いや、業績自体が過小評価されている嫌いもある。ご本人は評価なんかどうでもいいと仰るだろうけど。

 ニュースの下のコメントには、亡くなったニュースで存在を知ったという人たちが、中村氏について日本人の誇りだというようなことを書いているのをしばしば見かけた。この人たち、仮に生前から氏の活動について知っていたら、活動を支援するために寄付をしたりしたのだろうか。『オバハンからの緊急レポート』の著者のオバハンなら、そんなことを書くより支援のための寄付をくれなんて言いそうだけど、中村医師はどうかな。
 ただ、中村医師のことを日本人の誇りだなんていう言い方をする人たちには、支柱を失って今後の活動の継続がどうなるのか予断を許さないペシャワール会を支えるために、会員になるなり、寄付するなりしてほしいところだ。会員が1万5千人という記事を読んだ記憶があるけれども、あれだけの活動を支えるには少なすぎる。中村氏を日本の誇りと呼ぶということは、中村氏のおかげで自分が日本人であることを誇りに思えるということでもあるわけだから、それぐらいのことはしてもバチは当たるまい。

 ジャーナリストを自称する人たちも、あれこれ追悼する記事を書いていたが、我田引水、牽強付会で自分の主義主張に無理やり結び付けているものも散見されたし、ひどいのになると読んでも何が言いたいのか理解できないものや、中村医師の死と結びつける必要性を感じないものも結構あった。その辺はこのブログで書いたのも他人のことは言えないのだけど、個人が片手間に日本語力の維持のためにやっているようなブログと、プロのジャーナリストを自認する人たちの書くものを比べちゃいけない。
 福岡の西日本新聞の記事が、中村医師の功績を伝えて一番詳しかったのは当然だろうが、もっと大きな視点から業績を評価してもよかったのではないかとも思わされた。せっかくの郷土の偉人なのである。しかもあれだけのことを成し遂げた方なのだから、ペシャワール会の活動を継続し拡大していくことは、世界の未来を救うことにつながるぐらいのことは書いても、問題ないと言うか、まごうとなき事実である。

 最近、日本は難民を受け入れないとか、二酸化炭素の排出量を減らす気がないとかで、環境団体や人権団体、その意向を受けたEUなんかに非難されているわけだけれども、中村医師の活動を、これが日本が世界に提案する問題の解決法だとして提示して、ヨーロッパ規準の押し付けを拒否するなんてことを主張する政治家は出てこないだろうなあ。
 一言で言えば、荒廃するアフガニスタンの荒野に緑の農地を復元させた中村氏の活動によって、十万人単位の難民予備軍が救われたわけだ。中には一度難民となって避難しておきながら帰郷した人もいるに違いない。これはアフガニスタンという国にとっても、その国の人々にとっても日本が難民を大量に受け入れるよりもはるかに価値のあることだ。国土の荒廃だけでなく、人材の流出も防ぎ、しかも食料の生産量まで増加したわけなのだから。

 現在のヨーロッパの支援は、難民キャンプに集まった人々に対して食料などの生活必需品を配布しておしまいというものが主流になっている。それが不要だという気はないが、それだけでは将来はない。だから将来を夢見てヨーロッパに、特にドイツに向かう人が多いわけなのだろうが、ヨーロッパにおける夢は所詮幻想に過ぎない。幻想であることに気づいた元難民たちが、イスラムの過激派に走ってテロに手を染めるという悪循環が成立してしまっている。
 その意味で、チェコのバビシュ首相が難民の受け入れの割り当てを拒否して、ヨーロッパが難民を無制限に受け入れるのは、難民密輸組織を喜ばせるだけだと主張しているのは正しい。そして、難民問題を解決するためには、ヨーロッパで受け入れるのではなく、母国で生活が成り立つような支援をする必要があるというのも正しい。問題は具体的にどうするのかがでてこないところにある。

 地中海で船に載せられた難民達を救うことに存在意義を見出している人権団体も、中村医師のように、アフリカの大地に仕事を作り出して、難民や、難民になりかけている人たちに仕事を与えるような支援をすればいいのにと思ってしまう。ヨーロッパに向かう難民を保護することよりも、難民を出さないようにすることの方が大切だと考えるのが自然じゃないのか。それができれば保護の必要もなくなる。
 中村医師たちの支援の形は現在のものに比べてはるかに困難なことは言うまでもない。ただそういう支援をすることが、中近東、北アフリカに混乱を引き起こす原因を作った欧米の責任というものである。困難さだけではなく、いろいろな勢力の思惑が入り混じって、なかなか実現できないという面もあるのだろうが、日本が先頭に立って、EUの国々なんかに支援のあり方を変えていくように提案するぐらいのことはできるはずだ。チェコはもろ手を挙げて賛成すると思うし。

 環境問題に関しても、中村医師の活動が解となりうる。いわゆる地球温暖化の原因が、人間が排出する二酸化炭素だったとしても、人口が増え続けている以上、人間の活動量が増え続けている以上、人間が排出する二酸化炭素の量をゼロにするどころか、減らすことも難しそうである。それよりも、光合成で二酸化炭素を酸素に変えてくれる植物を増やして、相対的な二酸化炭素の増加量を減らすことの方が現実的に思える。二酸化炭素の濃度が上がれば光合成の効率も上がって植物の成長がよくなるってのは高校の生物で勉強した事実である。
 現在世界中で進みつつある砂漠化という現象は、すでに1980年代には問題になっていた。それを放置した結果が、現在の二酸化炭素濃度の上昇につながっているのではないのか。古くからの砂漠の緑化は難しくても、かつて緑のあった砂漠化しつつある土地であれば、水さえ確保できれば再度緑化できるというのを示したのも中村氏たちの活動の成果である。日本政府はこれを日本の二酸化炭素対策の柱にすればいいのに。
 例の国ごとの二酸化炭素の排出量にしたって、ただ単に工場や発電所の排出する二酸化炭素量だけでなく、その国の森林や、田畑で育てられる植物などが吸収する二酸化炭素の量と相殺して実質的な排出量を算定した方が、本当の意味での対策が立てやすくなると思うけど。現在二酸化炭素排出量をゼロにすると大騒ぎをしているのを見ていると、胡散臭さしか感じられない。環境問題をビジネスにしてぼろもうけを企んでいる禿鷹連中の影が見え隠れするような気がする。

 今回、中村医師の訃報を機に、これまで感じていながら、うまく言葉にすることができなかったEU主導の難民対策や、環境保護対策へのどうしようもない違和感の正体が見えてきた。その意味では納得できたのだけど、中村氏についての記事に納得しきれないものがあるというのは残ってしまう。記事を読むたびに、理想を目指しながらも現実を忘れない素晴らしい人だったのだと思わずにはいられない。オバハンが全面的に無条件で尊敬するというようなことを書いていたのも納得である。
2019年12月10日24時。









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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



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